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ベーチェット病(公費対象)

べーちぇっとびょう

この病気は公費負担の対象疾患です。公費負担の対象となるには認定基準があります。

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1. ベーチェット病とは

ベーチェット病(Behcet's disease)は口腔粘膜のアフタ性潰瘍、外陰部潰瘍、皮膚症状、眼症状の4つの症状を主症状とする慢性再発性の全身性炎症性疾患です。トルコのイスタンブール大学皮膚科Hulsi Behcet教授が初めて報告し、この名がつけられました。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

日本では北海道、東北に多く、北高南低の分布を示します。平成23年3月末現在、この疾患の特定疾患医療受給者数は18,451人です。世界的にみると、日本をはじめ、韓国、中国、中近東、地中海沿岸諸国に多く見られ、シルクロード病とも呼ばれています。

3. この病気はどのような人に多いのですか

従来、男性に多いといわれていましたが、最近の調査では発症にはほとんど性差はないようです。ただ、症状に関しては、男性の方が重症化しやすく、内蔵病変、特に神経病変や血管病変の頻度は女性に比べ高頻度です。眼病変も男性に多く、特に若年発症の場合は、重症化し失明に至る例もみられます。発病年齢は男女とも20~40歳に多く、30歳前半にピークを示します。

4. この病気の原因はわかっているのですか

病因は現在も不明です。しかし何らかの内因(遺伝素因)に外因(感染病原体やそのほかの環境因子)が加わり、白血球の機能が過剰となり、炎症を引き起こすと考えらえています。内因の中で一番重要視されているのは、白血球の血液型ともいえるヒトの組織適合性抗原であるヒト白血球抗原(HLA)の中のHLA-B51というタイプで、健常者に比べ、その比率がはるかに高いことがわかっています。そのほか、日本人ではHLA-A26も多いタイプです。

最近、ベーチェット病でも他の疾患と同様に全ゲノム遺伝子解析が進められ、発症に強く影響する遺伝子、すなわち疾患感受性遺伝子が次々と同定されてきています。2010年に日本およびトルコ・米国から、HLA以外の疾患感受性遺伝子としてIL-23受容体、IL-12受容体β2鎖、IL-10が同定されて以来、次々と遺伝素因が解明されてきています。そのほとんどが免疫反応や炎症に関係しており、ベーチェット病が免疫異常に基づく、炎症性疾患であることが遺伝学的に裏付けられています。こうした研究の積み重ねは病気のメカニズムの解明に役立ち、新しい治療法の開発につながる可能性があります。

一方、外因についても以前より虫歯菌を含む細菌やウイルスなどの微生物の関与が想定されてきました。ベーチェット病の遺伝素因を持った人に、これらの微生物が侵入すると異常な免疫反応が炎症を引き起こし、結果としてベーチェット病の発症に至るという考えが有力です。最近明らかにされた疾患感受性遺伝子には微生物に対する生体の初期反応に働くものも含まれており、この仮説の妥当性が検証されたと言えます。これからの研究の成果が期待されます。

5. この病気は遺伝するのですか

日本でのベーチェット病の家族内発症の頻度は正確にはわかっていませんが、さほど多くはありません。病因の項で説明しましたように、病気発症には、HLA-B51あるいはその近傍に存在する疾患関連遺伝子が重要な役割を果たしていると想定されています。1991年の厚生省ベーチェット病調査研究班の報告によりますと、ベーチェット病のB51陽性率は53.8%(男55.1%、女52.0%、完全型58.3%、不全型51.5%)で正常人の約15%の陽性率に比べると明らかに高頻度です。B51陽性の人は5-10倍ベーチェット病に罹患しやすい計算になりますが、それでも1500人に1人程度にすぎません。また、全ゲノム遺伝子解析で同定された感受性遺伝子に関しては罹患確率を1.5倍程度に高めるにすぎません。遺伝素因が重要であることは間違いありませんが、決してそれだけで発症が規定されるわけでなく、現時点では診断や発症予測に用いられるわけではありません。

環境(外因)の重要性を示す疫学的成績として次のような事象があります。ベーチェット病の多発地帯であるトルコからのドイツへの移民の発症率は、ドイツ人より高頻度ですが、トルコにずっと定住している人と比べると少なくなります。この成績は疾患発症に遺伝、環境の双方が関与していることを示しており、少なくとも単純な遺伝性疾患ととらえるべきではありません。例えば、結婚に際しても大きな問題にすべきではないでしょう。

