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自己免疫性後天性凝固因子欠乏症(指定難病288)

じこめんえきせいこうてんせいぎょうこいんしけつぼうしょう

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1)概要

a.定義
自己免疫性出血病(Autoimmune Hemorrhaphilia XIII/13、AHXIII/13)とは、特発性、あるいは様々な基礎疾患や薬物が関与して生じた抗第XIII/13因子(FXIII/13)自己抗体がもたらす後天性(非遺伝性)のFXIII/13単独の障害/欠陥である。遺伝性FXIII/13欠乏症と臨床症状が酷似し、出血症状が部位的、時期的に多発する疾患である。
 
b.疫学
抗FXIII/13抗体によるAHXIII/13は、主に高齢者に起きる極めて稀な致死性の出血性疾患である。21世紀の初頭、世界で初めて超高齢社会に到達した日本で診断された患者が増加しつつあり、計57名の日本人症例が確認されている。2013年度には12ヶ月で14名の症例が診断されており(約1.2名/1,000万人当たり)、班研究が不採択であった2014年度は6名と減少した。約32万人の医師に本疾患が周知されていないこと、本疾患のスクリーニング検査方法が存在しないことから、より多くの症例が見逃されているものと推測される。
一方、非日本人症例は世界中で合計33例が報告されている(2015年9月10日現在)。日本人症例の方が多いのは、主に厚労科研の研究班の全国調査活動の成果であると思われる。
 
c.病因・病態
多様な合併する病態や病因機構(例えば、自己抗体による活性型FXIII/13の中和、活性化の阻害、あるいはFXIII/13-AサブユニットやFXIII/13-Bサブユニットに結合性の自己抗体によるクリアランス亢進等)を反映して、様々な重症度の出血症状を突然発症する。出血部位や程度によっては、致死性である。
症例の半数は特発性と報告されているが、全例で基礎疾患の検索を実施するべきである(表1)。

AHFXIII/13 の基礎疾患
(1)自己免疫疾患(SLE,RA,シェーグレン症候群など)
(2)全ての固形腫瘍
(3)骨髄増殖性疾患
(4)リンパ増殖性疾患(MGUS を含む)
(5)長期の薬剤投与(INH,ペニシリン,プロカインアミド,抗精神病薬など)
(6)その他(妊娠を含む)

表1 AHFXIII/13 の基礎疾患

d.症状
AHXIII/13の臨床症状は、多発性の皮膚・粘膜出血から致死性の体腔内出血に至るまで多彩である。症例は、多様な合併する病態や病因機構を反映して、様々な重症度の出血症状を突然発症する。
簡略版国際血栓止血学会/科学および標準化委員会の出血評価票2010年版(Bleeding Assessment Tool ver.2010;図1)のような標準化出血質問票は、AHXIII/13症例における上述したような多様な出血症状の正確且つ客観的な評価に有用であろう。また、後述する重症度分類も同時に判定して、重症例を見逃さないように努めるべきである。



拡大版はこちら

図1 出血評価票2010年版(Bleeding Assessment Tool ver.2010

e.治療
後述する通り、即FXIII/13含有製剤投与により止血療法を実施し、可及的速やかに免疫抑制療法を開始する。いったん止血が確認されてから数日間再出血がなければFXIII/13補充療法を終了する。免疫抑制療法は、通常は抗FXIII/13自己抗体の根絶が目標であるが、個々の症例の全身状態、その他の条件も考慮して、適宜治療方針を決定する。
 
f.ケア
止むを得ず観血的処置を実施する場合は、その侵襲の程度に応じて止血療法を行う。採血程度の穿刺後は、その部位に「後出血」を生じないか注意して観察するべきである。
 
g.食事・栄養
特記事項なし。
 
h.予後
大まかには、出血死後に検体が届いて確定診断される例が約1割、急性期に出血死する例が約1割、年余にわたり遷延して出血死する例が約1割、遷延して長期療養中の症例が約2割、発症後1年未満で治療中の症例が約2割、寛解中の症例が約3割である。ただし、主治医の交代、症例が3次医療機関から2次、2次から1次、初診の医療機関に戻ることが多いことなどにより、追跡調査が不可能な症例も少なくないので、実際の予後はより悪い可能性が高い。
 

