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プリオン病(1)クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)

ぷりおんびょう1 くろいつふぇるとやこぶびょう(CJD)

(認定基準、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1)概要

a.定義
プリオン病は正常プリオン蛋白(prion protein: PrP)が何らかの理由で伝播性を有する異常プリオン蛋白に変化し、主に中枢神経内に蓄積することにより急速に神経細胞変性をおこす稀な致死性疾患である。プリオン病の代表的なタイプである孤発性クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)は1年間に100万人に1人程度の割合で発症することが知られている。ヒトのプリオン病は病因により、原因不明の特発性(孤発性CJD; sporadic CJD (sCJD))、プリオン蛋白遺伝子変異による遺伝性(家族性CJD; Gerstman-Sträussler-Scheinker病 (GSS); 致死性家族性不眠症 (fatal familial insomnia: FFI))、他のプリオン病からの感染による獲得性(environmentally aquired; クールー、医原性、変異型(variant: vCJD))の3種類に分類される。プリオン病は、人畜共通感染症であり、伝達性海綿状脳症(transmissible spongiform encephalopatdy; TSE)としてヒト以外では羊や山羊のスクレピー(scrapie)、牛の牛海綿状脳症(bovine spongiform encephalopatdy; BSE)、鹿の慢性消耗病(chronic wasted disease; CWD)などが知られている。我が国では2003年から五類感染症に分類されており、医師は診断後7日以内に保健所へ報告することが義務づけられている。

b.疫学
本疾患の有病率は100万人に1人前後であり、その約3/4は孤発性CJDで、地域分布に大差はない。男女差はなく、発病は50~70 歳代が多い。わが国のサーベイランス調査では孤発性が76.7%、遺伝性(GSSとFFIを含む)が19.4%、獲得性(変異型を含む)が3.6%である (2014年9月現在)。英国で発生した牛海綿状脳症(BSE “狂牛病”)がヒトに感染したとされる変異型CJDが、2005年2月に我が国でも1例確認された。我が国では屍体由来乾燥硬膜製品(確認されているものは全てLyodura)の移植により感染した医原性CJDが他国に比較して多いのが特徴的で、全世界のおよそ2/3がわが国の発症者である。

c.病因・病態
PrPは健常者でも脳に発現しているが、その機能に関しては諸説があり、まだ解っていない。正常型PrPは PrPCと称されており蛋白分解酵素で消化される。一方、プリオン病の脳内に蓄積する異常なPrPはPrPScと呼ばれ、蛋白分解酵素で消化されにくい。 PrPScはPrPCに比べアミノ酸配列は同一であるが立体構造が異なっており、βシート構造がより豊富なため不溶性となり、凝集しやすいというアミロイ ドの性質を有している。
獲得性プリオン病ではPrPCに外来のPrPScが接触してPrPCがPrPScに変換する連鎖反応をおこして、脳内に蓄積して発病すると考えられているが、変換の機序に関しては複数の説があり、機序の解明と感染性の不活化のための様々な研究が行われている。 遺伝性CJDでは、PrP遺伝子の変異がアミノ酸配列に変異を起こし、PrPの高次構造が変化しやすいため、PrPScが産生されやすいと考えられている。

d.症状
[1] 孤発性CJD
プリオン病のほぼ8割を占め、PrP遺伝子の変異はなく、代表的な病型である孤発性古典型と呼ばれている病型 (Parchi分類のMM1やMV1)では急速に進行する認知症症状とミオクローヌスを特徴としている。罹患率は100万人に1人で、平均年齢が 68.7±9.8歳である。脳波上の同期性周期性放電(periodic synchronous discharge: PSD)や脳MRI拡散強調画像の皮質・基底核の高信号、髄液14-3-3蛋白やタウ蛋白の高値などの所見が知られている。まれに視床型と呼ばれる病型や、緩徐進行性の病型もあるので注意が必要である。

1 臨床症状
古典型CJDの臨床病期は一般に3期に分けられる。
(1) 第1期:発症は60歳代が中心。倦怠感,ふらつき,めまい,日常生活の活動性の低下,視覚異常,抑鬱傾向,もの忘れ,失調症状等の非特異的症状。
(2) 第2期:認知症が急速に顕著となり,言葉が出にくくなり,意思の疎通ができなくなって,ミオクローヌスが出現する。歩行は徐々に困難となり,やがて寝たき りとなる。神経学的所見では腱反射の亢進,病的反射の出現,小脳失調,ふらつき歩行,筋固縮,ジストニア,抵抗症(gegenhalten),驚愕反応 (startle response)等が認められる。
(3) 第3期:無動無言状態からさらに除皮質硬直や屈曲拘縮に進展する。ミオクローヌスは消失。感染症で1~2年程度で死亡する。

