遺伝性ジストニア(指定難病120)

いでんせいじすとにあ
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要

1.概要
ジストニアは運動障害の一つで、持続性の筋収縮に特徴づけられる異常運動あるいは姿勢の異常と随意運動障害と定義される。一部の患者では、筋収縮の持続が短く不規則であったり、間歇的で律動的に観察されることもある。ジストニアを一症候として示す疾患は多岐にわたるが、とくに、遺伝性があり、ジストニアを主症候とし、かつ他の神経変性疾患に属さない疾患群を遺伝性ジストニアと呼ぶ。遺伝性ジストニアはDYT という接頭辞と番号の組み合わせからなるシンボルが与えられている(DYT1、DYT2、DYT3 など)が、これらをまとめて「DYT シリーズ」と呼ぶ。ここでは DYT シリーズのうち原因遺伝子が同定されている病型についてのみ扱う。
 
2.原因
DYT シリーズの原因として、20 の責任遺伝子が報告されている(2021年8月時点)。遺伝形式としては、常染色体顕性遺伝(優性遺伝)が多く、一部は常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)、X 連鎖性潜性遺伝(劣性遺伝)をとる。
 
3.症状
骨格筋の持続性の筋収縮により、定型的な(パターンのある)肢位・姿勢の異常や不随意運動を生じ、その結果随意運動が障害される。ジストニアは、特定の動作により惹起される傾向があり(動作特異性)、また、特定の感覚刺激によりしばしば症状が軽快する(感覚トリック)。
DYT シリーズの各病型は、随伴症状に基づいて、孤立性(isolated:ジストニアのみを示す)、複合性(combined:ミオクローヌスなどの他の運動障害を合併)、複雑性(complex:精神発達遅滞などの運動障害以外の症状を合併)に分類される。複合性ジストニアには、症状が発作的に出現するもの(発作性ジストニア)や L-dopa 反応性を認めるもの(L-dopa 反応性ジストニア)、顕著なパーキンソニズムの合併を認めるもの(ジストニア・パーキンソニズム)など、ユニークな臨床症状を示す病型が含まれる。また、ジストニアは身体における分布から、局所性、分節性、多巣性、片側性、全身性に分類される。発症年齢に関して、多くは遅くとも 20歳代までに発症するが、主に成人期に発症する病型もある。なお、DYT シリーズの病型鑑別にあたり、病型間での症状のオーバーラップが大きな問題となるが(特に孤立性ジストニア)、症状の分布と発症年齢が鑑別の一助となる。DYT シリーズはしばしば進行性の経過をたどり、また発症年齢が若いほど罹患部位が広範化する傾向がある。
DYT シリーズでは、同じ病的変異を有する家系間あるいは家系内においても症状が大きく異なる場合がある。また、常染色体顕性遺伝(優性遺伝)形式をとる病型のほとんどで不完全浸透であることが示されており、留意すべきである。
DYT シリーズの病型診断において必須となる臨床検査はないが、一部の病型では頭部 MRI や髄液検査で異常を認め、診断の参考となる。
 
4.治療法 
根治療法は確立されていない。対症療法として、薬物治療(抗コリン薬、抗てんかん薬、L-dopa など)、ボツリヌス毒素の局部注射療法、定位脳手術(深部脳刺激療法、後腹側淡蒼球凝固術、視床凝固術)などがある。DYT5a、DYT5b ジストニアに対しては L-dopa が、また DYT10 ジストニアに対しては抗てんかん薬が非常に効果的である。全身性に症状が広範囲に及んでいる場合は薬物療法が無効であるときも多く、その場合は脳深部刺激療法や髄腔内バクロフェン投与が選択される。一般的に、早期に治療介入を行う方が、より良好な予後が得られる。
 
5.予後
一般に機能予後は不良であるが、病状の進行の程度は様々であり、また、治療介入の有無、治療介入の時期にも影響を受ける。通常、治療により症状が改善した場合にも症状は持続する。一部の病型については治療介入により著明な改善が期待できるが、改善した場合にも長期的に治療を継続することが必要である。
 
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.  患者数
約500人
2.  発病の機構
不明
3.  効果的な治療方法
未確立(対症治療はあるが、根治療法は未確立。)
4.  長期の療養
必要(症状が継続し、進行性の経過をたどる。)
5.  診断基準
あり(研究班作成の診断基準)
6.  重症度分類
Barthel Indexを用いて85点以下を対象とする。
 
○ 情報提供元
「神経変性疾患領域における基盤的調査研究班」
研究代表者 国立病院機構松江医療センター 院長 中島健二
 
「ジストニアの成因と治療に関する研究班」
「ジストニアの疫学、病態、治療に関する研究班」
研究代表者 国立病院機構相模原病院 神経内科学 医長 長谷川一子

「遺伝性ジストニア・ハンチントン病の診療ガイドラインに関するエビデンス構築のための臨床研究」
研究代表者 国立大学法人 徳島大学医学部 脳神経内科学 教授 梶龍兒


 
<診断基準>
いずれかの病型で臨床所見、遺伝子診断により Definite(確定診断)とされたものを対象とする。
遺伝性ジストニアは病型により臨床像が異なるため、共通する事項と各病型の診断基準について以下に別に記 載する。
遺伝子診断については日本神経学会「神経疾患の遺伝子診断に関するガイドライン」も参考とすること。

遺伝性ジストニアに共通する事項を以下に示す。
1.診断のカテゴリー
Definite: ジストニア(※)をみとめ、かついずれかの病型に合致する2.臨床症状または3.特記すべき検査
所見にかかげる内容を1つ以上認め、かつ鑑別診断を除外し遺伝子診断により確定診断されたもの
Probable:ジストニア(※)をみとめ、かついずれかの病型に合致する2.臨床症状または3.特記すべき検査
所見にかかげる内容を 1 つ以上認め、かつ鑑別診断を除外するが遺伝子診断が未確定のもの

