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パーキンソン病

ぱーきんそんびょう

(認定基準、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1)概要

a.定義
黒質のドパミン神経細胞の変性を主体とする神経変成疾患である。4大症状として(1)安静時振戦、(2)筋強剛(筋固縮)、(3)無動・寡動、(4)姿勢反射障害を特徴とする。最近は運動症状のみならず、自律神経症状や精神症状などの非運動症状も注目されている。

b.疫学
有病率は本邦では人口10万人あたり100~150人と推定されている(欧米では150人~200人とされる)。 わが国でも人口構成の高齢化に伴い有病率は増えている。発症年齢は50~65歳に多いが、高齢になるほど発病率が増加する。40歳以下で発症する例は若年性パーキンソン病と呼ばれる。この中には遺伝子異常が明らかにされた症例も含まれる。

c.病因・病態
αシヌクレインの関与が研究されている。パーキンソン病で障害される中脳黒質のドパミン細胞内には、Lewy小体と呼ばれる細胞内封入体が蓄積する。その主たる構成要素であるα-シヌクレインは140個のアミノ酸からなるタンパク質で、細胞内の物質輸送に関係している。α-シヌクレインの構造が変化して細胞膜を障害する、ミトコンドリアに変化を起こす、小胞体の機能障害を起こす、細胞内のユビキチン-プロテオソーム系を障害して不要なタンパク質の分解を阻止するなど、パーキンソン病の病因としていくつかの仮説が提唱されている。また、それぞれの過程に家族性パーキンソニズムの原因となる遺伝子異常が関与することや、環境因子が影響することも明らかとなっている。
Braakは抗α-シヌクレイン抗体を用いて高齢者の中枢神経系におけるLewy小体の分布を詳細に検討した。Lewy小体はまず迷走神経背側核と嗅球に出現、その後下部脳幹、中脳黒質へ進展して運動症状を発現させる。さらに前脳基底部(basal forebrain)、側頭葉皮質、大脳新皮質へと拡大して、精神症状など様々な非運動症状に関係すると考えられている。

d.症状
◆運動症状
初発症状は振戦が最も多く、次に動作の拙劣さが続く。中には痛みで発症する症例もあり、五十肩だと思って治療していたが良くならず、そのうち固縮や振戦が出現して診断がつくことも稀でない。しかし姿勢反射障害やすくみ足で発症することはない。もしこれらの症状で発症したときには、進行性核上性麻痺などのパーキンソン病以外のパーキンソン症候群を疑う必要がある。
パーキンソン症候群とは、パーキンソン症状を呈するパーキンソン病以外の疾患の総称で、(1)薬剤性パーキンソニズム、(2)脳血管性パーキンソニズム、(3)進行性核上性麻痺、(4)多系統萎縮症のパーキンソン病型、(5)大脳皮質基底核変性症、(6)特発性正常圧水頭症などが含まれる。
パーキンソン病は片側の上肢または下肢から発症し、病気の進行とともに症状は対側にも及ぶ。進行は緩徐である。振戦で発症すると進行はより遅く、動作緩慢で発症すると速い傾向がある。症状が片側から対側に広がるのに通常1年から数年を要する。症状の左右差は進行してからも維持されることが多い。
振戦の特徴は頻度が4~5Hzの安静時振戦(resting tremor)である。動作時には減少・消失するが、一定の姿勢を取りつづけると再び出現する(re-emergent tremor)。意識しない時に出現しやすいので、座って手を膝に置いている時や歩行時の手の振戦に注目すると良い。頭頸部に出現するときはうなずくように立てに振る「ヨシヨシ型(yes-yes tremor)」になることが多い。
筋強剛(固縮)は頸部や四肢の筋にみられる。他動的に関節を屈伸するときに連続的な抵抗を感じる鉛管様の筋強剛(lead pipe rigidity)と、規則的な抵抗の変化を感じる歯車様の筋強剛(cog wheel rigidity)がある。上肢では歯車様、下肢や頸部では鉛管様になることが多い。
動作は全般的に遅く拙劣となるが、椅子からの起立時やベッド上での体位変換時に目立つことが多い。表情は変化に乏しく(仮面様顔貌)、言葉は単調で低くなり、なにげない自然な動作が減少する。歩行は前傾前屈姿勢で、前後にも横方向にも歩幅が狭く、歩行速度は遅くなる。進行例では、歩行時に足が地面に張り付いて離れなくなり、歩行の開始が困難となる「すくみ足」が見られる。方向転換するときや狭い場所を通過するときに障害が目立つ。体幹の動きはより障害され、歩行できても寝がえりができなくなる。
姿勢反射障害は初期には見られないが、数年経過してから出現し、とっさに足が出ないためバランスを崩して倒れることが多くなる。治療によりドパミンを補充したときに、ドパミン受容体が過剰に刺激を受けて意図せず勝手に体が動く不随意運動(ジスキネジア)が出現することがある。上下肢がクネクネと動く舞踏病様のものから、舟を漕ぐように体幹が揺れるものまで様々である。発症年齢の若い症例ほど出現しやすく、70歳以後に発症した症例では少ない。L-dopa投与量の増加によって起こりやすくなるが、同量のL-dopa持続投与では減少するので、L-dopa服用によるパルス状の刺激がジスキネジアを起こりやすくしていると考えられている。