2 検査所見
(1) 脳波
①非特異的な徐波化
②periodic synchronous discharge(PSD)
(2) 脳脊髄液
①14-3-3蛋白の陽性
②総タウ蛋白の上昇
(3) 脳MRI
①拡散強調画像またはFLAIR画像にて病初期より大脳皮質,大脳基底核や視床が高信号
②脳萎縮が第3期に急速に進行する。

3 プリオン蛋白遺伝子コドン129多型と異常プリオン蛋白タイプによる孤発性CJDの臨床分類(表1)
異常PrPは,プロテアーゼ処理後のウェスタンブロット法による泳動パターンの違いからタイプ1とタイプ2に分類される。 この異常PrPタイプとPrP遺伝子のコドン129多型(MetまたはVal)がCJDの臨床像に影響を与えていることが明らかとなり、 この2つの組み合わせにより患者は6つのサブグループに分類されるようになった。それぞれのサブグループの臨床像を表1にまとめた。

表1:プリオン蛋白遺伝子コドン129番の多型と異常プリオン蛋白タイプによる孤発性CJDの臨床分類

遺伝子型:蛋白型 MM 1 MM 2 MV 1 MV 2 VV 1 VV 2
病型 典型的CJD 皮質型/
視床型
典型的CJD 失調・認知症型 認知症型 失調・認知症型
プリオン蛋白の沈着パターン シナプス型 シナプス型 シナプス型 シナプス型
プラーク型
シナプス型 シナプス型
プラーク型
ミオクローヌス
周期性同期性放電 まれ まれ
14-3-3蛋白 まれ
進行速度 亜急性 緩徐 亜急性 緩徐 緩徐 亜急性

[2] 遺伝性CJD
孤発性CJDよりも発病年齢は早いことが多く、プリオン蛋白遺伝子の変異に応じて症状,経過,病理所見が異なるため診断が困難なことがある。欧米と比較すると、わが国では特有とされている変異が多くを占めているのが特徴的で、その中でも特にV180I変異が半数以上を占めている。V180I変異例は経過が緩徐であるためアルツハイマー病や慢性硬膜下血腫と誤診されていることがある。 わが国で認められる頻度の高い病型について下記に示す。遺伝性CJD以外の遺伝性プリオン病、すなわち、小脳症状を主症状とするゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病(GSS)と不眠を主症状とする致死性家族性不眠症(FFI)については別項に示す。
これらの診断にはPrP遺伝子の検索が必要である。

(a) プリオン蛋白遺伝子V180I変異による家族性CJD
1 概念・疫学
プリオン蛋白遺伝子コドン180のValine(V)からIsoleucine(I)への変異による家族性CJDは我が国の遺伝性プリオン病のうちで最も 頻度の高いもので,遺伝性プリオン病全体中では45.3%を占める(2014年9月現在)。欧米からの報告はほとんどない。

2 臨床症状
発症年齢は44~93歳で,平均約77歳である。初発症状は記銘力障害、または失語や失行などの高次脳機能障害であり緩徐に進行する。神経学的には小脳失調や視覚障害は示さず、ミオクローヌスの出現も稀である。稀な例として、パーキンソニズムや舞踏運動で発症した例がある。全経過の平均は約2年で あり、数年にわたる場合もある。末期には寝たきりから無動無言状態となり,感染症等で死亡する。これまで、V180I変異のほとんどの例は孤発性の発症様式であり、非典型的な症状のため診断がつきにくいため、診断にはPrP遺伝子検索が必須である。

(b) プリオン蛋白遺伝子E200K変異による家族性CJD
1 概念・疫学
プリオン蛋白遺伝子コドン200のGlutamate(E)からLysine(K)への変異による家族性CJDは家族性CJDのうちでは我が国で3番目、欧米では最も頻度が高い (2013年9月現在)。浸透率は高いが、家族内発症のない例も報告されている。
2 臨床症状
発症平均年齢は58.4歳で、症状は孤発性古典型に類似し、急速進行の認知症、全身のミオクローヌスを呈し、数ヶ月以内に無動性無言になる。全経過の平均は約1.1年である。特定の地域に偏る傾向がある。

