グルコーストランスポーター1欠損症(指定難病248)

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(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○概要
 
1. 概要
グルコーストランスポーター1欠損症(glucose transporter type 1 deficiency syndrome:Glut1DSあるいはGLUT1DS)は、脳のエネルギー代謝基質であるグルコースが中枢神経系に取り込まれないことにより生じる代謝性脳症である。認知障害や運動異常症(運動失調、痙縮、ジストニアなど)などの慢性神経症状、及びてんかん性や非てんかん性の発作性症状を呈し、多様な臨床症状の組み合わせによって特徴付けられる。本症は、ケトン体を脳の代替エネルギー源として供給するケトン食療法が有効であり、早期発見・治療によって予後が改善しうる疾患である。

2. 原因
トランスポーターの異常により、グルコースを脳内に取り込めないことでエネルギー産生が低下し、さまざまな脳機能障害をきたす。大多数にSLC2A1 遺伝子(1p34.2)におけるヘテロ接合性のde novo変異、重症例では微細欠失を認め、ハプロ不全が発症に関与する。孤発症例が多いが、常染色体顕性遺伝(優性遺伝)性疾患であり、まれに常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)やモザイク変異による家族例もある。

3. 症状
表現型スペクトラムは幅広く、年齢により症状は変化する。重度の表現型(古典型)は、治療抵抗性の乳児期発症てんかん発作、その後の発達遅滞・知的障害、後天性小頭症、そして運動失調・痙縮・ジストニアなどの組み合わせを伴う複合的運動異常症を呈する。
①初発症状: けいれん発作、異常眼球運動発作、無呼吸発作が乳児期に認められる。
②慢性神経症状: 知的障害や、運動失調、痙性、ジストニアなどの運動異常症を呈し、さまざまな組合せで出現する。
③発作性症状: 軽症例では、発作性症状が唯一の症状ということもある。
・ てんかん発作: 本症の中核的症状であり、約70%で複数の発作型を有し、全般性強直間代発作や定型欠神発作が多く、他にミオクロニー、非定型欠神、焦点、脱力、強直発作などを認める。
・ 非てんかん性発作: 発作性運動異常症(発作性労作誘発性ジスキネジア、発作性非運動誘発性ジスキネジア、周期性運動失調症、ジストニア、舞踏病、パーキンソニズム、ミオクローヌス)、脱力・運動麻痺、協調運動障害、疼痛(頭痛など)、嘔吐、身体違和感、無気力・眠気・意識変容がある。
こうした発作性症状の典型的な誘発因子は空腹(特に早朝空腹)と運動である。疲労・睡眠不足、発熱、感染症などの併発症、心理的ストレスも誘因となるが、自然にも起こりえる。そして、糖質摂取、安静、休息・睡眠により改善する。
④検査所見では、古典型では血糖値が正常であるにもかかわらず、髄液糖値は40 mg/dL未満、髄液糖/血糖比は0.45未満(平均0.35)を示す。ただし、軽症例ではこの基準を満たさないこともある。髄液乳酸値は正常~低下を呈する。発作間欠期脳波では背景脳波の徐波化を認める。てんかん波を認めないことも多いが、初期に焦点性異常波を、成長とともに2.5~4Hzの全般性棘徐波を認める。脳波異常は食事やグルコース静注で改善する。頭部MRI検査では大脳萎縮、髄鞘化遅延、皮質下白質の散在性高信号を呈することもある。遺伝子検査にて確定診断される。

4. 治療法
てんかん発作は発作型によって抗てんかん薬を選択する。アセタゾラミドは発作性運動異常症を治療する上での選択肢ともなる。理論的にGLUT1の機能を抑制する薬物(フェノバルビタール、抱水クロラール、ジアゼパム、バルプロ酸)の使用については利益が上回る場合には慎重投与でもよい。
本症が疑われたならばできるかぎり早期に、どの年齢でもケトン食療法を開始し、そして効果があれば成人期まで維持されるべきである。ケトン食療法には、古典的ケトン食療法や修正アトキンズ食など、いくつかの種類があるが、病院の体制や患者・家族の希望に応じて選択する。本症は、ケトン食療法用の調製粉乳であるケトンフォーミュラ®(明治817-B)の適応疾患であり、乳児早期からの治療も可能である。

5. 予後
生命予後は良好である。てんかんは小児期の重要な所見であるが、思春期を経て軽減し、さらには消失することもある。認知能力や知的障害の程度は一生を通じて安定しており、退行することはない。

○ 要件の判定に必要な事項
1. 患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
100人未満
日本小児神経学会が支援する共同研究における全国実態調査では80人以上の存在を確認
2. 発病の機構
不明(遺伝子異常が関与)
3. 効果的な治療方法
未確立(根治療法なし)
4. 長期の療養
必要(生涯にわたる薬物療法と食事療法が必要である)
5. 診断基準
あり(研究班作成の診断基準)
6. 重症度分類
先天性代謝異常症の重症度評価を用いて中等症以上を対象とする。


○ 情報提供元
厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業)「新生児スクリーニング対象疾患等の先天代謝異常症における生涯にわたる診療体制の整備に関する研究」班
研究代表者 熊本大学大学院 教授 中村公俊

