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筋萎縮性側索硬化症(ALS)

きんいしゅくせいそくさくこうかしょう

(認定基準、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

■概念・定義

主に中年以降に発症し、一次運動ニューロン(上位運動ニューロン)と二次運動ニューロン(下位運動ニューロン)が選択的にかつ進行性に変性・消失していく原因不明の疾患である。症状は、筋萎縮と筋力低下が主体であり、進行すると上肢の機能障害、歩行障害、構音障害、嚥下障害、呼吸障害などが生ずる。一般に感覚障害や排尿障害、眼球運動障害はみられないが、人工呼吸器による長期生存例などでは、認められることもある。病勢の進展は比較的速く、人工呼吸器を用いなければ通常は2~5年で死亡することが多い。

■疫学

発病率は人口10万人当たり1.1~2.5人で、50歳未満の発症は少なく、50歳代から発症率が上昇しはじめて、60歳代から70歳台で最も発症率が高く、80歳台では減少傾向となる。有病率は 人口10万人当たり7~11人人で、本邦では紀伊半島に多発地域がある。男性が女性に比べて1.2-1.3倍程度発症率が高い。平成25年度の特定疾患医療受給者数によると全国で約9,200人がこの病気に罹患している。発病危険因子として喫煙が確立したリスクである。

■病因

筋萎縮側索硬化症(ALS)のうち約5%は家族歴を伴い、家族性筋萎縮側索硬化症(家族性 ALS)とよばれる。家族性ALSの約2割では、フリーラジカルを処理する酵素であるCu/Zn superoxide dismutase (SOD1) 遺伝子の変異が報告されている(ALS1)。この遺伝子異常を導入したマウスおよびラットが確立され、広く病態研究に用いられている。その他に angiogenin, vesicle-associated membrane protein/synaptobrevin-associated membrane protein B (VAPB), TAR DNA-binding protein (TDP43), fused in sarcoma (FUS), valosin-containing protein (VCP), ubiquilin 2, C9ORF72, SQSTM1, TUBA4A遺伝子などに異常が次々に報告されている。日本の研究者によっても細胞内シグナル伝達に重要な役割を果たすNF-κB(nuclear factor-kappa B)を制御するoptineurin遺伝子が新たな原因遺伝子であることが報告された。また、アラブ諸国に見られ、25歳以前に発病し、緩徐進行性である 稀な ALS2 の原因遺伝子として guanine-nucleotide exchange factor である alsin が日本の研究者によって報告されている。我が国でも患者の報告がされた。
孤発性ALSの病態としてはフリーラジカルの関与やグルタミン酸毒性、なかでもグルタミン酸受容体のサブタイプである AMPA受容体を介したグルタミン酸により神経障害をきたすという仮説が有力である。ヒトALS運動ニューロンではそのAMPA受容体のサブユニットである GluR2 Q/R部位のRNA編集率が低下しており、孤発性ALSの病態に重要な役割を果たしていることが報告されている。また孤発性ALSの多数症例を用いてゲノムワイドに疾患感受性遺伝子を探索する研究も進行中である。その他に運動ニューロン死の機序としては、ウイルス感染、慢性炎症、慢性虚血など様々の仮説が提唱されている。

■症状

基本的には一次運動ニューロン障害の症候として、痙縮、腱反射亢進、手指の巧緻運動障害、病的反射の出現がみられ、二次運動ニューロン障害の症候として、筋力低下、筋萎縮、筋弛緩、線維束性収縮が認められる。発語、嚥下に関与する筋を支配する運動ニューロンが障害されると、構音障害、嚥下障害をきたし、呼吸筋を支配する運動ニューロンが障害されると呼吸障害を起こす。病初期には下位運動ニューロン障害、もしくは上位運動ニューロン障害のみが前景となることがあるが、最終的には上位運動ニューロンと下位の運動ニューロンが共に障害される。ただし、下位運動ニューロン症候が強い場合には、上位運動ニューロン症候が覆い隠される傾向がある。
ALSは発症様式により、(1)上肢の筋萎縮と筋力低下が主体で、下肢は痙縮を示す上肢型(普通型)、(2)言語障害、嚥下障害 など球症状が主体となる球型(進行性球麻痺)、(3)下肢から発症し、下肢の腱反射低下・消失が早期からみられ、二次運動ニューロンの障害が前面に出る下肢型(偽多発神経炎型)、の3型に分けられることがある。これ以外にも呼吸筋麻痺が初期から前景となる例や、体幹筋障害が主体となる例、認知症を伴う例などもあり多様性がみられる。最近の報告ではALSの約2割に認知症が合併し、その割合は病期の進行に伴い増加するとされている。特に前頭葉機能の低下(行動異常や意欲の低下、言語機能の低下)が前景に立つ。