2.(※)ジストニアとは
持続性の筋収縮により生じ、一部の患者では筋収縮の持続が短く不規則であったり、間歇的で律動的に観察される不随意運動で、ジストニア運動と姿位・姿勢の異常(ジストニア姿勢と呼ぶ)からなる。ジストニア姿勢は筋の異常な持続収縮により生じるが、診断に必須ではない(顔面、咽頭・喉頭ではない。ジストニア運動、ジストニア姿勢により随意運動が障害される。 また、ジストニアは一定の随意運動時に出現、あるいは増強することがあり、動作性ジストニアと呼ぶ。以下のような特徴的所見がみられる。
1)異常動作や異常姿勢には一定のパターンがある(常同性 stereotypy)。
2)特定の感覚刺激により症状が軽快することがある(感覚トリック sensory trick)。
3)特定の動作によって症状が出現する(動作特異性 task specificity)。
4)随意運動遂行に必要でない筋が収縮する(オーバーフロー現象 overflow phenomenon)。
5)早朝にはジストニアが軽症あるいは発現しない(早朝効果 morning benefit)。
6)何らかを契機にジストニアが急に増悪したり緩解したりする(フリップフロップ現象 flip-flop phenomenon)。
7)ジストニア以外の不随意運動を伴うことがある。

(参考)検査所見
表面筋電図で拮抗関係にある筋が同時に収縮する(共収縮)。

3.鑑別診断(遺伝性ジストニアの全ての病型において鑑別すべき疾患)
ウィルソン病、脊髄小脳変性症、パーキンソン病、パーキンソン症候群、家族性痙性対麻痺、ハンチントン病、神経有棘赤血球症、GM2 ガングリオシドーシス、GM1 ガングリオシドーシス、ニーマン・ピック病、レット症候群、脳血管障害、抗精神薬投与に伴う遅発性ジストニア。
※ジストニアと鑑別すべき他の不随意運動として、振戦、ミオクローヌス、チック、アテトーゼ、舞踏病、バリズム、筋痙攣、スパスム、薬剤性ジスキネジアが挙げられる。

各病型の診断基準について以下に示す。
<DYT1ジストニア>
1.病因遺伝子と概要
DYT1 ジストニアは(別名:捻転ジストニア torsion dystonia、変形性筋ジストニア dystonia musculorumdeformans、オッペンハイムジストニア Oppenheim dystonia)の一次性全身性ジストニアの代表的疾患である。 若年発症のジストニアでは瀬川病と共に第一に疑う。病因遺伝子 DYT1 の浸透率は 30%とされる。知能は正常である。
(1)遺伝様式:常染色体顕性遺伝(優性遺伝)(遺伝子座 9q34、遺伝子 DYT1=TOR1A、遺伝子産物torsin A、MIM#128100)
(2)発症年齢:小児期~思春期(平均12歳)。20歳以上はまれである。
(3)頻度:約 100 人
2.臨床症状
全身性ジストニアが多い。初発部位は様々で四肢が多い(上肢>下肢)。発症年齢が若く、下肢発症型の方が全身性に進行しやすい。ジストニア運動も突発的であったり振戦であったり、ミオクローヌス・ジストニア様であったりする。高齢となるにつれ、局所性ジストニアにとどまる。発症年齢によっては側彎、後彎、骨盤捻転、足の変形をきたす。平均 5~10年をかけて進行する。
3.特記すべき検査所見
特になし。
4.遺伝子診断
DYT1 遺伝子で GAG 欠失を認める。
5.鑑別診断
ウィルソン病、脊髄小脳変性症、パーキンソン病、パーキンソン症候群、家族性痙性対麻痺、ハンチントン病、神経有棘赤血球症、GM2 ガングリオシドーシス、GM1 ガングリオシドーシス、ニーマン・ピック病、レット症候群、脳血管障害、抗精神薬投与に伴う遅発性ジストニア。
 
<DYT2ジストニア>
1.病因遺伝子と概要
小児期に発症する全身性ジストニアできわめてまれな病型である。ホモ接合体、複合ヘテロ接合体の報告がある。指のジストニアが特徴的である。
(1)遺伝様式:常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)(遺伝子座 1p35、遺伝子 HPCA、遺伝子産物 HPCA、MIM#224500)
(2)発症年齢:小児期~思春期
(3)頻度:極めて稀な病型。
2.臨床症状
四肢遠位発症のジストニアで、その後頭頚部、緩徐に進行して全身化する。症状は比較的軽い。
3.特記すべき検査所見:特になし。
4.遺伝子診断
HPCA 遺伝子の病的変異を認める。
5.鑑別診断
ウィルソン病、脊髄小脳変性症、パーキンソン病、パーキンソン症候群、家族性痙性対麻痺、ハンチントン病、神経有棘赤血球症、GM2 ガングリオシドーシス、GM1 ガングリオシドーシス、ニーマン・ピック病、レット症候群、脳血管障害、抗精神薬投与に伴う遅発性ジストニア。他の孤立性ジストニア
 
<DYT3ジストニア>
1.病因遺伝子と概要
比較的若年で発症する全身性ジストニアだが、やや高齢で発症するとジストニア・パーキンソニズムを呈する浸透率の高い X 連鎖性潜性遺伝(劣性遺伝)疾患である。lubags 症候群とも称された。我が国でもフィリピン系男性での発症が報告されている。
(1)遺伝様式:X 連鎖性潜性遺伝(劣性遺伝)(遺伝子座 Xq13.1、病因遺伝子 TAF1、遺伝子産物 TAF1:TATA-binding protein associated factor 1、MIM#314250)
(2)発症年齢:小児期~成人期(平均39歳)
(3)頻度:不明
2.臨床症状
下肢、顔面、頸部肩甲部の順にジストニアが出現し、多くは全身型に移行する。激しいジストニア運動を呈することが多く、発症後10年で無動となる。ジストニアは軽快するがジストニア姿勢はみられ、すくみ足、歩行不能、仮面様顔貌、顔面痙攣を認める。
3.特記すべき検査所見
進行期に脳 MRI 像で尾状核、被殻の萎縮を認める。FDG-PET で線条体の代謝低下が示唆される。
4.遺伝子診断
TAF1 遺伝子イントロンへの SVA レトロトランスポゾン挿入を認める。
5.鑑別診断
ウィルソン病、脊髄小脳変性症、パーキンソン病、パーキンソン症候群、家族性痙性対麻痺、ハンチントン病、神経有棘赤血球症、GM2 ガングリオシドーシス、GM1 ガングリオシドーシス、ニーマン・ピック病、レット症候群、脳血管障害、抗精神薬投与に伴う遅発性ジストニア。他の全身性ジストニア。
 