◆非運動症状
パーキンソン病では上記の運動症状に加えて、多彩な非運動症状が認められる。ドパミンは中脳黒質から主とし被殻/尾状核に投射する運動系のみならず、中脳の腹側被蓋野から側座核や前頭葉に投射する精神系でも使われている。病状の進行とともに精神系のドパミンが減少すると意欲の低下が起こるようになる。また、Lewy小体が前脳基底部(basal forebrain)や大脳皮質に広がると、意識レベルの変動を伴う認知機能障害や幻視が出現し、Lewy小体型認知症(DLB:dementia with Lewy bodies)あるいは認知症を伴うパーキンソン病(PDD:Parkinson’s disease with dementia)と呼ばれる状態になる。記銘力は保たれるが思考が遅くなり、決断しにくくなる。また、10年以上前に退職しているのに「部長が呼んでいる」と言い出したり、「妻(あるいは夫)が浮気している」などの妄想も起こりやすくなる。また、覚醒レベルの急激な低下による意識消失を伴うこともある。
幻覚や妄想はLewy小体が広範に出現した場合のみならず、パーキンソン病の治療によって誘発されることもある。一般的にドパミン、セロトニン、ノルエピネフリンの増加、あるいはアセチルコリンの減少は幻覚や妄想を誘発する。パーキンソン病の治療ではドパミン補充や抗コリン薬を使用するため、薬剤性の幻覚や妄想に注意が必要である。また、ドパミンによる精神系の過剰刺激や特に視床下核の脳深部刺激(DBS)によって、脱抑制性の病的精神状態に陥ることも知られている。具体的には病的賭博、買い物依存、性行動亢進、過食、爆発的攻撃行動など衝動制御障害と呼ばれる状態、他人から見て何も今する必要のないことに没頭して寝食や服薬、排泄を忘れる反復常同行動、ドパミン作動薬を過剰に求めるドパミン調整異常症候群などである。若年での発症者に多く、特に独身で独居であると病状把握や治療が困難である。
このほか睡眠障害(昼間の過眠、REM睡眠行動異常など)、自律神経障害(便秘、頻尿、発汗異常、起立性低血圧)、嗅覚の低下、痛みやしびれ、下肢の浮腫など様々な症状を伴うことが知られるようになり、パーキンソン病は単に大脳基底核疾患ではなく、全身性のパーキンソン複合病態(Parkinson Complex)として認識すべきとの考えも提唱されている。

e.治療
病勢の進行そのものを止める治療法は現在までのところ開発されていない。全ての治療は対症療法であるので、症状の程度によって適切な薬物療法や手術療法を選択する。

