高チロシン血症2型(指定難病242)

こうちろしんけっしょう2がた
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)


※こちらの内容は以下の難病共通になります。
高チロシン血症1型(指定難病241)
高チロシン血症2型(指定難病242)
高チロシン血症3型(指定難病243)

○ 概要
 
1.概要
チロシンはチロシンアミノ基転移酵素によって4-ヒドロキシフェニルピルビン酸、続いて4-ヒドロキシフェニルピルビン酸酸化酵素によってホモゲンチジン酸、ホモゲンチジン酸酸化酵素によってマレイルアセト酢酸、マレイルアセト酢酸イソメラーゼによってフマリルアセト酢酸、フマリルアセト酢酸分解酵素によってフマル酸とアセト酢酸に分解される。高チロシン血症には種々の原因があり、1型、2型、3型の3つの病型に分類されている。これらの疾患は、遺伝的・酵素学的に別の疾患であり、臨床症状出現の機序も異なる。遺伝形式はいずれも常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)である。高チロシン血症1型はフマリルアセト酢酸ヒドラーゼ(FAH)が欠損することで発症する。低血糖、アミノ酸やその他の代謝障害、凝固因子の低下、若年性肝臓癌、肝不全が進行する。近位尿細管においても細胞障害が出現し、アミノ酸尿、糖尿、代謝性アシドーシスなどのファンコーニ(Fanconi)症候群が発症する。
高チロシン血症2型は細胞質チロシンアミノ基転移酵素(TAT)の欠損症、高チロシン血症3型は4-ヒドロキシフェニルピルビン酸酸化酵素(HPD)が欠損している。世界における頻度は1型で10万~12万人に1人と推定されている。わが国における1型の頻度はさらに低いと考えられている。2型もまれな疾患であり、わが国でこれまでに10例ほど報告されている。また、3型もまれな疾患であるが、無症状で経過することもあるため、診断されていない症例が存在すると考えられる。

2.原因
高チロシン血症1型、2型、3型は、それぞれ常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)の遺伝形式をとり、15番染色体長腕(15q23-q25)上のFAH、16番染色体長腕(16q22.1-q22.3)上のTAT、12番染色体長腕(12q24-qter)上のHPDがそれぞれ原因遺伝子である。世界における高チロシン血症1型の頻度は、10万~12万人に1人と推定されている。チロシンは、最終的に細胞質でフマル酸、アセト酢酸に分解される。高チロシン血症I型はチロシンの代謝経路の最終酵素であるフマリルアセト酢酸加水分解酵素 (FAH: EC 3.7.1.2)が欠損することで発症する。代謝が阻害されることにより毒性のある中間代謝産物であるフマリルアセト酢酸やその分解産物であるサクシニルアセトンの体内濃度が上昇し、肝障害、腎尿細管障害などを引き起こす。また、サクシニルアセトンがポルフォビリノーゲン合成酵素の活性を阻害し、ポルフィリン症に類似した症状を呈することもある。高チロシン血症1型の80%は肝不全の徴候が生後数週から数ヶ月で生じ、その多くが生後2-8ヶ月で肝不全のため死亡する。ときに、同一家族内発症であっても、臨床症状が多様な時がある。2ヶ月以前で発症した症例の1年死亡率 は60%とされている。また、生存例でも、2歳以降までには肝硬変を呈し、さらに肝細胞癌を合併する場合もある。Weinbergらは、2歳以上での肝細胞癌の合併率は37%であると報告している。高チロシン血症2型は、細胞質チロシンアミノ基転移酵素(TAT, EC: 2.6.1.5)が欠損することで発症し、高チロシン血症3型は、4-ヒドロキシピルビン酸二酸素添加酵素(HPD, EC:2.6.1.5)が欠損することで発症する。


3.症状
高チロシン血症1型:肝実質細胞と近位尿細管細胞の障害を認める。臨床的には、進行する肝障害と腎尿細管障害が特徴である。急性型、亜急性型、慢性型の3つの病型があり、急性型では生後数週から始まる肝腫大、発育不良、下痢、嘔吐、黄疸などが見られる。重症例では肝不全へ進行し、無治療であれば生後2~3か月で死亡する。亜急性型では、生後数か月から1年程度で肝障害を発症する。肝硬変、肝不全に至る。肝臓癌を発生する症例も多く、多発性腫瘍も報告されている。腎臓では尿細管機能障害が出現し、低リン血性くる病、ビタミンD抵抗性くる病などが認められる。また、腹痛発作、ポリニューロパチーなどの急性間欠性ポルフィリン症に類似した症状が出現する。