2)診断

probableとdefiniteのカテゴリーの症例が、「厚生労働省指定難病公的医療費助成」の対象となる。
 
①診断基準

<possible(疑い)>
以下の項目全てを満たす症例では、AHFXIII/13を考慮すべきである:
(1)過去1年以内に発症した出血症状がある
(2)先天性/遺伝性FXIII/13欠乏症の家族歴が無い
(3)異常/過剰出血の既往歴、とくに過去の止血負荷(手術や外傷、分娩等)に関係した出血症状の既往歴が無い
(4)抗凝固薬や抗血小板薬などの過剰投与が無い
(5)検査上、FXIII/13に関するパラメーターの異常がある(通常活性、抗原量が50%以下)

<probable(ほぼ確定)>
(6)上記の(1)〜(5)に加え、FXIII/13インヒビターガ存在する*[標準的なアンモニア放出法やアミン取り込み法などによる正常血漿との交差混合試験(37℃で2時間加温後)などの機能的検査で陽性]

<definite(確定)>
(7)上記の(1)〜(5)に加え、抗FXIII/13自己抗体が存在する*(イムノブロット法、ELISA法、イムノクロマト法などの免疫学的検査で陽性)
*;非抗体、非タンパク質が原因であるとした欧米の報告が複数あるので誤診に要注意

註1;第XIII/13因子を「FXIII/13」と略称する
註2;抗FXIII/13抗体による後天性自己免疫性出血病を「自己免疫性出血病 FXIII/13(Autoimmune Hemorrhaphilia FXIII/13; AHFXIII/13)」と略称する

②重症度分類

 1. 重症出血:
(1)致命的な出血
(2)重要部位,重要臓器の出血(例えば、頭蓋内、脊髄内、眼球内、気管、胸腔内、腹腔内、後腹膜、関節内、心囊内、コンパートメント症候群を伴う筋肉内出血等)
(3)Hb値 8 g/dL以下の貧血、あるいは2 g/dL以上の急速なHb値低下をもたらす出血
(4)24時間内に2単位以上の全血あるいは赤血球輸血を必要とする出血
2. 軽症出血*:上記以外の全ての出血**
*:日本語版簡略版出血評価票(JBAT)も参考にすることを推奨
**;多発性および有痛性の出血は、重症に準じて止血治療を考慮すべき


3)治療 治療指針(未確立なので参考事項である)

AHXIII/13は、複数のFXIII/13-AあるいはFXIII/13-Bに対する自己抗体を伴う複雑な疾患であり、両方あるいは一方のFXIII/13サブユニットの様々なレベルの低下がもたらされる。阻害型、クリアランス亢進型の違いや標的部位の違い、重症度の違いなどによって、細やかな個別化医療が必要となるので、本疾患に対する画一的な、明確な診療指針を示すのは困難である。AHXIII/13疑い症例は、如何なる出血症状のエピソードの治療についても、完全寛解に達するまで凝固専門家に照会/相談するべきである。
 
急性期
1)止血治療;出血症状が起きた場合や、手術を含む如何なる侵襲的な処置を計画する場合は、FXIII/13含有濃縮製剤(緊急に入手不能の場合は、新鮮凍結血漿も可)を使用する。ただし、自己抗体によるFXIII/13のクリアランス亢進や活性阻害のため、多くの場合、輸注に対する反応は比較的短い期間に過ぎないであろう。また、阻害性抗体を凌駕したり、クリアランス亢進に対抗・均衡するために、通常先天性欠損症に投与するより大量の投与が必要である。抗FXIII/13-B自己抗体の症例では、血漿由来FXIII/13濃縮製剤に含まれる外来性の FXIII/13-B、即ちFXIII/13-A2B2に対する既往反応/免疫増幅効果(ブースト効果)のリスクを減らすために、組換えFXIII/13-A製剤を輸注するのが合理的である。顕(在)性出血を停止させるまで、止血治療を繰り返すべきである。
2)抗体根絶治療;急性期のAHXIII/13の症例は、繰り返す出血の危険に常に曝されているので、とくに重篤な出血がある場合は、本疾患と診断され次第、抗体を根絶するための免疫抑制療法(副腎皮質ステロイド、サイクロフォスファミドなど;なお、「保険適応外」であるがリツキシマブが有効なこともある)を開始するべきである。抗FXIII/13-A抗体が消失しない限り、基礎疾患を治療してもFXIII/13-Aレベルが改善したり、正常化したりすることは期待できないが、AHXIII/13を誘発したと思われる薬剤は中止することが望ましい。
3)抗体減少治療;緊急の場合は、血漿交換あるいは免疫吸着療法の実施を考慮してもよい。
 
