肺静脈閉塞症/肺毛細血管腫症(指定難病87)

はいじょうみゃくへいそくしょう/はいもうさいけっかんしゅしょう

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

肺静脈閉塞症/肺毛細血管腫症(PVOD/PCH)とはどのような病気でしょうか?

PVOD/PCHは、ともに肺の動脈の圧力が上昇する肺高血圧症を呈する疾患群です。肺高血圧症を呈する疾患には、肺動脈性肺高血圧症(PAH)がありますが、症状だけでは両者を区別することは非常に難しくPVOD/PCHがPAHとして治療されている場合もあります。しかし両者の病態における最大の相違点は、それらの病変部位の違いです。PAHでは肺内の動脈が主な病変部位であるのに対して、PVODでは肺内の静脈が主な病変部位、PCHでは肺の毛細血管が主な病変部位となります。PAH、PVOD、PCHはすべて、肺の血液の流れが障害され、肺高血圧症となります。これらを確実に区別し診断する方法は肺の組織を病理学的に調べることですが、実際に肺高血圧症の患者さんから肺の組織を摘出することは非常に危険です。そのため現状では様々な臨床症状、検査所見からPVOD/PCHを疑い、臨床的に診断をつけることが重要となります。

どうして肺静脈閉塞症/肺毛細血管腫症(PVOD/PCH)になるのでしょうか?

現時点ではPVOD/PCHの発症原因は分っていません。ほとんどの患者さんでは、全く予想できずに突然に発症しますが、家族内発症の報告例もあります。最近の報告では、PVODとPCHは遺伝的に類縁疾患であることが示唆されています。最近、家系内発症例で、EIF2AK4(eukaryotic translation initiation factor 2 kinase 4)という遺伝子の変異が両疾患において報告されました。しかし、この遺伝子が病気の発症にどのように関与しているかは未だ不明です。病理学的にみると、PVODでは肺静脈の内膜肥厚や線維化等による閉塞を認め、PCHでは肺胞壁の毛細血管構造の増殖による静脈閉塞を認めます。しかし何故このような肺血管リモデリングが生じるかは未だ不明です。現在、原因の解明に向けて研究が継続しています。

肺動脈性肺高血圧症(PAH)に対する肺血管拡張薬は、肺静脈閉塞症/肺毛細血管腫症(PVOD/PCH)にも有効ですか?

肺の血管を拡げて血液の流れを改善させる肺血管拡張薬(プロスタグランディン系製剤(PGI2、エポプロステノロールなど)、ホスホジエステラーゼ5阻害剤(PDE-5 Inhibitor)、エンドセリン受容体拮抗薬(ERA))はPAH患者さんの治療薬であり、その効果は世界的な研究で認められています。しかしこれらの薬をPVOD/PCH患者に投与すると、病変部位の特徴から肺に水がたまって(肺水腫をおこして)酸素濃度が低下する可能性があります。しかし一部の患者さんではある程度の効果が認められる場合もあり、専門医による十分な管理下での慎重投与が望まれます。その場合でも長期的には効果が限定されるため、現時点では肺の移植療法が考慮されます。


情報提供者
研究班名難治性呼吸器疾患・肺高血圧症に関する調査研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日令和5年1月(名簿更新:令和5年6月)