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自己免疫性溶血性貧血(AIHA)(指定難病61)

じこめんえきせいようけつせいひんけつ

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
自己免疫性溶血性貧血(AIHA)は、赤血球膜上の抗原と反応する自己抗体が産生され、抗原抗体反応の結果、赤血球が傷害を受け、赤血球の寿命が著しく短縮(溶血) し、貧血を来す病態である。自己抗体の出現につながる病因の詳細はいまだ不明の部分が多く、臨床経過・予後の面でも多様性に富む不均質な病態群と理解される。自己抗体の出現を共通点とするが、抗体の性状、臨床的表現型、好発年齢など様々な観点からみて異なる特徴をもつ病態を包含する。自己抗体の赤血球結合の最適温度により温式と冷式のAIHAに分類される。
 
2.原因
自己免疫現象の成立には、個体の免疫応答系の失調と抗原刺激側の要因が考えられるが、それぞれの詳細はなお不明である。現状では、AIHAにおける自己免疫現象の成立は免疫応答系と遺伝的素因、環境要因が複雑に絡み合って生じる多因子性の過程であると理解しておくのが妥当と考えられる。その中で、感染、免疫不全、免疫系の失調、ホルモン環境、薬剤、腫瘍などが病態の成立と持続に関与すると考えられる。
 
3.症状
(1)温式AIHA…臨床像は多様性に富む。特に急激発症では発熱、全身衰弱、心不全、呼吸困難、意識障害を伴うことがあり、ヘモグロビン尿や乏尿も受診理由となる。症状の強さには貧血の進行速度、心肺機能、基礎疾患などが関連する。代償されて貧血が目立たないこともある。黄疸もほぼ必発だが、肉眼的には比較的目立たない。特発性でのリンパ節腫大はまれである。脾腫の触知率は32~48%。特発性血小板減少性紫斑病(ITP)を合併する場合をエヴァンズ(Evans)症候群と呼ぶ。
(2)寒冷凝集素症(CAD)…臨床症状は溶血と末梢循環障害によるものからなる。特発性慢性CADの発症は潜行性が多く慢性溶血が持続するが、寒冷暴露による溶血発作を認めることもある。循環障害の症状として、四肢末端・鼻尖・耳介のチアノーゼ、感覚異常、レイノー現象などがみられる。皮膚の網状皮斑を認めるが、下腿潰瘍はまれである。
(3)発作性寒冷ヘモグロビン尿症(PCH)…現在ではわずかに小児の感染後性と成人の特発性病型が残っている。以前よく見られた梅毒性の定型例では、寒冷暴露が溶血発作の誘因となり、発作性反復性の血管内溶血とヘモグロビン尿を来す。気温の低下、冷水の飲用や洗顔・手洗いなどによっても誘発される。寒冷曝露から数分~数時間後に、背部痛、四肢痛、腹痛、頭痛、嘔吐、下痢、倦怠感についで、悪寒と発熱をみる。
4.治療法
特発性の温式AIHAの治療では、副腎皮質ステロイド薬、摘脾術、免疫抑制薬が三本柱であり、そのうち副腎皮質ステロイド薬が第1選択である。成人例の多くは慢性経過をとるので、はじめは数か月以上の時間枠を設定して治療を開始する。その後の経過によって年単位ないし無期限へ修正する必要も生じる。2/3次選択の摘脾術や免疫抑制薬は、副腎皮質ステロイド薬の不利を補う目的で採用するのが原則である。恐らく特発性の80~90%はステロイド薬単独で管理が可能と考えられる。CAD及びPCHの根本治療法はなく、保温が最も基本的である。温式・冷式共に抗体療法(rituximab)の有用性が報告されている。
5.予後
IHAは臨床経過から急性と慢性に分けられ、急性は6か月までに消退するが、慢性は年単位又は無期限の経過をとる。小児の急激発症例は急性が多い。温式AIHAで基礎疾患のない特発例では治療により1.5年までに40%の症例でクームス(Coombs)試験の陰性化がみられる。特発性AIHAの生命予後は、5年で約80%、10年で約70%の生存率であるが、高齢者では予後不良である。CADは感染後2~3週の経過で消退し再燃しない。リンパ増殖性疾患に続発するものは基礎疾患によって予後は異なるが、この場合でも溶血が管理の中心となることは少ない。小児の感染後性のPCH は発症から数日ないし数週で消退する。強い溶血による障害や腎不全を克服すれば一般に予後は良好であり、慢性化や再燃をみることはない。
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.患者数(研究班による。溶血性貧血の有病者全体の推計数)
約2,600人
2.発病の機構
不明(自己免疫学的な機序が示唆される。)
3.効果的な治療方法
未確立(根本的治療法なし。)
4.長期の療養
必要(無期限の経過をとる場合あり。)
5.診断基準
あり(研究班作成の診断基準あり。)
6.重症度分類
研究班作成の自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の重症度分類において、Stage3以上を医療費助成の対象とする。ただし、薬物療法を行っていてヘモグロビン濃度10g/dL以上の者は対象外とする。
 
