リンパ脈管筋腫症(LAM)(指定難病89)

りんぱみゃくかんきんしゅしょう(LAM)
 

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注:文中の「TSC」は、病名を指す場合はTSC、遺伝子名を指す場合はTSC(イタリック体)で表記しています。

■「症状」に関して

LAMと診断されて数年が経過しますが、徐々に息切れが強くなってきています。階段や上り坂でパニックを起こしそうになります。このまま肺機能が悪化していくと酸素吸入が必要になるのでしょうか?また、炭酸ガス(CO2)がたまって 高炭酸ガス血症 になるといわれているのが心配です。
LAMの肺では、LAM細胞が増殖している場所で肺が破壊されて嚢胞が生じています。嚢胞がたくさんになり肺が気腫状になると「閉塞性換気障害」(肺への空気の出し入れが悪くなり、肺の中に貯まった空気を十分に吐き出せなくなる状態)が起こってきます。階段や上り坂などの労作によって呼吸が苦しくなると不安も強くなり、より浅く早い呼吸になりがちですが、そのような浅く早い呼吸はさらに苦しさを増しパニックに陥りがちです。呼吸が苦しいときこそ、落ち着いて、口すぼめ呼吸をしながら息をはく時間を長くとるよう意識しましょう。深くゆっくりとした呼吸をこころがけると良いでしょう。「閉塞性換気障害」自体は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)と呼ばれる病気でもよく見られるものです。その場合、薬物療法として、抗コリン薬吸入、β2刺激薬の吸入や貼付、キサンチン製剤の内服、など気管支拡張療法が、単独あるいは組み合わせで用いられます。LAMはまれな病気のため、COPDと同様のメカニズムで気管支拡張療法が息切れの改善や運動耐用能の向上をもたらすのか、現時点では、エビデンスがあるわけではありません。しかし、病態の似ている部分のあるCOPDでの治療成績を参考にしながら、医師の経験などに基づいて、閉塞性換気障害が強いLAMの患者さんでは、気管支拡張薬を投与しているのが一般的であると思います。
閉塞性換気障害が高度になると、低酸素血症(酸素の身体への取り込みが不十分になる)と高炭酸ガス血症(炭酸ガスを十分に吐き出せなくなる)が起きてきます。前者に関しては、適切な時期に酸素吸入を開始して、不足している酸素を補ってあげることが重要です。後者に関しては、非常に高度な高炭酸ガス血症に関しては、人工呼吸器の一種を使用する場合も考えらますが、原則として特別な治療法はありません。気管支拡張療法を継続し、呼吸リハビリテーションを試みるのが標準的な対処であると思います。
血痰が出ます。止めるにはどうすれば良いでしょうか?出やすい時期がある様に思いますが、考えられる原因を教えていただけないでしょうか?
血痰の程度により対応は異なります。少量の場合は、必要に応じて止血剤の内服あるいは点滴を行います。喀血と言えるほど量が多い場合には、呼吸不全を伴うこともあり、入院管理が必要になる場合もあります。一般にLAMでは、大量の血痰が出る方は非常にすくないようです。
生理の時期に一致して血痰が出ると思われる場合には、異所性子宮内膜症を合併していないかどうか、よく検討する必要があります。LAMでは血痰の生じやすい特別な時期があるとの報告はないと思います。
骨盤周辺にもLAM病変(または 結節 性硬化症の病変)が出現することがあるとの説明がありました。そのような場合の症状及び治療法がありましたら教えてください。
お腹や骨盤腔にLAMの病変ができる場合があります。多くはリンパ節にLAM細胞が増殖したものです。リンパ脈管筋腫(Lymphangioleiomyoma)と言いますがLAMの患者様でも、合併する人としない人がいます。合併している方でも大きさや、数は様々です。一般に自覚症状も乏しく、骨盤腔に巨大なLymphangioleiomyomaが有りながら妊娠、出産を経験した方もいます。症状がある場合には腹痛、下肢のリンパ浮腫などがあるようです。従って一般に治療の対象となる事は少ないと思います。ただし、悪性リンパ腫、癌の転移、肉腫などと鑑別がつかないために診断目的で生検が必要になる場合もあります。
LAMの合併症と具体的な症状について教えてください。
呼吸不全調査研究班で行った全国調査をもとに作成されたLAM診断基準に以下の様に記載しています。尚、カッコ内は厚生労働省LAM全国 疫学調査 (平成15~16年)による診断時における症状および所見の頻度です。
また、2013年に米国で開かれた患者会の参加者による座談会形式の調査から学術報告がされています。息切れと疲労は約半数の参加者からLAMの主要な症状としてあげられました。身体的症状のほかに、心理面での動揺、不安、本来の能力や社会的立場の喪失、といった病気に伴う経験が高い頻度であげられました。
LAMは早期例では無症状のこともあるが、労作性呼吸困難、 気胸 に伴う胸痛,咳,痰,血痰などの呼吸器症状で発症することが多い。稀に胸郭外症状で発症することもある。
胸郭内病変による症状および所見
労作性呼吸困難(74%)*
気胸(53%)
咳(32%)
痰(少量)(21%)
血痰(8%)
乳糜 (にゅうび)胸水(7%)
胸郭外病変による症状および所見
乳糜腹水(5%)
後腹膜腔~骨盤腔のリンパ脈管筋(lymphangioleiomyoma)や
腎血管筋脂肪腫 (renalangiomyolipoma)に伴う諸症状
(腹部膨満感,腹痛・腹部違和感,下肢のリンパ浮腫,血尿など)
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■「診断」に関して

