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HOME >> 診断・治療指針(医療従事者向け) >> 偽性副甲状腺機能低下症

偽性副甲状腺機能低下症

ぎせいふくこうじょうせんきのうていかしょう

(認定基準、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1)概要

a.定義 
偽性副甲状腺機能低下症の主症状は副甲状腺機能低下症同様の低カルシウム血症であるが、その発生機序はPTH(副甲状腺ホルモン)分泌低下ではなく、PTHの内分泌標的組織(腎、骨)における不応性である。偽性副甲状腺機能低下症では細胞外液カルシウム濃度の低下に対応して血中PTH濃度が増加しており、ときにはPTH分泌の亢進によりPTH不応性が代償され低カルシウム血症がみられないこともある。
いくつかの病型があり、臨床的な分類では偽性副甲状腺機能低下症にAHO(オルブライト遺伝性骨ジストロフィー:Albright hereditary osteodystrophy)の症候を合併するものをIa型、合併しないものをIb型に分けている。その他にIc型、Ⅱ型と呼ばれる病型が提唱されているが、Ic型の区分は意義が確立されておらず、Ⅱ型は独立した疾患として存在するのか疑問視されている。
 
b.疫学
1998年のホルモン受容機構異常調査研究班の全国調査で、本邦における患者数は偽性副甲状腺機能低下症全体で約430人と推定されている。病型ごとの患者数は不明であるが、Ia型とIb型はほぼ同数程度と推測される。罹患率に性差はない。
 
c.病因・病態
副甲状腺細胞は恒常性維持のために細胞外カルシウム濃度を感知してPTH分泌調節を行っている。PTHは主な標的組織である骨と腎に作用して細胞外カルシウム濃度を上昇させる方向にはたらく。血中に放出されたPTHは標的組織の細胞膜上に存在する特異的受容体であるPTHR1(PTH/PTHrP受容体)に結合するが、そのシグナルはGタンパクを介してアデニル酸シクラーゼに伝えられ細胞内シグナル伝達系のセカンドメッセンジャーの一つとしてcAMP(サイクリックAMP)が産生される。このGタンパクはヘテロ3量体構造をとっているが、Gsタンパクの構成要素の一つであるGsαの活性低下が偽性副甲状腺機能低下症の原因である。Gsαは甲状腺刺激ホルモン受容機構、ゴナドトロピン受容機構、成長ホルモン放出ホルモン受容機構などでも共有されている。
Gsαをコードする遺伝子はGNAS(遺伝子座は20q13.2-q13.3)である。この遺伝子領域は複雑なインプリンティング調節を受けている。大部分の組織では父由来と母由来の両アリルから同等にGsαがつくられているが、腎近位尿細管細胞、下垂体、甲状腺、卵巣など特定の細胞、組織では母由来アリルから転写されたmRNAのみからGsαがつくられている。この組織特異的インプリンティングの維持機構はGNASのエクソン1の5’側上流のメチル化可変領域CpGのDNAメチル化状態がアリルの親由来によって異なることによっているが、組織特異性を規定する因子や機序はわかっていない。
偽性副甲状腺機能低下症の病因は遺伝子変異ないしエピジェネティック変異であり、この分子生物学的な違いがそれぞれIa型とIb型に対応する(一部の症例で臨床診断と合致しないこともある)。
Ia型はGsαをコードする領域(エクソン1~13)の塩基変異が原因であるが、変異が生じているアリルは母由来である。父由来アリルの塩基変異の場合は、ホルモンの標的組織では正常な母由来アリルからGsαが作られるためPTHなどホルモンに対する不応性は生じない。一方、AHOの症候はインプリンティング組織ではない組織でのGsα活性低下(ハプロ不全)によって生じるため、AHOのみの症候があらわれ「偽性偽性副甲状腺機能低下症」と呼ばれる疾患となる。
Ib型の発症にはGNASの転写調節領域に位置するA/B領域(1AあるいはA’と呼ばれることもある)の母由来アリル特異的DNAメチル化の消失が関連している。このアリル特異的DNAメチル化の消失をきたす原因としてわかっているのは、①STX16遺伝子(GNASの約220kbセントロメア側上流)の欠失などのA/B領域シスエレメントの遺伝子変異、②父性片親性ダイソミーである。①では欠失が母由来アリルに生じている場合にA/B領域の両アリル脱メチル化を生じIb型となるが父由来アリルの欠失では無症状(保因者)である。父性片親性ダイソミーによるものは遺伝しない。しかし、孤発例の大部分ではエピジェネティック変異の原因は不明であり、次世代に遺伝するものかどうか確定的な情報がない。
 
