胆道閉鎖症(指定難病296)

たんどうへいさしょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要

1.概要
胆道閉鎖症は、新生児期から乳児期早期に発症する難治性の胆汁うっ滞疾患である。炎症性に肝外胆管組織の破壊が起こり、様々なレベルでの肝外胆管の閉塞が認められる。全体の約85%が肝門部において胆管の閉塞が認められる。また多くの症例で炎症性の胆管障害は肝外胆管のみならず肝内の胆管までおよんでいる。わが国における発生頻度は7,000から10,000出生に1人とされている。1989年から行われている日本胆道閉鎖症研究会による全国登録には2019年までに3,591例の登録が行われている。
 
2.原因
原因としては先天的要素、免疫異常、遺伝的要素、ウイルス感染などの種々の説が挙げられているが未だ解明はされていない。病理組織学的検討などでは炎症性変化はTh1優位の炎症反応であることが示されている。また胆管細胞におけるアポトーシスの亢進などの現象は同定されているものの、このような現象を来す原因は未だ不明である。
 
3.症状
新生児期から乳児期早期に出現する便色異常、肝腫大、黄疸が主な症状である。また胆汁うっ滞に伴うビタミンKの吸収障害のために出血傾向を来す場合がある。それに付随して全体の約4%が脳出血で発症することが知られている。合併奇形としては無脾・多脾症候群、腸回転異常症、十二指腸前門脈などがある。外科的な治療が成功しなければ、全ての症例で胆汁性肝硬変の急速な進行から死に至る。
 
4.治療法
胆道閉鎖症が疑われる症例に対して、採血検査や手術の画像検索を行う。しかし最終的な確定診断は直接胆道造影が必要である。胆道閉鎖症の診断が確定したら、病型に応じて肝外胆管を切除して、肝管あるいは肝門部空腸吻合術が施行される。上記手術により黄疸消失が得られるのは全体の約6割程度である。術後に黄疸が遷延または再発した場合や、上記合併症で著しくQOLが障害されている場合などには最終的に肝移植が必要となる。
 
5.予後
胆道閉鎖症手術により黄疸消失が得られるのは全体の6割程度である。術後に発症する続発症としては胆管炎と門脈圧亢進症が代表的なものである。胆管炎は術後早期に発症すると予後に大きな影響を及ぼし、全体の約40%に胆管炎の発症が認められる。門脈圧亢進症では、消化管に発生する静脈瘤と脾機能亢進症の頻度が高い。消化管の静脈瘤は破裂により大量の消化管出血を来す可能性がある。脾機能亢進症は血小板をはじめとする血球減少を来す。また、門脈圧亢進症に伴い肺血流異常(肝肺症候群や門脈肺高血圧)を生じることがあり、予後に大きな影響を与える。自己肝で成人期を迎えた例でも種々の晩期合併症を抱え、あるいは徐々に肝病態が進行することも稀でない。2019年の全国登録の集計では10年自己肝生存率が50.6%、20年自己肝生存率が42.8%である。
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.  患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
332人 
2.  発病の機構
不明(先天的要素、免疫異常、遺伝的要素、ウイルス感染などの種々の説が挙げられているが未解明。)
3.  効果的な治療方法
未確立(閉塞した肝外胆管を切除して、肝管あるいは肝門部空腸吻合を施行するが、肝病態を治癒させることはできず、悪化した場合には肝移植以外に救命法がない。)
4.  長期の療養
必要(遷延・進行する肝病態により生じる種々の合併症・続発症に対する治療を要するため。)
5.  診断基準
あり(研究班作成の診断基準あり。)
6.  重症度分類
班研究による重症度分類を用いて重症度2以上を対象とする。
 
○ 情報提供元
「小児期・移行期を含む包括的対応を要する希少難治性肝胆膵疾患の調査研究」
研究代表者 東北大学大学院医学系研究科 小児外科学分野 客員教授 仁尾正記

<診断基準>
Definiteを対象とする。

胆道閉鎖症の診断基準

A.手術時の肉眼的所見あるいは胆道造影像
胆道閉鎖症病型分類(図)における基本型分類の3つの形態のいずれかに当てはまるもの。

B.鑑別診断
以下の疾患を鑑別する。
胆道閉塞を伴わない新生児・乳児期発症閉塞性黄疸疾患、先天性胆道拡張症

<診断のカテゴリー>
Definite: Bを除外し、かつAを満たすもの。


 




C.その他参考となる検査所見
1.血液・生化学的検査所見:直接ビリルビン値の上昇を見ることが多い。
2.十二指腸液採取検査で、胆汁の混入を認めない。
3.画像検査所見
1)腹部超音波検査では以下に示す所見のいずれかを呈することが多い。
① triangular cord sign:肝門部で門脈前方の三角形あるいは帯状高エコー。縦断像あるいは横断像で評価し、厚さが4mm以上を陽性と判定。
② 胆嚢の異常:胆嚢は萎縮しているか、描出できないことが多い。また胆嚢が描出される場合でも授乳前後で胆嚢収縮が認められないことが多い。
2)肝胆道シンチグラフィでは肝臓への核種集積は正常であるが、肝外への核種排泄が認められない。


