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総排泄腔遺残(指定難病293)

そうはいせつくういざん

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1. 「総排泄腔遺残」とはどのような病気ですか

総排泄腔(cloaca)とは、体の発生過程において胎生4〜9週に存在する臓器の名前です。図1に示すように、胎生5週には体壁と腸管が形成され、将来直腸・肛門と膀胱・尿道になる部分が総排泄腔とよばれる一つの腔として存在します。その後、総排泄腔は上方より発生する尿直腸中隔により前後に分離され、胎生9週には腹側が膀胱・尿道に、背側が直腸・肛門となります。総排泄腔遺残症(persistent cloaca)は、この総排泄腔の分離過程が障害され、総排泄腔が生後に遺残した病気で、総排泄腔遺残症という病名となりました。女児にしか発生しない病気のため、 図2のシェーマに示すように、正常では尿道、腟、肛門がそれぞれ会陰・肛門部に開口しますが、本症では尿道、腟、直腸が総排泄腔に開口し、会陰部には総排泄腔のみが開口します。遺残した総排泄腔の部分は共通管ともよばれ、この長さは症例により大きく異なります。
 
図1.胎児期の総排泄腔の分化


図2.総排泄腔遺残症のシェーマ(縦断像)

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

発生頻度に関しては、欧米の報告では約5万の出生に1人1, 2)と報告されています。2014年に行われた本邦における全国調査では、図3に示すように1980年から2009年までの30年を10年毎の3期と、最近の2010年から2014年までの5年間で各時期の発生数を調べると、1980年〜2009年までの3期の発生数は55人、118人、187人で、最近の5年間は66人と時期より大きな変動があります。各期間の出生数を患者数で除した何人の出生あたりに1人の患者さんが発生するかという頻度を調べると、1980〜1989年は26万の出生に1人でしたが、1990年以降は10万から6万の出生に1人というほぼ一定の割合でした。1980年以降の35年間の発生数は426人で、年平均の発生数は12.2人、1990年以降の発生数は371人で年平均の発生数は14.8人で、毎年12〜15人程度の発生状況でした。
本症は、直腸肛門奇形(または鎖肛)という先天的に肛門のできていない疾患群に属し、直腸肛門奇形の発生頻度は出生3〜5千人に一人の発生頻度で、本症は女児の特殊型に分類され、直腸肛門奇形全体の5〜10%を占めています3)
 
図3.過去35年間の発生数と発生頻度

3. この病気はどのような人に多いですか

理由は不明ですが、女児にしか発生しない病気で、男児には発生しません。

4. この病気の原因はわかっているのですか

この病気は、多くの先天性疾患と同様に遺伝子異常が原因と考えられ、マウスの実験では、直腸・肛門の発達と分化に関係しているSHH(ソニックヘッジホッグ)と呼ばれる蛋白質やその蛋白質の細胞内伝達に関与するGli2とGli3と呼ばれる蛋白質を遺伝子操作で発現しないようにすると、総排泄腔が遺残することがわかっています。しかし、人においてはこのような知見はなく、人における原因は不明です。

5. この病気は遺伝するのですか

遺伝性に関するはっきりした見解はありません。遺伝子異常が唯一の原因であれば、一卵性双生児の双方に発生するはずですが、本症と類似の病態が一卵性双胎の両者に発生したという報告4)もあれば、一卵性双胎の片方に発生したという報告5, 6)もあり、遺伝子異常だけでは説明できないため、環境因子や催奇性因子などの関与も考えられ、多くの因子が関与する疾患と考えられます。

6. この病気ではどのような症状がおきますか

総排泄腔という狭い通路に膀胱、腟、直腸が開口するため、排便が障害され腸管が進行性に拡張し、放置すると腹部膨満と腸管穿孔が発生します。胎児期のあかちゃんは排便をしないため、腹部膨満や腸管拡張は生後に発生します。共通管の長さは症例により0.5cmから7cmと大きく異なり3)、共通管が狭い場合や長い場合は排尿も障害されます。胎児期に排尿が障害されると、水腟症といって尿が腟に流入し腟が拡張するという症状が発生します7)。この水腟症は約3割に発生し、腟にたまった尿や直腸から腟に流入した胎便が子宮を経由して卵管から腹腔にもれると、胎便性腹膜炎という胎児期独特の腹膜炎を来たし、腹部膨満、腹水、水腎症、腸管拡張などが発生します8)。また、約8割に片腎無形成、水腎症、腎異形成、神経因性膀胱、異所性尿管、膀胱頚部形成不全、腹壁形成不全、膀胱憩室、腎回転異常、膀胱結石、馬蹄腎、重複尿管などの様々な泌尿器疾患が合併します3)。これらの異常は、出生前に診断されることも多く、症例の約半数が出生前になんらかの異常が見つかっています9)。腎無形成や水腎症などの泌尿器系の異常で発見されるものが約半数、水腟症が約半数をしめます。水腟症は、卵巣嚢胞、二分膀胱、尿管瘤などと間違われることがあります。
2014年の本邦における466例の全国集計10でも、2000年以降は半数以上が出生前になんらかの異常が発見されています。泌尿器疾患の合併は欧米と同じく8割で、水腎症が約3割で、片側腎欠損が約1割でした。泌尿器疾患以外の合併奇形約半数に認められています。腟や子宮という内性器に関する異常も約6割に存在し、双角子宮が約半数に、重複腟が約3割、水腟症が25%の症例に認められています。内性器の異常は、思春期に入って月経血が排泄されない子宮流血路障害を発生し、腹痛や子宮腟留水(血)症の原因となります。

