特発性後天性全身性無汗症(指定難病163)
1. 「特発性後天性全身性無汗症」とはどのような病気ですか
運動をした時とか暑くて気温の高い環境にいても汗をかくことができない病気を無汗症といいます。無汗症には、生まれつき遺伝する先天性無汗症のほか、大人になって後天性(生まれつきではない)に発症する後天性無汗症があります。特発性後天性全身性無汗症は、後天的に明らかな原因がなく汗をかくことができなくなり血圧が低くなるなどの他の自律神経異常および神経学的異常を伴わない疾患と定義されています。患者さんは体温調節に重要な汗をかくことが少なくなるので、運動や暑いところで簡単に体温が上昇して熱中症などになりやすくなります。
2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか
令和3年度末の特定医療費(指定難病)受給者証所持者数は全国で551名と非常にまれな病気であるものの、患者数は年々増加しています。実際は病院に受診できていない患者さんもいると考えられますので、患者数はもっと多い可能性があります。
3. この病気はどのような人に多いのですか
欧米人より日本人のほうが圧倒的に多いと考えられています。また、10~30歳代の若い男性に多いとされています。また、もともとたくさん汗をかくことが多い職業やよく運動をしている人に発症しやすいです。
4. この病気の原因はわかっているのですか
原因はまだわかっていません。汗を出すエクリン汗腺(えくりんかんせん)という器官のアセチルコリン受容体にアセチルコリンという 神経伝達物質 が結合することにより汗が出ます。このアセチルコリン受容体または汗腺自体に異常があることが原因のひとつといわれています。
汗腺:汗をだす器官で体温調節するエクリン汗腺と体臭のもとになるものを分泌するアポクリン汗腺の2種類の汗腺があります。
アセチルコリン:神経伝達物質で神経の末端から分泌して神経刺激を伝える役割があります。
5. この病気は遺伝するのですか
遺伝はしません。
6. この病気ではどのような症状がおきますか
患者さんは体温を調節するという大切な役割のある汗を出す機能が障害されるため、運動や暑熱環境でうつ熱を起こし、全身のほてり感、体温上昇、脱力感、疲労感、顔面紅潮、 悪心 ・嘔吐、頭痛、めまい、動悸などがみられます。ひどいときは熱中症になり意識を失ったりすることもあります。運動や暑熱環境で皮膚のピリピリする痛みや小さな赤い発疹(コリン性蕁麻疹)がしばしばみられます。
7. この病気にはどのような治療法がありますか
ステロイド・パルス療法という治療法があり副腎皮質ステロイドであるメチルプレドニゾロン(500~1000mg/日)を3日間点滴静注することを1~2回行っています。
8. この病気はどういう経過をたどるのですか
半数以上の方はステロイドパルス療法で治りますがこの治療法が効かない方もいます。免疫抑制薬とか他の治療法を試みることがありますがこれらの治療法も効かないことが多いようです。
9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか
運動したり暑くて湿度の高い環境に長くいたりすると熱中症になることがありますので運動はできるだけ避け涼しい環境にいるよう心がけることが重要です。その他、クールベストの着用、ペットボトル水の携帯など体を冷却することを心がけるようにする事も大切です。
10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。
特発性分節型無汗症
特発性純粋発汗不全(IPSF)
研究班名 | 発汗異常を伴う稀少難治療性疾患の治療指針作成、疫学調査の研究班 研究班名簿 |
---|---|
情報更新日 | 令和5年11月(名簿更新:令和6年6月) |