○ 情報提供元
「特発性造血障害に関する調査研究班」
研究代表者 東京大学医学部附属病院 血液・腫瘍内科 教授 黒川峰夫
 
 
<診断基準>
1.溶血性貧血(※)の診断基準を満たす。
2.広スペクトル抗血清による直接クームス試験が陽性である。
3.同種免疫性溶血性貧血(不適合輸血、新生児溶血性疾患)及び薬剤起因性免疫性溶血性貧血を除外する。
4.1.~3.によって診断するが、さらに抗赤血球自己抗体の反応至適温度によって、温式(37℃)の1)と、冷式(4℃)の2)及び3)に区分する。
1)温式自己免疫性溶血性貧血
臨床像は症例差が大きい。特異抗血清による直接クームス試験でIgGのみ、又はIgGと補体成分が検出されるのが原則であるが、抗補体又は広スペクトル抗血清でのみ陽性のこともある。診断は2)、3)の除外によってもよい。
2)寒冷凝集素症
血清中に寒冷凝集素価の上昇があり、寒冷曝露による溶血の悪化や慢性溶血がみられる。直接Coombs 試験では補体成分が検出される。
3)発作性寒冷ヘモグロビン尿症
ヘモグロビン尿を特徴とし、血清中に二相性溶血素(ドナート・ランドスタイナー(Donath-Landsteiner)抗体)が検出される。
5.以下によって経過分類と病因分類を行う。
急性:推定発病又は診断から6か月までに治癒する。
慢性:推定発病又は診断から6か月以上遷延する。
特発性:基礎疾患を認めない。
続発性:先行又は随伴する基礎疾患を認める。
6.参考
1)診断には赤血球の形態所見(球状赤血球、赤血球凝集など)も参考になる。
2)温式AIHAでは、常用法による直接クームス試験が陰性のことがある(クームス陰性AIHA)。この場合、患者赤血球結合IgGの定量が診断に有用である。
3)特発性温式AIHA に特発性血小板減少性紫斑病(ITP)が合併することがある(エヴァンズ症候群)。また、寒冷凝集素価の上昇を伴う混合型もみられる。
4)寒冷凝集素症での溶血は寒冷凝集素価と平行するとは限らず、低力価でも溶血症状を示すことがある(低力価寒冷凝集素症)。
5)自己抗体の性状の判定には抗体遊出法などを行う。
6)基礎疾患には自己免疫疾患、リウマチ性疾患、リンパ増殖性疾患、免疫不全症、腫瘍、感染症(マイコプラズマ、ウイルス)などが含まれる。特発性で経過中にこれらの疾患が顕性化することがある。
7)薬剤起因性免疫性溶血性貧血でも広スペクトル抗血清による直接クームス試験が陽性となるので留意する。診断には臨床経過、薬剤中止の影響、薬剤特異性抗体の検出などが参考になる。
 
 
(※)溶血性貧血の診断基準 
1.臨床所見として、通常、貧血と黄疸を認め、しばしば脾腫を触知する。ヘモグロビン尿や胆石を伴うことがある。
2.以下の検査所見がみられる。
1)へモグロビン濃度低下
2)網赤血球増加
3)血清間接ビリルビン値上昇
4)尿中・便中ウロビリン体増加
5)血清ハプトグロビン値低下
6)骨髄赤芽球増加
3.貧血と黄疸を伴うが、溶血を主因としない他の疾患(巨赤芽球性貧血、骨髄異形成症候群、赤白血病、先天性赤血球形成異常性貧血(congenital dyserythropoietic anemia)、肝胆道疾患、体質性黄疸など)を除外する。
4.1.2.によって溶血性貧血を疑い、3.によって他疾患を除外し、診断の確実性を増す。しかし、溶血性貧血の診断だけでは不十分であり、特異性の高い検査によって病型を確定する。
 
 
<重症度分類>
Stage3以上を対象とする。ただし、薬物療法を行っていてヘモグロビン濃度10g/dL以上の者は対象外とする。
 
温式自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の重症度基準
厚生労働省 特発性造血障害に関する調査研究班(平成16年度修正)

stage1

軽 症

薬物療法を行わないでヘモグロビン濃度 10 g/dL 以上

stage2

中等症

薬物療法を行わないでヘモグロビン濃度 7~10 g/dL

stage3

やや重症

薬物療法を行っていてヘモグロビン濃度 7 g/dL 以上

stage4

重 症

薬物療法を行っていてヘモグロビン濃度 7 g/dL 未満

stage5

最重症

薬物療法及び脾摘を行ってヘモグロビン濃度 7 g/dL 未満

 
 
※当該重症度基準は温式AIHAのものであるが、冷式AIHAについては、暫定的に当該重症度基準を使用する。ただしこの場合は最重症と診断しない。
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
 

本疾患の関連資料・リンク

自己免疫性溶血性貧血 診療の参照ガイド(平成25年度改訂版)
http://zoketsushogaihan.com/file/guideline_H25/5.pdf
血液系疾患調査研究班(特発性造血障害)
http://zoketsushogaihan.com/index.html


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情報提供者
研究班名 特発性造血障害に関する調査研究班
研究班名簿  研究班ホームページ 
情報更新日平成29年4月24日