巨大リンパ管奇形(頚部顔面病変)(指定難病278)

きょだいりんぱかんきけい(けいぶがんめんびょうへん)
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
巨大リンパ管奇形(頚部顔面病変)は顔面・口腔・咽喉頭・頚部に先天性に発症する巨大腫瘤性のリンパ管形成異常であり、ゴーハム病(リンパ管腫症)とは異なる。リンパ管奇形(リンパ管腫)は大小のリンパ嚢胞を中心に構成される腫瘤性病変で、多くの場合病変の範囲拡大や離れた部位の新たな出現はない。血管病変を同時に有することもあり、診断・治療に注意を要する。生物学的には良性であるが、特に病変が大きく広範囲に広がるものは難治性で、機能面のみならず整容面からも患者のQOLは著しく制限される。全身どこにでも発生しうるが、特に頭頚部や縦隔、腋窩、腹腔・後腹膜内、四肢に好発する。
なかでも頚部顔面巨大病変は、気道圧迫、摂食・嚥下困難など生命に影響を及ぼし、さらに神経や他の主要な脈管と絡み合って治療が困難となることから、他部位の病変とは別の疾患概念を有する。病変内のリンパ嚢胞の大きさや発生部位により主に外科的切除と硬化療法が選択されるが、完治はほぼ不可能で、出生直後から生涯にわたる長期療養を必要とする。
 
2.原因
胎生期のリンパ管形成異常により生じた病変と考えられている。発生原因は明らかでない。
 
3.症状
ほとんどの場合症状は出生時から出現する。頚部・舌・口腔病変で中下咽頭部での上気道狭窄、縦隔病変で気管の狭窄による呼吸困難の症状を呈し、多くにおいて気管切開を要する。舌・口腔・鼻腔・顔面病変では摂食・嚥下困難、上下顎骨肥大、骨格性閉口不全、閉塞性睡眠時無呼吸、構音機能障害を来す。眼窩・眼瞼病変では開瞼・閉瞼不全、眼球突出・眼位異常、視力低下を呈し、眼窩内出血・感染などにより失明に至ることもある。耳部病変では外耳道閉塞、中耳炎、内耳形成不全などにより聴力障害・平衡感覚障害などを来す。皮膚や粘膜にリンパ管病変が及ぶ場合は集簇性丘疹がカエルの卵状を呈し(いわゆる限局性リンパ管腫)、リンパ瘻・出血・感染を繰り返す。顔面巨大病変では腫瘤形成・変色・変形により高度の醜状を呈し、社会生活への適応を生涯にわたり制限される。どの部位の病変においても、経過中に内部に感染や出血を起こし、急性の腫脹・炎症を繰り返す。
 
4.治療法
呼吸困難、摂食障害、感染などの各症状に対しては状態に応じて対症的に治療する。リンパ管奇形(リンパ管腫)自体の治療の柱は外科的切除と硬化療法であり、多くの場合この組み合わせで行われる。硬化療法にはOK-432、ブレオマイシン、アルコール、高濃度糖水、フィブリン糊等が用いられる。一般的にリンパ嚢胞の小さいものは硬化療法が効きにくい。抗癌剤、インターフェロン療法、ステロイド療法などの報告があり、プロプラノロール、mTOR阻害剤、サリドマイド等が国外を中心として治療薬として検討されているが効果は証明されていない。巨大リンパ管奇形(頚部顔面病変)は、現時点でいずれの治療法を用いても完治は困難である。
 
5.予後
頚部顔面の巨大病変で広範囲かつ浸潤性の分布を示す場合、原疾患のみで死に至ることは稀であるが、治療に抵抗性で持続的機能的障害(呼吸障害、摂食・嚥下障害、視力障害、聴覚障害、など)のみならず整容面(高度醜状)からも大きな障害を生じ、出生直後から生涯にわたり療養を要する。
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.  患者数
約600人
2.  発病の機構
不明 (遺伝性はなく、リンパ管の発生異常と考えられている。)
3.  効果的な治療方法
未確立
4.  長期の療養
必要 (療養は多くの場合出生直後から長期に渡る。)
5.  診断基準
あり (研究班作成、学会承認の診断基準あり)
6.  重症度分類
①~④のいずれかを満たすものを対象とする。
①    modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸の評価スケールを用いて、いずれかが3以上。
②    聴覚障害:高度難聴以上。
③    視覚障害:良好な方の眼の矯正視力が0.3未満。
④以下の出血、感染に関するそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上。
 
