タナトフォリック骨異形成症(指定難病275)

たなとふぉりっくこついけいせいしょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
タナトフォリック骨異形成症 (thanatophoric dysplasia)は1967年にMaroteauxらが独立した疾患として報告した。”thanatophoric”とはdeath bearing (致死性)を意味するギリシャ語である。主な特徴は長管骨(特に上腕骨と大腿骨)の著明な短縮である。線維芽細胞増殖因子受容体3遺伝子の点突然変異が原因で発症することが判明している。そのX線所見から大腿骨が彎曲(受話器用変形)し、頭蓋骨の変形のない1型と、大腿骨の彎曲は少なく、頭蓋骨がクローバー葉様に変形した2型に分類される。いずれにおいても肋骨の短縮による胸郭低形成で、ベル状胸郭となり、重度の呼吸障害を来す。また巨大頭蓋と前頭部突出を示し、顔面は比較的低形成である。
 
2.原因
疾患の原因は線維芽細胞増殖因子受容体3遺伝子の点突然変異による。1型では複数の遺伝子変異の集中部位が報告され、アミノ酸の置換(Arg248Cys、Ser249Cys、Gly370Cys、Ser371Cys、Tyr373Cys)や、終止コドンのアミノ酸への置換(stop807Gly、stop807Arg、stop807Cys)などを引き起こす。日本人ではArg248Cysが1型の約60~70%にみられ最も多く、次いでTry373Cysが20~30%に見られる。それ以外の変異や既知の変異が検出されないものが、~10%程度存在する。2型については全例でLys650Glu変異が検出されている。
 
3.症状
児は著明な四肢長管骨の短縮を認め、これは特に近位肢節に著しい。頭蓋骨は巨頭を示し、前頭部突出と鼻根部の陥凹が顕著である。胸郭は低形成でこれによる呼吸不全症状を示す。また腹部膨満と相対的な皮膚過剰による四肢皮膚の皺壁などが特徴である。
本疾患は妊娠期間中にその可能性を疑われることも多く、胎児の段階では妊娠16~18週といった妊娠中期から著明な四肢短縮を示す。妊娠20週の後半から はほとんど大腿骨の伸長はみられず、妊娠30週頃からは羊水過多を伴うことが多い。これらの所見があれば本疾患が疑われ、先端的な医療としては羊水細胞を用いたFGFR3遺伝子の変異を検出することで確定診断が可能である。ただし、遺伝子診断では本疾患であれば診断は確定するが、他の骨系統疾患の場合には 診断は不明のままである。そこで近年は胎児の3次元ヘリカルCTの実施により確定診断にかなり迫ることができるようになり、他の骨系統疾患も含めて診断に迫ることが可能であることから、実施される頻度が増えてきている。ただしレントゲン被曝の問題があることから適応には慎重である必要がある。胎児は児頭が大きいことから、分娩予定日前後になると児頭骨盤不適合から経腟分娩が困難になりやすい。
出生後は呼吸不全のため、呼吸管理を行わない限り、早期に死亡することが多い。呼吸管理を行った場合には、長期生存した例が報告されているが、こうした周産期の積極的な治療に関しては、生命倫理の点からは議論のあるところであるが、現実の対応としては個別の状況での判断が一般的ではないかと思われる。胸郭低形成に伴う重症の呼吸障害がみられ、死亡の原因となる。
出生後のレントゲン診断では顔面と頭蓋底の低形成、大きな頭蓋冠と側頭部の膨隆、前頭部突出が特徴である。肋骨の短縮により胸郭は著しく低形成で、ベル型となる。肋骨も含め長管骨は著しく弯曲しており、特に大腿骨は、正面像で電話の受話器様の変形を示す特徴的な所見である。また長管骨の骨幹端は拡大し、いわゆる杯状変形や棘状変形という所見をみる。脊椎は扁平化し、正面像では逆U字型やH字型を呈するが、椎間腔は保たれる。鎖骨は高位で、肩甲骨は低形成である。骨盤は腸骨翼の垂直方向の低形成により方形化を示し、臼蓋は水平化、坐骨切痕の短縮がみられる。
なお、2型では頭蓋の変形がより著明でいわゆるクローバー葉様頭蓋を示す。これは1型よりも側頭部がより顕著に膨隆していることによる所見である。また大腿骨の短縮の程度は1型よりは軽度で、弯曲は認めないか軽度である。ただし1型でもクローバー葉様変形を認めることもあり、明確に区別できないケースもある。
 
