神経線維腫症Ⅰ型(指定難病34)

しんけいせんいしゅしょうⅠがた
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

神経線維腫症Ⅰ型
神経線維腫症Ⅱ型

1. 神経線維腫症I型(NF1)(レックリングハウゼン病)とはどのような病気ですか

神経線維腫症I型(NF1)はカフェ・オ・レ斑,神経線維腫という皮膚の病変を特徴とし,そのほか骨,眼,神経系などに様々な病変を生じる遺伝性の病気です。NF1は1882年にドイツの病理学者レックリングハウゼン氏によりはじめて報告されたため,レックリングハウゼン病とも呼ばれています。神経線維腫症II型*1とは全く別の病気で,原因や症状は異なっています。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

この病気は出生約3,000人に1人の割合で生じます。過去に行われた調査により,日本での患者数は約40,000人と推定されています。

3. この病気はどのような人に多いのですか

人種差や男女による差はありません。NF1は遺伝性の病気ですが,患者さんの半数以上は両親ともにこの病気がなくて,原因遺伝子に新たに病原性のある変化が生じたこと*2により発症しています。

4. この病気の原因はわかっているのですか

原因遺伝子は17番染色体にあり,その蛋白産物はニューロフィブロミンと呼ばれています。ニューロフィブロミンには細胞の増殖を抑制する作用があるため,この遺伝子に病原性のある変化がおこると増殖のシグナルが活性化され,様々な病変を生じると推測されています。

5. この病気は遺伝するのですか

NF1は常染色体顕性遺伝(優性遺伝)の遺伝性の病気であり,浸透率*3はほぼ100%のため,両親のどちらかがこの病気の場合には子供に遺伝する確率は常に50%となります。ただし,患者さんの半数以上はご家族にこの病気がないにもかかわらず発症しています。

6. この病気ではどのような症状がおきますか

この病気の主な症状は皮膚の色素斑(しみ)と神経線維腫です。ミルクコーヒー色をした色素斑はカフェ・オ・レ斑と呼ばれ,生まれた時からみられるのが普通です。形は長円形のものが多く,丸みを帯びたなめらかな輪郭で,大きさは子供では5mm以上,大人では15mm以上のものが6個以上みられます。わきや足の付け根にできる小さな色素斑は雀卵斑(そばかす)様色素斑と呼ばれています。まれに大きな色素斑ができる場合がありますが,徐々にその部分がふくらんでくることが多いです。皮膚の神経線維腫は生まれたときにはありませんが,思春期ごろから少しずつできてきます。できる数には個人差があり,家族内でも症状に違いがみられます。神経の神経線維腫*4やびまん性神経線維腫*5(両者を含めて叢状神経線維腫と呼ぶ)がみられることもあります。その他の症状としては頻度がそれぞれ異なりますが、生まれつき骨に異常がある場合や徐々に背骨が曲がってくる場合,また大人になって脳や脊髄などに腫瘍ができることがあります。

7. この病気にはどのような治療法がありますか

現時点では病気の発症を未然におさえる根本的な治療法はありません。そのため,でてきた症状に応じた治療が行われています。皮膚の病変であれば皮膚科や形成外科の先生,皮下から深部の神経線維腫であれば形成外科・整形外科の先生、発達や成長の心配があれば小児科の先生,骨の病変は整形外科の先生など各領域の専門の先生と相談して治療法を決めています。皮膚の色素斑はあまり目立ちませんが,希望があればレーザー治療などを行うことがあります。ただし,いったん色が薄くなっても再発することが多く,逆に色が濃くなってしまうこともあります。皮膚の神経線維腫は気にならなければ無理に治療する必要はありませんが,気になる場合は手術でとることができます。通常,数が少なければ局所麻酔で多ければ全身麻酔のもとで手術が行われます。皮下から深部の叢状神経線維腫は症状がある場合で切除可能であれば手術が行われます。その他、骨や神経系などになんらかの症状がでれば,なるべくはやめに専門の医師の診察を受けることが大切です。この病気には治療の難しい症状もあるため,主治医の先生ともよく話し合った上で,場合によってはNF1に詳しい医師に相談することも必要です。海外では小児の症候性で根治切除不能な叢状神経線維腫に対してセルメチニブというお薬が治療に用いられていますが、最近になり日本でも認可されました(3歳以上18歳以下)。その薬が使用できるかどうかについては専門の先生にご相談ください。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか

重い症状を合併する患者さんの割合はそれほど高くはありませんが,ほとんどの患者さんに色素斑と神経線維腫がでてきます。神経線維腫のため多くの患者さんが外見上の問題で悩んでおられますが,治療については主治医の先生とよく相談してください。この病気は症状に個人差が大きく,家族内であっても症状は全く同じではありません。他にも様々な症状が出てくることがありますし、患者さんの年齢によっても気をつけなければならない症状が違いますので,あらかじめ先生からよく話を聞いておくことが大切です。子供であれば半年〜1年に1回程度,大人であれば1年から数年に1回程度の定期受診を心がけてください。

9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか

この病気は悪性腫瘍を合併する割合が健常人と比べてやや高いと言われています。急に大きくなる固いしこりができたときには悪性末梢神経鞘腫瘍*6という悪性腫瘍の可能性がありますので,はやめに専門の医療機関に相談してください。叢状神経線維腫(びまん性神経線維腫*5や神経の神経線維腫)のある方で腫瘍が急に大きくなったときには,悪性末梢神経鞘腫瘍*6を発症している可能性があること、それ以外に軽い打撲による刺激などで腫瘍の内部に出血が起こっている可能性もありますので,様子をみないで速やかにかかりつけの医療機関を受診してください。最近になりNF1では健常人と比べて乳がんのリスクが4-5倍高い(特に50歳以下の女性)といわれていますので,定期的な検診を心がけてください。

10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

別名:レックリングハウゼン病

11. この病気に関する資料・リンク

社団法人日本皮膚科学会(http://www.dermatol.or.jp
日本レックリングハウゼン病学会(http://www.recklinghausen.jp

(用語解説)

*1 神経線維腫症II型:聴神経の腫瘍を特徴とする病気で,通常神経線維腫はできない。詳しくはII型の病気の解説を参照してください。

*2 原因遺伝子に新たに病原性のある変化が生じた:両親にはなかった、病気を引き起こすような遺伝子の変化が新たに生じ、子どもがその変化した遺伝子を持つこと。

*3 浸透率:遺伝子に病原性変化がある場合に実際に発症する割合。浸透率が高ければ,病原性変化のある遺伝子を受け継いだ場合に発症する可能性が高くなる。

*4 神経の神経線維腫:皮膚の深いところや体の奥にある大きな神経にできる神経線維腫で,痛みがあることが多い。

*5 びまん性神経線維腫:生まれつきある大きな色素斑のしたにできる神経線維腫で,徐々に大きくなって垂れ下がってくることが多い。*4と*5 はしばしば合併し、叢状神経線維腫と呼ばれます。

*6 悪性末梢神経鞘腫瘍:皮膚にできた神経線維腫から生じることはまれで,神経の神経線維腫やびまん性神経線維腫から生じる悪性腫瘍。

 

情報提供者
研究班名 神経皮膚症候群および色素性乾皮症・ポルフィリン症の学際的診療体制に基づく医療最適化と患者QOL向上のための研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和5年11月(名簿更新:令和5年11月)