1.薬物治療
現在大きく分けて8グループの治療薬が使われている。それぞれには特徴があり、必要に応じて組み合わせて服薬する。医学の進歩は速く、教科書に書かれた治療法が既に過去のものとなっていることもある。しかし膨大な情報の中から、医師個人が全分野の最新情報を正しく選択するのは困難である。そんな時、最新の治療ガイドラインが役に立つ。治療ガイドラインは、専門家がこれまでの臨床研究の成果を吟味し、その時点での標準的な治療法を解説したものである。パーキンソン病に関して、我が国では2011年に日本神経学会から「パーキンソン病治療ガイドライン」(http://www.neurology-jp.org/guidelinem/parkinson.html)が発表された。パーキンソン病治療ガイドラインの根底を流れる思想は次のとおりである。(1)最も効果的な抗パーキンソン病薬はL-dopaであるが、(2)L-dopaの長期服薬により運動合併症が起こる。(3)早期にはそれを回避する対策を、(4)進行期にはそれを軽減する方法を講じるべきである。その結果、以下の治療指針が示されている。
パーキンソン病治療の基本薬はL-dopaとドパミンアゴニストである。早期にはどちらも有効であるが、L-dopaによる運動合併症が起こりやすい若年者は、ドパミンアゴニストで治療開始すべきである。一方高齢者(一つの目安として70~75歳以上)および認知症を合併している患者は、ドパミンアゴニストによって幻覚・妄想が誘発されやすく、運動合併症の発現は若年者ほど多くないのでL-dopaで治療開始して良い。
現在わが国では8種類のドパミンアゴニストが使用可能であるが、それぞれ特徴があるので使い分けが必要である。Pergolide(ペルマックス®)、cabergoline(カバサール®)では心臓弁膜症や肺線維症の起こる例があり、服薬するときは心エコー検査等で定期的に心臓の弁の状態をチェックする必要がある。一方pramipexole(ビ・シフロール®、ミラペックス®)やropinirole(レキップ®)、貼付薬のrotigotine(ニュープロパッチ®)、自己注射薬のapomorphine(アポカイン®)では運転中に突然入眠して事故を起こす「突発的睡眠」が起こることがあるため、服薬中は運転しないよう警告が出されている。
進行期になるとL-dopaの効果が短くなって、次の服薬の前に薬効が切れるwearing-off(ウェアリングオ)現象が出現する。OFFを回避するためにL-dopaを過剰に服薬すると、ドパミン受容体が過剰に刺激されてジスキネジアが出現する。このようなL-dopaによる症状の変動を認めるときは、ジスキネジアの有無によって対応が異なる。ジスキネジアが無ければMAO-B阻害薬のselegiline(エフピー®)を追加する。ジスキネジアのあるときはL-dopaの1回量を減らして服薬回数を増やし、まだ使用していなければドパミンアゴニストを追加する。ジスキネジアに対してはamantadine(シンメトレル)が軽減させるように作用する。2007年よりCOMT阻害薬であるentacapone(コムタン®)が使えるようになり、L-dopaの持続時間を長くするのでwearing-off現象を改善させる。2009年より世界に先駆け、我が国でzonisamide(トレリーフ®)が使用可能になった。Zonisamideは既に抗てんかん薬として使用されていた。パーキンソン病に対する作用機序は完全には解明されていないが、線条体のシグマ受容体への作用が機序として上げられている。L-dopaと併用することでwearing-off現象のOFF時間の短縮が認められた。いずれの運動症状も改善を示すが、特に振戦の残っている例で有効である。また、副作用がほとんど起こらない点が特徴である。さらに2012年からイストラデフィリン(ノウリアスト®)が開発された。ウェアリングオフ症状の軽減することが確認されている。
精神症状、なかでも薬剤性の幻覚・妄想は大きな問題である。ドパミン補充療法そのものが、幻覚・妄想を誘発する可能性を持っている。幻覚・妄想の治療について、ガイドラインは「最後に加えた薬剤の中止」を勧めているが、これだけで解決することは少ない。基本は多剤併用を変更し、処方を単純化することである。精神症状を起こしやすい薬から順次中止する。抗コリン剤→アマンタジン→MAO-B阻害薬→ドパミンアゴニスト→L-dopaの順に休薬する。L-dopaによる単剤治療とし、日常生活を過ごせる最低の用量で1カ月程度経過できると幻視や妄想は収まることが多い。その後はゆっくり増量できることは多い。介護力が十分な環境でリハビリを組み合わせるとよい。それでも精神症状が残る場合には非定型抗精神病薬を用いるが、長期的に有効であるというエビデンスは存在せず運動症状が悪化する可能性が高いので、使うとしても短期間に留め専門医以外は使用するべきでない。最近は抑肝散の有効例も報告されている。作用は強くないが副作用も少ない。

