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ハンチントン病

ハンチントンびょう

(認定基準、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1.概要

常染色体優性遺伝様式をとり、舞踏病運動を主体とする不随意運動と精神症状、認知症を主症状とする慢性進行性神経変性疾患である。ハンチントン病はポリグルタミン病の一つで、病因遺伝子は第4染色体短腕4p16.3のHTTである。遺伝子産物はhuntingtinとよばれる。ほぼ完全浸透の遺伝病で、環境などによる発症率の差異は報告されていない。ポリグルタミン病の特徴としての表現促進現象anticipationが見られる。
主として成人に発症し、好発年齢は30~40歳代であるが、小児期から老齢期まで様々な年齢での発症が見られる。男女差はない。優性遺伝のため多くは両親のどちらかが本症に罹患しているが、小児期発症症例(特に幼児期発症の場合に多い)の場合には、表現促進現象anticipationのため小児発症者の遺伝子診断が,両親のどちらかにとっての発症前診断となってしまうこともあり留意する必要がある。罹病期間は一般に10~20年である。
約10%の症例は20歳以下で発症し、若年型ハンチントン病と呼ぶ。
臨床像には舞踏運動を主症状とする不随意運動と精神症状とがある。舞踏運動は早期には四肢遠位部に見られることが多いが、次第に全身性となり、ジストニアなど他の不随意運動が加わってくる。精神症状には人格障害と易刺激性、うつなどの感情障害と認知機能低下を認める。進行期になると立位保持が不能となり、臥床状態となる。進行期にはてんかん発作を合併することもある。

2.疫学

厚生省特定疾患受給者証から調査した我が国の有病率は、人口10万人あたり0.7人で、欧米のコーカソイドの約1/10である。

3.原因

概要で述べたようにハンチントン病はポリグルタミン病の一つである.ポリグルタミン病は病因遺伝子内に不安定な三塩基配列CAGの異常伸長を有する。ハンチントン病の病因遺伝子であるHTTに於けるCAG繰り返し配列はエクソンにあり、CAGはグルタミンをコードする。遺伝子産物はhuntingtinである。HTTのCAG繰り返し回数は健常人では12~30回であるが、ハンチントン病発症者では36~121回に伸長している。臨床症状とHTTのCAGリピート数との間には、関連があり、リピート数が多いほうが若年に発症し、かつ重篤である。すなわち、若年型ハンチントン病では成人発症群よりも繰り返し数が多い。また、世代を経るごとに繰り返し数は増加する傾向があり(表現促進現象:anticipation)、病因遺伝子が父親由来の際に著しい。この父親由来での繰り返し数の増大の要因として、精母細胞での繰り返し数がより不安定であることが推定されている。huntingtinは様々な組織で発現されているが、現時点ではhuntingtinの機能は不明である。
人種差と遺伝子変異との関係では、コーカソイドでは繰り返し数29~35回の中間型を示す頻度が健常人で1%と高頻度であることが、有病率の多さと関連するとされる。その他の人種での中間型の頻度は明らかとされていない。最近,この中間型が多い理由がハプロタイプの差によるものであるとの報告があった。

4.症状

多くの症例で舞踏運動を中心とする不随意運動、精神症状を様々な程度で認める。臨床像は家系内でも一定ではない。発症早期には巧緻運動障害と軽微な不随意運動、遂行運動の障害、うつ状態もしくは易刺激性などを認めるのみである。やや進行すると舞踏運動が明らかとなり、随意運動も障害される。不随意運動はジストニアやアテトーゼ、ミオクローヌス、振戦であることもある。さらに進行すると構音、構語障害が目立つようになり、人格の障害や認知障害が明らかとなる。最終的には日常生活全てに要介助、次いで失外套状態となる。
1)舞踏運動など不随意運動および随意運動症状:
舞踏運動などの不随意運動は、随意運動や精神的緊張により誘発、増悪する傾向がある。発症早期には不随意運動は神経質な印象や“くせ”とみなされることも少なくない。四肢の舞踏運動と同時に、口唇を中心とした歪め運動grimaceが見られることが多い。病像の増悪に伴い、舞踏運動が明らかとなる。舌および、口唇にも舞踏運動はみられ、これにより嚥下運動、構音、構語が障害される。進行すると不随意運動は強くなるが、末期には目立たなくなることも少なくない。深部反射は1/3の症例で亢進する。
2)精神症状、認知障害:
中核症状は人格の変化と認知障害である。人格の変化はより早期に認められる。感情面では情動の不安定さ、短気、易刺激性、不機嫌さが目立ち、精神面での抑制困難とされる。若年型でより著しい。バランスを欠き、社会的良識を欠いた行動を示すこともある。その他、易疲労性、不眠、うつ状態も頻度の高い症状である。自殺企図も少なくなく、発症早期に見られることが多く、注意が必要である。自殺企図はうつ症状と関連することもあるが,衝動的であることも少なくない。進行期には頻度は低いがけいれん発作を示すこともある。
知的機能低下については記銘力低下、判断力低下、学習機能低下などを主体とする。思考の柔軟性、思考の構築障害、注意力の低下、論理性の低下もみられる。病状が進行すると、失外套状態となる。
3)若年型ハンチントン病:
20歳以下で発症した群を若年型ハンチントン病、別名Westphal variantと称する。成人期以降に発症する群よりも、臨床像が多彩で精神症状としてけいれん発作、知的機能障害が目立ち、不随意運動では舞踏運動の他に振戦、ミオクローヌス、ジストニアを示し、筋トーヌスは固縮を示す症例の頻度が高い。構語障害も著明で、次第にmutismを呈する。けいれん発作は1/3の症例で認められる。固縮型は若年型の1/3を占める。