6. この病気ではどのような症状がおきますか

ベーチェット病の主な臨床症状は以下の4症状です。

●口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍

口唇、頬粘膜、舌、歯肉、口蓋粘膜に円形の境界鮮明な潰瘍ができます。これはほぼ必発です(98%)。初発症状としてもっとも頻度の高い症状ですが、経過を通じて繰り返して起こることも特徴です。

●皮膚症状

下腿伸側や前腕に結節性紅斑様皮疹がみられます。病変部は紅くなり、皮下に硬結を触れ、痛みを伴います。座瘡様皮疹は「にきび」に似た皮疹が顔、頸、胸部などにできます。下腿などの皮膚表面に近い血管に血栓性静脈炎がみられることもあります。皮膚は過敏になり、「かみそりまけ」を起こしやすかったり、注射や採血で針を刺したあと、発赤、腫脹、小膿疱をつくったりすることがあります。これを検査に応用したのが、針反応です。しかし、最近では、その陽性率が低下しており、施行する機会も減ってきました。

●外陰部潰瘍

男性では陰嚢、陰茎、亀頭に、女性では大小陰唇、膣粘膜に有痛性の潰瘍がみられます。外見は口腔内アフタ性潰瘍に似ていますが、深掘れになることもあり、瘢痕を残すこともあります。

●眼症状

この病気でもっとも重要な症状です。ほとんど両眼が侵されます。前眼部病変として虹彩毛様体炎が起こり、眼痛、充血、羞明、瞳孔不整がみられます。後眼部病変として網膜絡膜炎を起こすと発作的に視力が低下し、障害が蓄積され、ついには失明に至ることがあります。

主症状以外に以下の副症状があります。

●関節炎

膝、足首、手首、肘、肩などの大関節が侵されます。典型的には腫脹がみられます。非対称性で、変形や強直を残さず、手指などの小関節が侵されない点で、関節リウマチとは異なります。

●血管病変

この病気で大きな血管に病変がみられたとき、血管型ベーチェット病といいます。圧倒的に男性が多い病型です。動脈、静脈ともに侵され、深部静脈血栓症がもっとも多く、上大静脈、下大静脈、大腿静脈などに好発します。動脈病変としては動脈瘤がよくみられます。日本ではあまり経験しませんが、肺動脈瘤は予後不良とされています。

●消化器病変

腸管潰瘍を起こしたとき腸管型ベーチェット病といい、腹痛、下痢、下血などが主症状です。部位は右下腹部にあたる回盲部が圧倒的に多く、その他、上行結腸、横行結腸にもみられます。潰瘍は深く下掘れし、消化管出血や腸管穿孔により緊急手術を必要とすることもあります。

●神経病変

神経症状が前面に出る病型を神経ベーチェット病といいます。難治性で、男性に多い病型です。ベーチェット病発症から神経症状発現まで平均6.5年といわれています。大きく髄膜炎、脳幹脳炎として急性に発症するタイプと片麻痺、小脳症状、錐体路症状など神経症状に認知症などの精神症状をきたし慢性的に進行するタイプに大別されますが、個々の患者さんの症状は多彩です。急性型の一部には眼病変の治療に使うシクロスポリンの副作用として発症する例もありますが、抗TNF抗体(インフリキシマブ)の登場後は減ってきています。一方、慢性進行型は特に予後不良で、治療効果が乏しく、現在でも課題が残る病型です。神経型と喫煙との関連が注目されています。

●副睾丸炎

男性患者の約1割弱にみられます。睾丸部の圧痛と腫脹を伴います。

7. この病気はどのようにして診断しますか

この病気と即座に診断できる血液検査はありませんので、厚生省研究班の診断基準を参考にして診断します。主症状がすべて出現したとき、診断はそれほど難しくはありませんが、副症状が主体になるときは診断が困難なことがあります。症状の現れ方によって「完全型」「不全型」「疑い」と分類します。また、臓器病変が主体である場合は、病変に応じて血管型、神経型、腸管型に分類され、特殊病型と総称されます。

