黄斑ジストロフィー(指定難病301)

おうはんじすとろふぃー
 

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1. 「黄斑ジストロフィー」とはどのような病気ですか

眼球の奥には光を感知する薄い膜状の神経があり、 網膜 (もうまく)と呼ばれています。さらに網膜の中心には 黄斑 (おうはん)と呼ばれる場所があり、良好な視力を得るために特に重要な役割をしています(下図)。黄斑部は非常に精密で繊細な構造をしているために、多くの疾患が生じやすい部位でもあります。

(図) 眼球の水平断面図(左)と、正常者の眼底写真(右)。
黄斑ジストロフィーでは黄斑部が障害されて、その色調や構造に変化が生じる。


黄斑ジストロフィーとは、遺伝学的な原因によって網膜の黄斑部がゆっくりと障害され、両眼の視力低下や視野異常を生じる病気の総称です。障害される視細胞の種類、原因遺伝子の種類、病気の性質などによって、卵黄状黄斑ジストロフィー(ベスト病)、スタルガルト病、錐体-杆体ジストロフィー、X連鎖性若年網膜分離症、オカルト黄斑ジストロフィー(三宅病)、中心性輪紋状網脈絡膜萎縮など、いくつかの代表疾患に分類されています。しかし実際には、上記の分類に入らない黄斑ジストロフィー(分類不能の黄斑ジストロフィー)も多く見られます。このような分類不能の黄斑ジストロフィーでも、代表疾患と同様に厚生労働省の難病指定を受けることができます。ただし本疾患の難病指定は、良好な方の目の矯正視力(眼鏡等で矯正した最大の視力)が0.3未満に低下している場合に限られます。

1)卵黄状黄斑ジストロフィー(ベスト病)
常染色体優性(顕性)遺伝の黄斑ジストロフィーであり、BEST1遺伝子の異常を原因とします。
若年時に発症し、黄斑部にリポフスチンと呼ばれる有害な黄色物質が蓄積することで黄斑部の機能が低下します。本疾患の名前は、この黄色物質が「卵黄」の様に見えることに由来しています。ただし、若年時に視力が低下する頻度は低く、成人以降から中年期になってから視力低下を訴えたり、検診で眼底異常を指摘されたりして眼科を受診することが多いです。進行すると中心部の見え方がゆっくりと悪化していきますが、周辺部の見え方は最後まで良好のまま保たれます。
なお、成人期以降の眼底では本疾患に特徴的な卵黄様物質は消失しており、本疾患を一般の眼科で診断することは困難となります。このため加齢黄斑変性や、中心性漿液性脈絡網膜症など、他の疾患と誤って診断されることが多い疾患でもあります。
なお、本疾患は常染色体顕性(優性)遺伝のため、子供に遺伝する可能性があります。ただし、本疾患と同じくBEST1遺伝子の異常を原因とするものの、常染色体潜性(顕性)遺伝の形式をとる黄斑ジストロフィーもあり、このタイプは「常染色体潜性(劣性)ベストロフィン症」と呼ばれています。自覚症状や検査所見に大きな違いは見られませんが、眼底にみられる黄色物質の範囲がやや拡大しているのが特徴です。
現在のところ本疾患に有効な治療法はありませんが、症状が進行した患者さんには、まれに黄斑部に出血(黄斑新生血管)が生じることがあり、その際には対症療法としての治療が必要となります。

2)Stargardt病(スタルガルト病)
黄斑部における網膜萎縮(視細胞が消失すること)と、その周囲に見られる黄色斑を特徴とする黄斑ジストロフィーです。ABCA4遺伝子の異常を原因とする常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患で、発見者の名前から命名されています。
主に若年発症例と晩期発症例に分けられ、若年発症例では10歳前後で両眼の視力低下を自覚します。小児期の進行は比較的速く、数年のうちに黄斑部萎縮が進行し、視力が低下していくことが多いです。一方で、発症年齢が20歳以上の晩期発症例においては黄斑部のさらに中心部(中心窩)が長期的に温存されることが多く、比較的長期にわたって視力が維持される傾向があります。また、網膜の障害が黄斑部付近に留まるタイプから、周辺部に拡大して広範囲の視野異常を来すタイプまで、多彩な疾患経過を示すことが知られています。
本疾患に対しては、これまでに再生医療、薬物内服治療、遺伝子治療などの臨床治験が海外を中心に数多く行われておりますが、現在のところ実用化はされていません。今後の治療の実現が期待されています。
なお、本疾患は網膜におけるビタミンAの代謝異常が原因であり、有害な代謝産物が異常蓄積することで網膜が傷害されることが分かっています。このため、サプリメントを服用するさいには、ビタミンAが含まれていない製品を選ぶ必要があります。