2.手術療法
手術は定位脳手術によって行われる。定位脳手術とは頭蓋骨に固定したフレームと、脳深部の目標点の位置関係を三次元化して、外から見ることのできない脳深部の目標点に正確に到達する技術である。頭蓋骨に開けた小さな穴から針を刺すだけなので、手術侵襲は軽い。目標となるのは(1)視床、(2)淡蒼球、(3)視床下核の3ヶ所で、(1)と(2)は熱を加えて特定部位を破壊する旧来の方法(凝固術)も深部電気刺激治療(DBS:deep brain stimulation)も可能であるが、(3)はもっぱらDBSだけが行われる。DBSは脳深部に電極を留置し、前胸部に植え込んだ刺激装置で高頻度刺激する治療法である。高頻度刺激すると神経細胞は活動を休み、破壊したのと同様の効果が得られる。我が国では2000年4月から保険適応が認められた。DBSは脳を破壊しないので手術合併症が少ないかわり、異物が体内に残るため感染や断線のリスクがある。また、術後にプログラミングあるいはチューニングと呼ばれる刺激条件の調整が必要である。
手術療法も症状を緩和する対症療法であって、病勢の進行そのものを止める治療法ではないが、服薬とは異なり持続的に治療効果を発現させることができる。このためwearing-off現象やジスキネジアに悩む症例は良い適応となる。運動症状を改善して服薬量を少なくすることで幻覚、妄想などの精神症状を緩和することができる半面、視床下核のDBSでは脱抑制性の病的精神状態に陥ることもあるので、介護者を含めて術前から十分な情報を共有することが大切である。
手術治療は高度な設備と熟練を要するため限られた施設のみで実施されている。手術療法は薬物療法と比べてハイリスク・ハイリターンな治療法である。手術療法を選択するかどうかは、この治療法に習熟した専門医と相談すべきである。

■予後
パーキンソン病自体は進行性の疾患である。患者によって進行の速さはそれぞれであるが、一般的に振戦が主症状 (振戦型 tremor type) だと進行は遅く、動作緩慢が主症状 (無動/固縮型 akinetic-rigid type) だと進行が速い。適切な治療を行えば、通常発症後10年程度は普通の生活が可能である。それ以後は個人差があり、介助が必要になることもある。しかし生命予後は決して悪くなく、平均余命は一般より2~3年短いだけである。高齢者では、脱水、栄養障害、悪性症候群に陥りやすいので注意する。生命予後は臥床生活となってからの合併症に左右され、誤嚥性肺炎などの感染症が直接死因になることが多い。

f.ケア
服薬の管理には介護者が関わってもらうとよい。毎日のことであるが、規則的に服薬するのは簡単ではない。2回服用したり、あるいは服薬を忘れることは稀ではなく、工夫を要する。同時期に服用する錠剤を一包化し、日付と服薬時期を書き込むと飲み忘れが減らせる。歩行できても嚥下障害は起こっていることが多い。ゆっくり時間をかけて食事するようにする。転倒しそうな場所には手すりを付けるなど、住居の改造も早めに行う。幻視や妄想への介護者の対応は重要である。小さなゴミは「虫」に見えたり、カーテンや模様が「知らない人が入ってきている」という幻視を起こす。布団の模様で「子供がたくさんベッドに入っており、自分が寝る場所が無い」という幻視もみられる。配偶者の布団に異性が休んでいて、「浮気している」という幻視あるいは妄想も少なくない。幻視を訴えるときには、直ちに否定することなく、「自分には見えない」と返事するのがよい。虫が見えているときには、殺虫剤を少量撒いて納得してもらうのもよい。1つ1つの幻視は持続せず、直ぐに消えるのが特徴である。妄想に対してはなるべく否定せず、これも長続きしないので、聞き流してもらうとよい。

g.食事・栄養
パーキンソン病治療を開始すると体重は減少することが多い。ドパミン神経作用薬は消化管の動きを抑制し、食欲もある程度抑制するためと考えられる。一般には4-5kg減少して一定となる。消化管の疾患が無いことを確認できれば、そのままでもよいが、体重を戻したい時には、domperidone(ナウゼリン®)が有効である。1~2カ月で効果がみられる。嚥下障害は少なくないので、とろみなどを早めに試してもらう。急がずに、時間をかけてゆっくり食事してもらう。

