低ホスファターゼ症(指定難病172)

ていほすふぁたーぜしょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
低ホスファターゼ症は、骨レントゲン検査で骨の低石灰化、くる病様変化がみられ、血液検査で血清アルカリフォスファターゼ(ALP)値が低下するのが特徴である。ALPの活性低下にともない蓄積するピロリン酸が石灰化を障害することや、局所のリン濃度の低下することにより、骨の低石灰化、くる病様変化が引き起こされる。ALPの基質であるphosphoethanolamine, inorganic pyrophosphate(ピロリン酸), pyridoxal 5′-phosphateの上昇がみられる。通常、常染色体劣性遺伝性であるが、稀に常染色体優性遺伝性もある。
 
2.原因
組織非特異的アルカリホスファターゼ(ALP)の欠損によるとされている。
 
3.症状
骨のくる病様変化、低石灰化、骨変形、四肢短縮、頭囲の相対的拡大、狭胸郭、けいれん、高カルシウム血症、多尿、腎尿路結石、体重増加不良、頭蓋縫合の早期癒合、乳歯の早期喪失、病的

骨折、骨痛等を認める。
 
4.治療法
確立された根本的な治療法はなかったが、ALP酵素補充療法が開発されつつある。重症型における痙攣はビタミンB6依存性である可能性が高いので、まずB6の投与を試みる。乳児型ではしばしば高カルシウム血症がみられ、これに対し、低カルシウムミルクを使用する。
 
5.予後
予後は病型により異なる。周産期ないし乳児期に発症して50%以下の生存率である重症の病型から、成人において骨折リスクが高まる、生命予後良好な軽症な病型まで幅がある。
 
 
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.患者数
約100~200人
2.発病の機構
不明(原因はALP遺伝子の異常だが、重症度の違いは完全な理解はできていない。)
3.効果的な治療方法
未確立(対症療法のみ。)
4.長期の療養
必要
5.診断基準
あり(研究班作成の診断基準あり。)
6.重症度分類
modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上を対象とする。
 
○ 情報提供元
「低フォスファターゼ症の個別最適化治療に向けた基礎的•臨床的検討」
研究代表者 大阪大学大学院医学研究科小児科学 教授 大薗恵一
 
<診断基準>
低ホスファターゼ症と確定診断されたもの(Definite)を対象とする。
 
低ホスファターゼ症の診断基準
主症状
1.骨石灰化障害
骨単純X線所見として骨の低石灰化、長管骨の変形、くる病様の骨幹端不整像 
2.乳歯の早期脱落(4歳未満の脱落)
主検査所見
1.血清アルカリホスファターゼ(ALP)値が低い(年齢別の正常値に注意:各施設の年齢別正常値で判定するが、成長期の小児の血清ALP値が300IU/L未満である場合は、本症を疑う必要がある)
 
参考症状
1.ビタミンB6依存性けいれん
2.四肢短縮、変形
参考検査所見
1.尿中ホスフォエタノールアミンの上昇(尿中アミノ酸分析の項目にあり)
2.血清ピロリン酸値の上昇
3.乳児における高カルシウム血症
遺伝学的検査
確定診断、病型診断のために組織非特異的ALP (TNSALP)遺伝子検査を行う
 
参考所見
1.家族歴
2.両親の血清ALP値の低下
 
診断のカテゴリー
主症状1つ以上と血清ALP値低値があれば本症を疑い遺伝子検査を行い確定診断する(Definite)。
 
 
 
<重症度分類>
modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上を対象とする。
 

 

日本版modified Rankin Scale (mRS) 判定基準書

modified Rankin Scale

参考にすべき点

まったく症候がない

自覚症状及び他覚徴候がともにない状態である

症候はあっても明らかな障害はない:
日常の勤めや活動は行える

自覚症状及び他覚徴候はあるが、発症以前から行っていた仕事や活動に制限はない状態である

軽度の障害:
発症以前の活動が全て行えるわけではないが、自分の身の回りのことは介助なしに行える

発症以前から行っていた仕事や活動に制限はあるが、日常生活は自立している状態である

中等度の障害:
何らかの介助を必要とするが、歩行は介助なしに行える

買い物や公共交通機関を利用した外出などには介助を必要とするが、通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要としない状態である

中等度から重度の障害:
歩行や身体的要求には介助が必要である

通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要とするが、持続的な介護は必要としない状態である

重度の障害:
寝たきり、失禁状態、常に介護と見守りを必要とする

常に誰かの介助を必要とする状態である

死亡

 
日本脳卒中学会版
 
食事・栄養 (N)
0.症候なし。
1.時にむせる、食事動作がぎこちないなどの症候があるが、社会生活・日常生活に支障ない。
2.食物形態の工夫や、食事時の道具の工夫を必要とする。
3.食事・栄養摂取に何らかの介助を要する。
4.補助的な非経口的栄養摂取(経管栄養、中心静脈栄養など)を必要とする。
5.全面的に非経口的栄養摂取に依存している。
 
 
呼吸 (R)
0.症候なし。
1.肺活量の低下などの所見はあるが、社会生活・日常生活に支障ない。
2.呼吸障害のために軽度の息切れなどの症状がある。
3.呼吸症状が睡眠の妨げになる、あるいは着替えなどの日常生活動作で息切れが生じる。
4.喀痰の吸引あるいは間欠的な換気補助装置使用が必要。
5.気管切開あるいは継続的な換気補助装置使用が必要。
 
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
 

平成27年7月1日

情報提供者
研究班名 先天性骨系統疾患の医療水準と患者QOLの向上を目的とした研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和5年11月(名簿更新:令和5年6月)