特発性大腿骨頭壊死症(指定難病71)

とくはつせいだいたいこつとうえししょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1.「特発性大腿骨頭壊死症」とはどのような病気ですか

大腿骨頭の一部が、血流の低下により壊死(骨が腐った状態ではなく、血が通わなくなって骨組織が死んだ状態)に陥った状態です。骨壊死が起こること(発生)と、痛みが出現すること(発症)、には時間的に差があることに注意が必要です。つまり、骨壊死があるだけでは痛みはありません。骨壊死に陥った部分が潰れることにより、痛みが出現します。したがって、骨壊死はあっても、壊死の範囲が小さい場合などでは生涯にわたり痛みをきたさないこともあります。
 特発性大腿骨頭壊死症は、危険因子として、SLEなどの免疫異常の疾患(膠原病)や臓器移植などによるステロイド投与、アルコール、喫煙が関連していることがわかってきています。
 万一、特発性大腿骨頭壊死症になり、痛みが出現した場合でも、手術などの適切な治療により、痛みのない生活を送ることができますので、過度な心配は禁物です。
 本症は厚生労働省の指定難病に指定されており、医療費補助の対象となっています。指定難病の申請については、整形外科専門医にご相談ください。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか?

日本全国における1年間の新規発生数は約2,000~3,000人で、これら新患における 好発年齢 は全体では30~50歳代、男性では40歳代、女性では60歳代が多く、働き盛りの年代に好発するといえます。新患における男女比は、全体では1.5:1です。

3. この病気はどのような人に多いのですか?

習慣的に飲酒される方や喫煙される方、膠原病や臓器移植などでステロイドというお薬を大量に投与を受けた方に比較的多く発生しますが、何の誘因もなく生じることもあります。

4. この病気の原因はわかっているのですか?

厚生労働省の調査研究班の長年にわたる研究によって、病気と関連する因子はかなり解明されつつありますが、まだ十分にはわかっておらず、原因は未だ不明です。特発性大腿骨頭壊死症は、危険因子として、ステロイド、アルコール、喫煙が関連すると考えられ、ステロイド、アルコールについては国際的に以下の基準が定められています。

ステロイド関連
・3か月以内に累積2gを超えるプレドニゾロン投与、または、同等力価の糖質コルチコイド投与歴。
・糖質コルチコイド投与から2年以内に特発性大腿骨頭壊死症と診断

アルコール関連
・あらゆる種類のアルコール飲料のアルコール量400 mL/週(もしくは320 g/週)を超えるアルコール摂取を6ヶ月以上継続している。
・この用量のアルコール摂取から1年以内に特発性大腿骨頭壊死症と診断

なお、ステロイドはいろいろな病気の治療のために使用します。既に処方されているステロイドを勝手に中止したり、量を減らすと、元の病気が悪化することや具合が悪くなることがありますので、決して自己判断で中止したり減らしたりしないでください。

5. この病気は遺伝するのですか?

遺伝との関連は今のところはっきりとしていません。

6. この病気ではどのような症状がおきますか?

骨壊死が発生しただけの時点では自覚症状はありません。症状は骨壊死に陥った部分が潰れて大腿骨頭に圧潰が生じたときに出現します。大腿骨頭壊死症の発生から症状が出現するまでの間には数ヵ月から数年の時間差があります。自覚症状としては、比較的急に生じる股関節部痛が特徴的ですが、腰痛、膝痛、殿部痛などで初発する場合もあります。初期の痛みは安静によって2~3週で軽減することもありますが、大腿骨頭の圧潰の進行に伴って再び増強します。

7. この病気にはどのような治療法がありますか?

治療法は年齢、内科的合併症、職業、活動性、片側性か両側性か、壊死の大きさや位置などを考慮して決定します。

(1) 保存療法
壊死の大きさや位置から 予後 がよいと判断できる場合や症状がない場合は保存療法の適応です。 関節症性変化 が進むまで可動域は比較的保たれるため、積極的な可動域訓練は必要ない場合が多く、疼痛が強い時期には安静が大切です。杖による 免荷 や、体重維持、長距離歩行の制限、重量物の運搬禁止などの生活指導を行います。疼痛に対しては鎮痛消炎剤の投与で対処します。
しかしながら、これらの方法では圧潰の進行防止は大きく期待できないため、圧潰進行が危惧される病型では 骨頭温存 のための手術療法の時機を逸しないことが重要です。症状が出現すれば、変形が進む前に手術療法を受ける方が治療効果は高くなります。

(2)手術療法
自覚症状があり圧潰の進行が予想されるときは速やかに手術適応を決定します。若年者においては自分の関節を残す骨切り術が第一選択となりますが、壊死範囲の大きい場合や 骨頭圧潰 が進んだ症例、高齢者などでは人工関節置換術が必要となることもあります。また、最近では壊死部の骨再生を促す再生医療の臨床研究もおこなわれています。

A.大腿骨内反骨切り術
大腿骨の転子間部で大腿骨頭及び頸部を内側に傾け(内反させ)たときに、壊死部が内側へ移動し荷重部からはずれる場合に適応があります。骨切りの形状に工夫をした大腿骨転子間弯曲内反骨切り術では合併症が少ないとされています。

B.大腿骨頭回転骨切り術
大腿骨頚部軸を回転軸として大腿骨頭を前方あるいは後方に回転させることで壊死部を荷重部から外し、健常部を新しい荷重部とする方法です。また、同時に大腿骨頭を内反させることにより、寛骨臼荷重部に対する健常部の占める割合をさらに増やすことができます。

C.人工関節置換術
圧潰した大腿骨頭を人工骨頭で置き換えたり、股関節全体を人工股関節で置換したりします。骨切り術に比べて早期から荷重が可能で、入院期間も短期間ですみますが、人工物自体に耐久性の問題があり、将来再置換術が必要になる可能性があることを念頭に置く必要があります。若年者の場合は骨切り術の可能性をできるだけ追求し、人工関節置換術の適応には慎重でなければなりません。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか?

もともと血液循環の悪いところだけが壊死するので、その周囲の比較的血液循環のよい部分は時間が経過してもそのままです。したがって、細菌感染のように周囲に広がることはなく、ほとんどの場合、大きさに変化はありません。逆に、範囲が小さい場合は修復されて時間の経過とともに縮小することがあります。合併疾患に対するステロイドの投与を継続しても壊死の範囲は大きくならないため、必要に応じてステロイドを継続投与することは可能です。

9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか?

骨壊死が大腿骨頭に発生した場合、骨壊死部が潰れて大腿骨頭が圧潰しないように、股関節に負荷をできるだけかけないようにすることが大事です。杖による免荷や、長距離歩行・階段昇降の制限、重量物の運搬禁止などの生活指導が行われますが、これらの方法では圧潰の進行防止は大きく期待できないため、圧潰進行が危惧される病型では骨頭温存のための手術療法の時機を逸しないことが重要です。

10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

該当する病名はありません。

 

情報提供者
研究班名 特発性大腿骨頭壊死症の確定診断と重症度判定の向上に資する大規模多施設研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和4年12月(名簿更新:令和5年11月)