h.予後
生命予後は悪くないが、転倒と肺炎により臥床となりやすい。年齢にもよるが、寝たきりとなってからの生命予後は1年間程度である。
 

2)診断 

①診断基準
以下の診断基準を満たすものを対象とする。(疑い症例は対象としない。)
1パーキンソニズムがある。※1
2 脳CT又はMRIに特異的異常がない。※2
3 パーキンソニズムを起こす薬物・毒物への曝露がない。
4 抗パーキンソン病薬にてパーキンソニズムに改善がみられる。※3
以上4項目を満たした場合,パーキンソン病と診断する。
なお、1,2,3 は満たすが,薬物反応を未検討の症例は,パーキンソン病疑い症例とする。
※1 パーキンソニズムの定義は,次のいずれかに該当する場合とする。
(1) 典型的な左右差のある安静時振戦(4~6Hz)がある。
(2) 歯車様筋固縮,動作緩慢,姿勢反射障害のうち2つ以上が存在する。
※2 脳CT又はMRIにおける特異的異常とは,多発脳梗塞,被殻萎縮,脳幹萎縮,著明な脳室拡大,著明な大脳萎縮など他の原因によるパーキンソニズムであることを明らかに示す所見の存在をいう。
※3 薬物に対する反応はできるだけドパミン受容体刺激薬又はL-dopa製剤により判定することが望ましい。

②重症度分類
Hoehn & Yahr 重症度3度以上かつ生活機能障害度2度以上を対象とする。

Hohen & Yahr の重症度

0.パーキンソニズムなし
Ⅰ.一側性パーキンソニズム
Ⅱ.両側性パーキンソニズム
Ⅲ.軽~中等度のパーキンソニズム。姿勢反射障害あり。
Ⅳ.高度障害を示すが、歩行は介助なしにどうにか可能。
Ⅴ.介助なしにはベッド又は車椅子生活

生活機能障害度

1度 日常生活、通院にほとんど介助を要しない
2度 日常生活、通院に部分的介助を要する
3度 日常生活に全面的介助を要し、独立では歩行起立不能
 

3)治療 治療指針

初期
発症時の治療は、将来の予後も考慮して行う。現在の基本方針は、若年者では将来のウェアリングオフを抑制するためにドパミンアゴニストで開始し、高齢者ではL-dopaでの開始を勧めている。姿勢を保つためのストレッチや筋力を保つための散歩など、運動は予後を改善する可能性があり、勧めるようにする。

症例1)48歳 男性、半年前から左手が振えるために受診した。頸部と左側上下肢に筋固縮を認める。通勤に車が必要である。カベルゴリンを0.25mg錠から開始し、2mgまで増量したところ、振戦はほとんど消失し業務も継続できている。治療を開始して3カ月で心エコー検査を行い、その後、治療開始1年後にも再検査したが、異常を認めていない。

症例2)76歳 女性。10ケ月位前から歩行が遅くなり、また姿勢が前かがみとなってきた。腰痛のためと考えていたが、2-3カ月前から躓きやすくなったため受診した。四肢頸部の固縮を認め、動作緩慢、仮面様顔貌を認める。家事はゆっくりであるが、ほとんどできている。洗濯物を高いところに干せないため夫が手伝っている。L-dopa/benserazide 1回50mg 1日3回 毎食後で開始したところ、つまずくことはなくなり姿勢も改善した。

進行期
進行期では日常生活や業務の維持を治療目標とし、特に転倒は骨折を起こし予後を悪化させるために、転倒しないよう薬物調整を行う。幻視や肺炎のため休薬してしまうと、休薬期間中の症状悪化のために、寝たきりとなることがあるので特に注意をする。周術期ではL-dopaの静脈内投与やドパミンアゴニストの貼付薬を用いて、寝たきりとならないように管理する。長期間を要するときには一過性に胃瘻を作り十分な薬物治療を行うことにより症状を改善させて経口投与に戻すことができる。
幻覚に対しては、処方の減量を原則とする。一般に幻覚の強い時には運動症状は軽快し、良く動けることが多いため、減量しても日常生活は可能なことが少なくない。抗コリンエステラーゼ阻害薬のドネベジルやガランタミン、リバスティグミンもパーキンソン病の幻覚には効果を認めることが多い。同時に運動症状を悪化させることも少なくないので、注意深く観察する(適応外)。軽度の幻視や妄想に対しては、介護者に対して「自分には見えないけどおかしいね」、虫の見えるときには、「今、追い出したからもう大丈夫よ」などと、叱らずに冷静に対応するとよい。

悪性症候群
脱水を起こしている状態で急な休薬(断薬)を行うと、悪性症候群を起こしやすい。パーキンソン病症状の急な悪化とともに、発熱、ぼんやりとなる意識障害、血清CKの上昇が起こる。予防とともに早期の対応が必要であり、脱水の補正、L-dopaの点滴投与などによるパーキンソン病の治療を行う。また症状悪化時の拘縮予防と早期のリハビリテーション開始に留意する。

