紫斑病性腎炎(指定難病224)

しはんびょうせいじんえん
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
血管性紫斑病の一症状としてみられる腎炎で、紫斑病に伴い、糸球体にIgAが沈着することを特徴とする糸球体腎炎である。血管性紫斑病は、免疫学的反応に起因する全身性の小血管炎で、紫斑をはじめとした皮膚症状、腹部症状、関節症状を来す疾患である。およそ半数の例が腎炎を発症する。
 
2.原因
紫斑病性腎炎の病因は未だ明らかではないが、IgAを含む免疫複合体の関与する全身疾患である。IgA腎症と同様に、IgA1の糖鎖異常が指摘されている。
 
3.症状
血管性紫斑病の症状としては、紫斑100%、関節炎80%、腹痛60%、腎炎50%程度に認められる。腎炎は全身症状発現後の数日から1か月以内に尿所見異常が発現する。15%が血尿のみで、38%が血尿+蛋白尿、15%が急性腎炎症候群、23%が腎炎+ネフローゼ症候群、8%がネフローゼ症候群で発症している。腎炎の自覚症状としては、全身倦怠感、微熱などの不特定な症状を認める。ネフローゼ症候群や急性腎炎症候群を呈する例では、浮腫や高血圧に伴う頭痛がみられる。 検査所見としては、血尿+たんぱく尿、腎機能の低下(血清クレアチニンの急速な上昇)などである。
 
4.治療法
血尿のみか、蛋白尿が0.5g/gCr未満であれば、経過観察あるいはレニン・アンジオテンシン系阻害薬、抗血小板薬を使用する。ただし軽度蛋白尿が1年以上続く場合には腎生検を行って治療方針を決める。
血尿と中等度蛋白尿(0.5~1.0g/gCr)を認める場合も、腎生検は行わずにレニン・アンジオテンシン系阻害薬、抗血小板薬の投与を行う。ただし蛋白尿が6か月以上続く場合には腎生検を行って治療方針を決める。
ネフローゼ症候群、高血圧、腎機能低下を認める症例や持続的蛋白尿(①高度蛋白尿(1.0g/gCr以上)が3か月以上、中等度蛋白尿(前述)が6か月以上、軽度蛋白尿(前述)が12か月以上)を認める場合、腎生検を施行し,組織学的重症度に応じて治療方針を決める。
ISKDC分類でI~IIIaの場合には前述のような抗血小板剤の投与を行い、IIIb~Vの場合には多剤併用療法(カクテル療法)、ステロイドパルス療法、ステロイド・ウロキナーゼパルス療法、血漿交換療法、及びシクロスポリン療法などを行う。
 
5.予後
比較的良好と考えられていたが、早期に経過が良好と判断されていても、観察を中断すると数年後には、血尿、蛋白尿が再燃したり或いは組織学的に腎炎が存続している症例が高率(66.7%)に存在することが明らかにされた。
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.  患者数
400例~640例/年
2.  発病の機構
不明(IgA免疫複合体の関与が指摘されている。)
3.  効果的な治療方法
未確立(対症療法のみである。)
4.  長期の療養
必要(長期の免疫療法や腎不全の進行による透析療法を行う必要がある。)
5.  診断基準
あり(アメリカリウマチ学会)
6.  重症度分類
国際小児腎臓病研究班(ISKDC)による紫斑病性腎炎の組織分類を用い、Grade IIIb以上の場合を対象とする。
 
○情報提供元
日本腎臓学会
 
 
 
<診断基準>
紫斑病性腎炎と確定診断された例(Definite)を対象とする。
 
米国リウマチ学会の血管性紫斑病診断基準
①隆起性の紫斑、②急性の腹部疝痛、③生検組織での小動静脈壁の顆粒球の存在、④年齢が20歳以下、のうち二つ以上を満たせば血管性紫斑病と診断する。
 
血管性紫斑病発症後に顕微鏡的血尿や蛋白尿など尿検査異常を認めれば紫斑病性腎炎の臨床診断は可能である。血管性紫斑病の症状と腎炎の所見から判断するが、確定診断は腎生検病理組織診断(注)で行う。腎病変だけではIgA腎症と鑑別困難であるが、腎外病変が認められる点で臨床症状から鑑別することができる。
*診断の為に病理所見のレポートを添付する必要がある。
 
(注)
A.光顕所見:巣状分節性からびまん性全節性(球状)までのメサンギウム増殖性変化が主体であるが、半月体、分節性硬化、全節性硬化など多彩な病変がみられる。
B.蛍光抗体法又は酵素抗体法所見:びまん性にメサンギウム領域を主体とするIgAの顆粒状沈着。(他の免疫グロブリンと比較してIgAが優位である。)
C.電顕所見:メサンギウム基質内、特にパラメサンギウム領域を中心とする高電子密度物質の沈着。
<重症度分類>
以下のいずれかを満たす場合を対象とする。
ア)国際小児腎臓病研究班(ISKDC)による紫斑病性腎炎の組織分類でGradeIIIb以上の場合。
イ)維持治療期では上記の慢性腎臓病重症度分類で重症(赤)に該当する場合。
ウ)いずれの腎機能であっても蛋白尿0.5g/日以上の場合。
 
国際小児腎臓病研究班(ISKDC)による紫斑病性腎炎の組織分類と予後
 
Grade I 微小変化
Grade II メサンギウム増殖のみ
Grade III a) 巣状,b) びまん性メサンギウム増殖,半月体形成<50%
Grade IV a) 巣状,b) びまん性メサンギウム増殖,半月体形成50~75%
Grade V a) 巣状,b) びまん性メサンギウム増殖,半月体形成>75%
Grade VI 膜性増殖性腎炎様病変
 
腎不全移行率について、血尿単独あるいは血尿と軽度蛋白尿のみで臨床症状を認めない場合は5%未満であるが、血尿と高度蛋白尿が持続する場合や急性腎炎症候群を呈する場合には15%、ネフローゼ症候群を呈する場合には40%とされ、さらに急性腎炎症候群症状でなおかつネフローゼ症候群を呈したものでは尿異常が持続し、50%以上が腎不全に進展する。組織学的にはISKDCの重症度分類でGradeIII以上の場合には約20%が末期腎不全に進行している。したがって臨床的にはネフローゼ症候群、高血圧、腎機能低下を認める症例や腎組織所見がISKDCの重症度分類でGradeIIIb以上の場合には重症紫斑病性腎炎と考えて積極的治療が行必要である。
 
臨床所見のスコア化による重症度分類(維持治療用)
CKD重症度分類ヒートマップ

 


※維持治療時とは、初期治療あるいは再発時治療を行い、おおむね0.5年経過した時点とする。
 
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

平成27年7月1日

情報提供者
研究班名 難治性腎障害に関する調査研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和4年3月(名簿更新:令和5年6月)