 
○ 情報提供元
平成26年度「難治性血管腫・血管奇形・リンパ管腫・リンパ管腫症および関連疾患についての調査研究」 
研究代表者 聖マリアンナ医科大学放射線医学講座 病院教授 三村秀文
平成21-23年度「日本におけるリンパ管腫患者(特に重症患者の長期経過)の実態調査及び治療指針の作成に関する研究」研究代表者、平成24-25年度「小児期からの消化器系希少難治性疾患群の包括的調査研究とシームレスなガイドライン作成」、平成26年度「小児期からの希少難治性消化管疾患の移行期を包含するガイドラインの確立に関する研究班」、平成26年度「小児呼吸器形成異常・低形成疾患に関する実態調査および診療ガイドライン作成に関する研究班」研究分担者 
慶應義塾大学 小児外科 講師 藤野明浩
 
<診断基準>
巨大リンパ管奇形(頚部顔面病変)の診断は、(I)脈管奇形診断基準に加えて、後述する(II)細分類診断基準にて巨大リンパ管奇形(頚部顔面病変)と診断されたものを対象とする。鑑別疾患は除外する。
 
(I)脈管奇形(血管奇形及びリンパ管奇形)診断基準
軟部・体表などの血管あるいはリンパ管の異常な拡張・吻合・集簇など、構造の異常から成る病変で、理学的所見、画像診断あるいは病理組織にてこれを認めるもの。
本疾患には静脈奇形(海綿状血管腫)、動静脈奇形、リンパ管奇形(リンパ管腫)、リンパ管腫症・ゴーハム病、毛細血管奇形(単純性血管腫・ポートワイン母斑)及び混合型脈管奇形(混合型血管奇形)が含まれる。
 
鑑別診断
1.血管あるいはリンパ管を構成する細胞等に腫瘍性の増殖がある疾患
例)乳児血管腫(イチゴ状血管腫)、血管肉腫など
2.明らかな後天性病変
例)一次性静脈瘤、二次性リンパ浮腫、外傷性・医原性動静脈瘻、動脈瘤など
 
(II)細分類
①巨大リンパ管奇形(頚部顔面病変) 診断基準
生下時から存在し、以下の1、2、3、4の全ての所見を認める。ただし、5の(a)又は(b)又は(c)の補助所見を認めることがある。巨大の定義は患者の手掌大以上の大きさとする。手掌大とは、患者本人の指先から手関節までの手掌の面積をさす。
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1.理学的所見
頚部顔面に圧迫により変形するが縮小しない腫瘤性病変を認める。
2.画像所見
超音波検査、CT、MRI等で、病変内に大小様々な1つ以上の嚢胞様成分が集簇性もしくは散在性に存在する腫瘤性病変として認められる。嚢胞内部の血流は認めず、頚部顔面の病変が患者の手掌大以上である。
3.嚢胞内容液所見
リンパ(液)として矛盾がない。
4.除外事項
奇形腫、静脈奇形(海綿状血管腫)、被角血管腫、他の水疱性・嚢胞性疾患(ガマ腫、正中頚嚢胞)等が否定されること。
単房性巨大嚢胞のみからなるものは対象から除外。
 
5,補助所見
(a)理学的所見
・深部にあり外観上明らかでないことがある。
・皮膚や粘膜では丘疹・結節となり、集簇しカエルの卵状を呈することがあり、ダーモスコピーにより嚢胞性病変を認める。
・経過中病変の膨らみや硬度は増減することがある。
・感染や内出血により急激な腫脹や疼痛を来すことがある。
・病変内に毛細血管や静脈の異常拡張を認めることがある。
(b)病理学的所見
肉眼的には、水様ないし乳汁様内容液を有し、多嚢胞状又は海綿状割面を呈する病変。組織学的には、リンパ管内皮によって裏打ちされた大小さまざまな嚢胞状もしくは不規則に拡張したリンパ管組織よりなる。腫瘍性の増殖を示す細胞を認めない。
(c)嚢胞内容液所見
嚢胞内に血液を混じることがある。
 