LAMの確定診断のために肺生検という検査が必要だと言われました。この検査は、全ての患者に対して必要でしょうか?何か基準はありますか?肺機能が低下している患者に対しては、病気の進行を早めてしまう場合はないでしょうか?
LAMと診断されるのは、特徴的な肺のCT画像所見(多発肺嚢胞)を認め、かつCT画像の類似する他の病気が否定的であり、かつ結節性硬化症や腎臓などの血管筋脂肪腫、乳び胸水、乳び腹水、腹部のリンパ脈管筋腫といったLAMに特徴的な合併症のいずれかを認めたときです。合併症を認めないときでも、血液検査でVEGF-Dの値が一定以上に高いとき、LAMと診断して良いと考えられています(ただしこの検査は一部の研究施設で行われているもので、現時点では保険診療で一般的に受けられるものではありません)。しかし、これらの診断は「臨床診断」といって、厳密にLAMの証拠をとらえたものではありません。厳密な診断には「病理診断」といって、体から採取した材料を顕微鏡で観察して病変を確認し診断することが必要になります。臨床診断であっても根拠となる所見が明らかであれば診断はほぼ確実といえることや、病理診断のための生検という検査は身体的負担を伴うことから、生検は第一に考える検査とはなりません。肺のCT画像所見以外にはLAMの特徴を認めないなど臨床診断が不確実なときで、他の病気も疑われるときやシロリムスなどの治療方針を決定する必要があるとき、あるいは病理診断することのメリットが生検の負担を上回ると判断されるとき、生検を考えることになります。肺生検は気管支鏡(経気管支鉗子肺生検、経気管支凍結肺生検)、胸腔鏡、開胸肺生検によって行われます。肺以外では腹部腫瘤やリンパ節の生検が行われることがあります。LAMによる肺障害が進行し低肺機能となっている場合には、肺生検に伴うリスクが高くなると考えられますが、肺生検そのものがLAMを進行させるとの報告はありません。
 LAMの病理診断は、子宮の組織を丁寧に調べることでも診断できます。LAMは女性特有の病気であるため、子宮筋腫や子宮や卵巣の悪性腫瘍で摘出手術を受けるLAM患者さんも時にみうけます。そのような際には、摘出した子宮や卵巣や骨盤腔内リンパ節をよく調べてもらうことで、手術の原因となった病気の診断とともにLAMの病理診断も確定してもらえる可能性が高いです。
LAM患者の中には結節性硬化症(TSC, プリングル病)も発症している方もいると聞きましたが、どの様にして検査をするのでしょうか?
結節性硬化症(TSC)の診断基準に照らして、過去にかかったことのある病気(てんかん発作や脳腫瘍など)、家系内での同様の病気の有無(遺伝性の有無)、現在の症状や検査所見といったことを総合して結節性硬化症であるかを判断します。検査所見とは具体的には、皮膚の診察(皮膚科専門医に依頼してもよいでしょう)、脳のMRI検査、眼底検査(眼科専門医に依頼)、腹部から骨盤腔までのCT(コンピューター断層撮影)あるいは超音波検査、心臓の超音波検査、などを必要に応じて行います。結節性硬化症と診断された場合は結節性硬化症に合併したLAM(TSC-LAM)、診断されない場合は単独で発生したLAM(孤発性LAM)と考えられます。ただし、とても軽症の(あるいは合併病変の少ない)結節性硬化症の方では、臨床診断基準では正しく診断できない場合もありえます。その場合には、TSC遺伝子検査が必要になります。一般に、TSC遺伝子検査は血液中の白血球から分離したDNAを用いて行います。稀ではありますが、臨床診断では孤発性LAMでも、遺伝子検査の結果TSC-LAMであることがわかった患者さんが報告されています。遺伝子検査の結果の解釈で大切な点は、TSC遺伝子変異が検出された場合には「TSC-LAMである」と断言できますが、TSC遺伝子に変異を検出できなかった場合には、「確かに遺伝子変異はなく、孤発性LAMである」という可能性と「本当はTSC遺伝子変異があるのに技術的な問題で検出できなかった、すなわち本当はTSC-LAMであるのに検査で明らかにすることができなかった」という可能性の、2通りを意味していることです。従って、TSC遺伝子変異が検出されなかった場合は、臨床所見と総合的に検討してTSC-LAMなのか、孤発性LAMなのか判断します。
