非特異性多発性小腸潰瘍症(指定難病290)

ひとくいせいたはつせいしょうちょうかいようしょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1. 「非特異性多発性小腸潰瘍症」とはどのような病気ですか

非特異性多発性小腸潰瘍症は、1968年に九州大学の岡部博士、崎村博士によってはじめて報告された小腸に潰瘍が多発する、まれな腸の病気です。主に思春期に、高度の低蛋白血症による手足のむくみ、貧血や腹痛といった症状で発症します。これまで原因は不明とされていましたが、最近遺伝性の病気であることが判明しました。内視鏡検査やX線検査のみでは診断が困難な場合があり、尿検査、 生検組織 の免疫染色や遺伝子解析が診断に有用である可能性が指摘されています。難治性・再発性の経過をたどり、腸管 狭窄 に対し、内視鏡的バルーン拡張術や手術が必要になることもあります。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

日本に200名程度いると推測されています。

3. この病気はどのような人に多いのですか

男性と女性の比は約1:2とされており、女性に多くみられます。10~20歳代で発症することが多いといわれています。

4. この病気の原因はわかっているのですか

近年、非特異性多発性小腸潰瘍症の原因として、遺伝学的検査におけるSLCO2A1遺伝子の病的バリアント(変異)が 同定 されました。SLCO2A1遺伝子は、小腸粘膜の保護作用を持つプロスタグランジンという物質の輸送に関与するタンパク質をコードしています。同遺伝子 変異 によって、小腸粘膜でプロスタグランジンを利用することができなくなり、潰瘍が発生するものと考えられていますが、まだ詳しいメカニズムはわかっていません。SLCO2A1遺伝子は、肥厚性皮膚骨膜症の原因遺伝子としても知られており、肥厚性皮膚骨膜症の症状を伴う場合もあります。

5. この病気は遺伝するのですか

この病気は、基本的には「 常染色体潜性遺伝(劣性遺伝) 形式」という遺伝形式で遺伝します。2本存在する染色体のうち一方のみSLCO2A1遺伝子の病的バリアント(変異)を持っている人(保因者)同士の子どもの4人に1人が病気になる可能性があります。しかし、通常の「常染色体性潜性遺伝(劣性遺伝)病」と異なり、両方の染色体にSLCO2A1遺伝子の病的バリアント(変異)があっても必ずしもこの病気になるわけではないようです。女性に多いことを考えると、性関連遺伝子や性ホルモンなどの他の要因もこの病気の発症に関係しているようです。

6. この病気ではどのような症状がおきますか

慢性的に小腸潰瘍や十二指腸潰瘍から出血するため、低蛋白血症による手足のむくみや貧血がおきます。また腹痛や下痢のほか、小腸や十二指腸の狭窄による腸閉塞を起こすこともあります。肥厚性皮膚骨膜症の症状として、ばち指、皮膚の肥厚といった症状を伴うこともあります。

7. この病気にはどのような治療法がありますか

貧血に対して鉄剤の内服、低蛋白血症に対しアルブミン製剤の点滴投与などの対症療法と栄養状態改善のための経腸栄養療法が治療の基本となります。重症例では入院、絶食の上、点滴による栄養補給が必要となります。また腸管狭窄による症状がある場合は、内視鏡的バルーン拡張術や外科手術も行われますが、根治療法はありません。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか

根治療法がないため、難治性・再発性の経過をたどります。潰瘍ができたり(治療効果で)治ったりを繰り返すことで小腸が狭くなり、小腸を切除する手術が必要になることがあります。複数回の小腸切除によって腸が短くなり、小腸での栄養吸収が十分にできなくなる、いわゆる短腸症候群をきたすこともあります。また、近年、中心静脈カテーテル留置による血栓症発症のリスクがある可能性が指摘されており、注意が必要です。

9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか

腸の負担を減らすために、 低残渣 ・低脂肪食に加え経腸栄養剤による栄養療法を行うべきです。過度な運動やストレスを避けることも必要です。

10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

別名又はこの病気に含まれる病名
・SLCO2A1遺伝子関連腸症(Chronic enteropathy associated with SLCO2A1: CEAS)
深く関連する病名
・肥厚性皮膚骨膜症(指定難病165)

11. この病気に関する資料・関連リンク

八尾恒良,飯田三雄,松本主之,他.慢性出血性小腸潰瘍 いわゆる非特異性多発性小腸潰瘍症.小腸疾患の臨床.医学書院,176-186,2004
 
松本主之,中村昌太郎,江崎幹宏,他.非特異性多発性小腸潰瘍症の小腸内視鏡所見 非ステロイド性抗炎症剤起因性小腸潰瘍症との比較.胃と腸 41:1637-1648,2006
 
内田恵一、牛島高介、中島淳、他.腸をもっと知る 非特異性多発性小腸潰瘍.小児外科 47: 408-412, 2015

松本主之、梅野淳嗣、江崎幹宏、他.非特異性多発性小腸潰瘍症/CEASとプロスタグランジン腸症.胃と腸 52: 1406-1410, 2017

梅野淳嗣、江崎幹宏、平野敦士、他.非特異性多発性小腸潰瘍症/CEASの臨床像と鑑別診断.胃と腸 52: 1411-1422, 2020

梅野 淳嗣, 江﨑 幹宏, 松本 主之. 非特異性多発性小腸潰瘍症(CEAS)の病態と特徴. 日本消化器内視鏡学会雑誌 62: 1457-1466, 2020

内田恵一、井上幹大、小池勇樹、他.小児外科疾患における公費負担医療の種類と申請方法 非特異性多発性小腸潰瘍症.小児外科 53: 332-336, 2021

非特異性多発性小腸潰瘍症の移行期支援ガイド

 

情報提供者
研究班名 希少難治性消化器疾患の長期的QOL向上と小児期からのシームレスな医療体制構築班
研究班名簿 
情報更新日 令和5年11月(名簿更新:令和5年6月)