d.症状
低カルシウム血症による症状は、口周囲や手足などのしびれ感・錯感覚、テタニー、喉頭痙攣、全身痙攣である。慢性的な低カルシウム血症では自覚症状がみられないこともある。そのほか、慢性的に生じた低カルシウム高リン血症では、白内障や大脳基底核の石灰化、抑うつ、不整脈、皮膚や毛髪の異常など、多彩な症候を呈しうる。
PTH以外のホルモンに対する不応性により、甲状腺機能低下症、性腺機能低下症、成長ホルモン分泌不全性低身長症を合併することがある。甲状腺機能低下症は甲状腺刺激ホルモンに対しての不応性によって生じるが、程度は軽いことが多く症状は特異性に乏しい。ゴナドトロピン不応性による性腺機能低下症では、生殖能力の低下、女性では無月経、稀発月経などをきたす。GH(成長ホルモン)分泌不全による低身長がみられることもある。
このほかの症状として、主にIa型でAHOの症候を合併する。AHOの症候とは、異所性皮下骨化、短指趾症、円形顔貌、肥満、低身長、知能障がいである。
 
e.治療
根本的治療法はない。低カルシウム血症は活性型ビタミンD製剤の経口投与により治療する。甲状腺機能低下症を合併する場合には甲状腺ホルモン薬の経口補充療法を行う。GH分泌不全性低身長症を合併する場合にはGH注射を行う。AHOの症状に対しての内科的治療手段はなく、皮下異所性骨化や短指趾はQOLの改善が見込まれる場合には外科的治療を考慮する。
 
f.ケア
皮下異所性骨化の多くは浅い皮下軟部組織に発生する。発生する部位や広がりには個人差が大きいが日常動作時の疼痛や機能障がいの原因となることがあるため、ケアのときには個々の状況を把握しておいて注意する必要がある。
 
g.食事・栄養
特別な配慮は通常は不要であるが、活性型ビタミンD製剤で治療している場合にはカルシウムを多く含む食品について過不足なく摂取することが必要である。AHOの症状の一つとして肥満がみられる場合には通常の肥満症に対してと同様の食事療法、運動療法が必要である。
 
h.予後
低カルシウム血症は活性型ビタミンD製剤(アルファカルシドール、カルシトリオール)内服を基本とする治療で是正され、これによる症状はほぼ消失する。活性型ビタミンD製剤の副作用の主なものは過量投与によるビタミンD中毒である。また、過剰な量の活性型ビタミンD投与が長期間にわたると腎石灰化、尿路結石、腎機能低下の原因の一つとなる。
AHOの症候はすべての症例にみられる訳ではなく、症状の程度も多様である。皮下異所性骨化は発生した部位、大きさによっては疼痛、機能障がいの原因となり生活上の支障になる。外科的切除以外対処方法がないが、同一部位に再発することもある。
知能障がいの程度も多様である。合併症としての甲状腺機能低下症(乳幼児期に適切に治療されなければ知能発達の障がいの原因となりうる)に対しては甲状腺ホルモン薬(サイロキシン)が投与されるが、精神発達遅滞に対して目に見える改善効果はないようである。また、低身長の成因はGH分泌不全だけでなく、AHOの一症状しての要素が強い場合はGH注射による改善効果は十分でないことが多い。
 
 

2)診断 

 

①診断基準
A症状
1. 口周囲や手足などのしびれ、錯感覚
2. テタニー
3. 全身痙攣
 
B検査所見
1. 低カルシウム血症、正または高リン血症
2. eGFR 30 ml/min/1.73 m2以上
3. intact PTH 30 pg/ml以上
 
C鑑別診断
以下の疾患を鑑別する。
ビタミンD欠乏症
*血清25水酸化ビタミンD(25(OH)D)が15ng/ml以上であってもBの検査所見であること。25(OH)Dが15ng/ml未満の場合にはビタミンDの補充等によりビタミンDを充足させたのちに再検査をおこなう。
 