4.治療法
根治的な治療はなく、対症療法を行う。
 
5.予後
出生後すぐに死亡する(周産期死亡)ことが多いが、呼吸管理を行えば、長期生存した例も報告されている。
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.  患者数
100人未満
2.  発病の機構
不明(FGFR3遺伝子変異により発症することは判明している。)
3.  効果的な治療方法
未確立(人工呼吸)
4.  長期の療養
必要(寝たきりで会話等もまったくできない。)
5.  診断基準
あり
6.  重症度分類
診断基準自体を重症度分類等とし、診断基準を満たすものを全て対象とする。
 
○ 情報提供元
「致死性骨異形成症の診断と予後に関する研究班」 
研究代表者 兵庫医科大学 教授 澤井英明
「胎児・新生児骨系統疾患の診断と予後に関する研究班」 
研究代表者 兵庫医科大学 教授 澤井英明
<診断基準>
本診断基準によりタナトフォリック骨異形成症1型又は2型の診断を確定する(Definite)。それぞれの項目については下の解説を参照すること。
 
A.症状
1)著明な四肢の短縮
2)著明な胸郭低形成による呼吸障害
3)巨大頭蓋(又は相対的巨大頭蓋)
 
B.出生時の単純エックス線画像所見(正面・側面)
1)四肢(特に大腿骨と上腕骨)長管骨の著明な短縮と特有の骨幹端変形
2)肋骨の短縮による胸郭低形成
3)巨大頭蓋(又は相対的巨大頭蓋)と頭蓋底短縮
4)著明な椎体の扁平化
5)方形骨盤 (腸骨の低形成)
 
C.遺伝子検査
線維芽細胞増殖因子受容体3(fibroblast growth factor receptor 3:FGFR3)遺伝子のアミノ酸変異を生じる点突然変異
 
<診断のカテゴリー> 
次の1)と2)の両方を満たせば診断が確定する(Definite)。また1)は満たすが、2)は満たさない又は明確ではない場合は、1)と3)の両方を満たせば診断が確定する(Definite)。
1)A.症状の1)~3)の全てを満たすこと。
2)B.出生時の単純エックス線画像所見の1)~5)の全てを満たすこと。
3)C.遺伝子検査でいずれかの変異が同定されること。
 
 
<解説>
A.症状
1)著明な四肢の短縮は、特に近位肢節(大腿骨や上腕骨)にみられ、低身長となるが、体幹の短縮は軽度又はほぼ正常である。骨の短縮に対して、軟部組織は正常に発育するため、四肢で長軸と直角方向に皮膚の皺襞が生じる。
2)著明な胸郭低形成により呼吸障害や腹部膨隆を示す。胎児期には嚥下困難による羊水過多がほぼ必発で、しばしば胎児水腫を呈する。多くは出生直後から呼吸管理が必要で、呼吸管理を行わない場合は、呼吸不全により新生児死亡に至ることが多い。
3)巨大頭蓋は頭蓋冠の巨大化によるもので、顔面中央部は比較的低形成となり、前頭部突出や鼻根部陥凹(鞍鼻)と中央部の平坦な顔貌を示す。なお、相対的巨大頭蓋(relative macrocephaly)とは実際には頭蓋の大きさは標準値と変わらないか軽度の拡大であるが、胸郭低形成、四肢の長管骨の著明な短縮と椎体の扁平化により生じた低身長など、四肢体幹が小さくなるため、頭蓋が相対的に大きく見えることを意味する。
4)その他の症状としては筋緊張の低下、大泉門開大、眼球突出などがある。短管骨も短縮するので短指趾症となり、三尖手(trident hand)を示すこともある。また、加齢により皮膚の黒色表皮腫が出現することが多い。
 
B.出生時の単純エックス線画像所見(正面・側面)
エックス線画像では骨格異常の全体パターンの認識が重要であり、上記の個々の所見の同定にあたっては、診断経験の豊富な医師の読影意見や成書の図譜等を参照し、異常所見を診断することが必須である。なお、これらのエックス線画像所見の診断は出生時(出生後満28日未満の新生児期)に撮影された画像を対象とする。
 
