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肺胞低換気症候群(指定難病230)

はいほうていかんきしょうこうぐん

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
肺胞低換気は様々な病態で起こり得るので、二次性肺胞低換気症候群(secondary alveolar hypoventilation syndrome:SAHS)の鑑別をして、肺胞低換気症候群(alveolar hypoventilation syndrome:AHS)を診断することは重要である。難治性稀少性疾患であり、発症機序は不明であるが、フェノタイプAとBでは、睡眠時の呼吸動態に違いがあることが判明している。
 
AHSは、呼吸器・胸郭・神経・筋肉系に異常がなく、肺機能検査上明らかな異常が認められないにもかかわらず、日中に肺胞低換気(高度の高二酸化炭素血症と低酸素血症)を呈する病態である。肺胞低換気は覚醒中よりも睡眠中に悪化する。原因としては呼吸の化学(代謝)調節系を構成する化学受容体の異常(不全)が一部関与していると推定されている。フェノタイプAは従来、原発性肺胞低換気症候群(primary alveolar hypoventilation syndrome:PAH)と考えられていた病型である。
 
2.原因
呼吸の自動調節(化学、代謝呼吸調節)系の異常(不全)と考えられている。一部の症例でPHOX2B遺伝子の変異が報告されているが、病態との関係は不明である。
 
3.症状
症状としては、不眠傾向や中途覚醒などの重度の睡眠障害、それにもとづく日中の眠気(過眠)などが現れることがある。病状が進行すればII型呼吸不全が進行し、右心不全の徴候(呼吸困難、全身の浮腫など)が出現してくる。それ以外に日中活動性低下に伴う諸症状を伴う。
 
4.治療法
難治性稀少性疾患であり、根治的治療法は確立されていない。特に非侵襲的陽圧換気療法がほとんどの例で有効であるが、対症療法である。外国では横隔膜神経刺激も行われることがあるが、日本ではまれである。酸素投与、プロゲステロンやアセタゾラマイドなどの呼吸刺激剤も軽症例には使用されることがあるが、有効性は確立されていない。フェノタイプA患者は鎮静剤投与により、肺胞低換気が急激に進行して、急性呼吸不全を誘導することがあり、注意が必要である。フェノタイプB患者も同様の傾向があり、注意が必要である。
 
5.予後
難治性稀少疾患のため、正確な統計はとられていないが、非侵襲的換気療法の継続治療が施行されていない場合、夜間の突然死が多いことが報告されている。 長期予後は不良と推定される。
 
 
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.  患者数
3,000人程度と推定される(難治性呼吸器疾患・肺高血圧症に関する調査研究班による推定)
2.  発病の機構
不明(機序不明の呼吸調節異常)
3.  効果的な治療方法
未確立(非侵襲的陽圧換気療法)
4.  長期の療養
必要(病態を改善させる治療法なし、対症療法のみ)
5.  診断基準
あり(難治性呼吸器疾患・肺高血圧症に関する調査研究班作成の診断基準)
6.  重症度分類
研究班作成の重症度分類を用いて重症度3以上を対象とする。
 
○ 情報提供元
「難治性呼吸器疾患・肺高血圧症に関する調査研究」
研究代表者 千葉大学大学院医学研究院 呼吸器内科学 教授 巽浩一郎
 
 
<診断基準>
Definite、Probableを対象とする。
 
肺胞低換気症候群の診断基準
 
A.症状
1.不眠傾向や中途覚醒などの重度の睡眠障害、それにもとづく日中の過眠。
2.右心不全の徴候(安静時ないしは労作時の息切れ、全身の浮腫など)
3.日中活動性低下に伴う諸症状。
 
B.検査所見
1.動脈血液ガス分析にて、慢性の高度の高二酸化炭素血症(PaCO2>45Torr)を認める。
 
2.動脈血液ガス分析:PaO2 60Torr以下の慢性呼吸不全を呈する場合はHOTの併用を考慮
 
3.フェノタイプA、Bの判定は終夜睡眠検査(ポリソムノグラフィー)にて行う。
フェノタイプA:夜間睡眠中に主に低換気/低酸素血症を呈する。
フェノタイプB:夜間睡眠中に主に無呼吸を呈する。
 