<DYT4ジストニア>
1.病因遺伝子と概要
ささやき声を主症状とする喉頭ジストニアで、まれに全身化する。病因遺伝子 TUBB4A は低ミエリン形成白質脳症6型(HDL6)の病因遺伝子でもある。ささやき声は通常の会話では発現せず、発表などの際に生じる。極めてまれな疾患である。
(1)遺伝様式:常染色体顕性遺伝(優性遺伝)(遺伝子座 19p13、病因遺伝子 TUBB4A、遺伝子産物 TUBB4A:tubulin beta 4A、MIM#128101)
(2)発症年齢:思春期~成人期
(3)頻度:不明
2.臨床症状
10歳代~20歳代に生じる喉頭ジストニアでささやき声となる。その後、頸部や上肢にジストニアが拡大する事もある。失調性歩行を呈することもある。喉頭ジストニアはアルコール飲用で軽快、情動的な叫びは可能だが、会話ではささやき声となる。ほとんどが内転筋型である。
3.特記すべき検査所見
特になし。
4.遺伝子診断
TURBB4A 遺伝子での点変異を認める
5.鑑別診断
ウィルソン病、脊髄小脳変性症、パーキンソン病、パーキンソン症候群、家族性痙性対麻痺、ハンチントン病、神経有棘赤血球症、GM2 ガングリオシドーシス、GM1 ガングリオシドーシス、ニーマン・ピック病、レット症候群、脳血管障害、抗精神薬投与に伴う遅発性ジストニア。
 
<DYT 5a ジストニア/瀬川病/ドパ反応性ジストニア dopa response dystonia:DRD、日内変動を伴う遺伝性進行性ジストニア hereditary progressive dystonia with marked diurnal fluctuation:HPD>
1.病因遺伝子と概要
GCH1 の活性低下に基づき、L-dopa によく反応する日内変動を伴う下肢ジストニアにより歩行障害を来す。尖足、内反尖足が多い。日内変動があり、昼から夕方にかけて症状が悪化し、睡眠によって改善する。1971年に瀬川らが“著明な日内変動を呈する遺伝性進行性脳基底核疾患”として報告した。1994年病因遺伝子が確定され、疾患概念が確立された。
(1)遺伝様式:常染色体顕性遺伝(優性遺伝)(遺伝子座 14q22.2、遺伝子 GCH1、遺伝子産物 GCH1:GTP cyclohydrolase1、MIM#128230)
(2)発症年齢:10歳以下に多い。
(3)頻度:100~200 人。不完全浸透で、女性優位(4:1又はそれ以上)に発症する。
2.臨床症状
下肢優位の姿勢ジストニア(下肢の尖足あるいは内反尖足)が主症状で、立位時に腰椎前弯や頸部後屈位、後膝反張を認めるが、体幹の捻転ジストニアはない。著明な日内変動を呈し、昼から夕方にかけて症状が悪化し、睡眠によって改善する。年齢とともに日内変動の程度は減少する。10歳以降になると姿勢時振戦(8~10Hz が多い)が出現する。軽度の筋強剛を認める。深部腱反射は亢進し、時に足クローヌスが出現する。成人発症例もあり、軽微な足ジストニアを示す。知能は正常である。L-dopa により著明に改善する。
3.特記すべき検査所見
画像所見に異常はない。
GTP cyclohydrolase l(GCH1)活性の低下を認める。
髄液中ホモバニリン酸、ネオプテリン、ビオプテリンの低下を認める。
4.遺伝子診断
GCH1 遺伝子の点変異を認める
5.鑑別診断
ウィルソン病、脊髄小脳変性症、パーキンソン病、パーキンソン症候群、家族性痙性対麻痺、ハンチントン病、神経有棘赤血球症、GM2 ガングリオシドーシス、GM1 ガングリオシドーシス、ニーマン・ピック病、レット症候群、脳血管障害、抗精神薬投与に伴う遅発性ジストニア。他のドパ反応性ジストニア、常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)若年発症パーキンソニズムなど。
 
<DYT 5b ジストニア>
1.病因遺伝子と概要
GCH1 以外のビオプテリン代謝酵素、チロシン水酸化酵素(TH)の変異も明らかになった。TH 変異は常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)の瀬川病で Segawa syndrome とも称される。Q381K ついで L205P のホモ変異として見いだされた。周産期発症の重症複合型脳症と乳児期発症で症状の日内変動と自律神経症状を示すものと、乳児期発症の進行性運動減少筋強剛と全身型ジストニアを示す群で、少量 L-dopa に反応する。ヘテロ複合変異も見られる。乳児発症で高フェニルアラニン血症を伴い重症型である。低緊張、無動、流涎、眼瞼下垂、眼球上転作 oculgyric crisis、けいれん発作を認める。ドパミンのほかセロトニン、ノルアドレナリン欠乏の併存による重症化とされる。なお、oculogyric crisis はドパミン系の異常の時に発現することが多く、臨床上の指標となる。
(1)遺伝様式:常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)
(2)発症年齢:幼児期~思春期発症
(3)頻度:稀
2.臨床症状
下肢発症が多い。1/3 で日内変動を伴う。L-dopa 反応性ジストニア。
3.特記すべき検査所見
髄液中ホモバニリン酸、ネオプテリン、ビオプテリンの低下を認める。
4.遺伝子診断 ビオプテリン代謝酵素、チロシン水酸化酵素(TH)、ビオプテリン代謝酵素のピルヴォイルテトラハイドロビオプテリン合成酵素 6-pyruvoyl-tetrahydropterin synthase(6-PTS)、セピアプテリン還元酵素(sepiapterinreductase)、4a-カルビノールアミン脱水素酵素(carbinolamine-4a-dehydratase)、ジヒドロプテリジン還元酵素(dihydropteridine reductase)遺伝子の病的変異を認める。
 
