原発性高カイロミクロン血症(指定難病262)

げんぱつせいこうかいろみくろんけっしょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1. 「原発性高カイロミクロン血症」とはどのような病気ですか

高カイロミクロン血症とは、血液の中にカイロミクロンが蓄積する病気です。食物に含まれる脂質(中性脂肪(脚注1))は、腸管(小腸)でカイロミクロンという粒子になり血中に入ります。腸管でのカイロミクロンの産生が増えたり、カイロミクロンを分解する酵素の働きが妨げられたりすると、高カイロミクロン血症となります(よくある質問のQ1参照)。高カイロミクロン血症では、著しい高中性脂肪血症(通常1,000mg/dL以上)となり、血液が牛乳のように白濁します(これを乳糜(にゅうび)血清といいます)(よくある質問のQ2参照)。
基本的に無症状なことが多く、健康診断などでの血液検査の際に、偶然に極端な中性脂肪の高値や乳糜血清を指摘される場合もありますが、時に命にかかわる合併症(急性膵炎)の原因となる場合もあります。カイロミクロンは巨大な粒子で、膵臓の血管や周りの細胞を傷つけると、急性膵炎となります。急性膵炎は、耐え難いような激しい腹痛、嘔気・嘔吐、ショックを起こして時に致死的となる病気であり、しっかりとカイロミクロンを減らすため血中の中性脂肪値を下げる必要があります。
高カイロミクロン血症には、遺伝・体質によるものと、生活習慣や他の病気により起こるものがあります。遺伝・体質により高カイロミクロン血症となる場合を、原発性高カイロミクロン血症といいます。生活習慣や他の病気により起こるものを二次性高カイロミクロン血症といいます。原発性高カイロミクロン血症は、今ある治療方法では中性脂肪値が十分に下がらないことも多く、膵炎のリスクが高いことから、現在、国の指定難病に登録されています。
脚注1)中性脂肪:トリグリセライド(TG)とも呼ばれます。血液検査では、TGと記載されていることもあります。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

原発性高カイロミクロン血症の患者さんは、以前の調査(原発性高脂血症調査研究班(垂井班)による全国調査(1986)および厚生省特定疾患難病の疫学研究班(青木班)の協力によるもの)では、日本国内には少なくとも300名以上の方がいると推計されています。遺伝子変異による原発性高カイロミクロン血症は50〜100万人に1人程度と言われています。自己抗体が原因の原発性高カイロミクロン血症の頻度はまだ明らかではありません。
後天的な原因(アルコール多飲、肥満、糖尿病など)によっておこる二次性高カイロミクロン血症はもっと多いのですが、全体の数はまだ明らかではありません。

3. この病気はどのような人に多いのですか

<遺伝子変異が原因の場合>
遺伝子変異が原因となる原発性高カイロミクロン血症は、幼小児期から高中性脂肪血症がある場合、腹痛などの膵炎を疑わせる症状を繰り返す場合、妊娠中に重度な高中性脂肪血症となる場合(脚注2)、環境要因(アルコール多飲、糖尿病、肥満など)に気をつけても重度な高中性脂肪血症が持続する場合、薬物療法が無効な場合に多いと言われています。健康診断がきっかけで見つかることもあります。
体の中の一対の遺伝子は、基本的に、父親由来と母親由来それぞれ1つずつ、2つの遺伝子を受け継いでいます。遺伝子変異が原因の原発性高カイロミクロン血症は、通常、父親由来と母親由来の遺伝子の両方に変異がある場合に病気となります。したがって、ご両親に血族結婚がある場合には、遺伝子の変化が集積しやすく高カイロミクロン血症を発症しやすくなります。ご両親に血族結婚がない場合でも、ご両親が血族結婚の多い同じ地域のご出身の場合にこのような遺伝子変異が重なることがあります。

<自己抗体が原因の場合>
自己抗体が原因となる高カイロミクロン血症は、どのような人に多いのか完全には分かっていませんが、自己抗体が原因となるそのほかの病気(自己免疫疾患や膠原病などといいます)がある場合に多いと言われています。

脚注2)妊娠中は健常な方でも血中の中性脂肪値が増加しますが、妊娠中に重度な高中性脂肪血症をきたし高カイロミクロン血症による膵炎が引き起こされる場合には、原発性高カイロミクロン血症が多いと言われています。

