ライソゾーム病(指定難病19)

らいそぞーむびょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1.ライソゾーム病とは

人の体は何十兆もの細胞という小さな単位の集まりです。細胞は、体の臓器を形作り、それぞれの役割を果たしています。細胞が正常な新陳代謝を営んでいるとき、人は健康な体を保つことができます。生きている細胞は、常に新しい物質を作り、体の成分としたりエネルギーとしたりしています。そして、古くなったものは分解して捨てたり再利用したりしています。この古いものを分解する場所が細胞の中にあるライソゾームというところです。したがって、ライソゾームの中には数多くの分解 酵素 が存在しています。この分解酵素の一つが先天的に欠損しているために起こる病気がライソゾーム病です。欠損する酵素の種類によっていろいろな病気があり、症状も異なっています。現在、約50種類のライソゾーム病が知られています。症状はそれぞれの病気で異なっていますが、共通点は、ライソゾームの中に分解されない老廃物が次第に蓄積していくということです。このことから、ライソゾーム病は年齢とともに次第に病気が進行して悪化していく病気と言えます。

2.この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

それぞれの病気は、一般に極めて稀で、病気によって頻度は異なります。すべてのライソゾーム病を合わせると7千人に1人くらいの頻度と言われています。

3.この病気はどのような人に多いのですか

ライソゾーム病のほとんどは、「常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)形式」という遺伝形式で遺伝します。常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)形式は、「メンデルの遺伝の法則」でも知られているように、潜性(劣性)の病気の遺伝子を持っている人( 保因者 )同士から産まれる子どもは性別に関係なく1/4の確率で病気になります。保因者は全く健康ですから、誰が保因者であるかは検査をしないと分かりません。保因者の頻度は、病気によって異なりますが、ライソゾーム病の場合は一般的に150人から200人に1人くらいと考えられています。そして、同じ病気の保因者同士がパートナーとなったときに、初めて病気の子どもが産まれる可能性が出てきます。また、一部のライソゾーム病は「X連鎖性潜性遺伝(劣性遺伝)形式」という遺伝形式です。この場合には、保因者の女性から生まれる男の子は1/2の確率で病気になります。またファブリー病は例外的で女性も発病することが多いため、潜性(劣性)と言わずに「 X連鎖性遺伝 形式」と呼んでいます。
私たちは約2万5千個の遺伝子を持っています。そして、すべての人は健康であっても、病気の遺伝子をひとりあたり約10個持っています。同じ病気の遺伝子を持った保因者同士が偶然めぐり逢うことは極めて稀ですが、例えばいとこのような血縁者同士では、同じ遺伝子を持っている確率が高くなりますので、常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)形式の病気が起こりやすいと考えられます。

4.この病気の原因はわかっているのですか

病気によって、どのような酵素が欠損しているかわかっており、血液で酵素活性を測定することによって欠損していることがわかります。また、その酵素を作っている遺伝子も、多くのものが明らかにされています。

5.この病気は遺伝するのですか

3のところで述べたとおり、遺伝します。

6.この病気ではどのような症状がおきますか

1のところで述べたとおり、ライソゾーム病は次第に悪くなる病気です。産まれた直後は、ほとんどの場合、全く正常な赤ちゃんです。通常の診察や検査では、病気は全くわかりません。成長するにつれて、だんだんと症状が現れてきます。病気の種類によって症状は異なりますが、神経系の症状が出てくるものが多く見られます。お座りや独り歩きができない、言葉が出ない、あるいはお座りができていたのにできなくなった、歩けていたのに歩けなくなった、しゃべれなくなった、けいれん発作といった症状が乳児期や幼児期、あるいは学童期に起こり、だんだん進行します。それ以外に、肝臓や心臓が大きく腫れてくるとか、骨や関節が次第に曲がってくるという症状が出てくるものもあります。