<DYT6 ジストニア>
1.病因遺伝子と概要
上肢あるいは頭頸部発症の捻転ジストニアで、頭頸部のジストニアと発声困難、構語障害を特徴とする。
(1)遺伝様式:常染色体顕性遺伝(優性遺伝)(遺伝子座 8q11、遺伝子 THAP1、遺伝子産物 THAP1、MIM#602629)
(2)発症年齢:発症年齢:思春期~成人期、平均 10歳代、女性に多い(2:1)、浸透率は 35歳までで 60%
(3)頻度:不明
2.臨床症状
主として思春期に発症する捻転ジストニアで、上肢発症と頭頸部(喉頭、舌、顔面)発症が半数ずつである。30%は全身性に進展する。 ADL を阻害するのは頭頸部のジストニアと発声困難である。成人発症では限局性のまま経過することもある。
DYT1 との鑑別は頭頸部から発症することが多いこと、発声障害、構語障害が多いことである。
3.特記すべき検査所見
FDG-PET で前補足運動野と頭頂連合野で代謝亢進、被殻で代謝低下、側頭葉皮質で代謝亢進が報告されている。
4.遺伝子診断
THAP1 遺伝子の病的変異を認める。
5.鑑別診断
ウィルソン病、脊髄小脳変性症、パーキンソン病、パーキンソン症候群、家族性痙性対麻痺、ハンチントン病、神経有棘赤血球症、GM2 ガングリオシドーシス、GM1 ガングリオシドーシス、ニーマン・ピック病、レット症候群、脳血管障害、抗精神薬投与に伴う遅発性ジストニア。他の孤立性ジストニア。特に DYT1 を否定する必要がある。
 
<DYT6 ジストニア>
1.病因遺伝子と概要
(1)遺伝様式:常染色体顕性遺伝(優性遺伝)(遺伝子座 18p、遺伝子 DYT7
(2)発症年齢:成人期(平均 43歳)
2.臨床症状
局所性ジストニア(頸部、喉頭、上肢)。
3.遺伝子診断
DYT7 遺伝子の病的変異を認める。
 
<DYT8 ジストニア、発作性非運動誘発性ジスキネジア 1(paroxysmal nonkinesigenic dyskinesia 1: PNKD1)、発作性ジストニア舞踏運動アテトーシス paroxysmal dystonic choreoathetosis: PDC>
1.病因遺伝子と概要
非運動誘発性の発作性のジストニア、舞踏アテトーシス。一側の上下肢に生じることが多いが、両側のことも体幹や顔面を含むこともある。数分~数時間の発作を1日数回~数か月に1回程度生じる。発作時に痙攣や意識障害を伴わない。発作間歇期には神経学的異常を認めない。アルコール・カフェイン摂取、飢餓、喫煙、疲労、過度の緊張などが誘因になり、睡眠は緩解因子である。
(1)遺伝様式:常染色体顕性遺伝(優性遺伝)遺伝(遺伝子座 2q35、遺伝子 MR-1、遺伝子産物 MR-1、MIM#118800)
(2)発症年齢:乳児期~青年期
(3)頻度:不明
2.臨床症状
乳児期に始まる発作で、大きな発作と小さな発作があり、疲労感と胸部、咽喉部の締め付け感の後、両手の持ち上がる発作が起こる。足にも広がり歩行障害が起こり、複視と霧視をきたす。数分続いておさまるのが小さい発作で、これより長いものが大きい発作であるが、後者では眼球上転発作を伴う。昼食時、夕食時に多く、意識消失は伴わない。アルコールの摂取、コーヒー・お茶・コーラ摂取、疲労、(過度の)集中が誘引となる。1日に2回の小さな発作と1回の大きな発作を来すことが多い。睡眠による軽快が指摘された。発作は生命予後には影響しない。 47%に片頭痛発作を認めるが、てんかん発作はない。
3.特記すべき検査所見
特になし
4.遺伝子診断
MR-1(myofibrillogenesis regulator 1)遺伝子の病的変異を認める。
5.鑑別診断
ウィルソン病、脊髄小脳変性症、パーキンソン病、パーキンソン症候群、家族性痙性対麻痺、ハンチントン病、神経有棘赤血球症、GM2 ガングリオシドーシス、GM1 ガングリオシドーシス、ニーマン・ピック病、レット症候群、脳血管障害、抗精神薬投与に伴う遅発性ジストニア。発作性ジストニアをきたす疾患。
 
<DYT9 ジストニア、発作性舞踏アテトーシス・痙性対麻痺 Choreoathetosis/spasticity、 episodic: CSE、Choreoathetosis、 kinesigenic with episodic ataxia and spasticity、 Choreoathetosis、 paroxysmal、 with episodic ataxia>
1.病因遺伝子と概要
発作性の下肢ジストニア、舞踏アテトーシスと進行性の痙縮を四肢に生ずる。
(1)遺伝様式:常染色体顕性遺伝(優性遺伝)(遺伝子座 1p34、病因遺伝子 SLC2A1/GLUT1、 遺伝子産物 GLUT1、 MIM #601042)
(2)発症年齢:幼児期~思春期
(3)頻度:不明
2.臨床症状
発作時に複視や構音障害、口唇や下肢の錯感覚を伴う。頭痛を伴うこともある。発作は約 20 分間で2/日~2/年程度生じる。間歇期に痙性対麻痺を合併する。多くは知能低下を合併する。てんかん発作、片頭痛、頭痛、失調症状を様々な程度で認める。運動、アルコール摂取、緊張、疲労、睡眠不足が誘発因子である。
3.特記すべき検査所見
脳波上は全般的な徐波化が報告されている。過呼吸負荷で増強される。
脳画像(CT、MRI)に特記すべきことはない。
4.遺伝子診断
SLCA1/GLUT1 遺伝子の病的変異を認める。
5.鑑別診断
ウィルソン病、脊髄小脳変性症、パーキンソン病、パーキンソン症候群、家族性痙性対麻痺、ハンチントン病、神経有棘赤血球症、GM2 ガングリオシドーシス、GM1 ガングリオシドーシス、ニーマン・ピック病、レット症候群、脳血管障害、抗精神薬投与に伴う遅発性ジストニア。発作性ジストニアをきたす疾患。
 
