再生不良性貧血(指定難病60)

さいせいふりょうせいひんけつ
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
再生不良性貧血は、末梢血で汎血球減少症があり、骨髄が低形成を示す疾患である。血球減少は必ずしも全ての血球というわけではなく、軽症例では貧血と血小板減少だけで白血球数は正常ということもある。診断のためには、他の疾患による汎血球減少症を除外する必要がある。特に診断が紛らわしい疾患は、骨髄異形成症候群(MDS)の不応性貧血(FAB 分類)である。骨髄不全が免疫学的機序によって起こっていることを示す発作性夜間ヘモグロビン尿症形質の血球(PNHタイプ血球)やHLAクラスIアレル欠失血球が検出される場合には再生不良性貧血と積極的に診断することができる。
 
2.原因
造血幹細胞が減少する機序として、免疫学的機序による造血幹細胞の傷害と造血幹細胞自身の質的異常の二つが重要と考えられている。後天性再生不良性貧血の大部分は造血幹細胞を選択的に傷害するTリンパ球と、それに伴って産生される造血抑制性サイトカインによって発症する。昨今、Tリンパ球による造血幹細胞の傷害を示唆する様々な証拠が得られつつあるが、Tリンパ球の標的となる自己抗原はまだ同定されていない。
 
3.症状
(1)貧血症状
顔色不良、息切れ、動悸、めまい、易疲労感、頭痛。
(2)出血傾向
皮膚や粘膜の点状出血、鼻出血、歯肉出血、紫斑など。重症例では眼底出血、脳出血、消化管出血、性器出血もみられる。
(3)感染症状
重症例では、顆粒球減少に伴う感染によって発熱がみられる。

4.治療法
支持療法
患者の自覚症状に応じて、ヘモグロビンを7g/dl 程度以上に維持するように白血球除去赤血球を輸血する。好中球数が 500/µl 未満で感染症を併発している場合には 顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF) を投与する。 血小板数が5千/μ l前後ないしそれ以下に低下し、出血傾向が著しい場合には重篤な出血を来す可能性があるので、出血傾向をみながら予防的な血小板輸血を行う。なお、発熱や感染症を合併している場合は出血傾向が増悪することが多いので、血小板数を1~2万/μ l以上に保つように計画的に血小板輸血を行う。
頻回の赤血球輸血のため血清フェリチンが1,000ng/mlを超える例に対しては輸血後鉄過剰症による臓器障害を軽減するためデフェラシロクスを投与する。

造血回復を目指した治療
①免疫抑制療法、②蛋白同化ステロイド療法、③トロンボポエチン受容体作動薬(TPO-RA)、④造血幹細胞移植がある。
Stage1及びStage2aに対する治療
血小板が10万/μ l未満の基準を満たす場合には、3.5㎎/㎏/日前後のシクロスポリンを開始し、血小板や網赤血球の増加がみられないかどうかを観察する。再生不良性貧血の診断基準を満たす場合でも、血小板が10万/μ l以上の例は免疫病態による骨髄不全ではないため、無治療で経過を観察するか、蛋白同化ステロイドの効果をみる。8週間以上シクロスポリンを投与しても反応がみられず、血球減少が進行する場合には、Stage 2b以上の治療方針に準じて治療する。血球減少の進行がない場合は、無治療で経過を観察するか、TPO-RAまたは蛋白同化ステロイドの効果をみる。

Stage2b以上の重症度で輸血を必要とする例に対する治療
ウサギATG(抗ヒト胸腺細胞ウサギ免疫グロブリン)、シクロスポリンならびにTPO-RAであるエルトロンボパグの併用療法か、40 歳未満で HLA一致同胞を有する例に対しては骨髄移植を行う。ATGとシクロスポリンの併用により、約6割の患者が輸血不要となるまで改善するが、さらにエルトロンボパグを併用すると奏効率が高くなる。成人再生不良性貧血に対する非血縁者間骨髄移植後の長期生存率は70%以下であるため、適応は免疫抑制療法の無効例に限られる。

難治例に対する治療
シクロスポリンやATGが無効であった再生不良性貧血の50%~80%にTPO-RAのエルトロンボパグまたはロミプロスチムが奏効する。これによって、従来は輸血依存性が改善しなかった例や、非血縁ドナーからの骨髄移植に進まざるを得なかった患者のかなりの例が救済されている。

なお、非重症例では骨髄細胞にしばしば形態異常がみられるため、芽球・環状鉄芽球の増加や染色体異常がないMDSとの鑑別は困難である。このため治療方針は病態に応じて決定する必要がある。免疫病態による(免疫抑制療法が効きやすい)骨髄不全かどうかの判定に有用な可能性がある検査所見として、PNHタイプ血球・HLAクラスIアレル欠失血球の増加、血漿トロンボポエチン高値(320 pg/ml以上)などがある。
 