D遺伝学的検査
1. GNAS遺伝子の変異
2. GNAS遺伝子の転写調節領域のDNAメチル化異常
 
<診断のカテゴリー>
Definite:Aのうち1項目以上+Bのすべてを満たしCの鑑別すべき疾患を除外し、Dのいずれかを満たすもの
Probable:Aのうち1項目以上+Bのすべてを満たしCの鑑別すべき疾患を除外したもの
Possible:Aのうち1項目以上+Bのすべてを満たすもの
 
②重症度分類
重症:PTH不応性による低カルシウム血症に対して薬物療法を必要とすることに加え、異所性皮下骨化、短指趾症、知能障害により日常生活に制約があるもの。
中等症:PTH不応性による低カルシウム血症に対して薬物療法を必要とするもの。
軽症:特に治療を必要としないもの。
 
 

3)治療 治療指針

低カルシウム血症による症状を有する場合あるいは無症状の場合でも血清総カルシウム濃度7.0 mg/dL以下(早期産児の早期新生児期は6.0 mg/dL以下を基準とする)ないしイオン化カルシウム濃度0.7 mmol/L以下の時には十分な注意の上、カルシウム注射薬の静注ないし持続静注投与をおこなう。経口摂取が可能な状況であれば、経口カルシウム製剤を併用しながら静注量を減量し、以後、活性型ビタミンD製剤の内服による治療へ移行する。
無症状かつ軽症の低カルシウム血症では、活性型ビタミンD製剤の内服で治療を開始する。血清カルシウム値の正常化を第一の目標とするが、同時に高カルシウム尿症を避ける必要がある。尿中カルシウム排泄量は、随時尿あるいは24時間蓄尿で尿カルシウム/クレアチニン比が0.21 (mg/mg)以下、ないしは24時間蓄尿でカルシウム排泄量が4mg/kg以下とする。アルファカルシドールかカルシトリオールを用いる。前者は分1投与、後者は分2投与である。初期投与量は、アルファカルシドールでは0.2μg/kg/日、カルシトリオールでは0.1μg/kg/日とし、通常1~2週間で血清カルシウム濃度が上昇するため、半減して維持量とする。維持量は症例ごとに異なるため1~3か月ごとに血液検査と尿検査を実施して治療量を調節する。成人でのアルファカルシドール維持量は2μg/日程度である。(カルシトリオールではその半量)。投与量の設定は高カルシウム尿症をきたすことなく、血清PTH(intact PTHかwhole PTH)をできるだけ正常範囲に近づけるようにする。
 

4)鑑別診断

 

①副甲状腺機能低下症
診断基準にあるintact PTHのカットオフ値(30 pg/ml)は特発性副甲状腺機能低下症(PTH分泌不全による低カルシウム血症)を診断するために決められた値であり、PTHの濃度は血中カルシウムにより変化するため、特発性副甲状腺機能低下症であっても30pg/ml未満でないこともあるので注意する。未治療の偽性副甲状線機能低下症では基準値上限値の倍以上となっていることがほとんどであるが、判定困難な場合はEllsworth-Howard試験を実施し、cAMP反応が不良であることを確認する。
 
 
②ビタミンD欠乏症
ビタミンD不足、欠乏症でも高PTH血症をともなった低カルシウム血症がみられることがある。血清25水酸化ビタミンD(25(OH)D)(保険未収載)が15ng/ml未満の場合にはビタミンDの補充等によりビタミンDを充足させたのちに再検査をおこなう。また、ビタミンD不足、欠乏症では、Ellsworth-Howard試験ではcAMP反応は正常である。
 

5)最近のトピックス

先端異骨症の一部症例でこの診断基準を満たしうる症例の報告があり、PRKAR1A (17q24.2)、PDE4D (5q11.2-q12.1)遺伝子の変異が原因とされている。
 

6)本疾患の関連資料・リンク

内分泌学会 低カルシウム血症の鑑別診断の手引き
https://square.umin.ac.jp/endocrine/tebiki/003/003001.pdf
ホルモン受容機構異常に関する調査研究班名簿
http://www.nanbyou.or.jp/upload_files/naibunpitu1.pdf


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情報提供者
研究班名 -  
新規掲載日平成28年1月20日