特発性基底核石灰化症(指定難病27)

とくはつせいきていかくせっかいかしょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1. 「特発性基底核石灰化症」とはどのような病気ですか

脳内の大脳 基底核 や小脳歯状核などに、カルシウムを多く含んだ重金属が病的に沈着する病気です。無症状の患者さんがいる一方で、もの忘れ、パーキンソン病様症状、歩行障害など様々な症状がみられることが知られています。
頭部CT検査で石灰化は確認できますが、石灰化を引き起こす他の病気を除外することが必要です。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

これまで研究班には300名以上の患者さんが登録されていますが、実際にはその数倍の患者さんがいると推定されます。

3. この病気はどのような人に多いのですか

男女差はなく、小児から高齢者まで幅広い年齢層にみられます。生活習慣との関連や特定の環境・職業に多いということはわかっていません。

4. この病気の原因はわかっているのですか

同じ家系内で発症する例が知られており、これらは 家族性 といわれています。家族例の約半数で、リン(P)の輸送に関わるSLC20A2という遺伝子の 変異 がみつかっています。また神経栄養因子のひとつである血小板由来成長因子に関わるPDGFB遺伝子の変異も約10%で見つかっています。他にもPDGFRBXPR1MYORGJAM2の4つの遺伝子の変異が、頻度は少ないものの原因となることがわかっており、現在まで合計で6つの原因遺伝子が発見されています。

5. この病気は遺伝するのですか

原因となる6つの遺伝子のうち、SLC20A2PDGFBPDGFRBXPR1の4つについては 常染色体顕性遺伝(優性遺伝) 、それ以外の2つ(MYORGJAM2)については、 常染色体潜性遺伝(劣性遺伝) です。常染色体顕性遺伝(優性遺伝)の場合は、お子様が同じ病気を生じる可能性はだいたい50%くらいですが、常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)の場合には、お子様が同じ病気を生じる可能性はほとんどありません。また、同じ遺伝子変異を持っている方でも、無症状で頭部CTのみ石灰化がみられる場合や、その病状に違いが見られることもあります。孤発例の場合、遺伝性は不明です。孤発例では原因不明ですが、稀に上記の遺伝子の変異が見つかる場合があります。

6. この病気ではどのような症状がおきますか

歩行障害、もの忘れ、精神症状などの頻度が高く、精神運動発達遅滞、 不随意運動 、てんかん、頭痛、意識消失など、多彩な症状がみられますが、個人差が大きく、すべての症状が出るわけではありません。一方で、頭部CTで病的な石灰化を認めても無症状の例もあります。

7. この病気にはどのような治療法がありますか

現時点ではまだ実際に患者さんに使用できる発症予防、進行抑制に有効な治療薬はありません。しかし、出現した症状に応じて症状を和らげる薬やリハビリテーションは有効です。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか

出現している症状によっては年単位でゆっくり進行する可能性はありますが、この病気の詳しい経過はわかっていません。通常、頭部CTでみられる脳内石灰化は、年単位で見ても明らかな増大はないと思われます。急速に進行することはなく、死に至るような病気ではありません。

9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか

食事や運動について制限はありません。血液のカルシウム濃度は正常であり、特にカルシウム摂取を制限する必要ないと考えられます。歩行障害、パーキンソン病様症状、小脳症状などがみられる場合は、早期からリハビリテーションを行うようお勧めしています。

10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

・ 特発性基底核石灰化症(Idiopathic basal ganglia calcification (IBGC))
・ ファール病 (Fahr disease)
 (従来、慣例的にこの名称が使われてきた)
・ primary familial brain calcification (PFBC)
 (現在、欧米ではこの名称が使用されることが多い。secondaryに対応するのはprimaryであり、家族性、常染色体顕性遺伝(優性遺伝)に限定したことによる)
・ primary brain calcification (PBC)
(歴史的にはこれまで40近い名称が使用されてきた。最近、常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)である原因遺伝子(MYORG, JAM2)も見つかり、de novoの症例もあり、新たな名称も提唱されている)
今後、さらなる原因遺伝子の発見や病態の解明が進み、国際的に統一した病名、診断基準が必要である。

11. この病気に関する資料・関連リンク

岐阜大学脳神経内科
 http://www.med.gifu-u.ac.jp/neurology/hospital/fahr.html

 

情報提供者
研究班名 神経変性疾患領域における難病の医療水準の向上や患者のQOL向上に資する研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和5年1月(名簿更新:令和5年6月)