[3] 獲得性CJD

(a)変異型CJD (variant CJD)
1 概念・疫学
vCJDは主にBSE罹患牛由来の食品の経口摂取によって牛からヒトに伝播したと考えられている。1994年よりイギリスを中心に発生しており、平成26年6月現在、累積患者数は229名である。イギリス以外では、フランス、アイルランド、イタリア、香港、アメリカ、カナダ、オランダ及び日本で報告がある。vCJDの全例でプリオン蛋白遺伝子コドン129番はMet/Met型である。なお、平成17年2月に我が国において初めて確認されたvCJD症例においては、臨床経過中に実施された脳波検査及びMRI検査において、世界保健機関が示しているvCJDの診断基準に合致しない所見が確認 された(CJDサーベイランス実施時は孤発型CJDの所見を示した)ことを踏まえ、今後、プリオン病を疑わせる症状を有する患者の診断(特に、分類の診断、除外の診断)等の際には、この点に特に留意が必要である。

2 臨床症状
発症年齢は12~74歳であるが、平均29歳と若年であることが特徴である。初期には抑鬱,焦燥,不安,自閉,無関心,不眠,強迫観念,錯乱,興奮,異常 な情動,性格変化,異常行動,記憶障害等の精神症状が中心である。進行すると認知症が徐々に顕著となり、また全例に失調症状を認めるようになる。顔・四肢の痛み,異常感覚,感覚障害も高頻度に認められる。ミオクローヌスは認められるが、CJDに見られる程はっきりとしておらず出現期間、頻度ともに少ない。 経過は緩徐進行性で罹病期間は平均18か月である。末期には約半数が無動無言状態となる。

(b)硬膜移植後CJD
1 概念・疫学
脳外科手術時のヒト屍体由来乾燥硬膜の移植によりCJDが感染した患者で、その多くがアルカリ処理をしていないドイツ製のヒト屍体由来の乾燥硬膜(商品名 Lyodura)を使用していることが証明されており,医原性感染であることが確実視されている。依然として新規症例の報告があり、鑑別に注意を要する。
2 臨床症状
潜伏期は約1~30年(平均12.8)年である。平均発症年齢は57.9歳(15-85歳)で,孤発性CJDと比べると若い。初発症状は小脳失調が多く,眼球運動障害,視覚異常 の出現頻度が高い傾向がある。その他の臨床症状は古典型孤発性CJDと大差違いはなく,PSDやミオクローヌスが出現し、罹病期間も1~2年である。ヒト 由来乾燥硬膜移植によるCJDの約30%の患者は緩徐進行性の症状を呈する非古典型(プラーク型)である。この場合ミオクローヌスやPSDは見られないことが多い。

e.治療
治療法は未確立である。

f.ケア
一般的診療のような非進取的医療行為、看護や介護スタッフの日常的な接触では、プリオン病感染の危険性はなく、隔離は不要であり、標準予防策で十分で、一般病棟で看護ケアを行うことができる。

g.食事・栄養
症状が進行し経口摂取が困難となった場合は、経鼻胃管などによって経管栄養が行われることが多い。しかし、生命予後を改善するという明確なエビデンスはない。

h.予後
孤発性症例では進行が速く1~2年で死亡する。遺伝性CJDや一部の孤発性CJDは進行が遅く数年に及ぶものもある。

2)診断


①診断基準

a.孤発性CJDの診断基準 (WHO 1998)

確実例(definite)
特徴的な病理所見,またはウェスタンブロット法や免疫染色法で脳に異常プリオン蛋白を検出
ほぼ確実例(probable)
1. 進行性認知症
2. 次の4項目中2項目以上を満たす.
a. ミオクローヌス
b. 視覚または小脳症状
c. 錐体路または錐体外路徴候
d. 無動性無言
3. 脳波にて,周期性同期性放電(PSD)を認める
4. 脳波上PSDがないが,脳脊髄液中に14-3-3蛋白が検出され,臨床経過が2年未満の場合
疑い例(possible)
上記のBの1および2を満たすが,脳波上PSDがない場合で、臨床経過が2年未満の場合

b.変異型クロイツフェルト・ヤコブ病の診断基準 (WHO 2001)