■治療

欧米における治験で、グルタミン酸拮抗剤リルゾール(商品名 リルテック)が生存期間を僅かであるが有意に延長させることが明らかにされ、1999年より本邦でも認可された。米国神経学会(American Academy of Neurology http://www.neurology.org/)のガイドライン(2009年)でもレベルA(有効な治療法として確立している)となっている。日本神経学会のガイドラインでもグレードA(強い科学的根拠があり、行うよう強く勧められる)である。
リルゾールのほかにも、近年、病勢の進行を遅らせる目的で数種類の薬剤が開発され、治験進行中ないし、治験計画中である。2015年3月時点において本邦で行われている治験としてはメチルコバラミンの大量投与(エーザイ株式会社)の二重盲検比較試験、Ozanezumabの筋萎縮性側索硬化症に対する臨床評価(グラクソ・スミスクライン株式会社) およびロボットスーツHAL(Hybrid Assistive Limb)が進行中だが、いずれもエントリーは終了した。肝細胞増殖因子(HGF)の髄腔内投与治験はフェーズI試験(安全性と薬物代謝の確認)が終了して次試験の準備中である。最新の臨床研究(試験)に関しては国立保健医療科学院の臨床研究情報検索サイトhttp://rctportal.niph.go.jp/で検索できる。
筋力低下や痙縮に伴って様々な二次的症状が出現する。不安や抑うつには安定剤や抗うつ薬を用い、痙縮が著しい場合は、抗痙縮剤を用いる。筋力低下に伴って関節運動やさらには体動ができなくなって、痛みや関節拘縮が出現する。痛みに対しては鎮痛剤や湿布薬を使用し、関節拘縮の予防には定期的なリハビリが必要である。呼吸障害に対しては、非侵襲的な呼吸補助と気管切開による侵襲的な呼吸補助がある。嚥下障害には、食物の形態を工夫(原則として柔らかく水気の多いもの、味の淡泊なもの、冷たいものが嚥下しやすい)する、少量ずつ口に入れて嚥下する、顎を引いて嚥下するなど摂食・嚥下の仕方 に注意する。嚥下障害の進行した場合、胃瘻形成術、経鼻経管栄養、経静脈栄養などを考慮する必要がある。現在の大勢は内視鏡的胃瘻形成術(PEG)である。継続して喀痰の吸引が必要な時には、専用のカニューレと吸引器を組み合わせた自動吸引器も工夫されている。
また進行に伴いコミュニケーション手段を考慮することが重要である。球麻痺がある場合は筆談が可能かどうか、コンピュータなどの入力が可能かどうか、など症状に応じた手段を評価し、早めに新たなコミュニケーション手段の習得を行うことが大切である。体や目の動きが一部でも残存していれば、適切なコンピューター・マルチメディア、意思伝達装置および入力スイッチの選択により、コミュニケーションが可能となることが多い。脳波を使う方法も報告されている。
いずれにせよ症状が進行する前に予め、どのような治療法を選択するかの話し合いを早めに、十分に時間をかけて行うことが大切である。患者さん自身に良く病態を理解していただき、治療法を選択してもらうことを目指す必要がある。

■予後

症状の進行は比較的急速で、発症から死亡までの平均期間は約3.5年といわれているが正確な調査はなく、個人差が非常に大きい。進行は球麻痺型が最も速いとされ、発症から3か月以内に死亡する例もある。一方では、進行が遅く、呼吸補助無しで10数年の経過を取る例もあり、症例ごとに細やかな対応が必要となる。

■自然歴の全国調査JaCALS

ALSをはじめとする神経変性疾患では、わが国の患者における自然歴を前向きに調査したデータが皆無であり、今後限られた 患者数 のなかで有効な臨床試験をデザインしていくうえで非常に重要な課題である。この問題の解決を目的の一つとしたALS患者の臨床情報と遺伝子を併せた大規模 な調査研究が厚生労働省「神経変性疾患に関する調査研究」班(研究代表者 中野今治)を中心として開始された (JaCALS http://www.jacals.jp/ 事務局は名古屋大学神経内科)。2015年1月現在で登録症例はALS 1,014例、対照309例となっている。今後はこの自然歴調査と臨床試験が同時並行で進行していくことが想定されるが、疾患頻度の低い神経変性疾患では、観察研究と臨床治験が上手に情報を共有しながら進んでいくことが、質の高いアウトカムを得るうえで重要と考えられる。

参考文献

筋萎縮性側索硬化症診療ガイドライン2013 監修 日本神経学会 南江堂


治験情報の検索:国立保健医療科学院
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情報提供者
研究班名 神経変性疾患領域における基盤的調査研究班
研究班名簿  研究班ホームページ 
情報更新日平成27年3月2日