<診断基準>
DefiniteとProbableを対象とする。
A.臨床所見
 A-1 神経症状
① 乳児期発症の初発症状(※1)
② 認知機能障害、後天性小頭症
③ (複合的)運動異常症(※2)
④ てんかん発作
⑤ 非てんかん性発作(※3)
A-2 代謝異常を示唆する所見
⑥ 症状が空腹、運動、疲労・睡眠不足で増悪し、糖質摂取、安静、休息・睡眠で改善
⑦ 慢性神経症状の程度が変動
⑧ 脳波異常が食事やグルコース静注で改善
⑨ ケトン食療法による症状の改善
A-3 家族歴
⑩ A-1又はA-2の血縁者の存在

※1 けいれん発作、異常眼球運動発作、無呼吸・チアノーゼ発作
※2 運動失調、痙縮、ジストニア、ミオクローヌス、など、さまざまな組み合わせも含まれる
※3 発作性の運動異常症、脱力・運動麻痺、疼痛(頭痛など)、嘔吐、眠気、など

B.確定診断の検査
① 病因となるSLC2A1遺伝子変異の同定
② (低血糖の不在下で)髄液糖値低下(※4)、及び髄液乳酸値正常〜低下(※5)
③ 赤血球 3-O-メチル-D-グルコース取り込み能の低下(※6)

※4 髄液糖値は40mg/dL(2.2 nmoL/L)未満、髄液糖/血糖比は0.45未満
※5 髄液乳酸値は正常上限16mg/dL(1.8 mmol/L)未満
※6 赤血球3-O-メチル-D-グルコース取り込み能の低下の所見も診断には有用ではあるが、現状では国内での検査は困難であり、参考所見とする。


診断のカテゴリー:
Definite: (1)及び(2)を満たすとき
(1) A-1のうち1項目以上、かつA-2またはA-3の1項目以上を認める
(2) Bの①を認める
Probable: (1)及び(2)を満たすとき
(1) A-1のうち1項目以上、かつA-2またはA-3の1項目以上を認める
(2) Bの②を認める
Possible: A-1のうち1項目以上、かつA-2またはA-3の1項目以上を認める




<重症度分類>
中等症を対象とする。

 

先天性代謝異常症の重症度評価(日本先天代謝異常学会)

点数

I

薬物などの治療状況(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

治療を要しない

b

対症療法のために何らかの薬物を用いた治療を継続している      

c

疾患特異的な薬物治療が中断できない

d

急性発作時に呼吸管理、血液浄化を必要とする

II

食事栄養治療の状況(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

食事制限など特に必要がない

b

軽度の食事制限あるいは一時的な食事制限が必要である     

c

特殊ミルクを継続して使用するなどの中程度の食事療法が必要である   

d

特殊ミルクを継続して使用するなどの疾患特異的な負荷の強い(厳格な)食事療法の継続が必要である

e

経管栄養が必要である                      

III

酵素欠損などの代謝障害に直接関連した検査(画像を含む)の所見(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

特に異常を認めない        

b

軽度の異常値が継続している    (目安として正常範囲から1.5SDの逸脱)  

c

中等度以上の異常値が継続している (目安として1.5SDから2.0SDの逸脱)      

d

高度の異常値が持続している    (目安として2.0SD以上の逸脱)

IV

現在の精神運動発達遅滞、神経症状、筋力低下についての評価(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

異常を認めない

b

軽度の障害を認める  (目安として、IQ70未満や補助具などを用いた自立歩行が可能な程度の障害)

c

中程度の障害を認める (目安として、IQ50未満や自立歩行が不可能な程度の障害)   

d

高度の障害を認める  (目安として、IQ35未満やほぼ寝たきりの状態)    

V

現在の臓器障害に関する評価(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

肝臓、腎臓、心臓などに機能障害がない

b

肝臓、腎臓、心臓などに軽度機能障害がある
(目安として、それぞれの臓器異常による検査異常を認めるもの)

c

肝臓、腎臓、心臓などに中等度機能障害がある
 (目安として、それぞれの臓器異常による症状を認めるもの)

d

肝臓、腎臓、心臓などに重度機能障害がある、あるいは移植医療が必要である 
(目安として、それぞれの臓器の機能不全を認めるもの)

VI

生活の自立・介助などの状況(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

自立した生活が可能     

b

何らかの介助が必要      

c

日常生活の多くで介助が必要  

d

生命維持医療が必要     

総合評価

IからVIまでの各評価及び総点数をもとに最終評価を決定する。

(1)4点の項目が1つでもある場合    

重症

(2)2点以上の項目があり、かつ加点した総点数が6点以上の場合  

重症

(3)加点した総点数が3-6点の場合  

中等症

(4)加点した総点数が0-2点の場合   

軽症

注意

診断と治療についてはガイドラインを参考とすること

疾患特異的な薬物治療はガイドラインに準拠したものとする

疾患特異的な食事栄養治療はガイドラインに準拠したものとする

 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
 
 
 
 

令和6年4月1日

  • Glut1欠損症:2020年の現状と国際Glut1欠損症研究会の提言
    https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7469861/pdf/EPI4-5-354.pdf
  • glut1異常症患者会(連絡先: glut1glut@yahoo.co.jp)
      以下の資料を請求できます。
    • グルコーストランスポーター1欠損症ハンドブック
      グルコーストランスポーター1欠損症サポートファイル
情報提供者
研究班名 新生児スクリーニング対象疾患等の先天代謝異常症の成人期にいたる診療体制構築と提供に関する研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和6年4月(名簿更新:令和5年6月)