4. この病気の原因はわかっているのですか

原発性高カイロミクロン血症の原因としては、カイロミクロンを代謝する酵素(リポ蛋白リパーゼ)に関連する遺伝子群の変異や、リポ蛋白リパーゼに関連する遺伝子が作る蛋白を攻撃する蛋白(これを自己抗体と呼びます)が知られています。しかし、原発性高カイロミクロン血症が疑われるケースのうち、原因が特定できているケースは30-40%以下と報告されており、全てが分かっているわけではありません。
原発性高カイロミクロン血症の原因
<遺伝子変異によるもの>
リポ蛋白リパーゼ(LPL)やその機能を助ける蛋白(アポリポ蛋白C-II(APOC2)、アポリポ蛋白A-V(APOA5)、GPIHBP1、LMF1)の各遺伝子の変異が知られています。それぞれ、家族性 LPL欠損症、家族性APOC2欠損症、APOA5異常症、GPIHBP1異常症、LMF1異常症などと呼ばれています。
<自己抗体によるもの>
自分を攻撃する蛋白(自己抗体といいます)を自分の体が作ってしまうことがあり、これを自己抗体と言います。GPIHBP1などに対する自己抗体が原因の原発性高カイロミクロン血症も報告されています。
*原発性高カイロミクロン血症は、後天的な要因(生活習慣や中性脂肪値が上昇する病気)による影響で高カイロミクロン血症が悪化する事があり注意が必要です(詳しいリストについては、よくある質問のQ3参照)。

5. この病気は遺伝するのですか

病気の原因が遺伝子変異による場合には、遺伝する可能性があります。この病気の場合、典型的には遺伝子変異が父親由来と母親由来の遺伝子の両方に認められる場合に病気となりますが、遺伝子の変異が一つ(片親由来)だけの場合でも、遺伝子の変異の種類によっては高中性脂肪血症をきたす場合もあります。

6. この病気ではどのような症状がおきますか

血中の中性脂肪値が高いだけでは痛みや倦怠感などの自覚症状をきたすことはほとんどありません。しかし、カイロミクロンが血液の中で大量に停滞することにより症状をきたすことがあります。
もっとも重大な合併症は、急性膵炎です。急性膵炎になった場合は、腹痛、背部痛、悪心、嘔吐などの症状が出ます。時に致死的な病気ですので、もし発症してしまった場合には、すみやかに治療を受けることが大切です。
他にも、血液、眼、皮膚、腹部臓器の異常をきたすことがあります。これらはいずれもそれ自体が病気というわけではなく、痛みなどの症状もありませんが、このような症状がある場合は、中性脂肪値が著しく高く、膵炎のリスクも高くなりますので、再検査を受けるなど、しっかりと経過を観察しましょう。

・皮膚の症状:四肢伸側、臀部、肩などに、小さなピンクがかった黄色い発疹が出る(発疹性黄色腫といいます)。カイロミクロンをためこむ細胞が原因です。
・血液の見かけの異常:血に牛乳が混ざったような白色ピンク状になる(乳糜(にゅうび)血清)。カイロミクロンが血液に溜まることが原因です。健診など偶然受けた血液検査で、採血した血液の見た目で指摘されることもあります。
・眼科的な異常:眼底検査で、網膜の血管が乳糜色に見える(網膜脂血症)。
・腹部の異常:肝臓や脾臓が大きくなる(肝腫大、脾腫)。これらの臓器にある細胞がカイロミクロンをためこむことが原因です。

7. この病気にはどのような治療法がありますか

治療は、食事療法、薬物療法、後天的な要因のコントロールが中心となります。

<食事療法(脂肪摂取制限など)> 現在のところ、有効な治療薬は乏しいため、中心となる治療法は、脂肪摂取制限です。食事中の脂肪の摂取を1日に15〜20g以下、あるいは、総カロリーの15%以下に抑えるようにします。乳児の場合には、中鎖脂肪酸(medium chain triglyceride(MCT))のミルクや脱脂粉乳を与えます。大人でも、MCTを調理に使うと効果が得られるかもしれません。管理栄養士による栄養相談を受けるなどして、脂肪摂取制限を続けていくことが大切です。
妊娠中の場合には特に中性脂肪値があがりやすいため、1日2g以下の脂肪制限をすることもあります(妊娠中期や後期で1日2gの脂肪制限によっても新生児に影響がなかったとの報告があります)。
炭水化物の取り過ぎも中性脂肪を増やしてしまうことで、カイロミクロンの増加につながります。過食からの肥満や糖尿病も悪化の原因となります。炭水化物の過剰な摂取に気をつけ、適切なエネルギーを摂取することが大切です。