<DYT10 ジストニア、反復発作性運動誘発性ジスキネジア 1(Episodic kinesigenic dyskinesia type1:EKD1)>
1.病因遺伝子と概要
急激な随意運動に伴って発作性のジストニアを生じ、転倒する。10~30 秒で5分を越えない発作を1日に数十回~数日に1回繰り返す。予期しない随意運動で誘発されやすく、時に驚愕も誘因になる。日本では運動静止・脱力発作で転倒しないことも多い。
(1)遺伝様式:常染色体顕性遺伝(優性遺伝)(遺伝子座 16p11、病因遺伝子 PRRT2、遺伝子産物 PRRT2:proline-rich transmembrane protein 2、MIM #128200)
(2)発症年齢:小児期~青年期
(3)頻度:1/15 万人。発作性ジストニアの中で最も頻度が高い。
2.臨床症状
発作性運動誘発性コレオアテトーシス(Paroxysmal kinesigenic choreoathetosis:PKC)は繰り返し起こる短時間の不随意運動である。類似病態がいくつかの名称で呼ばれる。反復発作性運動誘発性ジスキネジア(Episodic kinesigenic dyskinesia:EKD)、良性家族性乳児痙攣(benign familial infantile convulsion:BFIC)、乳児痙攣・発作性コレオアテトーシス(infantile convulsion and paroxysmal choreoathetosis:ICCA)で、EKD1、BFIC2、ICCA は対立遺伝子障害である。これらの疾患と DYT10 と症状との重複が見られることもある。
急激な随意運動の開始の際のみに生じる不随意運動で発作は 10 秒程度と短いが、転倒する。準備運動によって頓挫が可能で、意識障害はない。下肢に始まり上行し体幹、上肢に及ぶ。発作は一側の上下肢に生じることが多いが、両側のことも体幹や顔面を含むこともある。発作時に痙攣や意識障害を伴わないが、感覚性の前兆がある。発作間歇期には原則として神経学的異常を認めない。発作はほぼ毎日おこり数回で、知能は正常、発作間歇期には運動感覚神経共に正常である。わが国では不完全脱力発作が多い。
3.特記すべき検査所見
特になし。脳画像(CT、MRI)や脳波を含めて異常がないが、まれに小脳の軽度の萎縮が報告されている。
4.遺伝子診断
PRRT2 遺伝子に病的変異を認める。
5.鑑別診断
ウィルソン病、脊髄小脳変性症、パーキンソン病、パーキンソン症候群、家族性痙性対麻痺、ハンチントン病、神経有棘赤血球症、GM2 ガングリオシドーシス、GM1 ガングリオシドーシス、ニーマン・ピック病、レット症候群、脳血管障害、抗精神薬投与に伴う遅発性ジストニア。発作性ジストニアをきたす疾患。
 
<DYT11 ジストニア、ミオクローヌス・ジストニア症候群(Myoclonus dystonia syndrome:MDS)>
1.病因遺伝子と概要
ミオクローヌスとジストニアを主体とする。軽症では本態性ミオクローヌスとなる。ミオクローヌスは頸部、上肢に多い。ジストニアは、捻転ジストニア、頸部ジストニア、書痙などである。アルコールで改善する。精神症状を伴うことが多い。アルコール反応性ミオクローヌスは本症を示唆する。イプシロン・サルコグリカンの変異部位、変異形式は多様で、検出はやや困難である。
(1)遺伝様式:常染色体顕性遺伝(優性遺伝)(遺伝子座 7q21、遺伝子 SGCE、遺伝子産物 SGCE、MIM #159900)不完全浸透、父-息子での遺伝子の伝達で発症頻度が高い。maternal imprinting とされる。父親由来の SGCE のみが発現する
(2)発症年齢:小児期~青年期 (典型的には20歳までに発症する。)
(3)頻度:不明
2.臨床症状
臨床症状はミオクローヌスとジストニアが主要症状である。軽症では本態性ミオクローヌスとなる。ミオクローヌスが主症状で動作を阻害する。上肢と体幹筋に多く、大半はアルコールで改善する。静止時に生じ動作で増強する。ジストニアは通常、軽度にとどまり頸部ジストニア(痙性斜頸)、上肢ジストニア(書痙)となる。ときにジストニア単独、一過性ジストニアとなることもある。精神障害多発(強迫性障害(OCD)、パニック発作など)、アルコール依存となる家系もある。てんかんと脳波異常(発作性、非発作性)の報告もあり、てんかんはDYT11 を否定する根拠にはならないとされた。
3.特記すべき検査所見
特になし。
4.遺伝子診断
SGCE 遺伝子の病的変異を認める。
5.鑑別診断
ウィルソン病、脊髄小脳変性症、パーキンソン病、パーキンソン症候群、家族性痙性対麻痺、ハンチントン病、神経有棘赤血球症、GM2 ガングリオシドーシス、GM1 ガングリオシドーシス、ニーマン・ピック病、レット症候群、脳血管障害、抗精神薬投与に伴う遅発性ジストニア。他の遺伝性ジストニア。
 