7. この病気にはどのような治療法がありますか

外科治療が中心となります。総排泄腔に開口する腟・子宮と直腸を分離し、直腸・肛門と腟を作成します。排尿障害や巨大膀胱がある場合には、尿路作成も必要となります。外科治療は出生後早期に行う緊急的手術と乳幼児期行う根治的手術に分けることができます(表1)。出生後早期に行う緊急手術は、排便障害、排尿障害、水腟症など生下時に存在する不具合に対して症状を緩和するために行うもので、人工肛門、膀胱瘻、腟瘻造設手術です。その他に合併症を伴うことが多いため、合併症に対する消化器手術、泌尿器手術、生殖器関連手術も行われます。
腟形成や直腸・肛門形成といった根治手術は、乳児期後半以降で体が大きくなり、CTやMRIなどの画像検査や膀胱鏡検査で病態を把握した後に行います。肛門形成と腟形成は同じ術式で同時に行う他に、異なる術式で別個に行うこともあります。
根治手術の選択において重要な指標は、総排泄腔の長さです。総排泄腔の長さが3cm未満の場合は、開腹しないで会陰から肛門部の操作で一期的に直腸・腟を形成することが可能です。手術法としては仙骨下端より肛門部までを縦切開し、総排泄腔に合流する直腸・肛門と腟を切離し、本来の位置に引き下ろすPSARUVP(posterior sagittal anorecto-urethrovagino-plasty)や会陰部から総排泄腔を中心部に向かって剥離し、直腸は切り離し肛門部に引き下ろし、合流している尿道と腟の部分はそのまま切離しないで下方に授動してそれぞれの開口部を会陰の開口部として引き下ろしてくるTUM(total urogenital mobilization)という方法があります。肛門形成後に皮膚を形成して腟後壁とするskin plastyという術式もあります。総排泄腔が3cmよりも長い場合は、直腸や腟・子宮を引き下ろすために開腹操作を加える場合が多く、腟を形成する場合でも、腸管などの代用腟を用いる場合が多くなります。
 
表1.全国集計466例の外科治療まとめ

8. この病気はどういう経過をたどるのですか

この病気の経過を一概に論ずることはできません。それは、共通管の長さや消化器系、泌尿器系、生殖器系の合併疾患の有無とその程度によって経過が大きく異なるからです。根治術後の排便機能や排尿機能に関しては、術後より機能評価が可能ですが、生殖機能に関しては作成した腟や子宮がどのように機能するかは、第二次性徴が始まる思春期以降にならないと正確に評価できないためです。そのため、生後から思春期までの適切な医療ケアーが必要です。生下時は、新生児科医、小児外科医、小児泌尿器科医が中心として医療を行い、思春期に入ると産婦人科との医療連携が必要となります。第二次性徴が始まって内性器の機能と異常が発見され、無月経や月経血の流出路障害が発生することがあります。この場合、原因を究明し外科治療が必要となります。また、妊娠・出産に関しても内性器異常の有無が治療に大きく拘わってきます。
Hendren11)の140人の経過報告では、約6割の症例は満足のゆく排便機能や排尿機能が獲得されたと報告しています。経腟分娩により挙児をえた症例も報告されています。

9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか

新生児期の注意点として、人工肛門に対するストーマ管理が重要です。清潔操作が必要な腟瘻や膀胱瘻がある場合は、人工肛門による汚染を防ぐための清潔管理が必要です。また、カテーテル自体が異物として感染を起しやすくなるため、排液の濁りなど感染徴候に気をつける必要があります。
泌尿器系疾患の合併が8割と多く、膀胱尿管逆流症(VUR)がある場合は、 発熱・膿尿などの尿路感染徴候に注意する必要があります。VURは、腎機能の低下を招くために適切な抗菌剤の投与や外科治療が必要です。脊髄の脂肪腫を伴う場合は、脊髄係留症候群のために成長に伴い排便・排尿障害や歩行障害が発生します。排便・排尿機能に関する注意深いフォローが必要です。
思春期に入り乳房がふくらみ始めると、2年以内に生理が初来するとされています。生理の発生、月経血の排泄障害に注意する必要があります。


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情報提供者
研究班名 先天性難治性稀少泌尿生殖器疾患群(総排泄腔遺残、総排泄腔外反、MRKH症候群)におけるスムーズなトランジションのための診断基準と治療ガイドライン作成班
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新規掲載日平成27年8月31日