特記事項
上記のリンパ管病変が明らかに多発もしくは浸潤拡大傾向を示す場合には、リンパ管腫症・ゴーハム病と診断する。 
 
 
 
 
<重症度分類>
①~④のいずれかを満たすものを対象とする。
①modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上を対象とする。
 

 

日本版modified Rankin Scale (mRS) 判定基準書

modified Rankin Scale

参考にすべき点

まったく症候がない

自覚症状及び他覚徴候がともにない状態である

症候はあっても明らかな障害はない:
日常の勤めや活動は行える

自覚症状及び他覚徴候はあるが、発症以前から行っていた仕事や活動に制限はない状態である

軽度の障害:
発症以前の活動が全て行えるわけではないが、自分の身の回りのことは介助なしに行える

発症以前から行っていた仕事や活動に制限はあるが、日常生活は自立している状態である

中等度の障害:
何らかの介助を必要とするが、歩行は介助なしに行える

買い物や公共交通機関を利用した外出などには介助を必要とするが、通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要としない状態である

中等度から重度の障害:
歩行や身体的要求には介助が必要である

通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要とするが、持続的な介護は必要としない状態である

重度の障害:
寝たきり、失禁状態、常に介護と見守りを必要とする

常に誰かの介助を必要とする状態である

死亡

 
日本脳卒中学会版
 
 
食事・栄養 (N)
0.症候なし。
1.時にむせる、食事動作がぎこちないなどの症候があるが、社会生活・日常生活に支障ない。
2.食物形態の工夫や、食事時の道具の工夫を必要とする。
3.食事・栄養摂取に何らかの介助を要する。
4.補助的な非経口的栄養摂取(経管栄養、中心静脈栄養など)を必要とする。
5.全面的に非経口的栄養摂取に依存している。
呼吸 (R)
0.症候なし。
1.肺活量の低下などの所見はあるが、社会生活・日常生活に支障ない。
2.呼吸障害のために軽度の息切れなどの症状がある。
3.呼吸症状が睡眠の妨げになる、あるいは着替えなどの日常生活動作で息切れが生じる。
4.喀痰の吸引あるいは間欠的な換気補助装置使用が必要。
5.気管切開あるいは継続的な換気補助装置使用が必要。
 
②聴覚障害:以下の3高度難聴以上
0 25dBHL 未満(正常)
1 25dBHL以上40dBHL未満(軽度難聴)
2 40dBHL以上70dBHL未満(中等度難聴)
3 70dBHL以上90dBHL未満(高度難聴)
4 90dBHL以上(重度難聴)
※500、1000、2000Hzの平均値で、聞こえが良い耳(良聴耳)の値で判断。
 
③視覚障害:良好な方の眼の矯正視力が0.3未満。
 
④下の出血、感染に関するそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上を対象とする。
 
出血
1.   ときおり出血するが日常の務めや活動は行える。
2.   しばしば出血するが、自分の身の周りのことは医療的処置なしに行える。
3.   出血の治療ため一年間に数回程度の医療的処置を必要とし、日常生活に制限を生じるが、治療によって出血予防・止血が得られるもの。
4.   致死的な出血のリスクをもつもの、又は、慢性出血性貧血のため月一回程度の輸血を定期的に必要とするもの。
5.   致死的な出血のリスクが非常に高いもの。
感染
1.   ときおり感染を併発するが日常の務めや活動は行える。
2.   しばしば感染を併発するが、自分の身の周りのことは医療的処置なしに行える。
3.   感染・蜂窩織炎の治療ため一年間に数回程度の医療的処置を必要とし、日常生活に制限を生じるが、治療によって感染症状の進行を抑制できるもの。
4.   敗血症などの致死的な感染を合併するリスクをもつもの。
5.   敗血症などの致死的な感染を合併するリスクが非常に高いもの。
 
 
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

平成27年7月1日

情報提供者
研究班名 難治性血管腫・脈管奇形・血管奇形・リンパ管奇形(リンパ管腫)・リンパ管腫症および関連疾患についての調査研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和5年11月(名簿更新:令和5年6月)