先天性腎性尿崩症(指定難病225)

せんてんせいじんせいにょうほうしょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
腎臓の腎尿細管細胞の抗利尿ホルモンに対する感受性が低下して、尿の水分の再吸収が障害される。その結果、尿濃縮障害が惹起され、多尿を呈する疾患。
 
2.原因
先天性(遺伝性)腎性尿崩症は、腎臓の尿細管細胞の抗利尿ホルモンの2型受容体の遺伝子異常が大半を占め、X連鎖性潜性遺伝(劣性遺伝)を呈する。まれなものとして、尿細管の抗利尿ホルモン感受性アクアポリン水チャネル遺伝子異常も報告されており、これは常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)を呈する。
 
3.症状
患者の年齢により症状が異なる。代表的には以下のような症状がある。
(1)胎児期:母体の羊水過多。
(2)新生児期:生後数日頃から、原因不明の発熱及びけいれんを来す。血中ナトリウムが高値を示す。
(3)幼児期~成人:多飲・多尿。
 
4.治療法
現時点では根治治療は困難である。経験的にサイアザイド系利尿薬や、それに加えてインドメタシンなどの非ステロイド系抗炎症薬が併用されているが十分な効果は得られていない。軽症の腎性尿崩症では、抗利尿ホルモンによってある程度尿量を減少させることが可能と考えられている。
 
5.予後
以下にあげる合併症を来す。最も重要な合併症は、新生児期・乳児期の高度な高ナトリウム血症と脱水による中枢神経障害である。適切な治療を早期に行わなかった場合、知能障害を残す。また、多尿に伴い、水腎症・水尿管や巨大膀胱など尿路系の拡張が発生し、その結果、逆流性腎症さらに腎不全にいたる例もある。手術時に血中ナトリウムの調節が困難となり、死亡した症例も報告されている。
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.  患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
100人未満
2.  発病の機構
未解明(遺伝子異常が関与。)
3.  効果的な治療方法
未確立(治癒させる治療法はない。サイアザイド系利尿薬などが使用されるが対症療法である。)
4.  長期の療養
必要(中枢神経、腎臓合併症を来す。)
5.  診断基準
あり(研究班作成の診断基準あり。)
6.  重症度分類
重症を対象とする。
 
○ 情報提供元
「間脳下垂体機能障害に関する調査研究班」
研究代表者 名古屋大学大学院医学系研究科 糖尿病・内分泌内科学 教授 有馬 寛

<診断基準>
Definite、Probableを対象とする。ただし、薬剤性を含む二次性のものを除外する。
 
先天性腎性尿崩症の診断基準
 
A.症状(注1)
1.  口渇
2.  多飲
3.  多尿
 
B.検査所見(注2)
1.尿量は成人において1日3,000 mL以上又は40 ml/kg以上、小児においては2,000 ml/m2以上。
2.尿浸透圧は300 mOsm/kg以下。
3.血漿バソプレシン濃度は定常状態で1.0 pg/mL以上である。
4.高ナトリウム血症を認める(注3)。
5.水制限試験においても尿浸透圧は300 mOsm/kgを超えない(注4)。
6.バソプレシン負荷試験で尿量の減少と尿浸透圧の上昇を認めない(完全型)。
部分型(軽症型)では軽度の尿量の減少と尿浸透圧の上昇を認める。

C.鑑別診断
以下の疾患を鑑別する。
中枢性尿崩症、心因性多飲症、高カルシウム血症、低カリウム血症、間質性腎炎、慢性腎盂腎炎、薬剤(炭酸リチウムなど)による腎性尿崩症

D.遺伝学的検査
バソプレシンV2受容体遺伝子又はアクアポリン2遺伝子の病原性変異

<診断のカテゴリー>
Definite 1:Aの全てを満たし、Bの1、2、3、4、6を満たし、Cの鑑別疾患を除外し、Dを満たすもの。
Definite 2:Aの全てを満たし、Bの1、2、3、5、6を満たし、Cの鑑別疾患を除外し、Dを満たすもの。
Probable 1:Aの全てを満たし、Bの1、2、3、4、6を満たし、Cの鑑別疾患を除外したもの。
Probable 2:Aの全てを満たし、Bの1、2、3、5、6を満たし、Cの鑑別疾患を除外したもの。

(注1)新生児期、乳児期においては発熱、けいれん、成長障害等が主症状の場合がある。
(注2)新生児期、乳児期においては高ナトリウム血症が診断の契機となる場合がある。
(注3)血清ナトリウム濃度が145 mEq/l以上の場合、著明な脱水を引き起こす危険性があるため水制限試験は不要である。また、成人で診断される場合は血清ナトリウム濃度が正常高値のこともある。
(注4)部分型(軽症型)では尿浸透圧が300m Osm/kgを超えることがある。

<重症度分類>
重症を対象とする。

軽症: 重症以外
重症: 成人において1日3,000 mL以上又は40 ml/kg以上、小児においては2,000 ml/m2以上の尿量を認めるもの
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

令和6年4月1日

 

情報提供者
研究班名 間脳下垂体機能障害に関する調査研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和6年4月(名簿更新:令和5年6月)