脂肪萎縮症(指定難病265)

しぼういしゅくしょう
 

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1.「脂肪萎縮症」とは

脂肪萎縮症とは皮下脂肪や内臓脂肪などの脂肪組織が減少あるいは消失する疾患の総称です。エネルギー摂取の低下やエネルギー消費の 亢進 による痩せは含みません。脂肪萎縮症には遺伝子変異による 先天性 あるいは 家族性 と呼ばれるものと自己免疫異常などによる後天性のものがあります。また、それぞれに全身の脂肪組織が減少・消失する全身性と、四肢の皮下脂肪などに限局して脂肪組織が減少・消失する部分性の脂肪萎縮症が知られています。このため脂肪萎縮症は先天性全身性脂肪萎縮症(Berardinelli-Seip症候群)、家族性部分性脂肪萎縮症(Dunnigan型、Kobbering型など)、後天性全身性脂肪萎縮症(Lawrence症候群)、後天性部分性脂肪萎縮症(Barraquer-Simons症候群)の4つに分類するのが一般的です。脂肪萎縮症ではその原因にかかわらず脂肪組織が一定以上消失すると糖尿病や高中性脂肪血症、脂肪肝などの糖脂質代謝異常を発症し、これが患者さんの 予後 を左右します。脂肪萎縮症に合併する糖尿病は特に脂肪萎縮性糖尿病と呼ばれ強いインスリン抵抗性が特長です。

2.この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

遺伝性の脂肪萎縮症は数百万人に1人、後天性の脂肪萎縮症はHIV(Human Immunodeficiency Virus:ヒト免疫不全ウイルス)関連のものを除けばさらに少ないと推定されます。HIV関連脂肪萎縮症については米国で10万人以上が罹患していると推定されています。

3.この病気はどのような人に多いのですか

先天性全身性脂肪萎縮症は一般的に潜性遺伝(劣性遺伝)病で、両親は通常、 無症候性 保因者 です。先天性全身性脂肪萎縮症の発症に男女差はありません。家族性部分性脂肪萎縮症は一般に顕性遺伝(優性遺伝)病で、しばしば家族内発症が認められます。ただし、家族性部分性脂肪萎縮症では同じ遺伝子変異を持っていても男性では症状が出にくいことがあり、女性の報告例が圧倒的に多くなっています。後天性脂肪萎縮症の多くは自己免疫異常が原因であると考えられており、先行するウイルス感染や、他の自己免疫疾患の合併がしばしば認められます。後天性全身性脂肪萎縮症は1:3の割合で、また後天性部分性脂肪萎縮症は1:4の割合で女性に多いことが知られています。

4.この病気の原因はわかっているのですか

先天性全身性脂肪萎縮症の原因遺伝子としてはBSCL2(seipin遺伝子)、AGPAT2CAV1PTRF同定 されています。わが国ではBSCL2の変異が最も多く報告されています。家族性部分性脂肪萎縮症の原因遺伝子としてはLMNAPPARGなどが同定されています。後天性全身性脂肪萎縮症は皮下脂肪織炎や若年性皮膚筋炎、若年性関節リウマチなどの膠原病に合併することが多く、また、後天性部分性脂肪萎縮症ではC3補体価の低下や膜性増殖性糸球体腎炎に合併することが多く、後天性の多くは自己免疫異常によると考えられています。

5.この病気は遺伝するのですか

脂肪萎縮症のうち先天性全身性脂肪萎縮症は一般的に潜性遺伝(劣性遺伝)病で、両親は通常、無症候性保因者です。家族性部分性脂肪萎縮症は一般に顕性遺伝(優性遺伝)病で、しばしば家族内発症が認められます。

6.この病気ではどのような症状がおきますか

①先天性全身性脂肪萎縮症
出生時より全身の脂肪組織の消失と筋肉質な外見を認めます。この他、皮膚の色素沈着や末端巨大症様顔貌、臍ヘルニア、心筋肥大、また女性では性器肥大や多毛症、多発性卵巣 嚢胞 症候群、無月経が認められます。糖尿病や脂質異常も顕著で、強いインスリン抵抗性を伴う高血糖、高インスリン血症や高中性脂肪血症、重度の脂肪肝を認めます。
②家族性部分性脂肪萎縮症
LMNA遺伝子変異による部分性脂肪萎縮症はDunnigan型と呼ばれ、思春期頃より四肢の皮下脂肪が減少する一方で代償性に頭頸部や上背部に脂肪組織の蓄積を認めます。PPARG遺伝子変異による部分性脂肪萎縮症も四肢の脂肪萎縮が顕著ですが、頭頸部の脂肪組織の萎縮も認めます。家族性部分性脂肪萎縮症においてもインスリン抵抗性糖尿病や高中性脂肪血症、脂肪肝などの糖脂質代謝異常を高率に合併し、女性症例においては多発性卵巣嚢胞症候群や無月経なども認められます。
③後天性全身性脂肪萎縮症
出生時は正常であり、小児期以降の発症が多いようです。発症後は先天性全身性脂肪萎縮症と同様に筋肉質な外見や皮膚の色素沈着、末端巨大症様顔貌、心筋肥大、女性では性器肥大や多毛症、多発性卵巣嚢胞症候群、無月経を認めます。糖尿病や脂質異常も先天性全身性脂肪萎縮症と同様に認め、強いインスリン抵抗性とともに糖尿病や高中性脂肪血症、脂肪肝を呈します。
④後天性部分性脂肪萎縮症
小児期から思春期にかけて発症することが多く、腹部より上半身の脂肪組織が減少し、下半身の脂肪組織は代償性に増大します。後天性部分性脂肪萎縮症では、糖脂質代謝異常はあっても軽症であることが多いようです。

7.この病気にはどのような治療法がありますか

現在のところ脂肪萎縮そのものに対する確立した治療法はありません。このため脂肪萎縮症に対する治療は美容上の問題に対する形成外科的手術や糖尿病や高中性脂肪血症などの代謝合併症に対する治療が主となります。
脂肪萎縮症に伴う高血糖、高中性脂肪血症に対してレプチン製剤であるメトレレプチン (遺伝子組換え)が2013年より保険適応となっています。レプチンには食欲抑制作用やインスリン抵抗性改善作用があり、インスリン抵抗性や高インスリン血症が原因と考えられる皮膚の色素沈着や脂肪肝の改善が期待できます。また、脂肪萎縮症で認められる無月経についても改善効果が報告されています。

8.この病気はどのような経過をたどるのですか

脂肪萎縮症では糖尿病の合併症や脂肪肝から発症する肝硬変や肝癌、肥大型心筋症が死因となることが多く、未治療の場合、平均寿命は30~40歳と言われています。レプチン製剤の使用により代謝合併症の改善だけではなく予後の改善も期待されます。

9.この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか

食事により摂取したエネルギーのうち身体活動などで使われなかった余剰エネルギーの多くは通常、脂肪組織に蓄積されます。しかし、脂肪萎縮症ではこの脂肪組織が減少または消失しているため、余剰エネルギーは糖や中性脂肪として血液中に溢れ出したり、肝臓や筋肉などに蓄積したりして糖尿病や脂質異常を悪化させます。したがって、脂肪萎縮症では身体活動に応じた適正なエネルギー摂取を心がけることが重要です。

10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

該当する病名はありません。

11.この病気に関する資料・関連リンク

診断と治療社「内分泌代謝専門医ガイドブック改訂第4版」第12章代謝疾患 21脂肪萎縮症

 

情報提供者
研究班名 ホルモン受容機構異常に関する調査研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和4年12月(名簿更新:令和5年6月)