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下垂体性TSH分泌異常症(公費対象)

かすいたいせいTSHぶんぴついじょうしょう

■概念・定義

甲状腺の機能は、主に視床下部ー下垂体ー甲状腺系により定常状態に制御されている。視床下部より分泌された甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(Thyrotropin-releasing homorne, TRH)が下垂体門脈系を介し下垂体前葉の甲状腺刺激ホルモン(Thyrotropin, TSH) 産生細胞を刺激し、下垂体よりTSHが分泌される。そして、TSHは、甲状腺を刺激し甲状腺ホルモンが分泌される。一方、分泌された甲状腺ホルモンが、視床下部TRHや下垂体TSHの合成分泌を抑制しフィードバック系を確立している。

下垂体性TSH分泌異常症には、分泌の亢進した「TSH分泌亢進症」と低下した「TSH分泌低下症」がある。

下垂体からのTSHの過剰分泌は、生理学的には甲状腺機能低下症によりフィードバック機構が働き起こる。疾患としては下垂体腫瘍からTSHが分泌されるTSH産生腫瘍と甲状腺ホルモン受容体の異常によりフィードバック機構が障害されTSHの過剰分泌が起こる場合があげられる。

下垂体性TSH分泌低下症は、中枢性甲状腺機能低下症と呼ばれることが多い。中枢性甲状腺機能低下症は、下垂体を病因とする二次性(下垂体性)甲状腺機能低下症や視床下部に原因のある三次性(視床下部性)甲状腺機能低下症がある。二次性ならびに三次性甲状腺機能低下症は、血中のTRHの測定系が確立されていないなど病態生理学的にも判別が困難であることから中枢性甲状腺機能低下症と一括されることが多い。

■疫学

下垂体性TSH分泌亢進症のうちTSH産生腫瘍は、全下垂体腫瘍の1~2%と比較的稀である。

平成13年度の全国調査では、下垂体性TSH分泌低下症は787名であるとの報告がある。

■病因

下垂体性TSH分泌亢進症の内、TSH産生腫瘍の原因は不明である。一部は多発性内分泌腫瘍症1型の一症状として認められることがある。甲状腺ホルモン受容体の遺伝子異常が認められた例も報告されている。
下垂体性TSH分泌低下症(中枢性甲状腺機能低下症)の主な原因を表1に示した。その中でも下垂体部の腫瘍を原因とするものが約60%を占める。その下垂体腫瘍には種々のホルモンの産生腫瘍や非機能性腫瘍などがある。その他、頭蓋咽頭腫やEmpty sella、ラトケ嚢胞などの占拠性病変やSheehan症候群などの血管障害、下垂体卒中さらに、放射線療法や手術など医原性のものがある。近年注目さ れているのが意識障害を伴った頭部外傷後やくも膜下出血後におこる下垂体前葉機能低下症で、その一症状としての下垂体性TSH分泌低下症がある。その他薬剤による下垂体性TSH分泌低下症もあり、副腎皮質ホルモン製剤やドーパミン製剤の他、国内では未承認だがRetinoid X receptor (RXR)のアゴニストであるBexaroteneが皮膚のT細胞リンパ腫などに使用され約40%にTSH分泌低下が認められる。さらに、近年、GH製剤 の補充療法が成人の重症GH分泌不全症にも使用可能となったが、GHの加療により不顕性化していた下垂体性TSH分泌低下症が明らかになることがある。また、リンパ球性下垂体炎に下垂体性TSH分泌低下症を認めるものが多く、他の下垂体性TSH分泌低下症を起こす疾患と比較してACTH系とTSH系が障害されやすい特徴がある。また、バセドウ病の母から生まれた児には、母親の抗TSHレセプター抗体が胎盤を通過するため、通常は一過性の甲状腺機能亢進症が問題となるが、妊娠中甲状腺ホルモンの高値が続いたバセドウ病の母親から生まれた児に、先天性の下垂体性TSH分泌低下症を認めることがある。

表1.中枢性甲状腺機能低下症の原因疾患


占拠性病変
下垂体腫瘍、頭蓋咽頭腫
転移性腫瘍、ラトケ嚢胞 など

血管性 
シーハン症候群
下垂体卒中など

医原性
放射線照射治療後
手術後
頭部外傷後、くも膜下出血後
炎症、感染症、肉芽腫  
リンパ球性下垂体前葉炎
結核、トキソプラズマ症
サルコイドーシス, Histiocytosisなど