<DYT12 ジストニア、急性発症ジストニア・パーキンソニズム(rapid onset dystonia-parkinsonism:RDP)/小児交互性片麻痺(alternating hemiplegia of childhood:AHC)/小脳失調症深部腱反射消失凹足視神経萎縮感覚神経障害性聴覚障害(cerebellar ataxia、areflexia、pes cavus、optic、atrophy、and sensorineural hearing loss:CAPOS)>
1.病因遺伝子と概要
当初、RDP のみが知られていたが、下記の3病型があることが確認された。3病型は臨床症状がオーバーラップしていることもある。
【RDP】急性に発症するジストニアとパーキンソニズムを示す。2~3分から1か月で症状は完成し以後ほとんど進行しない。ジストニアは顔面口部に強い。パーキンソニズムは無動、姿勢保持障害を示す。精神症状を伴うことが多い。
【AHC】発作性反復性片麻痺または四肢麻痺の乳児期発症を特徴とする。ほとんどの場合、ジストニアの姿勢、舞踏アテトーシス、異常眼球運動、発達遅滞、進行性の認知障害を伴う。家系内に軽症の AHC を認める事もある。小児慢性特定疾患の一つである。
【CAPOS】発作性反復性に CAPOS が発熱とともに見られる。
(1)遺伝様式:常染色体顕性遺伝(優性遺伝)(遺伝子座 19q13、遺伝子 ATP1A3、遺伝子産物 ATP1A3:Na+/K+ transporting ATPase alpha-3chain、遺伝子座:19q13、MIM #128235)不完全浸透である
(2)発症年齢:【RDP】思春期~成人期(平均 22歳)、【AHC】乳児期~幼児期(18 か月以前)【CAPOS】乳児期~小児期
(3)頻度:不明
2.臨床症状
【RDP】急激な発症前には手と腕の軽いジストニアを見ることもある。発症は常に急激で、2~3分から 30 日で完成し、肉体的なあるいは心理的なストレスの後に起こることが多い。多くは進行も回復もしないが、2回目の増悪を経験することもある。球症状は特徴的で構語障害と小声になり、嚥下障害を伴う。ジストニアは全身性や分節性にみられ、分節性の場合は顔面に多く、次いで上肢、下肢の順となる。パーキンソニズムは無動と姿勢保持障害で、振戦は報告されていない。抗パーキンソン病薬には反応しない。精神症状としてはうつ状態、統合失調症的性格、軽度の精神発達遅滞、社会恐怖症、てんかん発作がある。
【AHC】発作性反復性の片麻痺発作で(弛緩性、痙性、ジストニア姿勢を含む。)発症する。四肢麻痺発作の場合もある。麻痺側は一定せず交互性(日によって発作の出現する側が異なる)である。麻痺の程度は様々で発作は通常数分又は数時間であるが、数日持続する症例も見られる。ジストニア姿位やコレオアテトーシス、眼球運動異常(眼振、非対称性眼転位、斜視など)、自律神経症状(発汗、皮膚紅潮又は蒼白、呼吸不全など)を認める。発達障害、進行性の認知症状を随伴することが多い。睡眠で症状は消失する。てんかん発作を伴う症例も報告されている。家系内に軽症の AHC を認める事もある。
【CAPOS】発熱と共に小脳性運動失調、反射低下、凹足、視神経萎縮、および感音難聴(CAPOS)が再発性に生じる。発作は数日持続し、経過とともに症状は軽快・消失する。発作回数は時間とともに減少する傾向があるが、神経学的後遺症は永続的で進行性で、歩行障害、運動失調および視力障害、難聴、深部腱反射低下を来す。嚥下困難も認められる。認知機能は保たれる。
3.特記すべき検査所見
特になし。
4.遺伝子診断
ATP1A3 遺伝子の病的変異を認める。
5.鑑別診断
ウィルソン病、脊髄小脳変性症、パーキンソン病、パーキンソン症候群、家族性痙性対麻痺、ハンチントン病、神経有棘赤血球症、GM2 ガングリオシドーシス、GM1 ガングリオシドーシス、ニーマン・ピック病、レット症候群、脳血管障害、抗精神薬投与に伴う遅発性ジストニア。
【RDP】 他の孤立性ジストニア。急性発症ジストニア・パーキンソニズム。
【AHC】【CAPOS】もやもや病、ミトコンドリア病(MELAS、PDHC 異常症など)、てんかん(トッド(Todd)麻痺)、片麻痺性片頭痛、グルコース・トランスポーター1異常症、芳香族 L-アミノ酸脱炭酸酵素欠損症、その他の先天性代謝異常症(ホモシスチン尿症、ハルトナップ病など)。
 
<DYT13 ジストニア>
1.病因遺伝子と概要
(1)遺伝様式:常染色体顕性遺伝(優性遺伝)(遺伝子座 1p36.13-36.32、遺伝子 DYT13
(2)発症年齢:成人期(平均16歳)
2.臨床症状
頭部、頸部、上肢の分節性ジストニアを認める。
3.遺伝子診断
DYT13 の病的変異を認める。
 
<DYT15 ジストニア>
1.病因遺伝子と概要
(1)遺伝様式:常染色体顕性遺伝(優性遺伝)(遺伝子座 18p11、遺伝子 DYT15
(2)発症年齢:小児期~青年期
2.臨床症状
ジストニアとミオクローヌスを認める。
3.遺伝子診断
DYT15 の病的変異を認める。
 
<DYT16 ジストニア>
1.病因遺伝子と概要
下肢ジストニアと下肢痛で発症し、ジストニアが全身に拡大する。軽度のパーキンソニズムを伴う。
(1)遺伝様式:常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)(遺伝子座 2p31.2、病因遺伝子 PRKRA、遺伝子産物 PRKRA、MIM #612067)
(2)発症年齢:小児期~思春期(12歳頃が最多)
(3)頻度:不明
2.臨床症状
若年発症のジストニア・パーキンソニズムで、下肢ジストニアによる歩行障害と下肢痛で発症し、嚥下困難、攣縮性発声障害、頸部捻転、上肢ジストニア、全身ジストニアへと拡大する。後弓反張を示すこともある。精神発達遅滞を合併することがある。
3.特記すべき検査所見
特になし。
4.遺伝子診断
PRKRA の病的変異を認める。
5.鑑別診断
ウィルソン病、脊髄小脳変性症、パーキンソン病、パーキンソン症候群、家族性痙性対麻痺、ハンチントン病、神経有棘赤血球症、GM2 ガングリオシドーシス、GM1 ガングリオシドーシス、ニーマン・ピック病、レット症候群、脳血管障害、抗精神薬投与に伴う遅発性ジストニア。他の孤立性ジストニア。
 
<DYT17 ジストニア>
1.病因遺伝子と概要
(1)遺伝様式:常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)(遺伝子座 20p11.22-q13.12、遺伝子 DYT17
(2)発症年齢:思春期
2.臨床症状
頭部捻転から分節性、全身性に進展する。
3.遺伝子診断
DYT17 の病的変異を認める。
 
<DYT18 ジストニア、発作性労作誘発性ジスキネジア(paroxysmal exertion (exercise) induced dyskinesia:PED)>
1.病因遺伝子と概要
運動練習、持続的な運動(歩行など)の後で不随意運動が生じる。ジストニア、コレオアテトーシス、バリズムなどがある。5分から 30 分の発作を1日に1回~1月に1回繰り返す。
(1)遺伝様式:遺伝様式:常染色体顕性遺伝(優性遺伝)(遺伝子座 1p35-p31.3、遺伝子 SLC2A1、遺伝子産物 GLUT1: glucose transporter-1、MIM#612126)
(2)発症年齢:小児期
(3)頻度:不明
2.臨床症状
誘発要因としては運動練習のほか、長い書字、空腹、ストレスなどがある。GLUT1 欠乏症候群は対立遺伝子疾患で PED と同じく SLC2A1 のヘテロ変異があり、乳児発症の痙攣発作と精神運動発達遅滞を来す重症型である。運動で誘発されるジスキネジアで、ジスキネジア発作の長さなどが PKD と PNKD の中間であることが特徴とされた。 しばしばてんかんを合併する。
3.特記すべき検査所見
溶血性貧血を伴うことがある。
4.遺伝子診断
SLC2A1/GLUT1 の病的変異を認める。
5.鑑別診断
ウィルソン病、脊髄小脳変性症、パーキンソン病、パーキンソン症候群、家族性痙性対麻痺、ハンチントン病、神経有棘赤血球症、GM2 ガングリオシドーシス、GM1 ガングリオシドーシス、ニーマン・ピック病、レット症候群、脳血管障害、抗精神薬投与に伴う遅発性ジストニア。他の孤立性ジストニア。
 