<ベーチェット病診断表>

(1)完全型 経過中に4主症状の出現したもの
(2)不全型 a.経過中に3主症状(あるいは2主症状と2副症状)が出現したもの
b.経過中に定期的眼症状とその他の1主症状(あるいは2副症状)が出現したもの
(3)疑い 主症状の一部が出没するが不全型の条件を満たさないもの、および定期的な副症状が反復あるいは憎悪するもの

8. この病気にはどのような治療法がありますか

以上述べてきましたようにベーチェット病の病状は非常に多様ですので、すべての病状に対応できる単一の治療があるわけではありません。個々の患者さんの病状や重症度に応じて治療方針を立てる必要があります。

(1)眼症状:虹彩毛様体など前眼部に病変がとどまる場合は、発作時に副腎皮質ステロイド点眼薬と虹彩癒着防止のため散瞳薬を用います。視力予後に直接関わる網膜脈絡膜炎では、発作時にはステロイド薬の局所および全身投与で対処します。さらに積極的に発作予防する必要があり、その目的でコルヒチンやシクロスポリンを使用します。2007年1月、世界に先駆けてわが国で、インフリキシマブ(抗腫瘍壊死因子(TNF)抗体)が難治性眼病変に対して保険適用となり、従来の治療薬にない素晴らしい効果を示しており、市販後調査での有効率は90%にものぼり、多くの患者さんで、視力の改善が見られています。

(2)皮膚粘膜症状:口腔内アフタ性潰瘍、陰部潰瘍には副腎ステロイド軟膏の局所塗布が効くことが多く、また、口腔ケアや局所を清潔に保つことも重要です。また内服薬としてコルヒチン、セファランチン、エイコサペンタエン酸などが効果を示すことがあります。

(3)関節炎:コルヒチンが有効とされ、対症的には消炎鎮痛薬を使用します。

(4)血管病変:副腎皮質ステロイド薬とアザチオプリン、シクロフォスファミド、シクロスポリンAなどの免疫抑制薬が主体です。また、我国では深部静脈血栓症をはじめ血管病変に対しては抗凝固療法を併用することが多いのですが、諸外国ではこれに異論を唱える研究者もいます。動脈瘤破裂による出血は緊急手術の適応ですが、血管の手術後に縫合部の仮性動脈瘤の形成などの病変再発率が高く、可能な限り保存的に対処すべきとの意見もあります。

(5)腸管病変:副腎皮質ステロイド薬、サラゾスルファピリジン、メサラジン、アザチオプリンなどを使用します。難治性であることも少なくありませんが、2013年、ヒト型抗TNF抗体であるアダリムマブの使用が保険上認可され、今後の成績の向上が期待されます。消化管出血、穿孔は手術を要しますが、再発率も高く、術後の免疫抑制剤療法も重要です。

(6)中枢神経病変:脳幹脳炎、髄膜炎などの急性期の炎症にはステロイドパルス療法を含む大量の副腎皮質ステロイド薬が使用され、アザチオプリン、メソトレキサート、シクロホスファミドなどの免疫抑制薬を併用することもあります。精神症状、人格変化などが主体とした慢性進行型に有効な治療手段は乏しいのですが、メソトレキセート週一回投与の有効性が報告されています。眼病変に使われるシクロスポリンは禁忌とされ、神経症状の出現をみたら中止すべきです。

9. この病気はどういう経過をたどるのですか

眼症状や特殊病型が認められない場合は、慢性的に繰り返し症状が出現するものの一般的に予後は悪くありません。眼症状のある場合、特に眼底型の網膜ぶどう膜炎がある場合の視力の予後は悪く、かつては眼症状発現後2年で視力0.1以下になる率は約40%とされてきました。この数字は1990年代のシクロスポリン導入以後、20%程度にまで改善してきました。さらにインフリキシマブの登場により、の有効率は90%にものぼります。中枢神経病変、血管病変、腸管病変等の特殊型ベーチェット病はいろいろな後遺症を残すことがあります。腸管型に続き、中枢神経病変、血管病変の病型にもTNF阻害薬の保険適応や治験が進行していますので、今後の治療成績の向上が期待されます。

情報提供者
研究班名 免疫疾患調査研究班(ベーチェット病)
研究班名簿  研究班ホームページ 
情報更新日平成25年11月27日