薬剤性 
副腎皮質ホルモン、ドーパミン、成長ホルモン、 
カルバマゼピン、RXRアゴニストなど
コントロール不良のバセドウ病母からの児

遺伝子異常
TSHβ、 Pit-1、Prop、LHX3、 HESX1、TRH受容体など

特発性

■症状

TSH分泌亢進症のうちTSH産生腫瘍では、動悸や体重減少などの甲状腺中毒症の症状が認められる。長期による甲状腺中毒症により心不全や心房細動が認められることもある。

TSH分泌機能低下症のうち先天性の中枢性甲状腺機能低下症の場合、知能低下や発育不全などクレチン症状を示す重度の甲状腺機能低下症を来すものから、TRH受容体異常症などのように軽度の甲状腺機能低下症により低身長のみを主訴とする症例もある。

成人発症のものでは表2に示すように、原発性甲状腺機能低下症状と同様に無気力、易疲労感、眼瞼浮腫、寒がり、体重増加、動作緩慢、嗜眠、記憶力低下、便秘、さ声などの症状を呈する。しかし、他のホルモン産生腫瘍の症状や下垂体前葉ホルモン分泌不全の症状にこれらの症状が隠れていることがあるので注意が必要である。特にACTH系に障害がある場合は副腎皮質機能低下症の意識障害などを認め甲状腺機能低下症の症状の判別が難しいことが多い。さらに性腺機能低 下症やGH分泌不全症そして尿崩症を同時に認め診断を難しくする場合もある。一般に甲状腺腫は認めないが、認める場合は慢性甲状腺炎などの合併も考慮しな くてはならない。下垂体腫瘍による占拠性病変や炎症の波及による視野障害や頭痛、髄膜刺激症状を認めることもある。さらに、病変が視床下部に及ぶ場合、体温の調節障害などいわゆる視床下部症候群を呈することもある。

表2.甲状腺疾患診断ガイドライン(第7次案)より抜粋


中枢性甲状腺機能低下症

a)臨床所見
無気力、易疲労感、眼瞼浮腫、寒がり、体重増加、動作緩慢、嗜眠、記憶力低下、 便秘、嗄声等いずれかの症状

b)検査所見 
遊離T4低値でTSHが低値~正常

中枢性甲状腺機能低下症
a)およびb)を有するもの

除外規定 
甲状腺中毒症の回復期、重症疾患合併例、TSHを低下させる薬剤の服用例を除く。

付記
1.視床下部性甲状腺機能低下症の一部ではTSH値が10μU/ml位まで逆に高値を示すことがある。
2.中枢性甲状腺機能低下症の診断では下垂体ホルモン分泌刺激試験が必要なので、専門医への紹介が望ましい。

■治療

TSH産生腺腫は、手術療法が第一選択になる。比較的大きな腫瘍が多いが主に経蝶形骨洞下垂体腫瘍摘出術が行われる。ソマトスタチンアナログ製剤により甲状腺機能中毒症状は短期間で正常化できる例が多く、一部に腫瘍の縮小効果を認める。ソマトスタチンアナロ グ製剤が第一選択の治療となるかは今後の検討が待たれる。ドーパミンアナログ製剤も使用されているが効果は弱い。残存腫瘍や再発例に再手術やこれらの薬剤が使用される。

TSH分泌低下症(中枢性甲状腺機能低下症)の治療はその原因疾患の治療に準ずる。下垂体腫瘍など続発性副腎皮質機能不全を合併する例も多く、そのような例に甲状腺ホルモン剤のみを投与すると代謝が亢進し副腎皮質機能不全を悪化させる恐れがある。必ず副腎皮質ホ ルモン製剤を最初に投与し、少なくとも1週間後より甲状腺ホルモン製剤の投与を少量より開始しなくてはならない。理論的にはTRHあるいはTSH製剤の投与が理想だが、その不安定性や持続的な投与が不可能であることなどから甲状腺ホルモン製剤(Levothyroxine, L-T4)を投与する。血清TSH値は治療効果の判定には使用できず、遊離T4値を指標とし基準値の上限1/2内に維持与量を調節する。高齢者や虚血性心疾患合併例では必ずL-T4の少量から(12.5υg)開始する。

■予後

TSH産生腫瘍は比較的大きな腫瘍が多く、術後の残存腫瘍や再発に注意が必要である。

TSH分泌低下症は、その原因に依存するが、合併する下垂体前葉機能低下症によるGH分泌不全や性腺機能低下症により脂質異常症や代謝異常が顕著になることもあり注意が必要である。

情報提供者
研究班名 間脳下垂体機能異常障害
情報見直し日平成23年7月8日