甲状腺ホルモン不応症(指定難病80)

こうじょうせんほるもんふおうしょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1. 「甲状腺ホルモン不応症」とはどのような病気ですか

甲状腺という臓器はのどぼとけの下にあって、甲状腺ホルモンというホルモンを作っています。このホルモンは、血液の流れに乗って心臓や肝臓、脳など体のいろいろな臓器に運ばれて、身体の新陳代謝を盛んにするなど大切な働きをしています。甲状腺ホルモンが多すぎると、心臓がドキドキしたり、暑がりになったり汗をたくさんかいたりします。逆にこのホルモンが少なくなると、寒がりになり、汗が減って皮膚が乾燥するなどの症状が出ます。甲状腺ホルモンは脳の発達にも重要で、赤ちゃんの時に甲状腺ホルモンが不足すると知能発達が遅れたりすることもあります。甲状腺 ホルモン不応症 というのは、甲状腺ホルモンは血液の中にたくさんあるのにホルモンが十分働かなくなる、生まれつきの病気です。甲状腺ホルモンの効きが悪いため、体はホルモンがもっと必要だと認識して、たくさんのホルモンを作ろうとします。その結果、甲状腺ホルモンの働きが弱まった分を甲状腺ホルモンが増えることによって補っている状態となります。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

これまでに全世界で3,000人以上が報告されており、日本でも100人ほどの患者さんが報告されています。ただ、この病気は4万人に1人くらいの割合で発症するという論文がありますので、多くの患者さんが「自分が病気であることを知らない」可能性や、「バセドウ病など別の病気と診断されている」可能性もあります。

3. この病気はどのような人に多いのですか

特定の人に多いということはありません。一般的に甲状腺の病気は男性より女性がかかりやすいのですが、この病気は特に女性に多いとか男性に多いということはありません。

4. この病気の原因はわかっているのですか

甲状腺ホルモンが体の中で働くには、細胞の中にある甲状腺 ホルモン受容体 という蛋白質に結合しなければなりません。この病気のほとんどの人では、β型という種類の甲状腺ホルモン受容体の遺伝子の 変異 が原因であることが知られています。一方、甲状腺ホルモン不応症であっても、甲状腺ホルモン受容体遺伝子に変異が見つからない患者さんもいて、このような遺伝子変異がない患者さんの病気の原因はわかっていません。

5. この病気は遺伝するのですか

2分の1の確率で子供に遺伝します。しかし、両親のいずれにもこの病気がなく、患者さんの代になって初めて突然変異が起こり、この病気になることも少なくありません。

6. この病気ではどのような症状がおきますか

甲状腺が大きくなってのどのあたりが腫れるというのが最も多い症状ですが、自覚症状がない患者さんもたくさんいます。この病気では甲状腺ホルモンの働きが弱くなるので、「甲状腺ホルモンが足りない時の症状が出るのではないか?」と考えられがちです。しかし、甲状腺ホルモンの効きが悪いため、体はホルモンがもっと必要だと認識して、たくさんのホルモンを作ろうとします。その結果、甲状腺ホルモンの働きが弱まった分を甲状腺ホルモンが増えることによって補っている状態となります。ですから、多くの場合ホルモン不足の症状はでません。一方、心臓では甲状腺ホルモンの働きがそれほど弱くならないので、血液の中の甲状腺ホルモンが増えた状態の影響を受けやすくなっています。そのため、別の原因でホルモンが多すぎる患者さんと同じように、脈が速くなって心臓がドキドキする患者さんもいます。また、落ち着きのない患者さんも多いことが報告されています。
ただし、まれではありますが、ホルモンの働きが極端に弱い一部の患者さんでは、生まれつき甲状腺ホルモンが足りない場合にみられる、知能発達遅延、低身長や難聴などの症状を伴うこともあります。

7. この病気にはどのような治療法がありますか

患者さんの多くは特に治療を受けなくても正常の人と変わりない生活を送ることができますので、ほとんどの場合治療は必要としません。ただ、脈が速い患者さんには、それを抑える飲み薬を使った方がよいとされています。人によっては、脈が速いだけでなく、 心房細動 という心臓の病気になってしまうこともあるからです。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか

ほとんどの患者さんは特に薬を使うことなく正常の人と同じように暮らしており、実際には診断されることもなく過ごしている方が多いと考えられます。ただし、心房細動という心臓の病気になってしまった場合は脳 梗塞 の危険が高まるので治療が必要です。また、女性の患者さんがこの病気を持たない赤ちゃんを妊娠した場合、流産になったり小さい赤ちゃんが産まれたりすることがあります。甲状腺ホルモンの働きが弱まったぶん甲状腺ホルモンが増えて母体にとってはちょうどよくなるのに対して、増えている甲状腺ホルモンがこの病気を持たない赤ちゃんにとっては多すぎるためです。

9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか

ほとんどの患者さんは正常の人と変わりない生活を送ることができます。ただ、脈が速い人は無理な運動等は避けたほうが良いと思われます。

10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

レフェトフ症候群

11. この病気に関する資料・関連リンク

 

情報提供者
研究班名 ホルモン受容機構異常に関する調査研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和5年11月(名簿更新:令和5年6月)