<薬物療法>
中性脂肪値の低下に効果のある高脂血症治療薬(フィブラート系薬、選択的PPARαモジュレーター、n-3系多価不飽和脂肪酸製剤など)が使われます。今ある治療薬ではそれほど大きな効果は期待できないのですが、血中の中性脂肪値を少しでも下げることが大切です。なお、魚油のサプリメントによって高カイロミクロン血症が悪化したとの報告もあり、脂肪酸製剤の投与にあたってはその用量や治療効果に注意する必要があります。

<後天的な要因のコントロール>
高カイロミクロン血症は、後天的な原因で増悪しますので、そのような原因があれば後天的な原因を除去・治療することが大切です(詳しいリストについては、よくある質問のQ3参照)。特に、糖尿病やアルコール多飲が原因となることが多く、糖尿病の検査や治療、アルコール制限(節酒や禁酒)が大切です。肥満の治療も大切です。ただし、極端な減量を行うと、その後再び体重が増えた場合にかえって高中性脂肪血症が悪化し、急性膵炎を引き起こす危険があるため、注意が必要です。

<膵炎の治療>
急性膵炎が起きた場合には、通常の急性膵炎に準じた治療(絶食、低カロリー輸液など)を行います。著しい高中性脂肪血症による急性膵炎の場合には、血漿交換療法も治療の選択肢となる場合があります。なお、特殊なケースで有効な治療法として、家族性アポリポ蛋白C-II欠損症の場合には、急性膵炎などの緊急時に新鮮凍結血漿の輸血(アポリポ蛋白C-IIが補充される)が有効と報告されています。

今後、有効で安全な治療薬の開発に期待が寄せられています。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか

経過は、原因によって異なります。重症なケースでは、血中の中性脂肪の値が非常に高く、乳幼児期など早期に発症しますが、中には、中性脂肪値が低めで、成人になってから健康診断で見つかる場合もあります。
急性膵炎は、中性脂肪値が高いほど起きやすいと言われています。一般的に、1,000mg/dL以上となった場合に急性膵炎を発症する可能性が高くなります。ただし、それ以下でも発症することがありますので注意が必要です。
乳幼児期に発症するケースと、成人期に発症するケースを比較すると、乳幼児期に発症するケースの方が、血中の中性脂肪の値はもともと高いにも関わらず、若い頃から食事療法をしっかり覚えられるために、逆に膵炎の発症率は低いと言われています。脂肪摂取制限が病気のコントロールに大事であることを物語るエピソードです。

9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか

<食事療法、運動療法、薬物療法>
中性脂肪値をできるだけ下げて膵炎を予防するために、管理栄養士による栄養相談などを受けながら、脂肪の多い食事を避けます。高カイロミクロン血症が悪化するような二次的な原因(アルコール多飲、肥満、糖尿病など(詳しいリストはよくある質問のQ3参照))を、できる限り避けることも大切です。食事の取りすぎや、糖質や炭水化物の取りすぎに注意し、お酒を控え、適切な運動を心がけ、適正な体重の維持を心がけましょう。
中性脂肪値を下げるお薬をしっかりと飲むことも大切です。

<その他の注意点>
定期的な検査や健康診断が大切です。高中性脂肪血症を増悪させる薬剤も知られていますので(詳しいリストはよくある質問のQ3参照)、お薬をもらうときは主治医や薬剤師に確認してもらいましょう。高中性脂肪血症は動脈硬化のリスクとしても知られるため、健康的な生活を心がけて動脈硬化のリスク(糖尿病、高血圧、喫煙、肥満など)を少なくしておくと良いでしょう。

<妊娠>
妊娠は高中性脂肪血症を悪化させ、妊娠中の急性膵炎のリスクとなります。妊娠にあたっては主治医とよく相談し、妊娠前から中性脂肪値のコントロールを心がけましょう。妊娠中は定期的な検査を行い、産科医ともよく相談し、中性脂肪の値が上昇しないように、早めの治療(より厳格な脂肪摂取制限や、著しい高中性脂肪血症の場合は入院管理の検討など)が大切です。

<治療を中断しないこと>
治療の中断は、高中性脂肪血症の増悪や急性膵炎発症の大きなリスクになります。定期的な通院を欠かさず、症状がない場合でも、治療をしっかりと継続しましょう。乳糜血清、発疹性黄色腫、腹痛など、気になる症状があれば早めに受診し、膵炎を予防することが大切です。

10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

該当する病名はありません。

 

情報提供者
研究班名 原発性脂質異常症に関する調査研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和5年10月(名簿更新:令和5年6月)