7.この病気にはどのような治療法がありますか

ほとんどのライソゾーム病には完全に治る治療法はありませんが、以下のような治療法があります。
➀ 酵素補充療法:欠損している酵素を点滴して治療する方法です。この治療法は一生定期的に点滴治療を続けます。酵素補充療法が可能な疾患は、現在のところゴーシェ病、ファブリー病、ポンペ病、ムコ多糖症I型、II型、IVA型、VI型、VII型、酸性リパーゼ欠損症、酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症です。静脈から酵素を投与する方法では脳へ酵素が到達しないため、脳の治療のために頭に直接酵素を投与する脳室内酵素製剤がムコ多糖症II型と神経セロイドリポフスチン症2型で新たに開発されました。また、脳へ酵素が到達するように改良した新たな経静脈的酵素製剤がムコ多糖症II型で使用可能となっています。
②  造血幹細胞 移植:他人の骨髄を採取して移植する場合と 臍帯血 を用いて移植する場合とがあります。以前は、臍帯血移植の成績は悪かったのですが、最近はほぼ同等になってきています。臍帯血の場合は、ドナーの確保が骨髄に比べて容易です。クラッベ病、異染性ロイコジストロフィー、ムコ多糖症I型、II型の重症型で多く行われています。内臓・身体症状に対する効果は酵素補充療法とほぼ同等と思われますが、脳に対してはドナー由来の幹細胞が脳へ移行して効果を現すことができると考えられており、脳の合併症がある疾患群では選択肢となっています。
③  シャペロン療法 :薬により正常な働きができない異常な酵素を安定化させて、酵素の働きを持たせるようにする治療法です。症状の進行が緩やかになります。薬として口から飲めるうえ、脳の症状にも効果があります。しかし、遺伝子 変異 の種類によっては効果が無いこともあります。現在、特定の遺伝子変異をもつファブリー病で使用できます。また、現在ゴーシェ病でも臨床研究が行われています。
④ 基質削減療法:蓄積の原因となる物質の生成を減らすことにより、蓄積の速度すなわち病気の進行速度を緩やかにさせる治療法です。現在、日本ではニーマンピックC型、ゴーシェ病の薬があります。
⑤ 遺伝子治療:現在、海外で異染性ロイコジストロフィー(MLD)、副腎白質ジストロフィー(ALD)、ムコ多糖症I型、II型、III型、VI型、ファブリー病、ゴーシェ病、ポンペ病、神経セロイドリポフスチノーシス(CLN)2型、3型、6型、7型などで臨床治験臨床試験が行われています。このうちMLD、ALDに対する遺伝子治療製品は欧米で薬事承認されています(日本では未承認)。

8.この病気はどのような経過をたどるのですか

ライソゾーム病は進行性です。治療法の無いものでは、脳・神経や体の臓器が次第に悪くなって寝たきりになり、幼児期や小児期に死亡します。軽症型といわれるもののなかには、健康人とあまり変わらない寿命のものもあります。いろんな治療により、通常に近い生活ができたり、病気の進行を遅らせたりすることができます。
次第に進行する病気ですから、できるだけ早く診断して治療を始めなければいけません。一部の施設では、新生児スクリーニングによる早期診断も行われています。

9. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

ゴーシェ病(Gaucher病)
ニーマン・ピック病A型、B型(Niemann-Pick病A、B型)/ 酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症
ニーマンピック病C型(Niemann-Pick病C型)
GM1ガングリオシドーシス
GM2ガングリノシドーシス(Tay-Sachs病、Sandhoff病、AB型)
クラッベ病(Krabbe病)
異染性白質ジストロフィー
マルチプルサルファターゼ欠損症
ファーバー病(Farber病)
ムコ多糖症I型(Hurler/Scheie症候群)
ムコ多糖症II型(Hunter症候群)
ムコ多糖症III型(Sanfilippo症候群)
ムコ多糖症IV型(Morquio症候群)
ムコ多糖症VI型(Maroteaux-Lamy症候群)
ムコ多糖症VII型(Sly病)
ムコ多糖症IX型(ヒアルロニダーゼ欠損症)
シアリドーシス
ガラクトシアリドーシス
ムコリピドーシスII型、III型
α-マンノシドーシス
β-マンノシドーシス
フコシドーシス
アスパルチルグルコサミン尿症
シンドラー病/神崎病(Schindler病/神崎病)
ポンぺ病(Pompe病)
酸性リパーゼ欠損症(Wolman病)
ダノン病(Danon病)
遊離シアル酸蓄積症
セロイドリポフスチノーシス
ファブリー病(Fabry病)
シスチン症

 

情報提供者
研究班名 ライソゾーム病、ペルオキシソーム病(副腎白質ジストロフィーを含む)における早期診断・早期治療を可能とする診療提供体制の確立に関する研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和5年1月(名簿更新:令和5年6月)