周術期への対応
一日のみの休薬の場合は、脱水に留意すれば特別な処方は不要で、一日休んだのちに元の処方を開始する。パーキンソン病症状は悪化するので転倒転落に注意する。2日以上絶食して手術を行うときや肺炎時など、パーキンソン病治療薬を服用できないときには非経口的な治療薬投与を行う。L-dopaの点滴やドパミンアゴニストの経皮投与が可能である。L-dopaの投与は1回50㎎を100mlの生食に入れて1-2時間で1日3回、静脈内へ点滴投与する。休薬の後に以前の処方に戻しても症状の改善が不十分なことも少なくない。運動療法とともに治療薬の調整を行う。

4)鑑別診断

①疾患の典型的な経過と注意すべき非典型例の鑑別
パーキンソン病は振戦での発症が多く、動作緩慢や巧緻運動障害などの無動での発症も多い。振戦は当初は断続的に起こり、緊張や寒さのためと考えられていることも多い。数カ月して持続的な振戦となり受診する。また、前傾姿勢となった、何となく元気がない、歩行時に足を引きずる、包丁が使いにくい、などで気づかれることも多い。振戦で発症すると診断は早い。無動での発症は加齢のためとされて診断が遅れやすい。多くは発症して1年~2年以内で診断される。痛みが初発のこともある。最も多い疼痛は腰痛である。前傾姿勢も関与すると考えられる。肩や下肢の強い痛みが初発時の主訴となっている例も5%程度みられる。幻視や認知症での初発はDLB(び漫性レビー小体病)と呼んでいるが、固縮、動作緩慢などのパーキンソニズムがみられADLの改善にはパーキンソン病治療薬が必要である。嗅覚の低下や便秘、うつ、レム期睡眠行動異常症(RBD)などの非運動症状も運動症状に先行する。疑わしい時にはドパミントランスポーターイメージングも診断の補助に有用である。

②鑑別しなければいけない疾患と鑑別のポイント
パーキンソン症候群とは、パーキンソン病症状を呈するパーキンソン病以外の疾患の総称であり、(1)薬剤性パーキンソニズム、(2)脳血管性パーキンソニズム、(3)進行性核上性麻痺(PSP-P)、(4) 大脳皮質基底核変性症、(5) 多系統萎縮症のパーキンソン病型(MSA-P)、(6)特発性正常圧水頭症などが含まれる。薬剤性パーキンソニズムは服薬歴の確認が重要である。治療はパーキンソニズムを誘発していると考えられる薬物の中止である。潜在的にパーキンソン病を発症し薬物で悪化している例もあるので、症状の強いときには原因薬物の中止とともにパーキンソン病治療薬を処方するとよい。脳血管性パーキンソニズムはMRIやCTの所見、臨床症状と経過で鑑別するが、RIを用いた心筋シンチグラフィー(MIBG)、ドパミントランスポーターイメージング(ダットスキャンⓇ)も参考にできる。PSP-Pでは姿勢保持障害が早期からおこるため、発症して2年以内に姿勢保持障害がみられるパーキンソニズムではPSPを疑う。MIBGでは一般に低下を認めない。 MSAでは起立性低血圧が起こりやすい。ドパミントランスポーターイメージングではドパミン神経が変性するいずれの疾患でも低下するが、本態性振戦、血管障害性パーキンソニズムでは一般に低下しない。

5)最近のトピックス

神経変性の進行抑制をめざして多くの薬が臨床試験(治験)されている。未だ成功していないが、パーキンソン病発症時では黒質のドパミン細胞の半分以上は残っており、発症早期での進行抑制治療は臨床的な有用性が期待される。2014年からドパミントランスポーターのイメージングが検査できるようになった。線条体の残存ドパミン神経を量的に評価できるため、本態性振戦などパーキンソニズムの鑑別に有用である。
パーキンソン病治療薬の開発には日本が貢献しており、ゾニサミドやイストラデフィリンの開発は日本で最初に成功している。またiPS細胞を用いた細胞移植の臨床研究も日本で準備されている。

6)本疾患の関連資料・リンク

パーキンソン病治療ガイドライン(日本神経学会)


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情報提供者
研究班名 神経変性疾患領域における基盤的調査研究班
研究班名簿  研究班ホームページ 
情報更新日平成27年3月11日