C.鑑別診断
以下の疾患を鑑別する。
1.肺の器質的疾患:慢性閉塞性肺疾患(COPD)(単独)、特発性間質性肺炎、気管支拡張症など
COPD(単独)は閉塞性換気障害(FEV1/FVC<70%)で診断される疾患である。
COPD(単独)で夜間睡眠中に無呼吸、低換気を呈することも経験される。 軽症~中等症COPD(単独)(%FEV1≥50%)でPaCO2>50Torrの場合は、肺胞低換気症候群の合併を考慮する。 診断には、呼吸機能検査が必須である。
 
2.睡眠時無呼吸症候群(SAS)(単独)
睡眠検査で無呼吸低呼吸指数(AHI)≥5は睡眠呼吸障害有りと診断する。AHI≥5で覚醒時の自他覚所見を伴う場合、あるいは症状の有無に係らずAHI≥15の場合、睡眠時無呼吸症候群(SAS)(単独)の診断となる。SAS(単独)で覚醒時にPaCO2>52.5Torr(重症度2以上)を呈する場合は、肺胞低換気症候群の合併を考慮する。診断には、睡眠検査及び覚醒時の動脈血液ガス分析が必須である。

3.神経筋疾患:重症筋無力症など
薬剤などによる呼吸中枢抑制や呼吸筋麻痺が否定され、かつ神経筋疾患などの病態が否定される。
画像診断及び神経学的所見により、呼吸中枢の異常に関連する中枢神経系の器質的病変が否定される。
 
4.胸郭拘束性疾患(後側弯症、胸郭変形など)(単独)
 
5.薬剤によるもの(呼吸中枢抑制、呼吸筋麻痺)
 
D.遺伝学的検査
PHOX2B遺伝子の変異
フェノタイプAにPHOX2Bの変異が報告されているが、特に成人例では検査の意義は未確定。
フェノタイプBは不明
 
<診断のカテゴリー>
Definite:Aのうち2項目以上+Bの1を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外可能であるが、
      Bの3にてフェノタイプA、Bが明らかのもの
 
Probable:Aのうち1項目+Bの1を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外可能であるが、
       Bの3にてフェノタイプA又はBが判定困難なもの
 
Possible:Bの1を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外可能であるが、
       フェノタイプA又はBが判定困難なもの(ポリソムノグラフィー未施行な場合)
 
 
 
<重症度分類>
 
以下の重症度分類を用いて重症度3以上を対象とする。
 
息切れを評価する修正MRC(mMRC)分類グレード
0:激しい運動をした時だけ息切れがある。
1:平坦な道を早足で歩く、あるいは緩やかな上り坂を歩く時に息切れがある。
2:息切れがあるので、同年代の人よりも平坦な道を歩くのが遅い、あるいは平坦な道を自分のペースで歩いている時、息切れのために立ち止まることがある。
3:平坦な道を約100m、あるいは数分歩くと息切れのために立ち止まる。
4:息切れがひどく家から出られない、あるいは衣服の着替えをする時にも息切れがある。
 

 

重症度

自覚症状

動脈血液ガス分析

治療状況

 

息切れの程度

PaCO2

PaO2

NPPV/HOT治療

mMRC≥1

PaCO2>45Torr

問わず

問わず

mMRC≥2

A:PaCO2>50Torr, B:>52.5 Torr

CPAP/NPPV継続治療必要

PaO2≤70 Torr

CPAP/NPPV/HOT継続治療必要

A,B:PaCO2>55Torr

PaO2≤60 Torr

NPPV/HOT継続治療必要

mMRC≥3

A,B:PaCO2>60Torr

 

自覚症状、動脈血液ガス分析、治療状況の項目全てを満たす最も高い重症度を選択、複数の重症度にまたがる項目については他の項目で判定する。
HOTに関しては治療後、夜間を含めて改善すれば中止は可能。
PaCO2の項目のA、BはフェノタイプA、Bを示す。

 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

本疾患の関連資料・リンク
  1. International classification of sleep disorders, 3rd ed. American Academy of Sleep Medicine. IL, 2014

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情報提供者
研究班名 難治性呼吸器疾患・肺高血圧症に関する調査研究班
研究班名簿  研究班ホームページ 
情報更新日平成29年8月3日