慢性期
抗体根絶治療;免疫抑制療法が部分的にでも奏功している場合は、抗体量が次第に減少して、出血症状も消失する(臨床的寛解)ことが多いので、この時期は止血治療は不要である。ただし、FXIII/13活性が正常の50%に達するまでは注意深く観察することが肝要である。以後も免疫抑制療法を継続すると、FXIII/13比活性も次第に改善し始め、FXIII/13活性が正常の70%に戻れば凝固学的寛解と判定する。抗FXIII/13自己抗体が検出されなくなれば、免疫学的寛解(完全寛解)である。
 
寛解期
長期的経過観察;AHXIII/13は再燃するし、的確に治療されないと突然出血死する可能性があるので、完全寛解、部分寛解の如何に拘らず、寛解後も定期的且つ長期的に経過観察することが極めて大事である(表2)。

AHFXIII/13の免疫学的寛解後のモニター頻度の基準案
(Huth-Kühne et al., 2009の効果判定基準を一部改変)
 
寛解後の期間    FXIII/13:活性      FXIII/13:抗原量 
6ヶ月以内         毎月                 毎月
6〜12ヶ月         2, 3ヶ月毎          2, 3ヶ月毎
12ヶ月以上*     6ヶ月毎             6ヶ月毎        
*;数年間は継続する

表2 AHFXIII/13の免疫学的寛解後のモニター頻度の基準案

増悪期
完全寛解後に再燃する症例も、部分寛解(臨床的に出血はしないが自己抗体が持続)のまま増悪する症例もあるので、急性期に準じて治療を行う。
 

4)鑑別診断

後天性血友病A、自己免疫性後天性von Willebrand症候群(病)、自己免疫性第V因子欠乏症など(それぞれ、FVIII/8、von Willebrand因子、FV/5などの自己抗体が原因)の出血病は、症状が似ているもののスクリーニング検査で除外できることが多い。
二次性FXIII/13欠乏症[例えば、播種性血管内凝固症(DIC)による消費性低下;手術、外傷による消費性低下、白血病等の血液悪性腫瘍による消費亢進と産生低下、肝合成能(肝疾患、肝硬変等)の低下による産生低下、ヘノッホ・シェンライン紫斑病、慢性炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病等)による原因不明の低下など]などは、FXIII/13比活性(活性/抗原量比)や、インヒビターを検索する機能的検査、自己抗体を検出する免疫学的検査などを駆使して、除外する必要がある。
 

5)最近のトピックス

本疾患は、平成26年5月に成立した「難病の患者に対する医療等に関する法律(平成26年度法律第五十号)」の規定に基づいて、平成27年7月1日より「厚生労働省難病医療費助成制度の対象疾病(指定難病)」第2次実施分となって、公的医療費助成が開始された。
平成26年度から、厚生労働省/日本医療研究開発機構研究費(難治性疾患実用化研究事業)「後天性凝固異常症のP.O.C.テストによる迅速診断システムの開発」研究班によって、「いつでもどこでも実施できるイムノクロマト法」による抗FXIII/13-A自己抗体検出キットが実用化されつつある。
 

6)本疾患の関連資料・リンク

厚生労働省HP 平成27年7月1日施行の指定難病(新規)
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000085567.pdf
 
日本血栓止血学会HP 原因不明の後天性凝固異常症(出血症)疑い症例の特別検査再開のご案内 [15/04/16]
http://www.jsth.org/event/%e5%8e%9f%e5%9b%a0%e4%b8%8d%e6%98%8e%e3%81%ae%e5%be%8c%e5%a4%a9%e6%80%a7%e5%87%9d%e5%9b%ba%e7%95%b0%e5%b8%b8%e7%97%87%ef%bc%88%e5%87%ba%e8%a1%80%e7%97%87%e3%80%81%e8%a1%80%e6%a0%93%e7%97%87%ef%bc%89-2/


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情報提供者
研究班名 自己免疫性出血症治療の「均てん化」のための実態調査と「総合的」診療指針の作成 研究班
研究班名簿   
情報更新日平成29年4月24日