高チロシン血症2型:肝・腎障害はない。皮膚病変は、チロシン結晶の析出により出現し、過剰角化やびらんが手掌・足底に好発する。また、角膜において同様にチロシン結晶が析出し、びらん・潰瘍が生じる。角膜の変化は、生後数か月から認められることがおおいが、思春期以降になって明らかになることもある。皮膚症状は眼症状よりも遅く出現し、疼痛を伴う角質の増殖とびらんが特徴的であり、手掌・足底に限局する。
血中チロシン値が高い症例では、精神発達遅滞を認めることが多い。早期に血漿チロシン値を200-400μmol/Lにコントロールして管理できれば、正常発達を遂げることも可能である。

高チロシン血症3型:高チロシン血症1型や2型に比べて、症状が軽度であり、無症状の症例もある。失調、けいれん、ディスレキシア、学習障害、行動障害、精神発達遅滞、自閉症、注意欠陥・多動性障害(ADHD)などの精神神経症状が認められる。精神神経症状の病因は、高チロシン血症2型と同じように、体液中のチロシンや4-ヒドロキシフェニルピルビン酸などのチロシン代謝産物の増加が症状の悪化に関係していると考えられているが、はっきりとは理解されていない。


4.治療法
①薬物治療 (高チロシン血症1型)
NTBC(オーファディン®)投与
診断確定後は速やかにNTBCの投与を開始する。常に食事療法と併用する必要がある。

②食事療法(高チロシン血症1型、2型、3型)
血中チロシン値をコントロールするため、低フェニルアラニン・低チロシン食によりタンパク摂取制限を行いながら、フェニルアラニン・チロシン除去粉乳(雪印S-1)を併用し、必要なタンパク、栄養および熱量を確保する。新生児・乳児期は、母乳や一般育児用粉乳とフェニルアラニン・チロシン除去粉乳(雪印S-1)を併用し、必要なタンパク、栄養およびエネルギー量を確保する。

高チロシン血症1型では、早期に治療を開始すると約90%がニチシノンに反応するといわれている。治療の効果判定には肝機能検査と血清αフェトタンパク値の測定が有用である。

5.予後
高チロシン血症1型:血清αフェトタンパクを正常範囲に保つことができれば予後が期待できる。ニチシノンを使用しない例では肝不全に至ることが多く、肝移植が行われる。
高チロシン血症2型と3型:早期に血漿チロシン値を200-400μmol/Lにコントロールして管理できれば、正常発達を遂げることも期待できる。


○ 要件の判定に必要な事項
1.患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
100人未満(高チロシン血症1型)
100人未満(高チロシン血症2型)
100人未満(高チロシン血症3型)
2.発病の機構
不明(フマリルアセト酢酸ヒドラーゼ(FAH:EC3.7.1.2)の欠損による。)
3.効果的な治療方法
未確立(ニチシノンを使用し、食事療法を併用するが根治療法ではない。)
4.長期の療養
必要(生涯にわたる薬物と食事療法が必要である。)
5.診断基準
あり(研究班作成の診断基準あり。)
6.重症度分類
先天性代謝異常症の重症度評価を用いて、中等症以上を対象とする。
 
○ 情報提供元
「高チロシン血症を示す新生児における最終診断への診断プロトコールと治療指針の作成に関する研究」
研究代表者 熊本大学生命科学研究部小児科学分野 准教授 中村公俊
 
 
<診断基準>
Definiteを対象とする。
 
<高チロシン血症1型>
①タンデムマス検査
高チロシン血症1型 Tyr>200μmol/Lもしくは血中SA>10nmol/L
②血中アミノ酸分析診断に必須である
Tyr>200μmol/L(3.6mg/dL)であれば可能性があるが、それ以外の原因による高チロシン血症が多く存在する。
③尿有機酸分析
高チロシン血症1型:診断に必須である。サクシニルアセトン上昇を認める。