<DYT19 ジストニア>
1.病因遺伝子と概要
(1)遺伝様式:常染色体顕性遺伝(優性遺伝)(遺伝子座 16p13-q22.1、遺伝子 EKD2
(2)発症年齢:小児期
2.臨床症状
運動誘発性発作性でジストニアか舞踏運動を認める。
3.遺伝子診断
EKD2 の病的変異を認める。
 
<DYT20 ジストニア>
1.病因遺伝子と概要
(1)遺伝様式:常染色体顕性遺伝(優性遺伝)(遺伝子座 16p13-q22.1、遺伝子 PNKD2
(2)発症年齢:小児期~青年期
2.臨床症状
非運動誘発性発作性ジストニアを手足に認める。
3.遺伝子診断
PNKD2 の病的変異を認める。
 
<DYT24 ジストニア>
1.病因遺伝子と概要
局所性ジストニアで頸部、喉頭、上肢にジストニアが見られる。頭頸部ジストニアが多い。
(1)遺伝様式:常染色体顕性遺伝(優性遺伝)(遺伝子座。11p14、病因遺伝子 ANO3、遺伝子産物 ANO3、MIM 。#615034)
(2)発症年齢:成人期
(3)頻度:稀
2.臨床症状
頭頸部ジストニアで、成人期に発症する。眼瞼けいれん、声の震え、筆記時の振戦、頭部、上腕にも振戦が見られることがある。上腕にはジストニア姿位が見られる。
3.特記すべき検査所見
特になし。
4.遺伝子診断
ANO3 遺伝子の病的変異を認める。
5.鑑別診断
ウィルソン病、脊髄小脳変性症、パーキンソン病、パーキンソン症候群、家族性痙性対麻痺、ハンチントン病、神経有棘赤血球症、GM2 ガングリオシドーシス、GM1 ガングリオシドーシス、ニーマン・ピック病、レット症候群、脳血管障害、抗精神薬投与に伴う遅発性ジストニア。他の孤立性ジストニア。
 
<DYT25 ジストニア>
1.病因遺伝子と概要
成人発症で頭頸部発症のジストニアで、喉頭ジストニアを認める。1/3 の症例で全身化する。
(1)遺伝様式:常染色体顕性遺伝(優性遺伝)(遺伝子座 18p11、病因遺伝子 GNAL、遺伝子産物 GNAL、MIM #615073)
(2)発症年齢:小児期~成人
(3)頻度:不明
2.臨床症状
限局性の頸部ジストニアであるが、時に書痙を認める。ジストニアは他の部位に拡大し、喉頭ジストニア、構語障害が見られる。約 3 分の 1 が全身化する。
3.特記すべき検査所見
特になし。
4.遺伝子診断
GNAL 遺伝子の病的変異を認める。
5.鑑別診断
ウィルソン病、脊髄小脳変性症、パーキンソン病、パーキンソン症候群、家族性痙性対麻痺、ハンチントン病、神経有棘赤血球症、GM2 ガングリオシドーシス、GM1 ガングリオシドーシス、ニーマン・ピック病、レット症候群、脳血管障害、抗精神薬投与に伴う遅発性ジストニア。他の孤立性ジストニア。
 
<DYT26 ジストニア>
1.病因遺伝子と概要
上肢にミオクローヌス・ジストニアを生じる。
(1)遺伝様式:常染色体顕性遺伝(優性遺伝)(遺伝子座 22q12、病因遺伝子 KCTD17、遺伝子産物 KCTD17、MIM #616398)
(2)発症年齢:小児期
(3)頻度:稀
2.臨床症状
上肢にミオクローヌス・ジストニアを生じる。症状は頭頸部領域、時に体幹、下肢に拡大する。攣縮性発声障害、顔面ミオクローヌス、眼瞼けいれん、斜頸の頻度が高く、体幹と下肢に拡大することもある。精神症状として不安、社会恐怖症、うつ病などがある。アルコールによる症状の改善はない。
3.特記すべき検査所見
特になし。
4.遺伝子診断
KCTD17 遺伝子の病的変異を認める。
5.鑑別診断
ウィルソン病、脊髄小脳変性症、パーキンソン病、パーキンソン症候群、家族性痙性対麻痺、ハンチントン病、神経有棘赤血球症、GM2 ガングリオシドーシス、GM1 ガングリオシドーシス、ニーマン・ピック病、レット症候群、脳血管障害、抗精神薬投与に伴う遅発性ジストニア。他の孤立性ジストニア。
 
<DYT27 ジストニア>
1.病因遺伝子と概要
20歳代までに顔、球症状、頸部、手の局所性~分節性ジストニアで発症する。
(1)遺伝様式:常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)(遺伝子座 2q37、病因遺伝子 COL6A3、遺伝子産物、MIM #616411)
(2)発症年齢:小児~成人期
(3)頻度:不明
2.臨床症状
頭頸部の局所性~分節性ジストニア。Bethlem 筋症タイプ 1、Urllrich 先天性筋ジストロフィー症と同一遺伝子異常で発症するが、筋症状はない。姿勢時振戦を認めることもある。
3.特記すべき検査所見
特になし。
4.遺伝子診断
COL6A3 遺伝子の病的変異を認める。
5.鑑別診断
ウィルソン病、脊髄小脳変性症、パーキンソン病、パーキンソン症候群、家族性痙性対麻痺、ハンチントン病、神経有棘赤血球症、GM2 ガングリオシドーシス、GM1 ガングリオシドーシス、ニーマン・ピック病、レット症候群、脳血管障害、抗精神薬投与に伴う遅発性ジストニア。他の孤立性ジストニア。
 