5.予後
かつては重症例の約 50%が半年以内に死亡するとされていた。近年では、抗生物質、G-CSF、血小板輸血などの支持療法が発達し、免疫抑制療法や骨髄移植が発症後早期に行われるようになったため、約7割が輸血不要となるまで改善し、9割の患者が長期生存するようになっている。ただし、来院時から好中球数がゼロに近く、G-CSF 投与後も好中球が増加しない例の予後は依然として不良である。また、免疫抑制療法後の改善例においても、再生不良性貧血が再発したり、MDS や PNH に移行したりする例があるため、 これらの「failure」なく長期生存が得られる例の割合は 50%弱である。一部の重症例や発症後長期間を経過した例は免疫抑制療法によっても改善せず、定期的な赤血球輸血・血小板輸血が必要となっていたが、最近では、これらの例の約半数がTPO-RAによって改善するようになっている。赤血球輸血が度重なると糖尿病・心不全・肝障害などのヘモクロマトーシスの症状が現れる。また、免疫抑制療法により改善した長期生存例の約3%がMDS、その一部が急性骨髄性白血病に移行し、約5%がPNHに移行する。
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
7,593人
2.発病の機構
不明(造血幹細胞を特異的に傷害するTリンパ球が何らかの原因によって誘導されると考えられるが、その原因は不明。)
3.効果的な治療方法
未確立(支持療法、免疫抑制療法、蛋白同化ステロイド療法、TPO-RA、造血幹細胞移植などがあるが、造血幹細胞を傷害する機構を選択的に排除する方法は確立されていない。)
4.長期の療養
必要(最重症例の一部や発症後長期間を経過した例は免疫抑制療法やTPO-RAによっても改善せず、定期的な赤血球輸血・血小板輸血が必要。)
5.診断基準
あり(研究班による)
6.重症度分類
再生不良性貧血の重症度基準を用いて、Stage2以上を対象とする。
 
○ 情報提供元
「特発性造血障害に関する調査研究班」
研究代表者 獨協医科大学 血液・腫瘍内科 教授 三谷絹子
 
 
 
<診断基準>
再生不良性貧血の診断基準
Definiteを対象とする

A.血液検査所見
以下の3項目のうち、少なくとも2つを満たす。
①ヘモグロビン濃度:10.0g/dl 未満 ②好中球:1,500/µl 未満 ③血小板:10 万/µl 未満

B.骨髄検査所見
以下の1)、2)のいずれか1つ以上を認める。
1)骨髄穿刺所見(クロット標本を含む。)で、有核細胞は原則として減少するが、減少がない場合も巨核球の減少とリンパ球比率の上昇がある。造血細胞の異形成は顕著でない。
2)骨髄生検所見で造血細胞の減少がある。

C.鑑別診断
汎血球減少の原因となる以下の疾患
白血病、骨髄異形成症候群、骨髄線維症、発作性夜間ヘモグロビン尿症、巨赤芽球性貧血、癌の骨髄転移、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、脾機能亢進症(肝硬変、門脈圧亢進症など)、全身性エリテマトーデス、血球貪食症候群、感染症など。

<診断のカテゴリー>
Definite:AとBを満たし、Cを除外したもの。

D.参考となる検査所見
1)網赤血球や未成熟血小板割合の増加がない。
2)血清鉄値の上昇と不飽和鉄結合能の低下がある。
3)胸腰椎体の MRI で造血組織の減少と脂肪組織の増加を示す所見がある。
4)PNHタイプ血球が検出される。
 
 
<重症度分類>
Stage2以上を対象とする。
再生不良性貧血の重症度分類

Stage1 軽症 下記以外の場合

Stage2 中等症 下記の3項目のうち2項目以上を満たし、
好中球:1,000/µl 未満
血小板:50,000/µl 未満
網赤血球:60,000/µl 未満
Stage 2-a 赤血球輸血を必要としないもの。
Stage 2-b 赤血球輸血を必要とするが、その頻度は毎月2単位未満のもの。

Stage3 やや重症 下記の3項目のうち2項目以上を満たし、定期的な輸血を必要とする
好中球:1,000/µl 未満
血小板:50,000/µl 未満
網赤血球:60,000/µl 未満

Stage4 重症 下記の3項目のうち2項目以上を満たす
好中球:500/µl 未満
血小板:20,000/µl 未満
網赤血球:40,000/µl 未満

Stage5 最重症 好中球の 200/µl 未満に加えて、下記の2項目のうち1項目以上を満たす
血小板:20,000/µl 未満
網赤血球:20,000/µl 未満

注)定期的な輸血とは、毎月2単位以上の赤血球輸血が必要な時をいう。

 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
 

令和6年4月1日

情報提供者
研究班名 特発性造血障害に関する調査研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和6年4月(名簿更新:令和5年6月)