<重症度分類>
「小児期・移行期を含む包括的対応を要する希少難治性肝胆膵疾患の調査研究」 班における胆道閉鎖症重症度分類を用いて重症度2以上を対象とする。


重症度分類は、以下の重症度判定項目により判定する。


● 重症度判定

※ 各因子の重症度は次ページ以降の重症度判定項目を参照
※ 重症度判定項目の中で最も症状の重い項目を該当重症度とする。
※ 胆汁うっ滞については、あれば重症度1以上。重症度2以上かどうかは他の5項目の状態によって決定され、必ずしも胆汁うっ滞の存在は必要とはしない。

●重症度判定項目
1.胆汁うっ滞の状態
1+.持続的な顕性黄疸を認めるもの。
2.胆道感染
①胆道感染の定義
 
 
 
②胆道感染の重症度
1+.過去1年以内に胆管炎を1回以上発症し、その入院加療期間が1か月未満のもの。
2+.過去1年以内に胆管炎による入院加療期間が1か月以上半年未満のもの。
3+.過去1年以内に胆管炎による入院加療期間が半年以上のもの、あるいは重症敗血症を合併した場合。
 
 
3.門脈圧亢進症
① 食道・胃・異所性静脈瘤
1+.静脈瘤を認めるが易出血性ではなく、身体活動の制限や介護を必要としない状態。
2+.易出血性静脈瘤を認めるもので、治療を要し、身体活動の制限や介護を要する状態。易出血性静脈瘤・胃静脈瘤とは「門脈圧亢進症取り扱い規約」に基づき、CbかつF2以上のもの、又は発赤所見を認めるもの。異所性静脈瘤の場合もこれに準ずる。
出血性静脈瘤を認めるが、治療によりコントロールが可能なもの。異所性静脈瘤の場合もこれに準ずる。
3+.コントロールできない静脈瘤出血を認める。
② 肝肺症候群
a.慢性肝疾患の存在
b.肺胞気-動脈血酸素分圧較差(A-aDO2) ≧ 15mmHg (65歳以上では>20mmHg)
c.肺内シャントの存在確認(コントラスト心エコーあるいは99mTc-MAA 肺血流シンチ)
1+.PaO2が室内気で80mmHg未満、60mmHg以上(参考所見:経皮酸素飽和度では90~95%)で身体活動の制限や介護を必要としない状態
2+.PaO2が室内気で80mmHg未満、60mmHg以上(参考所見:経皮酸素飽和度では90~95%)で身体活動の制限や介護を要する状態
3+.PaO2が室内気で60mmHg未満(参考所見:経皮酸素飽和度では90%以下)
③ 門脈肺高血圧症

a.慢性肝疾患の有無に関わらず門脈圧亢進症を認める
b.安静時平均肺動脈圧(mPAP) >25mmHg
c.平均肺動脈楔入圧(cPCWP) <15mmHg
d.肺血管抵抗 (PVR) > 240dyne/sec/cm2
(上記基準は小児例など実施が困難であり測定精度が保たれる場合は心エコー検査による測定を代用とすることが可能である。 )
2+.  門脈肺高血圧症診断基準を満たし、mPAPが25 mmHg以上、35 mmHg未満で、治療を要し、身体活動の制限や介護を要する状態。
3+.  門脈肺高血圧症診断基準を満たし、mPAPが35 mmHg以上 
④ 症状
1+.  出血傾向、脾腫、貧血のうち1つもしくは複数を認め、治療を要するが、これによる身体活動の制限や介護を必要としない状態。
2+.  出血傾向、脾腫、貧血のうち治療を必要とするものを1つもしくは複数を認め、治療を要し、これによる身体活動の制限や介護を要する状態。
 
 
4.関連する病態:胆道閉鎖症を原因とする場合
①皮膚掻痒(白取の痒み重症度基準値のスコア)
 
 
 
 
1+. 上記の1程度の痒み
2+. 上記の2又は3程度の痒み
3+. 上記の4程度の痒み
 
②成長障害
1+. 身長SDスコアが-1.5 SD以下
2+. 身長SDスコアが-2 SD以下
3+. 身長SDスコアが-2.5 SD以下
 
 
5.肝機能障害の評価: 採血データ及びChild-Pugh score
1.血液データ
1+.下記表の高度異常が2系列以上認められるもの。
2. Child-Pugh score
2+.7~9点
3+.10点以上
 
 
 
(難治性疾患克服研究事業における肝疾患の重症患者認定からの改変)
 
 
 
 
6.身体活動制限: performance status
 
1+. PS 1
2+. PS 2 or 3
3+. PS 4
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

令和6年4月1日

情報提供者
研究班名 小児期発症の希少難治性肝胆膵疾患における医療水準並びに患者QOLの向上のための調査研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和6年4月(名簿更新:令和5年6月)