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自己免疫性肝炎

じこめんえきせいかんえん

この病気は、平成27年1月1日から医療費助成対象疾病(指定難病)となります。
(指定難病一覧(概要、診断基準等・臨床調査個人票))

1.概要

a.概念・定義

自己免疫性肝炎(Autoimmune hepatitis: AIH)は中年以降の女性に好発する原因不明の肝疾患で、その発症進展には遺伝的素因、自己免疫機序が関与することが想定されている。臨床的には①抗核抗体、抗平滑筋抗体などの自己抗体陽性、②血清IgG 高値を高率に伴う。発症には急性、慢性のいずれも存在するが、無症候性で何らかの機会の血液検査でAST、ALT の上昇により発見されることがある。急性発症の場合には、①、②の特徴を示さず急激に進展、肝不全へと進行する場合がある。

多くの症例では、副腎皮質ステロイド投与が極めて良く奏効し、多くは投与によりAST、ALT は速やかに基準値内へと改善するが、治療開始が遅れた場合、有効性は低下する。また少数例では副腎皮質ステロイド抵抗性を示す。

組織学的には、典型例では慢性肝炎像を呈し、門脈域の線維性拡大、同部への単核球浸潤を認め、浸潤細胞には形質細胞が多いことが特徴である。肝細胞の、多数の巣状壊死、帯状、架橋形成性肝壊死もしばしばみられ、また肝細胞ロゼット形成も少なからずみられる。門脈域の炎症が高度の場合には胆管病変も伴うことがあるが、胆管消失は稀である。初診時既に肝硬変へ進展している症例もある。

b.疫学

わが国のAIH の有病率、罹患率に関する詳細な疫学調査は行われていない。また、AIH は特定疾患治療研究事業の対象疾患ではないため、医療受給者書の交付件数から患者数の推計はできない。2005 年に行われた全国疫学調査によると2004 年1 年間の患者数は9,533 人と推定され、以前の同調査と比較して増加している。

欧米ではAIH は慢性肝疾患の重要な原因となっているが、わが国では比較的稀であり、慢性肝炎患者のうちでAIH の占める比率は1.8%、女性に限ると約4%と推定されている。肝硬変患者ではAIH は1.9%を占め、女性だけに限ると4.3%に達する。

c.病因・病態

AIH 発症の原因は現在なお不明であるが、抗核抗体などの自己抗体陽性、高γグロブリン血症、他の自己免疫疾患の合併、副腎皮質ステロイド治療に対する反応性などから、免疫寛容システムの破綻による自己免疫機序の関与が想定されている。肝内浸潤リンパ球はT 細胞優位であり、肝細胞に対する自己反応性T 細胞の活性化とそれを抑制すべき免疫制御性T 細胞の機能異常による細胞性免疫異常が肝細胞障害の主因と考えられている。特定の遺伝因子を持つ個体(遺伝要因)に、何らかの誘因(環境要因)が加わると発症すると推定されているが、肝細胞に対する自己免疫現象の標的抗原はいまだに同定されておらず、本疾患に特異的な自己抗体も同定されていない。

d.症状

しばしば全身倦怠感、易疲労感、食欲不振等の自覚症状を伴い、肝障害が著明な場合は黄疸等の他覚症状がみられる。一方、自他覚症状を全く伴わず、偶然に健康診断などで肝障害を指摘され受診することも少なくない。また、高齢者などでは診断時から浮腫、腹水などの肝硬変に伴う症状がみられることもある。

e.治療

AIH の病因が不明であるため根治的治療法は確立されておらず、副腎皮質ステロイドが第一選択薬となる。副腎皮質ステロイドとしては、プレドニゾロンが広く使用されている。わが国の最近の全国調査では、75%の症例でプレドニゾロン投与が行われている。また、プレドニゾロンで治療された症例の94%で血清トランスアミナーゼの正常化が得られている。合併症や副作用のために副腎皮質ステロイドを使用できない症例では、アザチオプリン(保険未収載)の投与を考慮する。治療中止後に約80%の症例で再燃がみられる。また、再燃を繰り返すことが生命予後の悪化につながることから、原則として治療中止は困難である。しかし、治療中止時の血清トランスアミナーゼやIgG が基準値範囲内である症例では、治療中止後の再燃が少ないことも報告されている。

f.ケア

AIHでも稀ながら肝発癌が認められるため、定期的な画像検査(腹部超音波、CT、MRIなど)が必要である。血清IgGの測定が自己免疫性肝炎の病勢評価に有用である。妊娠中はトランスアミナーゼが改善または正常化することが多く、治療薬の減量や中止が可能になる場合もある。しかし、出産後の急激な血中エストロゲン値の低下に伴いAIHの急性増悪を示す症例があり、注意が必要である。なお、妊娠中は、アザチオプリンやウルソデオキシコール酸は禁忌である。

g.食事・栄養

副腎皮質ステロイド治療中には副作用として食欲亢進や肥満、脂質異常症、糖尿病などが現れることがあるため、適切な食事摂取量を心がけ、脂肪・糖質の取りすぎに注意し、体重管理に努めるよう指導する必要がある。

h.予後

適切な治療が行われたAIH症例の予後は、概ね良好であり、生存期間についても一般人口と差を認めない。しかし、適切な治療が行われないと、他の慢性肝疾患に比べて早期に肝硬変・肝不全へと進行する。予後を良好に保つためには血清トランスアミナーゼの持続正常化が重要であり、繰り返す再燃は

2.診断

①診断指針・スコアリングシステム

AIH は、国際診断基準を参考に厚生労働省「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班の診断指針(表1)に従って診断する。

