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先天性横隔膜ヘルニア(指定難病294)

せんてんせいおうかくまくへるにあ

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1. 「先天性横隔膜ヘルニア」とはどのような病気ですか

先天性横隔膜へルニアとは、生まれつき横隔膜に欠損孔があって、本来お腹の中にあるべき腹部臓器の一部が胸の中に脱出してしまう病気です。多くの場合、横隔膜の後外側を中心に生じるボホダレク孔が欠損孔であるため、別名ボホダレク孔ヘルニアとも呼ばれます。欠損孔は小さなこともあれば、横隔膜がほとんど残っていないほど大きな場合もあります。そのため、欠損孔の大きさに応じて小腸、大腸、胃、十二指腸、肝臓、脾臓、膵臓、腎臓などの腹部臓器が胸の中に脱出します。臓器の脱出は胎児期に起こることも、出生後に起こることもありますが、胎児期に臓器の脱出が起こると、肺の発育が不十分な肺低形成を伴うことがあります。
 

【図】: 横隔膜ヘルニアイラスト

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

2,000〜5,000人の出生に対して1人の発生率といわれています。わが国では、年間約200〜300人が発症しています。

3. この病気はどのような人に多いのですか

9割以上の人は、新生児期に発症します。最近ではそのうち約4分の3の患者さんは、生まれる前から診断がついています。性別による発生率の差はありません。多くの場合はこの病気単独で発症しますが、一部に18トリソミー、13トリソミーなどの染色体異常や、パリスター・キリアン症候群、コルネリア・デ・ランゲ症候群、フリンス症候群などの遺伝性の症候群に伴って発症することもあります。

4. この病気の原因はわかっているのですか

いまだ明らかな病気の原因は解明されていません。しかし、ビタミンAの代謝経路の障害や、いくつかの病因遺伝子が病気の原因に関係しているという説もあります。

5. この病気は遺伝するのですか

大多数の症例では遺伝するものではありません。ごく少数ですが特定の遺伝子に起因した発症例があるのではないかといわれています。

6. この病気ではどのような症状がおきますか

新生児期に発症する場合の主な症状は、腹部臓器による肺の圧迫や、合併する肺低形成、肺に血液が流れにくくなる新生児遷延性肺高血圧症の併発などによって生じる呼吸困難です。横隔膜にあいた欠損孔の大きさと、腹部臓器が胸の中に脱出する時期や程度によって、症状や重症の度合いが大きく異なります。最も重症な場合は、生まれた直後から高度の呼吸不全や循環不全を生じ、チアノーゼ、徐脈、無呼吸などを起こして蘇生処置を必要とします。このような症例の中には、蘇生処置を施しても短時間で死亡したり、人工呼吸管理中に死亡してしまう例もあります。また、生まれてすぐに蘇生処置が必要でない場合でも、多くの症例では24時間以内に多呼吸や陥没呼吸、呻きなどの呼吸困難症状を発症します。生まれつき横隔膜の欠損孔があっても、最初は腹部臓器の脱出がなく、あとから胸の中への脱出を生じるような例もあり、このような場合は新生児期を無症状で過ごし、乳児期以降に発症することもあります。このような遅発例では、肺の圧迫による呼吸困難症状だけでなく、嘔吐や腹痛などの消化器症状を来すことがあります。ときには症状が全くなく、レントゲン検査などで偶然発見される無症状例もあります。

7. この病気にはどのような治療法がありますか

この病気自体は手術によって治療します。しかし、この病気では手術そのものよりも、分娩前の妊婦さんの管理や、手術前後の患児の全身管理がとても大切です。そこで、生まれる前に診断がついている例では、妊婦の間から十分な設備が整い、この病気の治療に経験のある施設に転医することが望まれます。生まれたあとの患児の全身管理の基本は、低形成を伴った肺に無理な圧をかけないようにする「優しい人工換気法」(いわゆるgentle ventilation)と、一酸化窒素(NO)吸入療法を中心とした新生児遷延性肺高血圧の治療、心不全に対する循環管理からなります。一定の病状に対しては体外式膜型人工肺(ECMO)が有効な場合もあります。
手術は、一般に呼吸や循環状態が安定した状態で行います。直視下に行う手術は通常お腹側から行われ、脱出臓器を腹部に戻したあと、欠損孔のある横隔膜を修復します。横隔膜の欠損孔が小さければ横隔膜を直接縫って閉鎖し、欠損孔が大きければ人工布などを用いて閉鎖します。最近では呼吸循環状態の安定した軽症例を選んで、創の整容性を求めて胸腔鏡や腹腔鏡を用いた内視鏡手術が行われることもあります。一方、胎児期から非常に高度の肺低形成を起こし、救命が難しいような例に対しては、わが国でも胎児治療としての胎児鏡下気管閉塞術が試みられはじめています。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか

この病気では、初発時の重症度によってその後の経過が大きく違ってきますので、症例ごとに担当の先生から詳しくお話しを聞かれることをお勧めします。高度な肺低形成を伴ったり、複雑心奇形を合併したような最も重症な例では、出生後短時間で死亡したり、たとえ手術ができても数週間から数ヶ月で死亡することがあります。しかし、治療法の進歩によってこの病気の最近の救命率は改善しており、2011年に行われたわが国の全国調査では、新生児期に発症した症例のうち約4分の3の患者さんが生存退院しています。複雑心奇形などの重篤な先天奇形や、重症染色体異常を合併していない先天性横隔膜ヘルニア単独例に限れば、約85%の患者さんが生存退院しています。新生児期を過ぎて発症する症例では、ほぼ全例が救命されます。
退院までに要する期間は、病気の重症度によってかなり異なり、手術後2〜3週間で退院できる軽症例から、退院までに1年以上かかる重症例まで大きな差があります。肺低形成や新生児遷延性肺高血圧による呼吸不全に加えて、手術後早期には気胸乳糜び胸水、腸閉塞などを発症することがあります。また、手術で横隔膜を修復しても、横隔膜に再び欠損孔が生じて腹部臓器が胸の中に入り込むヘルニアの再発が起きることもあります。軽症例では、手術後は後遺症や障害を残さず、長期的にも良好な経過をたどりますが、かろうじて救命されたような重症例では、長期にわたってさまざまな後遺症や障害に悩むことも多いことが分かっています。長期間にわたる後遺症や合併症として、くり返す呼吸器感染、気管支喘息、慢性肺機能障害、慢性肺高血圧症、胃食道逆流症、逆流性食道炎、栄養障害に伴う成長障害、精神運動発達遅延、聴力障害、漏斗胸、脊椎側弯などが知られています。

9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか

重症例では多かれ少なかれ肺低形成を伴っています。幼少期にひとたび呼吸器感染を起こすと重症化しやすいため、呼吸器感染には十分な注意が必要です。日常生活でどの程度制限が必要かは、肺低形成の程度と後遺症や合併症の程度によります。そのため、この病気については手術後も一定の期間定期的にフォローアップを受けて、これら後遺症や合併症の治療を継続することがとても大切です。


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情報提供者
研究班名 小児呼吸器形成異常・低形成疾患に関する実態調査および診療ガイドライン作成に関する研究班
研究班名簿   
新規掲載日平成27年8月15日