<診断のカテゴリー>
Definite:①~③の全てを満たすものを高チロシン血症1型と確定診断する。

<高チロシン血症2型>
①タンデムマス検査
  高チロシン血症2型 Tyr>600μmol/L(10mg/dL)
②血中アミノ酸分析 診断に必須である
  Tyr>600μmol/L(10mg/dL)であれば可能性がある。
③酵素活性測定又は遺伝子解析
  国内では困難である。
④臨床症状 特徴的な角膜又は手掌・足底の症状

<診断のカテゴリー>
Definite:④臨床症状を呈し、アミノ酸分析で特異的所見を認めるものを確定診断とする。

<高チロシン血症3型>
①タンデムマス検査
  高チロシン血症3型 Tyr>400μmol/L(7mg/dL)
②血中アミノ酸分析 診断に必須である
  Tyr>400μmol/L(7mg/dL)であれば可能性がある。
③酵素活性測定又は遺伝子解析
  国内では困難である。
④臨床症状 肝障害と腎障害を伴わない精神発達遅延
 
<診断のカテゴリー>
Definite:④臨床症状を呈し、アミノ酸分析で特異的所見を認めるものを確定診断とする。

<重症度分類>
中等症以上を対象とする。

 

先天性代謝異常症の重症度評価(日本先天代謝異常学会)

点数

I

薬物などの治療状況(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

治療を要しない

b

対症療法のために何らかの薬物を用いた治療を継続している

c

疾患特異的な薬物治療が中断できない

d

急性発作時に呼吸管理、血液浄化を必要とする

II

食事栄養治療の状況(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

食事制限など特に必要がない

b

軽度の食事制限あるいは一時的な食事制限が必要である

c

特殊ミルクを継続して使用するなどの中程度の食事療法が必要である

d

特殊ミルクを継続して使用するなどの疾患特異的な負荷の強い(厳格な)食事療法の継続が必要である

e

経管栄養が必要である

III

酵素欠損などの代謝障害に直接関連した検査(画像を含む)の所見(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

特に異常を認めない        

b

軽度の異常値が継続している    (目安として正常範囲から1.5SDの逸脱)  

c

中等度以上の異常値が継続している (目安として1.5SDから2.0SDの逸脱)      

d

高度の異常値が持続している    (目安として2.0SD以上の逸脱)

IV

現在の精神運動発達遅滞、神経症状、筋力低下についての評価(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

異常を認めない         

b

軽度の障害を認める  (目安として、IQ70未満や補助具などを用いた自立歩行が可能な程度の障害)

c

中程度の障害を認める (目安として、IQ50未満や自立歩行が不可能な程度の障害)   

d

高度の障害を認める  (目安として、IQ35未満やほぼ寝たきりの状態)    

V

現在の臓器障害に関する評価(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

肝臓、腎臓、心臓などに機能障害がない

b

肝臓、腎臓、心臓などに軽度機能障害がある
(目安として、それぞれの臓器異常による検査異常を認めるもの)

c

肝臓、腎臓、心臓などに中等度機能障害がある
 (目安として、それぞれの臓器異常による症状を認めるもの)

d

肝臓、腎臓、心臓などに重度機能障害がある、あるいは移植医療が必要である 
(目安として、それぞれの臓器の機能不全を認めるもの)

VI

生活の自立・介助などの状況(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

自立した生活が可能     

b

何らかの介助が必要      

c

日常生活の多くで介助が必要  

d

生命維持医療が必要     

総合評価

IからVIまでの各評価及び総点数をもとに最終評価を決定する。

(1)4点の項目が1つでもある場合    

重症

(2)2点以上の項目があり、かつ加点した総点数が6点以上の場合  

重症

(3)加点した総点数が3-6点の場合  

中等症

(4)加点した総点数が0-2点の場合   

軽症

注意

診断と治療についてはガイドラインを参考とすること

疾患特異的な薬物治療はガイドラインに準拠したものとする

疾患特異的な食事栄養治療はガイドラインに準拠したものとする

 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

令和6年4月1日

情報提供者
研究班名 新生児スクリーニング対象疾患等の先天代謝異常症の成人期にいたる診療体制構築と提供に関する研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和6年4月(名簿更新:令和5年6月)