肋骨異常を伴う先天性側弯症(指定難病273)

ろっこついじょうをともなうせんてんせいそくわんしょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1. 背骨が曲がる病気を理解する上で必要な基礎知識

“背骨”が側方に曲がる疾患の総称を脊柱側弯症(側弯症)と呼びます。脊柱が曲がる病気には、その他に前に曲がる脊柱前弯症、後ろに曲がる脊柱後弯症があり、この3者が複雑に混じり合うことも少なくありません。その原因は未だ不明ですが、いろいろな病態で生じることが知られています。脊柱側弯症は、成長時期に悪化するものと、年をとるにつれて真っ直ぐであった背骨が徐々にすり減って曲がっていくものに分けることができます。後者は 変性 側弯症と呼ばれ、加齢変化、姿勢や使い方がその発生と進行に関与していると考えられています。しかし、ここで述べる側弯症は前者の成長期に悪化する病気です。この中には種々の病気を原因とした側弯症が含まれていますが、その一つに生まれつき椎骨(背骨の一つ一つの骨)の形に異常があり、それを原因に背骨が曲がる側弯症があります。この病気を 先天性 側弯症と呼びます。その発生原因は未だ不明ですが、いろいろな先天性の病気に合併して発生することが知られています。肋骨の先天性癒合や欠損などの形態異常もその中の一つです。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

肋骨異常を伴う先天性側弯症の発生頻度は残念ながら正確にはわかっていません。その理由は、軽度なものは症状を出さない場合もあるので、気づかれないこともあるからです。先天性の脊椎形態異常が背骨や肋骨の広い範囲に生じて、それに伴って肋骨が高度に変形し、胸郭の変形を来して呼吸の障害を引き起こすこともあり、この病態を他の疾患が原因で生じる高度脊柱側弯症も含めて、胸郭不全症候群(Thoracic insufficiency syndrome、TIS)と呼びます。その発生率を調査するため、厚生労働省科学研究費の補助を受けた胸郭不全症研究班により、2008年から2010年の3年間に人口変動の比較的少ない4県の出生児の調査を行いました。同期間の総出生数181468人で、その内、胸郭と胸椎に変形を認めた出生児は25人で、発生率は0.0138%でした。この発生率を本邦全体に当てはめると、日本では1年間に141.9人の肋骨異常を伴う先天性側弯症が発生していることになります。あくまでも概算ですが、一つの目安となります。

3. この病気の原因はわかっているのですか、この病気は遺伝するのですか

先天性側弯症の原因に関して、サリドマイドなど一部の化学物質が高度の先天性奇形を引き起こすことはわかっていますが、その他の原因の多くは未だ不明です。ほとんどの症例は孤発性ですが、稀に 家族性 の先天性側弯症も報告されており、何らかの遺伝的要素が影響している可能性が指摘されていました。近年の遺伝子解析技術の進歩により、いくつかの先天性側弯症および、胸郭変形を合併した先天性側弯症(脊椎肋骨異骨症)の原因となる遺伝子(TBX6遺伝子、LFNG遺伝子など)が明らかとなってきました。現在までのところ、先天性側弯症の約10%程度が遺伝的な要因で発症するということが明らかとなっています。

4. この病気ではどのような症状がおきますか

先天性側弯症では椎骨が変形して生まれてきますが、その多くは軽度な側弯や後弯などの背骨の変形しか生じず、大人になってから偶然に発見されることも少なくありません。難病として指定されている状態は、先天性側弯症が成長期に重度に悪化し肋骨異常を生じる状態、もしくは生まれつき肋骨の異常(癒合や欠損)と重度の先天性側弯症が生じる状態です。症状としては、1)外見:非対称性の肩、胸郭、肩甲骨、ウエストライン、2)頭が体幹の中央に位置しない崩れた体幹バランス、3)胸郭変形から生じる呼吸機能障害(肺活量の減少)、4)背中や腰の痛み、などです。これらの症状は最初から生じるのではなく、成長により変形の悪化にともなって徐々に生じてくることが多いのですが、中には幼小児期から大変 重篤 な呼吸機能障害や体幹の変形を伴うこともあり、症状の程度は様々です

5. この病気にはどのような治療法がありますか

残念ながら、根本的な治療法はありません。現在行われている治療法として、下記の方法が患者さんの状態に応じて選択されています。
1)早期発見と経過観察:早期に発見し、その後の進行を慎重に評価します。これらの経過を参考にして、以下に述べる治療法をいつ、どのように行うか、を決定します。
2)矯正ギプス、矯正装具治療:先天性側弯症以外の側弯症では、比較的多くの患者さんに用いられる治療法ですが、先天性側弯症に対しての効果は限られています。上記の経過観察において側弯の進行があり、かつ側弯が比較的柔らかく、矯正が期待される場合に行います。
3)手術:側弯や胸郭の変形を、背骨や胸郭の成長を温存しながら矯正し、変形の悪化を予防します。本疾患に対する手術には様々な方法があり、それぞれの病態に合わせて主治医と患者さん、そしてご家族と相談して決定します。特に、側弯の大きさのみならず、胸郭の変形の程度、手術時の年齢を考慮する必要があります。
4)呼吸管理治療:呼吸の障害がある患者さんに、主に小児科医師により行われる治療です。酸素吸引、人工呼吸器や体外式の呼吸サポートなど、呼吸を何らかの形でサポートします。

6. この病気はどういう経過をたどるのですか

各患者さんの経過には大きな差があります。脊椎変形のタイプや範囲、部位により側弯や胸郭変形の進行の程度は異なります。長期的な問題として、この疾患では幼小児期には軽度であっても成長により悪化し、高度な側弯や胸郭変形となってしまう患者さんがいることです。スウェーデンで行われた長期経過の調査では、幼小児期から進行した側弯症例の死亡率が40代前後で一般の人達の死亡率の3倍に達していて、胸郭変形から生じる呼吸不全が大きな原因の一つとなっていました。

7. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか

この病気は幼小児期から高齢期まで、すべての年代で生活に影響を与える可能性があります。しかし、その症状の程度は病態や進行の程度によって異なりますので、詳しくは主治医に尋ねてください。

8. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

該当する病名はありません。

9. この病気に関する資料・リンク

http://www.srs.org
http://www.sokuwan.jp/
http://www.j-sdi.org
http://www.honetto.com/
http://hosd.or.jp/

 

情報提供者
研究班名 呼吸器系先天異常疾患の医療水準向上と移行期医療に関する研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和4年12月(名簿更新:令和5年6月)