3)オカルト黄斑ジストロフィー(三宅病)
眼底所見が正常であり、その他の画像検査(フルオレセイン蛍光眼底造影および眼底自発蛍光)においても明らかな異常が見つからない、常染色体顕性(優性)遺伝の黄斑ジストロフィーです。網膜の障害が見つけにくいことから、オカルト(occult = 目に見えない)黄斑ジストロフィーと命名されています。また発見者の名前から、三宅病とも呼ばれています。本疾患の原因がRP1L1遺伝子の異常であることは、2010年に日本の研究チームによって初めて明らかにされました。
眼底所見だけでなく、網膜の電気反応(全視野ERG)が正常であるであるため診断は難しく、弱視、緑内障、視神経疾患、心因性など、他の疾患として経過観察をされている患者さんが多い疾患です。ただし、網膜の断面を撮影するOCT(光干渉断層計)を用いると、本疾患に特徴的な黄斑部の異常を見つけることができます。
特徴的な症状は両目の視力低下と羞明(まぶしさ)です。自覚症状の出現時期は10才頃から60才以上までと非常に幅があり、両眼の視力が極めてゆっくりと低下するのが特徴です。視力低下の程度には大きな個人差がありますが、他の黄斑ジストロフィーに比べると視力低下の割には不自由を訴える程度は軽い傾向があります。日本人多数例における三宅病の長期経過を調査すると、発症から約15年間は徐々に視力が低下するものの、それ以降は視力がほとんど変化していないことが分かっています。また、ほとんどの患者さんでは進行期でも0.1以上の矯正視力が維持されること、また、中心部以外の周辺部視野は良好に保たれることが確認されており、他の黄斑ジストロフィーに比べて障害の程度が軽い疾患であることが分かっています。
現在のところ本疾患に有効な治療法はありません。

4)錐体ジストロフィー、および錐体-杆体ジストロフィー
網膜で最初に光を受け取る細胞を視細胞(しさいぼう)と言います。視細胞には、主に明るい場所で細かい物を見るのに役立つ錐体(すいたい)細胞と、主に暗い場所で周辺の物を見るのに役立つ杆体(かんたい)細胞の2種類があります。錐体ジストロフィーとは、前者の錐体細胞の機能が徐々に障害されることにより、視力低下、羞明(しゅうめい。まぶしく感じること)、色覚異常などが進行する疾患です。また、進行に伴い錐体機能に続いて杆体機能が障害されることも多く、そのような病態は錐体-杆体ジストロフィーと呼ばれています。
錐体ジストロフィーおよび錐体-杆体ジストロフィーは、黄斑ジストロフィーのなかで最も患者数の多い代表疾患です。本疾患の診断には、光に対する網膜の反応を測定する網膜電図(ERG)が必須です。ERGでは、錐体機能が杆体機能に比べて特に低下していることを確認します。
遺伝形式は常染色体顕性(優性)遺伝、常染色体潜性(劣性)遺伝、X連鎖性潜性(劣性)遺伝と様々で、原因となる遺伝子も30種類以上が報告されています。
一般的な症状としては、学童期から20歳頃までに視力低下、眩しさ、色覚異常、中心部の見えにくさなどを訴え、症状は徐々に進行して行きます。特に屋外で感じる眩しさは、本疾患に特徴的な症状です。ただし、原因となる遺伝子も多岐に渡るため、視力低下や視野異常の程度は患者さんによって大きな差があります。また、患者さんによっては中心窩(ちゅうしんか。黄斑部の中心)が長期的に保たれ、30代以降に初めて症状が出現して眼科を受診する方も珍しくありません。さらに、眼底所見が正常に近いタイプの錐体ジストロフィーも比較的多く、この場合には診断がやや難しくなります。
本疾患の原因となる一部の遺伝子については、遺伝子治療を始めとした治療研究が進んでおり、臨床治験も行われています。将来的には、一部の疾患に対する治療が実現される可能性があります。

