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原発性胆汁性肝硬変(PBC)

げんぱつせいたんじゅうせいかんこうへん(PBC)

(認定基準、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1)概要

a. 定義
原発性胆汁性肝硬変(Primary biliary cirrhosis: PBC)は、中年以降の女性に好発する慢性進行性の胆汁うっ滞性肝疾患である。病理組織学的には慢性非化膿性破壊性胆管炎(chronic non-suppurative destructive cholangitis: CNSDC)と肉芽腫の形成を特徴とし、胆管上皮細胞の変性・壊死によって肝内小型胆管が破壊され消失することにより慢性進行性の胆汁うっ滞を呈する。胆汁うっ滞に伴い肝実質細胞の破壊と線維化を生じ、究極的には肝硬変から肝不全を呈する。自己抗体の一つである抗ミトコンドリア抗体(Anti-mitochondrial antibody: AMA)が90%以上の症例で検出され、診断的意義が高い。臨床的には胆汁うっ滞に伴うそう痒感が特徴的であるが、臨床症状が全くみられない無症候性PBCの症例も多く、このような症例は長年無症状で経過し予後もよい。シェーグレン症候群、慢性甲状腺炎、関節リウマチなど、種々の自己免疫性疾患を合併することが多い。

b. 疫学
厚生労働省「難治性の疾患」調査研究班の全国調査によると、男女比は約1:7であり、最頻年齢は女性50歳代、男性60歳代である(図1)。1974年わずか10名程度であった発生数が1989年以後250~300名前後を推移している(図2)。年次別有病者数も年々増加し2007年には5000人弱となった(図3)。

図1 年齢構成および性別


図2 年齢別発生数


図3 年次別有病数


特定疾患治療研究事業で医療費の助成を受けているPBC患者数(症候性PBC)は2008年度は約16,000人であった(特定疾患医療受給者証交付件数、平成21年3月31日現在)。これに基づくと、無症候性のPBCを含めた患者総数は約50,000~60,000人と推計される。日本人総人口を1億3千万人(国勢調査)とすると、人口100万対600人、患者がみられる20歳以上(1億3百万人)のみを対象とすると人口100万人対750人となる。

c. 病因・病態
発症の原因はまだ不明であるが、自己抗体の一つであるAMAが特異的かつ高率に陽性化し、また、慢性甲状腺炎、シェーグレン症候群等の自己免疫性疾患を合併しやすいことから、胆管障害の機序として自己免疫学的機序が考えられている。組織学的にも、肝臓の門脈域、特に障害胆管周囲は免疫学的機序の関与を示唆するような高度の単核球の浸潤がみられ、胆管上皮細胞層にも単核球細胞浸潤がみられる。免疫組織学的に、浸潤細胞はT細胞優位であり、小葉間胆管上皮細胞表面にはHLAクラスII抗原の異所性発現がみられ、小葉間胆管上皮細胞表面にはクラスI抗原の発現が増強している、また、接着因子の発現がみられるとともに、AMA(抗PDC-E2抗体など)が認識する分子が小葉間胆管上皮細胞表面に存在するなど、自己免疫反応を特徴づける所見が認められることより、胆管障害機序には免疫学的機序、とりわけT細胞(細胞傷害性T細胞)が重要な役割を担っていることが想定されている。
PBCの特殊な病態として、肝炎の病態を併せ持ちALTが高値を呈する病態があり、PBC-AIHオーバーラップ症候群と呼ばれる。副腎皮質ステロイドの投与によりALTの改善が期待できるため、PBCの亜型ではあるが、PBCの典型例とは区別して診断する必要がある。

d. 症状
病初期は長期間無症状であるが、ある程度進行すると本疾患に特徴的である胆汁うっ滞に基づく皮膚そう痒感が出現してくる。特徴的な身体所見として、そう痒感に伴う掻き疵や高脂血症に伴う眼瞼黄色腫がみられる症例もある。通常肝硬変に伴って出現する食道・胃静脈瘤が、肝硬変に進展していない早い段階からみられることもあるので注意が必要である。さらに進行すると、黄疸や腹水、肝性脳症など、肝硬変に伴う症状が出現する。近年ではPBCの生命予後の改善、患者の高齢化に伴い、以前はPBCには稀と考えられていた肝細胞癌が発症することも少なからずみられる。

2)診断

わが国では厚生省「難治性の肝疾患」調査研究班(平成22年度)による診断基準(表1)が用いられている。

表1.原発性胆汁性肝硬変の診断基準(平成22年度)
「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班 原発性胆汁性肝硬変分科会