1)四肢(特に大腿骨と上腕骨)長管骨は著明な短縮を示す。しかし四肢長管骨の短縮の程度を客観的に評価するための出生後の身体計測やエックス線的計測値は報告されていない。ひとつの指標としては出生前の超音波検査の胎児大腿骨長(femur length:FL)計測値で、少なくとも妊娠22週以降28週未満では4SD以上、妊娠28週以降は6SD以上の短縮がみられる。出生後の身体計測やエックス線的計測においてもこれらの値を指標としうる。
また、特有の骨幹端変形があり、長管骨の骨幹端は軽度不整と骨幹方向への杯状陥凹(cupping)、軽度拡大(flaring 又はsplaying)を示し、骨幹端縁は角状突起様(spur)となる。これらの所見により近位端骨幹端には骨透亮像を認める。1型では大腿骨の彎曲が著明で電話受話器様変形(French telephone receiver femur)を示す。2型では大腿骨は直状で短縮の程度は1型よりやや軽度のことが多く、彎曲は認めないかきわめて軽度である。
2)肋骨の短縮により胸郭は低形成となりベル状胸郭となる。
3)巨大頭蓋と頭蓋底短縮のために、前頭部が突出し、顔面中央部は比較的低形成である。2型では側頭部の膨隆により頭蓋骨のクローバー葉様変形(cloverleaf skull)を認めることが多いが、これは1型でも認めることがあり、また2型でも認めないことがあるので、1型と2型の確定には大腿骨の所見が優先される。また、大後頭孔の狭窄による脳幹圧迫症状を呈することが多い。
4)著明な椎体の扁平化により椎間腔は拡大し、椎体は正面像ではH字又はU字型を示し、側面像では前縁がやや丸みを帯びる。正面像での腰椎椎弓根間距離の狭小化は診断のための客観的な指標であるが、在胎週の早い例では目立たないこともある。
5)方形骨盤(腸骨の低形成)は骨盤骨の所見として重要である。腸骨は低形成で垂直方向に短縮し、横径は相対的に拡大する。腸骨翼は正常の扇型を示さず方型である。坐骨切痕は狭く短縮し、臼蓋は水平化している。Y軟骨部分の陥凹骨突起と組み合わせは三尖臼蓋として観察される。
 
 
C.遺伝子検査
遺伝子検査は確定診断としての意義が大きい。
1)1型:線維芽細胞増殖因子受容体3(fibroblast growth factor receptor 3:FGFR3)遺伝子の点突然変異によりアミノ酸の置換や終止コドンへの置換が生じることが原因である。アミノ酸の置換(c.742C>T⇒Arg248Cys、c.746C>G⇒Ser249Cys、c.1108G>T⇒Gly370Cys、c.1111A>T⇒Ser371Cys、c.1118A>G⇒Tyr373Cys、c.1949A>T⇒Lys650Met)や、終止コドンのアミノ酸への置換(c.2419T>G⇒stop807Gly、c.2419T>C又はc.2419T>A⇒stop807Arg、c.2421A>T又はc.2421A>C⇒stop807Cys、c.2420G>T⇒ stop807Leu、c.2421A>G⇒stop807Trp)などが報告されている。日本人ではArg248Cysが1型の約60~70%にみられ最も多く、次いでTry373Cysが20~30%に見られる。それ以外の変異や既知の変異が検出されないものが、~10%程度存在する。
2)2型:全例でFGFR3遺伝子のc.1948A>G⇒Lys650Glu変異が報告されている。
3)遺伝子変異については新たな変異が報告される可能性があるので、必ずしも前項の変異に限定されるものではないが、アミノ酸変異を伴わない遺伝子変異では疾患原因とはならない。こうした遺伝子変異の情報についてはウェブ上のGeneReviews®(米国NCBIのサイトhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/の中のデータベース)などの記載を参考にする。
4)理論上は常染色体優性遺伝形式をとるが、出生後の新生児期から乳幼児期に死亡することが多く、ほとんどは妊孕性のある年齢に至らないことや、その年齢に至ったとしても妊孕性は期待できないことから、実際の発症は全例が新生突然変異である。従って発症頻度は出生児(死産を含む)の1/20,000~1/50,000程度と稀である。
 
 
<重症度分類>
診断基準自体を重症度分類等とし、診断基準を満たすものを全て対象とする。
 
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
 

平成27年7月1日

情報提供者
研究班名 先天性骨系統疾患の医療水準と患者QOLの向上を目的とした研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和4年3月(名簿更新:令和5年6月)