痙攣重積型(二相性)急性脳症(指定難病129)

けいれんじゅうせきがた(にそうせい)きゅうせいのうしょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1. 「けいれん重積型(二相性)急性脳症」とはどのような病気ですか

けいれん重積型(二相性)急性脳症(英語名 AESD [acute encephalopathy with biphasic seizures and late reduced diffusion])は、突発性発疹やインフルエンザなどの感染症を契機に、けいれんと脳の傷害をおこす、日本で見つかった病気です。小児の感染に伴う急性脳症のうち、日本では最も頻度の高い型(急性脳症全体の34%を占める)です。典型例では初め発熱とともに長いけいれんが生じた後、意識が低下します。2日目には意識はいったん改善傾向となりますが、発病後4〜6日に2回目のけいれんが生じ、それに引き続いて再度、意識が障害されます。発病後3〜9日の脳MRI拡散強調画像で、特徴的な 大脳白質 の病変が認められます。神経学的後遺症が約70%の患者さんに残ってしまいます。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

患者さんの数は数千人、1年あたり新たに100〜200人が発症すると推定されています。

3. この病気はどのような人に多いのですか

日本の小児に特有の病気であり、生後6か月から1歳代での発症が最多です。

けいれん重積型(二相性)急性脳症の発症年齢


急性脳症の全国実態調査(平成29年)水口班 平成30年度研究報告より

4. この病気の原因はわかっているのですか

明らかな原因は不明です。発病のきっかけとして突発性発疹やインフルエンザなど、小児がよく罹る高熱のでる感染症があります。病気になりやすい素質として、複数の遺伝子の型があること、また特定の薬が病気を悪化させる可能性があることがわかっています。

5. この病気は遺伝するのですか

明らかな遺伝性はありません。しかし上にも述べたように、いくつかの遺伝子の型が関係しています。

6. この病気ではどのような症状がおきますか

突発性発疹やインフルエンザなどの感染症で発熱してから24時間以内に、けいれんで発症します。病初期のけいれんは、15分からときには1時間以上にも及ぶ持続時間の長いけいれん(けいれん重積といいます)であることが多いです。けいれんの止まった後、意識障害はいったん改善傾向になることが多いです。発熱後4〜6日ころに2回目のけいれん(短いけいれんの群発が多い)とそれに引き続く意識障害を呈します。回復期に無目的な運動(反り返りや手足を振り回す、口をもぐもぐさせるなど)を繰り返すことがあります。

7. この病気にはどのような治療法がありますか

急性期にはけいれんを抑えて、全身の状態を良好に保つための治療が重要です。小児急性脳症診療ガイドライン2023、インフルエンザ脳症の診療戦略に準じて、ステロイドパルス療法などが試みられますが、有効性は確立していません。小児急性脳症診療ガイドライン2023では、一定の基準を満たした重症患者さんに対する早期の体温管理療法(脳平温療法:目標体温36℃)がAESDへの進展を低下させる(弱い推奨)としています。回復期以降はてんかんの治療と知的障害・運動障害に対するリハビリテーションを行います。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか

神経学的後遺症(知的障害、運動障害やてんかん)を約70%の患者さんで認めます。運動機能の回復が知的機能の回復より良好であることが多いです。回復期以降にてんかんが発症することがあり、治療しても止まりにくいことがしばしばあります。

けいれん重積型(二相性)急性脳症の予後


急性脳症の全国実態調査(平成29年)水口班 平成30年度研究報告より

9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか

神経学的後遺症の程度は患者さんによって大きく異なります。リハビテーション、抗てんかん薬の内服、定期的な検査などが必要となり、障害の程度によっては日常生活に観察や介助が必要となることがあります。

10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

別名として、
二相性けいれんと遅発性拡散低下を呈する急性脳症
両側前頭葉を主として障害する乳幼児急性脳症
が挙げられます。

11. この病気に関する資料・関連リンク

1. 厚生労働科学研究(難治性疾患政策研究事業)良質なエビデンスに基づく急性脳症の診療に向けた体制整備研究班(急性脳症研究班、水口班)平成30年度研究報告 急性脳症の全国実態調査結果(第2回、平成29年度)
https://encephalopathy.jp/nsurvey_data/h29_1.pdf

2. 日本医療研究開発機構研究費 新型インフルエンザ等への対応に関する研究班.インフルエンザ脳症の診療戦略. 2018.
https://www.childneuro.jp/uploads/files/about/influenzaencephalopathy2018.pdf

3. 小児急性脳症研究班(小児急性脳症の早期診断・最適治療・ガイドライン策定に向けた体制整備研究班)ホームページ
https://encephalopathy.jp
4. 日本小児神経学会(監).小児急性脳症診療ガイドライン2023.
https://www.childneuro.jp/modules/about/index.php?content_id=34

用語解説

突発性発疹(とっぱつせいほっしん):生後6カ月~1歳代の小児が罹りやすい、ヒトヘルペスウイルス6あるいは7による感染症です。ほとんどの子どもが3歳までに感染するといわれています。38~39℃台の発熱が3、4日続いたのち、熱が下がるのとほぼ同時に全身に発疹が現れます。発疹は2、3日で消失します。
 
MRI(えむあーるあい、magnetic resonance imagingの略):日本語では磁気共鳴画像ですが、MRI と略称で呼ばれることが多いです。強力な磁石でできた筒の中に入り、磁気の力を利用して体の臓器や血管を撮影する検査です。X線CTと違って放射線被爆はありません。
 
拡散強調画像(かくさんきょうちょうがぞう):MRI 検査の一つで、体の中の水分子の動きやすさを画像化しています。MRI検査の複数の撮影法の中でも発病後早期の脳梗塞の診断などに優れています。けいれん重積型(二相性)急性脳症でも病変を見つけるのに最も有用です。
 
大脳白質(だいのうはくしつ):脳の表面には神経細胞の豊富な皮質があり、深部には神経細胞からの情報を伝える線維が走行する白質があります。皮質(神経細胞)は発電所、白質(線維)は電線のような関係です。けいれん重積型(二相性)急性脳症では、2回目のけいれんを起こす前後に、皮質直下の白質に拡散強調画像で高信号(異常に白く見える領域)を呈します。

 

情報提供者
研究班名 小児急性脳症の早期診断・最適治療・ガイドライン策定に向けた体制整備班
研究班名簿 
情報更新日 令和5年10月(名簿更新:令和5年6月)