5)X 連鎖性(X染色体)若年網膜分離症(先天網膜分離症)
ヒトの網膜は網膜神経線維層、神経節細胞層、視細胞層、網膜色素上皮層など多くの層から構成されています。X連鎖性若年網膜分離症とは、特に黄斑部において網膜の各層が分離してしまい、徐々に視力が低下する疾患です。また、一部の患者さんでは周辺部の網膜でも分離が生じることがあります。本疾患はX連鎖性潜性(劣性)遺伝の疾患であり、男性のみに発症します。原因遺伝子として、網膜の細胞接着に重要なRS1遺伝子が知られています。
一般的な症状は、主に学童期に自覚する視力低下および羞明です。初期には視力低下が軽度で成人後に初めて受診する方もいらっしゃいます。多くの患者さんでは、周辺部の視野は長期的に良好に保たれます。一方、約1/3程度の患者さんでは周辺部の網膜でも分離が生じます。周辺部の網膜分離は、ときに綱膜剥離、硝子体出血などを伴うことがあり、手術治療が必要な場合もあります。
若年期の黄斑部分離は、網膜の断面を撮影するOCT(光干渉断層計)によって明瞭に観察することができますが、中年期に近づくと特徴的な所見が消失するため、萎縮型加齢黄斑変性等、他の疾患と間違われることがあります。
本疾患に対しては海外において遺伝子治療の臨床治験が行われていますが、現在のところ治療は実用化されていません。

6)中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィー
黄斑部を含む円形の領域で網膜の萎縮が観察されるタイプの黄斑ジストロフィーです。黄斑部以外の網膜の色調は良好に見えますが、病変が黄斑部以外に広がっていることもあります。主に眼底所見を元にした分類であるため、前述の「錐体-杆体ジストロフィー」と重複して分類される患者さんも多いです。また、同様の眼底所見は萎縮型加齢黄斑変性の進行期でも見られることがあるため、診断のためには発症からの経過や家族歴を慎重に確認する必要があります。発症原因としては、GUCY2D遺伝子、PRPH2遺伝子を始めとして、主に錐体-杆体ジストロフィーに関連する様々な遺伝子が関与していると考えられています。

7)その他の黄斑ジストロフィー
上述の、1)から6)に分類されない黄斑ジストロフィーが対象となります。
具体的には、全視野網膜電図(ERG)において杆体反応、錐体反応がともに正常で、黄斑部の網膜機能のみが傷害されていること。そして、卵黄状黄斑ジストロフィー、スタルガルト病、錐体(錐体-杆体)ジストロフィー、X連鎖性若年網膜分離症、オカルト黄斑ジストロフィー、中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィーのいずれにも該当しないことが条件となります。実際の患者数としては、黄斑ジストロフィーのなかでは錐体-杆体ジストロフィーと並んで最も多く見られるタイプです。
発症に関与する原因遺伝子は多く知られており、遺伝形式も常染色体顕性(優性)遺伝、常染色体潜性(劣性)遺伝、X連鎖性潜性(劣性)遺伝と様々です。視野障害が中心部に限定されるという特徴がありますが、その他の自覚症状、自然経過、原因遺伝子、治療研究等については、錐体-杆体ジストロフィーの項で記載した内容とほぼ同じになります。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

厚生労働省の「網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する調査研究班」が全国の主要な医療機関に対して行った調査によると、2020年の時点では4423名の方が黄斑ジストロフィーの診断を受けていました。ただし、調査に含まれていない患者さんも多数いると考えられるため、実際の黄斑ジストロフィーの患者数はこれよりも多いことが予想されます。

3. この病気はどのような人に多いのですか

本疾患は全身的な病気とは無関係に生じることが多いため、一般的に発症しやすい体質等の傾向はありません。ただし家族や親戚に黄斑ジストロフィーの患者さんがいらっしゃる家系では、発症する確率が高くなることがあります。また、X連鎖性若年網膜分離症のように男性にしか発症しない疾患もあります。

4. この病気の原因はわかっているのですか

黄斑ジストロフィーは、網膜の構造や機能の維持に必要な遺伝子に変異があることで、黄斑部の機能や構造が障害されることによって発症します。多数の遺伝子が黄斑ジストロフィーの発症に関与していることが分かっていますが、特に、卵黄状黄斑ジストロフィー(ベスト病)、スタルガルト病、X連鎖性若年網膜分離症、オカルト黄斑ジストロフィー(三宅病)などでは、それぞれの疾患に関与する代表的な遺伝子が特定されています。