5.診断

家族歴、臨床像により臨床診断は可能であるが、確定診断は遺伝子診断による。未発症者では、十分な説明と同意,および,カウンセリングの体制がある場合に遺伝子診断を行う。未発症者に対する安易な遺伝子診断は原則として行わない。遺伝子診断を実施する場合には、倫理的配慮および診断確定後のケアが不可欠で、日本神経学会遺伝子診断のガイドラインを参照して頂きたい。
画像所見では、MRIなどで尾状核の萎縮、側脳室の拡大が見られ、病気の進行とともに脳萎縮が高度となる。脳血流シンチグラムでは前頭-側頭葉の血流低下がみられる。

代表的な鑑別すべき疾患を以下に列挙する。
1) 脳血管障害:多発性脳梗塞、脳出血、硬膜下血腫、もやもや病、脳動静脈奇形などに伴う舞踏運動
2) 薬物性舞踏運動:抗精神病薬、抗てんかん薬、抗パーキンソン病薬など
3) 中毒性疾患:一酸化炭素中毒、有機水銀中毒、無酸素脳症、タリウム中毒、有機溶剤中毒など
4) 脳腫瘍に伴う舞踏運動
5) 老人性舞踏病
6) 神経変性疾患に伴う舞踏運動
(1) ハンチントン病類症型Huntington disease-like2
(2) 有棘赤血球舞踏病neuroacanthocytosis
(3) DRPLA
(4) SCA17
(5)neuronal ceroid lipofuscinoses
(6) 捻転ジストニア
(7) ミオクローヌスてんかんを来たす疾患群
(8) その他
7) 不随意運動を主症状とする代謝性疾患
(1) Lesch-Nyhan症候群
(2) Wilson病
(3) ライソゾーム病
(4) ポルフィリア
(5) その他
8) 顔面・舌ジスキネジア
9) 全身性エリテマトーデス
10) 妊娠性舞踏病
11) 電解質異常にともなう舞踏病
12) 多血症

6.合併症

特異的な合併症はない。しかし、不随意運動に伴う打撲や転倒、誤嚥、窒息などの頻度は高い。

7.治療法

現時点では原因療法はない。舞踏運動など不随意運動および精神症状に対して対症療法を行う。主としてドパミン受容体遮断作用を示す抗精神病薬を使用する。抗精神病薬は舞踏運動が目立つ場合には定型抗精神病薬、舞踏運動が少ない場合には非定型抗精神病薬と,使い分けることが必要である。舞踏運動にはテトラベナジンが有用である。テトラベナジンを使用する場合にはうつ状態の発現、自殺企図の発現に留意する。その他、クレアチン、Co Q10、リルゾール、胆汁酸誘導体、多糖体などの投与が試みられているが、現在のところ有効性は確立されていない。

8.予後

慢性進行性に増悪し、罹病期間は10~20年である。死因は低栄養、感染症、窒息、外傷が多い。

神経変性疾患に関する調査研究班から

ハンチントン病と生きる(pdf 2.22MB)

家族指導に神経変性疾患に関する調査研究班で作成した「ハンチントン病と生きる」を参照されたい。


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情報提供者
研究班名 神経変性疾患領域における基盤的調査研究班
研究班名簿  研究班ホームページ 
情報更新日平成27年3月10日