概 念
原発性胆汁性肝硬変(primary biliary cirrhosis,以下PBC)は,病因・病態に自己免疫学的機序が想定される慢性進行性の胆汁うっ滞性肝疾患である.中高年女性に好発し,皮膚掻痒感で初発することが多い.黄疸は出現後,消退することなく漸増することが多く,門脈圧亢進症状が高頻度に出現する.臨床上,症候性(symptomatic)PBC(sPBC)と無症候性(asymptomatic)PBC (aPBC)に分類され,皮膚掻痒感,黄疸,食道胃静脈瘤,腹水,肝性脳症など肝障害に基づく自他覚症状を有する場合は,sPBCと呼ぶ.これらの症状を欠く場合はaPBCと呼び,無症候のまま数年以上経過する場合がある.sPBCのうち2mg/dl以上の高ビリルビン血症を呈するものをs2PBCと呼び,それ未満をs1PBCと呼ぶ.
1. 血液・生化学検査所見
症候性,無症候性を問わず,血清胆道系酵素(ALP,γGTP)の上昇を認め,抗ミトコンドリア抗体(antimitochondrial antibodies,以下AMA)が約90%の症例で陽性である.また,IgMの上昇を認めることが多い.
2. 組織学的所見
肝組織では,肝内小型胆管(小葉間胆管ないし隔壁胆管)に慢性非化膿性破壊性胆管炎(chronic non-suppurative destructive cholangitis,以下CNSDC)を認める.病期の進行に伴い胆管消失,線維化を生じ,胆汁性肝硬変へと進展し,肝細胞癌を伴うこともある.
3. 合併症
慢性胆汁うっ滞に伴い,骨粗鬆症,高脂血症が高率に出現し,高脂血症が持続する場合に皮膚黄色腫を伴うことがある.シェーグレン症候群,関節リウマチ,慢性甲状腺炎などの自己免疫性疾患を合併することがある.
4. 鑑別診断
自己免疫性肝炎,原発性硬化性胆管炎,慢性薬物性肝内胆汁うっ滞,成人肝内胆管減少症など
診 断
次のいずれか1つに該当するものをPBCと診断する.
1)組織学的にCNSDCを認め,検査所見がPBCとして矛盾しないもの.
2)AMAが陽性で,組織学的にはCNSDCの所見を認めないが,PBCに矛盾しない(compatible)組織像を示すもの.
3)組織学的検索の機会はないが,AMAが陽性で,しかも臨床像及び経過からPBCと考えられるもの

すなわち、臨床経過・血液検査・画像診断によりウイルス性肝炎、薬物性肝障害、悪性疾患など他の原因を除外した上で、 (1)胆道系酵素(ALP、γ-GTP)優位の肝機能異常、 (2)血清中AMA陽性、(3)特徴的な肝組織像の3点が診断の柱であり、この3点のうち2点が揃えば概ねPBCと診断する。胆道系酵素の慢性的な上昇、およびAMA陽性の所見が揃えば、肝生検は必ずしも必須ではなく、この段階でPBCと診断可能である。しかし、ALT上昇や抗核抗体陽性などオーバーラップ症候群が疑われる症例やAMA陰性例などの非典型例では肝生検は必須である。
最も簡便な重症度分類は症状の有無による無症候性PBC、症候性PBCの分類である。皮膚掻痒感や黄疸などを伴う症候性PBCは無症候性PBCに比べて明らかに予後が不良であることが示されており、現在厚生労働省により助成対象要件として採用されている。肝硬変まで進展した症例の肝予備能評価には、血清ビリルビン値をPBCに適した形で修正したChild-Pugh分類が用いられる。肝移植を想定した予後予測にはMayo Clinicの予後予測式、日本肝移植適応研究会の予後予測式、MELDスコアなどが用いられている。

 

3)鑑別診断

まずは臨床経過・血液検査・画像診断により肝炎ウイルスの関与や、薬物性肝障害、閉塞性黄疸を除外する。ことに悪性疾患や胆石症による胆汁うっ滞・閉塞性黄疸を慎重に除外する必要がある。PBCは慢性の経過をとるため、これらの疾患でよくみるように胆道系酵素が経過とともに右肩上がりで上昇することは稀で、軽度に変動しながら経過することがほとんどである。薬物性肝障害では薬剤の中止により多くの場合肝機能障害は改善する。
慢性胆汁うっ滞性肝疾患として知られる原発性硬化性胆管炎もやはり胆道系酵素は軽度に変動しながら推移するため類似の血液検査結果を呈するが、PBCと異なり大型の胆管が障害されるため、画像検査で胆管拡張がみられること、およびAMAが検出されないことが鑑別上重要である。
また、AMA陰性で抗核抗体のみ陽性となる症例、胆道系酵素よりもトランスアミナーゼ上昇が目立つ症例など、いわゆる非典型的自己免疫性肝疾患では、自己免疫性肝炎との鑑別が問題になる。このような症例では肝生検を行って組織像を入念に観察するとともに、肝臓専門医へのコンサルテーションが必要である。
その他、成人性肝内胆管減少症、移植片対宿主病(GVHD)、肝移植拒絶反応、サルコイドーシスなどが鑑別対象疾患となる場合がある。