LAMの進行度はどのように決めているのでしょうか?
LAMの進行度を判断するには、予後(病気の経過)に最も影響する肺病変に主眼を置き、加えて肺以外の合併症の重症度を考慮します。呼吸機能検査(1秒量、肺拡散能、安静時動脈血酸素分圧、6分間歩行検査等)や胸部から骨盤までの画像検査(CTやMRIなど)の検査結果に応じて総合的に判断します。
肺と心臓は密接な関係があり、特に肺の機能が低下している場合では、循環器(心臓)の定期的な検査は重要でしょうか?肺の症状で心臓への負担を見逃してしまうような事はないでしょうか?どのような病気への危険性がありますか?また、その場合どのような治療法がありますか?
血液が全身を循環する際、必ず心臓と肺を通ります。
LAMにより肺が破壊されると肺血管も減少するため、血液が肺を通過するための抵抗が高くなり、そのため心臓(特に右心系)に負担がかかります。
肺高血圧症、肺性心、という病気になります。
したがって、肺動脈圧が高くなっていないか、心臓に負担がかかっていないか、定期的な心臓超音波検査や血液検査が重要になります。
肺高血圧症や肺性心を合併した場合には、必要に応じて酸素、利尿剤、肺血管拡張剤などを投与して治療します。
胸水の場合、横になったときの重たさとか、下の物を拾う時の不快な感じで、呼吸の息苦しさなどで、「あれ?もしかしたら・・・」と思うしかないのでしょうか。レントゲンを撮らなくても、溜まっていると判断できる方法を知りたいです。判断できる機械とかないでしょうか?
レントゲンを撮らなくても、打診(胸部を指でトントン叩いて音や指に伝わる響きで判断する)や聴診である程度の判断はできますが、確実性に欠けます。レントゲンの被爆を危惧する場合には、適宜、超音波検査により腹水や胸水の存在や量を確認できます。しかし、経時的な胸水や腹水の量的変動を正確に比較することは難しいかもしれません。やはり、胸部単純レントゲン写真と組み合わせて判断することが、より有用であると思います。
シロリムスを内服しています。長期間内服し続けなくてはいけないと聞いていますが、継続して内服するにあたって、何か注意しておくべき事があれば教えて下さい。
安心かつ安全に治療が継続できるよう、知っておいた方がよい点がいくつかあります。内服を開始してから数か月ほどは口内炎、下痢などの消化器症状、にきび様皮疹などといった副作用が比較的みられやすいほか、内服中を通して薬剤性肺障害、肝機能障害、脂質異常などをはじめとした副作用に注意する必要があるため、定期的な診察を受け、必要に応じて血液検査やレントゲン検査等を受けることになります。副作用に対する治療や減薬または休薬が必要になることもあり得ます。内服中に疑問が生じたり気になる症状などがみられたりするときは早めに受診先へ相談し、放置せずに適切な対応を行うことがとても大切です。また、服薬中は妊娠を避ける必要性や生ワクチンの接種は不可であることの説明がありますので、これに従い、疑問や心配が生じたときは受診先へ相談する必要があります。さらに、シロリムスには免疫を抑制する作用や、創傷治癒(きずの治り)を悪くする作用があり得ることを知っておくこともときに重要です。急性や慢性の感染症、なんらかの手術を受けるとき、ケガや骨折をしたときなど、シロリムスの休薬が望ましいときもありますので、やはり受診先へ相談して適切な指示を受けるようにしてください。長期の内服により通常よりも悪性腫瘍の発生頻度が高くなる可能性がありますので、受診先とも相談しながら定期的な健康診断を受けるようにしましょう。
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情報提供者
研究班名 難治性呼吸器疾患・肺高血圧症に関する調査研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和5年1月(名簿更新:令和5年6月)