5. この病気は遺伝するのですか

黄斑ジストロフィーの遺伝形式には、 常染色体顕性遺伝(優性遺伝)常染色体潜性遺伝(劣性遺伝) 、X連鎖性潜性遺伝(劣性遺伝)があり、必ずしも子供に遺伝するとは限りません。また、非常に稀な疾患ですが、これらとは別にミトコンドリア遺伝子変異による黄斑ジストロフィーも存在します。
黄斑ジストロフィーのうち、卵黄状黄斑ジストロフィー(ベスト病)、オカルト黄斑ジストロフィーなどのように常染色体顕性遺伝(優性遺伝)の疾患では子供に遺伝する可能性があります。一方、スタルガルト病のように常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)の疾患では、通常は子供に遺伝することはありません。またX連鎖性若年網膜分離症の場合は患者の子供には発症しませんが、男性患者の子供が女性の場合は、その男児(孫)に発症する可能性があると言う、やや複雑なパターンが見られます。
なお、令和5年に一部の網膜疾患に対する遺伝子検査を保険診療で行えることが決まりましたが、現時点で黄斑ジストロフィーは対象疾患に含まれておりません。

6. この病気ではどのような症状がおきますか

黄斑ジストロフィーには性質の異なる幾つかの疾患が含まれるため、疾患のタイプによって、また個人によっても症状は異なります。
一般的には、視力を保つために重要な黄斑部が障害されるため、視力低下(眼鏡をかけても視力が出ない)、中心視野異常(視野の中心部がぼやける)等の症状が両眼にゆっくりと出現します。また、色覚異常や羞明(しゅうめい=まぶしく感じること)等の症状も多く見られます。さらに、錐体-杆体ジストロフィーやスタルガルト病のうち重症のタイプでは、視野障害(見えにくい場所)が視界の中心から周辺部まで広がることがあります。

7. この病気にはどのような治療法がありますか

黄斑ジストロフィーはもともと身体に備わった性質、すなわち遺伝子の変異による疾患であり、現在のところ根本的に治療する方法はなく、病院から処方される治療薬もありません。
一般的には、強い太陽光による障害を避けるために屋外ではサングラス(遮光眼鏡)を掛けることが推奨されています。また、治療効果は明らかではありませんが、黄斑部の保護を目的とするサプリメント(ルテイン、ゼアキサンチン等)の内服は世界的にも推奨されています。サプリメントを使用する場合は、事前に主治医と相談する必要があります。
なお、網膜の遺伝病のなかには、すでに遺伝子治療や薬物治療等の臨床治験が開始されている疾患もあります。今後の研究の進展により、この病気を根本的に治す治療法が実用化される可能性もあります。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか

前述の6.のように、黄斑ジストロフィーの経過は疾患のタイプによって、また個人によって大きく異なります。一般的には、視力低下、視野異常等の症状は発症後ゆっくりと進行していきますが、小児期に発症する症例では比較的進行が早く、成人後に発症する症例では進行が遅い傾向があります。また、一般的に発症時期が若年であるほど症状は重く、遅いほど最終的な障害は軽度であることが多いと考えられています。なかには、十分に読み書きができる程度の視力が中年以降まで保たれている患者さんもいらっしゃいます。

9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか

網膜はもともと光(とくに紫外線)に弱い組織ですので、長時間日差しの強いところに出る場合は、サングラス、つばの広い帽子などで目を守ることをお勧めします。
また、低下した視力を有効に活用するためには、眼鏡を正確に合わせるだけでなく、遮光眼鏡、ルーペ、タブレット型PC、 拡大読書器 などの補助具が必要になることもあります。眼科外来で自分の視力や視野を確認するとともに、学業や就労、職場での不自由さを軽減するために、大学病院などに併設されているロービジョン外来や、各都道府県の視覚障害者支援施設等でそれぞれの障害レベルに合った支援を受けるようにします。

10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

卵黄状黄斑ジストロフィー(ベスト病)
Stargard病(スタルガルト病)
オカルト黄斑ジストロフィー(三宅病)
錐体ジストロフィー、および錐体-杆体ジストロフィー
X連鎖性(X染色体)若年網膜分離症(先天網膜分離症)
中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィー
その他の黄斑ジストロフィー

11. この病気に関する資料・関連リンク

黄斑ジストロフィの診断ガイドライン
https://www.nichigan.or.jp/member/journal/guideline/detail.html?itemid=313&dispmid=909

 

情報提供者
研究班名 網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する調査研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和5年11月(名簿更新:令和5年6月)