4)治療

根治治療は存在しないため、個々の患者の病態に応じた対策が必要である。胆汁うっ滞を改善し肝硬変への進行を抑えるというPBCそのものに対する治療と、PBCに伴って生じる症状・合併症に対しての治療に大別される。
PBCに対しての第一選択薬はウルソデオキシコール酸(ursodeoxycholic acid; UDCA)であり、通常PBCと診断された症例すべてに対して使用される。投与量は13~15mg/kg/日であり、100mg/錠が使用される本邦では通常600mg(6錠)/日が推奨される。時に300mg(3錠)/日で投与されている例を見かけるがこれは不十分である。UDCAはほとんどの症例で有効であり、半年ほどの投与により胆道系酵素は著明に低下する。6か月~1年の投与でも胆道系酵素が十分に低下しない場合、まずUDCAを900mgまで増量する。ことに近年は比較的体重の多い症例が増加しており、600mg/日投与では13~15mg/kg/日という投与量を確保できていない可能性がある。また、本邦ではUDCAへの反応が不良であるPBCに対してベザフィブラート(400mg/日)がしばしば追加投与され、生化学的改善効果だけではなく長期予後改善効果も確認されているが、本症に対する保険適用はなされていない。
PBC-AIHオーバーラップ症候群で肝炎の病態が強い場合には副腎皮質ホルモンが併用される。
症候性PBCでは、患者の訴えによく耳を傾け、出現した、あるいは出現しうる症状に目配りをしながら、個々の患者に応じた対応が必要となる。皮膚掻痒感は患者のQOLを著しく低下させる恐れがあり注意する必要がある。皮膚がかゆいという訴えがなくとも、皮膚を観察し、掻き傷の有無をチェックする。抗ヒスタミン薬の内服が繁用されるが、最近オピオイドレセプター拮抗薬の有効性が確認され、保険適用となり、本症の皮膚掻痒感をコントロールする上で期待を集めている。胆汁うっ滞に伴い高コレステロール血症がしばしばみられるが、動脈硬化への他の危険因子が存在しなければ治療の必要はない。ビタミンDの吸収障害による骨粗鬆症が出現するので、定期的に骨密度を測定し、低下している場合にはビスフォスフォネートを使用する。また、肝硬変に至る前に門脈圧亢進症および胃・食道静脈瘤を発症することが知られており、内視鏡による定期的な観察が必要である。
肝硬変に進展した場合にはUDCAやベザフィブラートの効果はあまり期待できない。腹水、肝性脳症等の合併症に対する対応が必要となる。病期が進むと、内科的治療に限界が生じ肝移植の適応となるが、重症進行例では手術成績も低下するので、血清総ビリルビン値5mg/dlをめどに、肝臓専門医、移植専門医に相談する。移植成績は、5年で約80%と優れている。脳死移植が少ない我が国では既に生体部分肝移植が定着しており、移植成績も欧米の脳死肝移植例と同様に良好である。また、本症の長期予後の改善に伴い、従来PBCでは稀といわれていた肝細胞癌も併発少なからずみられることが知られてきた。男性・線維化進展例は肝細胞癌の高リスクであり、注意が必要である。

5)予後

無症候性PBCは症候性PBCへ進行しない限り予後は良好で、一般人とほぼ同等であり、肝疾患以外の原因で死亡することが多い。しかし、約10~40%(5年間で約25%)は症候性PBCへ移行する。黄疸期になると進行性で予後不良である。5年生存率は、血清T.Bil値が2.0mg/dlでは60%、5.0mg/dlになると55%、8.0mg/dlを超えると35%となる。PBCの生存予測に関する独立因子としては、Mayoモデルでは年齢、ビリルビン、アルブミン、プロトロンビン時間、浮腫があげられている。一方、日本肝移植適応研究会では、ビリルビンとAST/ALTである。症候性PBCでの死因では肝不全と食道静脈瘤の破裂による消化管出血が大半を占める。

6)最近のトピックス

「原発性胆汁性肝硬変」という本症の病名は、PBCという病気が発見された頃は病初期での診断ができず、肝硬変の状態まで進行し、様々な症状が出始めて初めてPBCとの診断がついた時代の名残である。抗ミトコンドリア抗体など診断技術の進歩により、現在はもっと手前、無症候性の段階で診断がつき、実際には肝硬変まで進展していない症例がほとんどである。すなわち、原発性胆汁性「肝硬変」という病名は、多くの患者の病状とは乖離しているのが現状であり、このため現在欧米では本症の病名をPrimary Biliary Cholangitis等と変更すべきであるという議論がなされている。

7)本疾患の関連資料・リンク

原発性胆汁性肝硬変(PBC)診療ガイドライン(2012)
患者さんのための原発性胆汁性肝硬変(PBC)ガイドブック


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情報提供者
研究班名 難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究班
研究班名簿   
情報更新日平成27年1月19日