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自己免疫性肝炎

じこめんえきせいかんえん

■概念・定義

自己免疫性肝炎は、肝細胞障害の成立に自己免疫機序が関与していると考えられる慢性に経過する肝炎であり、中年以降の女性に好発することが特徴である。原則的には既知の肝炎ウイルス、アルコール、薬物による肝障害、及び他の自己免疫疾患に基づく肝障害は除外される(*)。また、治療に際し免疫抑制剤、特にコルチコステロイドが著効を奏す。一方、最近の調査により、急性肝炎様に発症する症例の存在が明らかとなっている。
 *我が国ではC型肝炎ウイルス血症を伴う自己免疫性肝炎がある。

■疫学

我が国での年間推定患者数は1,400症例とされているが、近年症例数は増加傾向を示している。発症年齢は60歳を中心とする一峰性を示し、多くは中年以降の発症であり、最近高齢化がみられる。男女比は約1:6で女性に多い。

■病因

自己免疫性肝炎の病因は解明されていないが、日本人では60%の症例でHLA-DR4陽性、欧米ではHLA-DR3とHLA-DR4陽性例が多いことから何らかの遺伝的素因が関与していると思われる。
また、ウイルス感染(A型肝炎ウイルス、Epstein-Barrウイルス、サイトメガロウイルス、麻疹ウイルス)や一部の薬剤が自己免疫性肝炎発症の誘因として報告されている。

■症状

我が国では初発症状としては、倦怠感が60%と最も多く、黄疸(35 %)、食思不振(27%)がこれに次ぐ。またウイルス性慢性肝炎では通常ない関節痛、発熱を初発とするものがそれぞれ約15%にみられる。また、合併する他の自己免疫疾患による症状を初発症状とするものもある。自己免疫疾患あるいは膠原病の合併はおよそ1/3の症例でみられ、合併頻度の高いものとしては慢性甲状腺炎(9%程度)、シェーグレン症候群(7%程度)、関節リウマチ(3%程度)がある。身体症候としては、他のウイルス性慢性肝炎、肝硬変と異なることはない。

■臨床

(1)GOT(AST),GPT(ALT)の上昇

持続性又は反復性の血清トランスアミナーゼ(GOT〔AST〕,GPT〔ALT〕)の上昇がみられる。一般に、ウイルス性慢性肝炎に比し、血清トランスアミナーゼは高値で300 IU/l以上の上昇を示すことが多い。ときに急性肝炎様の急峻な血清トランスアミナーゼの上昇で発症することもある。一方、最近の全国調査では、30%程度の症例で診断時GPT〔ALT〕が100 IU/l以下であった。

(2)高ガンマグロブリン血症

血清γ‐グロブリン、あるいはIgG値の上昇(2g/dl以上)、膠質反応(ZTT,TTT)の高値がみられる。自己免疫性肝炎の60%がIgG値の上昇(2g/dl以上)を示す。

(3)血沈亢進

約60%に30mm/h以上の血沈亢進がみられる。

(4)血清自己抗体陽性

自己免疫性肝炎患者の74%で抗核抗体が80倍以上の高力価を示す。一方、抗平滑筋抗体の陽性率は、自己免疫性肝炎全体では43%、抗核抗体陰性例では44%である。また、抗肝腎ミクロゾーム抗体のみ、あるいは抗肝可溶性抗原抗体のみが陽性の症例もみられる。

■治療

治療目標は血清トランスアミナーゼ(GOT〔AST〕,GPT〔ALT〕)の持続正常化である。

第一選択薬はプレドニゾロンであり、通常は30-40mg/日で開始する。血清トランスアミナーゼとIgGの改善を指標に、1-2週間毎に5mgずつ漸減し、1日投与量が15-20mg以下になれば2.5mgずつ漸減する。プレドニゾロンの維持量は、通常5-10mg/日である。

ステロイドパルス療法による予後改善効果については、現時点では不明である。一方、急性肝不全(劇症肝炎・遅発性肝不全)例にステロイドパルス療法を行う際には、感染症(特に、真菌感染)に対する十分な注意が必要である。

2年間以上血清トランスアミナーゼとIgGが正常内で推移すれば、プレドニゾロンの中止も検討可能である。しかし、血清トランスアミナーゼやIgGが持続的に正常化していない症例では、治療中止により高率に再燃がみられる。