<DYT28 ジストニア>
1.病因遺伝子と概要
下肢ジストニアで発症し、上肢、頸部、口、顔面に拡大する。面長で、小頭症、団子鼻と特徴的な顔貌と低身長を示す。半数で精神運動発達遅滞を認める。
(1)遺伝様式:常染色体顕性遺伝(優性遺伝)(遺伝子座 19q13、病因遺伝子 KMT2B、遺伝子産物 KMT2B、MIM 1#617284)
(2)発症年齢:幼児期
(3)頻度:不明。我が国で比較的頻度が高い
2.臨床症状
ジストニア下肢に始まり、歩行困難を来す。その後、上肢、首、口腔顔面領域に拡大する。重症度は様々で車椅子生活となることもある。多くの患者は球根状の鼻(団子鼻)を伴う細長い顔貌を示す。上肢ではジストニア姿勢とジストニア性振戦が起こり、書字困難となる。斜頸および頸部後屈、顔面ジストニア、構音障害、咀嚼・嚥下の困難を認める。一部の患者で乱視、異常眼球運動を示す。約半数で軽度の精神運動発達遅滞を認める。軽度の小頭症、低身長を伴うこともある。
3.特記すべき検査所見
特になし。脳画像で淡蒼球に病変を認めることがある。
4.遺伝子診断
KMT2B 遺伝子の病的変異を認める。
5.鑑別診断
ウィルソン病、脊髄小脳変性症、パーキンソン病、パーキンソン症候群、家族性痙性対麻痺、ハンチントン病、神経有棘赤血球症、GM2 ガングリオシドーシス、GM1 ガングリオシドーシス、ニーマン・ピック病、レット症候群、脳血管障害、抗精神薬投与に伴う遅発性ジストニア。他の孤立性ジストニア。
 
<DYT29 ジストニア、mitochondriial enoyl CoA reductase protein-associated neurodegeneration: MEPAN 症候群>
1.病因遺伝子と概要
小児期発症のジストニアで視神経萎縮とジストニア発現を中心とした大脳基底核の異常を伴う。
(1)遺伝様式:常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)(遺伝子座 1p35.3、病因遺伝子 MECR、遺伝子産物 MECR、MIM #617282)
(2)発症年齢:幼・小児期(~10歳)。
(3)頻度:不明
2.臨床症状
6歳ぐらいまでに顔面ジストニア、深部腱反射亢進を伴う下肢痙縮、ミオクローヌス、舞踏運動、ジスキネジア、構音障害、嚥下障害を発症する。多くは歩行困難で、解除が必要となる。視神経萎縮は、ジストニアの出現直後、もしくは数年以内に発症する。一部で眼振を含む異常な眼球運動を示す。知能は保たれる。
3.特記すべき検査所見
脳 MRI、T2 強調画像で大脳基底核(淡蒼球と大脳脚)に高信号を認める。
MR スペクトロスコピーで乳酸ピークが見られたとの報告もある。
針筋電図所見では複合筋活動電位の低下の報告もある。
4.遺伝子診断
MECR 遺伝子の病的変異を認める。
5.鑑別診断
ウィルソン病、脊髄小脳変性症、パーキンソン病、パーキンソン症候群、家族性痙性対麻痺、ハンチントン病、神経有棘赤血球症、GM2 ガングリオシドーシス、GM1 ガングリオシドーシス、ニーマン・ピック病、レット症候群、脳血管障害、抗精神薬投与に伴う遅発性ジストニア。他の孤立性ジストニア。
 
<DYT30 ジストニア>
1.病因遺伝子と概要
口腔顎、頸部、球麻痺、または上肢のジストニアで発症し、緩徐に全身性ジストニアに進行する。一部の症例では、軽度の知的障害や精神症状などの神経認知障害も報告されている。
(1)遺伝様式:常染色体顕性遺伝(優性遺伝)(遺伝子座 20p13、病因遺伝子 VPS16、遺伝子産物 VPS16、MIM #619291)
(2)発症年齢:思春期に多い。平均12歳。
(3)頻度:不明
2.臨床症状
口、顎、球部、頸部、上肢のジストニアで発症し、緩徐に全身化する。歩行能力は一部では障害される。軽度~中等度の認知機能障害や精神症状を認める。最終的に保たれていることが多い。多くは家系内発症者があるが、家系内、家族内での症状のバリエーションがある。
3.特記すべき検査所見
頭部 MRI、T2 画像で対称性な淡蒼球の淡明化、時に中脳、小脳歯状核にも同様の所見を認め、鉄の沈着が示唆される。軽度の大脳萎縮が見られることもある。
4.遺伝子診断
VPS16 遺伝子の病的変異を認める。
5.鑑別診断
ウィルソン病、脊髄小脳変性症、パーキンソン病、パーキンソン症候群、家族性痙性対麻痺、ハンチントン病、神経有棘赤血球症、GM2 ガングリオシドーシス、GM1 ガングリオシドーシス、ニーマン・ピック病、レット症候群、脳血管障害、抗精神薬投与に伴う遅発性ジストニア。他の孤立性ジストニア。
 
 
<重症度分類>
Barthel Index 85点以下を対象とする。
 

 

質問内容

点数

食事

自立、自助具などの装着可、標準的時間内に食べ終える

10

部分介助(例えば、おかずを切って細かくしてもらう)

全介助

車椅子からベッドへの移動

自立、ブレーキ、フットレストの操作も含む(歩行自立も含む)

15

軽度の部分介助又は監視を要する

10

座ることは可能であるがほぼ全介助

全介助又は不可能

整容

自立(洗面、整髪、歯磨き、ひげ剃り)

部分介助又は不可能

トイレ動作

自立(衣服の操作、後始末を含む、ポータブル便器などを使用している場合はその洗浄も含む)

10

部分介助、体を支える、衣服、後始末に介助を要する

全介助又は不可能

入浴

自立

部分介助又は不可能

歩行

45m以上の歩行、補装具(車椅子、歩行器は除く)の使用の有無は問わず

15

45m以上の介助歩行、歩行器の使用を含む

10

歩行不能の場合、車椅子にて45m以上の操作可能

上記以外

階段昇降

自立、手すりなどの使用の有無は問わない

10

介助又は監視を要する

不能

着替え

自立、靴、ファスナー、装具の着脱を含む

10

部分介助、標準的な時間内、半分以上は自分で行える

上記以外

排便コントロール

失禁なし、浣腸、坐薬の取扱いも可能

10

ときに失禁あり、浣腸、坐薬の取扱いに介助を要する者も含む

上記以外

10

排尿コントロール

失禁なし、収尿器の取扱いも可能

10

ときに失禁あり、収尿器の取扱いに介助を要する者も含む

上記以外

 
 
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続す
ることが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

令和6年4月1日

情報提供者
研究班名 神経変性疾患領域における難病の医療水準の向上や患者のQOL向上に資する研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和6年4月(名簿更新:令和5年6月)