1. 厚生労働省「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班の診断指針
2013 年に厚生労働省「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班によりAIH の診断指針が改訂された。AIH は人種により遺伝的背景、臨床像、治療反応性が少なからず異なる。この診断指針は、わが国における最新の全国調査の結果も参照して作成されており、日本人のAIH の診断には有用と考えられる。なお、本診断指針では高齢者や肝不全症例など肝生検が困難な症例でもAIH の診断が可能であるが、本疾患の診断には肝組織所見が重要であるため、可能な限り肝組織学的検索を行う。

表1  自己免疫性肝炎の診断指針・治療指針(2013年)(抜粋)
厚生労働省「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班 自己免疫性肝炎分科会
診断
  1. 他の原因による肝障害が否定される
  2. 抗核抗体陽性あるいは抗平滑筋抗体陽性
  3. IgG高値(>基準上限値1.1倍)
  4. 組織学的にinterface hepatitisや形質細胞浸潤がみられる
  5. 副腎皮質ステロイドが著効する

典型例
上記項目で1を満たし、2~5のうち3項目以上を認める。
非典型例
上記項目で1を満たし、2~5の所見の1~2項目を認める。

2. 改訂版国際診断基準・スコアリングシステム
わが国を含む世界各国のAIH の基礎、臨床研究者から構成される国際AIH グループ(IAIHG)は、1999 年に改訂版国際診断基準を発表した。このスコアリングシステムは13 項目の検討項目について各々点数をつけ総合点で診断するもので、その診断感受性は97~100%と極めて高いことが国内外で検証されている。しかし、判定すべき項目数の多いことが日常診療で汎用するうえでの問題点である。また、この診断基準の作成目的は、AIH の病態、治療研究の対象となる症例の抽出であり、日常診療における利用を必ずしも念頭においたものではないことに留意する必要がある。したがって、日常診療でのAIH 診断にあたっては、過度に本スコアに固執すべきではないとIAIHG も注意喚起を行っている。

3. 簡易型国際診断基準・スコアリングシステム
改訂版国際診断基準は検討項目数が多く日常診療での利便性に欠けるとの批判を受け、IAIHG は2008 年に4 項目からなる簡易型国際診断基準を作成した。本スコアで疑診以上ならば、免疫抑制薬の治療開始を考慮してもよい。本スコアは原発性胆汁性肝硬変(PBC)の鑑別能は低いが、PBC であっても本スコアによりAIH と診断される場合は副腎皮質ステロイド治療も考慮すべきである。一方、非定型的症例の診断の見落としが生じる可能性があることも示唆されている。なお、本診断基準では、肝組織の確認が必要である。

②重症度分類

臨床徴候

肝性脳症あり
②肝濁音界縮小
または消失

臨床検査所見

①AST, ALT>200 IU/L
②ビリルビン>5 mg/dl
③プロトロンビン時間<60 %

画像検査所見

①肝サイズ縮小
②肝実質の不均質化

重  症:
次の1、2、3のいずれかがみられる
1.臨床徴候:①または②
2.臨床検査所見:①+②または②+③
3.画像検査所見:①または②

中等症:
臨床徴候①、②、 臨床検査所見③、画像検査所見①、②がみられず、 臨床検査所見①または②がみられる

軽  症:
臨床徴候①、②、臨床検査所見①、②、③、画像検査所見①、②のいずれもみられない

3.治療 治療指針

治療目標は、ALTとIgG値の正常化、組織学的炎症と線維化の改善、そして持続した寛解状態を得ることである。治療の基本は、副腎皮質ステロイドによる薬物療法である。プレドニゾロン導入量は0.6 mg/kg/日以上とし、中等症以上では0.8 mg/kg/日以上を目安とする。早すぎる減量は再燃の原因となるため、プレドニゾロン 5mg/1-2週を減量の目安とする。プレドニゾロン投与量を漸減し、最低量のプレドニゾロンを維持量として長期投与する。
ウルソデオキシコール酸が副腎皮質ステロイドの減量時に併用あるいは軽症例に単独で投与することがある。再燃例では、初回治療時に副腎皮質ステロイドへの治療反応性が良好であった例では、ステロイドの増量または再開が有効である。繰り返し再燃する例ではアザチオプリン(保険未収載) 1-2 mg/kg/日の併用を考慮する。
重症例ではステロイドパルス療法や肝補助療法(血漿交換や血液濾過透析)などの特殊治療を要することがある。また、非代償性肝硬変例や劇症肝炎例では肝移植が有効な治療法となる場合がある。

4.鑑別診断

ウイルス性肝炎および肝炎ウイルス以外のウイルス感染(EBウイルス、サイトメガロウイルスなど)による肝障害、健康食品による肝障害を含む薬物性肝障害、非アルコール性脂肪性肝疾患、他の自己免疫性肝疾患などとの鑑別を行う。特に薬物性肝障害や非アルコール性脂肪性肝疾患では抗核抗体が陽性となる症例があり、詳細な薬物摂取歴の聴取や病理学的検討が重要である。

5.最近のトピックス

AIHにおいては、オランダから新規疾患感受性遺伝子としてScr hormology 2 adaptor protein 3(SH2B3)とcaspase recruitment domain family member 10(CARD10)がGWASにて同定された。わが国でも解析中である。AIHモデルマウスの解析も進展し、肝炎劇症化の機序として樹状細胞が産生するIL-18による脾内T細胞のCXCR3+細胞への分化誘導と肝マクロファージ/Kupffer細胞が産生するCXCL9による肝への誘導が示されている。

難治性の肝疾患に関する調査研究班から


患者さん・ご家族のための自己免疫性肝炎(AIH)ガイドブック(2013)(pdf 2.26MB)

自己免疫性肝炎(AIH)の診療ガイドライン(2013)(pdf 4.91MB)

情報提供者
研究班名 難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究班
研究班名簿   
情報更新日平成26年12月9日