治療を中止した症例の80%で再燃がみられ、60%の症例は1年以内に再燃するため、治療中止後も十分な経過観察が必要である。

初回のプレドニゾロン治療に良好に反応した症例の多くでは、再燃時においてもプレドニゾロンの増量により血清トランスアミナーゼの正常化を得ることができる。

副腎皮質ステロイド治療にもかかわらず再燃を繰り返す症例や副腎皮質ステロイドが使用できない症例では、免疫抑制剤アザチオプリンの使用が有効である。通常、アザチオプリンの投与量は50-100mg/日である。アザチオプリン投与時には、血液障害(汎血球減少、貧血、無顆粒球症、血小板減少)、感染症、肝障害などに注意が必要である。

プレドニゾロン漸減時や軽度の再燃時には、ウルソデオキシコール酸600mg/日を併用することで血清トランスアミナーゼの持続正常化を得られる場合がある。

自己免疫性肝炎による急性肝不全(劇症肝炎・遅発性肝不全)例の予後は不良であり、肝移植を視野に入れた治療方針の決定が必要である。

■ケア

自己免疫性肝炎でも稀ながら肝発癌が認められるため、定期的な画像検査(腹部超音波、CT、MRIなど)が必要である。

血清IgGの測定が、自己免疫性肝炎の病勢評価に有用である。

妊娠中はトランスアミナーゼが改善または正常化することが多く、治療薬の減量や中止が可能になる場合もある。しかし、出産後の急激な血中エストロゲン値の低下に伴い自己免疫性肝炎の急性増悪を示す症例があり、注意が必要である。なお、妊娠中は、アザチオプリンやウルソデオキシコール酸は禁忌である。

■食事・栄養

副腎皮質ステロイド治療中には副作用として食欲亢進や肥満、高脂血症、糖尿病などが現れることがあるため、適切な食事摂取量を心がけ、脂肪・糖質の取りすぎに注意し、体重管理に努めるよう指導する必要がある。

■予後

適切な治療が行われた自己免疫性肝炎症例の予後は、概ね良好であり、生存期間についても一般人口と差を認めない。しかし、適切な治療が行われないと、他の慢性肝疾患に比べて早期に肝硬変・肝不全へと進行する。

予後を良好に保つためには血清トランスアミナーゼの持続正常化が重要であり、繰り返す再燃は予後不良(肝不全、肝発癌)につながる。

■最近のトピックス

最近の調査により、黄疸や全身倦怠感などを主訴とし急性肝炎様に発症する自己免疫性肝炎症例の存在が明らとなった。急性肝炎様に発症した症例では、肝組織での中心静脈周囲の壊死炎症像が特徴である。これらの症例では、抗核抗体陰性や血清中ガンマグロブリン値が正常内を示すことがあり、自己免疫性肝炎の診断が困難な場合がある。一方、治療開始が遅れ急性肝不全(劇症肝炎・遅発性肝不全)に移行するとステロイド治療抵抗性となり、きわめて予後不良である。急性肝不全例では、肝移植を視野に入れた治療方針の決定が必要となる.成因不明の急性肝炎例については、専門医療機関へのコンサルトが必要である。

なお、急性肝炎様に発症する自己免疫性肝炎には、病理組織学的に門脈域の線維化と高度な細胞浸潤を認め、慢性肝疾患の経過中に急性増悪(acute exacerbation)として発症したと思われる症例(急性増悪期)と慢性肝疾患の病理組織所見がないか軽微で急性肝炎の病理所見が主体の症例(急性肝炎期)の2つの病態が存在する。

難治性の肝疾患に関する調査研究班から


研究成果(pdf 26KB)

この疾患に関する調査研究の進捗状況につき、主任研究者よりご回答いただいたものを掲載いたします。

患者さん・ご家族のための自己免疫性肝炎(AIH)ガイドブック(2013)(pdf 2.26MB)

自己免疫性肝炎(AIH)の診療ガイドライン(2013)(pdf 4.91MB)

情報提供者
研究班名 消化器系疾患調査研究班(難治性の肝・胆道疾患)
研究班名簿   
情報更新日平成24年11月26日