A. 進行性精神・神経障害
B. 経過が6か月以上
C. 一般検査上,他の疾患が除外できる。
D. 医原性の可能性がない。
E. 家族性プリオン病を否定できる。

A. 発症初期の精神症状
B. 遷延性の痛みを伴う感覚障害
C. 失調
D. ミオクローヌスか,舞踏運動か,ジストニア
E. 認知症

A. 脳波でPSD陰性(または脳波が未施行)
B. MRIで両側対称性の視床枕の高信号


A. 口蓋扁桃生検で異常プリオン陽性

確 実 例:ⅠAと神経病理で確認したもの
ほぼ確実例:Ⅰ+Ⅱの4/5項目+ⅢA+ⅢB
またはⅠ+ⅣA
疑 い 例:Ⅰ+Ⅱの4/5項目+ⅢA
a:抑鬱,不安,無関心,自閉,錯乱
b:はっきりとした痛みや異常感覚
c:約半数で全般性三相性周期性複合波
d:大脳灰白質や深部灰白質と比較した場合
e:口蓋扁桃生検をルーチンに施行したり,孤発性CJDに典型的な脳波所見を認める例に施行することは推奨されないが,臨床症状は矛盾しないが視床枕に高信号を認めないvCJD疑い例には有用である。
f:大脳と小脳の全体にわたって海綿状変化と広範なプリオン蛋白陽性の花弁状クールー斑

②重症度分類
機能的評価:Barthel Index
    質問内容 点数
1 食事 自立、自助具などの装着可、標準的時間内に食べ終える 10
部分介助(たとえば、おかずを切って細かくしてもらう) 5
全介助 0
2 車椅子からベッドへの移動 自立、ブレーキ、フットレストの操作も含む(非行自立も含む) 15
軽度の部分介助または監視を要する 10
座ることは可能であるがほぼ全介助 5
全介助または不可能 0
3 整容 自立(洗面、整髪、歯磨き、ひげ剃り) 5
部分介助または不可能 0
4 トイレ動作 自立(衣服の操作、後始末を含む、ポータブル便器などを使用している場合はその洗浄も含む) 10
部分介助、体を支える、衣服、後始末に介助を要する 5
全介助または不可能 0
5 入浴 自立 5
部分介助または不可能 0
6 歩行 45m以上の歩行、補装具(車椅子、歩行器は除く)の使用の有無は問わず 15
45m以上の介助歩行、歩行器の使用を含む 10
歩行不能の場合、車椅子にて45m以上の操作可能 5
上記以外 0
7 階段昇降 自立、手すりなどの使用の有無は問わない 10
介助または監視を要する 5
不能 0
8 着替え 自立、靴、ファスナー、装具の着脱を含む 10
部分介助、標準的な時間内、半分以上は自分で行える 5
上記以外 0
9 排便コントロール 失禁なし、浣腸、坐薬の取り扱いも可能 10
ときに失禁あり、浣腸、坐薬の取り扱いに介助を要する者も含む 5
上記以外 0
10 排尿コントロール 失禁なし、収尿器の取り扱いも可能 10
ときに失禁あり、収尿器の取り扱いに介助を要する者も含む 5
上記以外 0
85/100点以下を対象とする。

 

3)治療 治療指針

治療法は未確立である。

4)鑑別診断

アルツハイマー病,脳血管障害,パーキンソン認知症症候群,脊髄小脳変性症,認知症を伴う運動ニューロン疾患,脳炎,脳腫瘍,梅毒,代謝性脳症等の中にも、比較的急速に進行するものがあり、鑑別を要する。

5)最近のトピックス

脳脊髄液中の異常プリオン蛋白を検出する方法(real-time quacking-induced conversion [RT-QUIC])が開発され、臨床診断に応用されている。

6)本疾患の関連資料・リンク

関連ホームページのご紹介

プリオン病及び遅発性ウィルス感染症に関する調査研究班


ガイドライン」のページに2008年に作成された「プリオン病感染予防ガイドライン」および2014年に作成された「プリオン病診療ガイドライン2014」が掲載されています。(医療従事者向け)

ヤコブ病サポート・ネットワーク


東北大学プリオン蛋白研究部門


長崎大学感染分子解析学


 


治験情報の検索:国立保健医療科学院
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情報提供者
研究班名 プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班
研究班名簿   
情報更新日平成26年12月26日