進行性多巣性白質脳症(PML)(指定難病25)

しんこうせいたそうせいはくしつのうしょう(PML)

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1.「進行性多巣性白質脳症(PML)」とはどのような病気ですか

多くの人に潜伏感染もしくは持続感染しているJCウイルスが、免疫力が低下した状況で再活性化して脳内に多発性の病巣( 脱髄病巣 [用語解説を参照])をきたす病気です。

2.この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

「PML診療ガイドライン2023」に掲載されている報告では、本邦では1979年から2014年のまでの間、累計184例がPMLに罹患して死亡しています。最近の日本での発生頻度は0.9人/1000万人です。日本においてはHIVの感染が増加していることや、一部の生物由来製品[用語解説を参照]の副作用としてのPML発生などで新規のPML発生が増加することが予想されます。また、病態修飾薬 [用語解説を参照] の副作用としてのPML発生が増加しています。

3.この病気はどのような人に多いのですか

HIV感染により免疫機能が低下した患者さんや、血液系悪性腫瘍・膠原病・自己免疫疾患・臓器移植などの背景により免疫を抑制する治療を受けている患者さんに多くみられます。近年は一部の生物学的製剤や多発性硬化症の病態修飾薬の使用を背景としたPML発症もみられます。

4.この病気の原因はわかっているのですか

ヒトのポリオーマウイルス科に分類されるJCウイルスというウイルスです。このウイルスは通常多くの皆さんが感染していますが(日本人では健常者の70%以上)、何も症状を示しません。

5.この病気は遺伝するのですか

遺伝はしません。

6.この病気ではどのような症状がおきますか

PMLの臨床症状は病名である「多巣性」を反映して多彩ですが、よく見られる初発症状としては片麻痺・四肢麻痺・ 認知機能 障害・失語・視覚異常などです。その後、初発症状の増悪とともに四肢麻痺・構音障害・ 嚥下障害不随意運動 ・脳神経麻痺・失語などが加わり、無動無言状態(寝たきりの状態)に至ります。

7.この病気にはどのような治療法がありますか

JCウイルスに対する 特異的 で有効な治療はありません。そのため、PMLの治療は基礎疾患に伴う免疫能低下を回復/正常化を目指すことが主体となります。HIVを基礎疾患にしている場合はその治療を優先します。薬物治療が原因の場合は速やかな中止が求められます。免疫の改善やウイルスの増殖を阻止する薬で病気の進行を止める場合もありますが、症例によっては効かない場合もあります。近年、メフロキン・ミルタザピン併用療法(どちらも保険適応はありませんので、治療を受けている施設での判断を要します)を試みる症例が増えており、一部の症例では有効と考えられています。

8.この病気はどういう経過をたどるのですか

一般に週単位から月単位で進行しますが、治療効果や患者さんの免疫力の改善などにより進行が止まり、回復する場合もあります。HIVを基礎疾患としたPMLの中央生存期間は1.8年、その他の疾患を基礎疾患としたPMLは中央生存期間が3ヶ月とされています。 生命予後 が非常に悪い疾患です。

9.この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか

PMLの大多数がHIV感染症や免疫抑制状態を基礎疾患にもつ患者さんに発症しますので、健常者の方は特に注意はありません。ただし、HIV感染予防は一般の方でも重要です。
HIV感染者や前述の基礎疾患で免疫抑制状態にある方は、6)に記した症状が出現した場合は主治医とよく相談して下さい。頭部MRIを撮影して、MRIの所見によりPMLが疑われれば脳脊髄液検査[用語解説を参照]が必要となります。

10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

該当する病名はありません。

11. この病気に関する資料・関連リンク

厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業 「プリオン病 及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班」(編).進行性多巣性白質脳症(progressive multifocal leukoencephalopathy: PML)診療ガイドライン2023. http://prion.umin.jp/guideline/index.html

プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班
〒187-8551 東京都小平市小川東町4-1-1
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター
TEL: 042-341-2711 FAX: 042-346-3586
e-mail:prion.saitama.r2@gmail.com

がん・感染症センター都立駒込病院 PML情報センター
〒113-8677 東京都文京区本駒込三丁目18番22号
TEL:03-3823-2101(代表) FAX:03-4463-7528
e-mail:km_pml-info@tmhp.jp

12.用語解説

脱髄:神経線維の外側を取り囲み、神経伝導を促進する髄鞘とよばれる部位に 変性 が生じて髄鞘が脱落する現象です。この病変が起こっている場所を脱髄病巣と言い、このために起こる神経疾患を脱髄性疾患と呼びます。

生物由来製品:遺伝子、タンパク質、細胞や組織など生体由来の物質、あるいは生物の機能を利用して製造される医薬品で、抗体製剤をはじめとする遺伝子組み換えタンパク質がその代表です。関節リウマチや血液系悪性腫瘍などに使用されています。近年はその種類と適応症が広がっており、今後も使用頻度が増えると考えられます。

脳脊髄液検査:主に腰椎の間から穿刺針を用いて脳脊髄液を採取する検査です。髄膜炎や脳炎など中枢性神経疾患の診断や治療効果を把握するのに重要な検査です。

多発性硬化症の病態修飾薬:多発性硬化症の治療のため長期に使用される薬剤で、免疫系へ影響を及ぼします。患者数の増加に相まって治療選択肢も増えていますが、その副作用としてPML発生が国内外で報告されています。

JCウイルスの名称:
このウイルスの正式名称(学名)については、1976年にICTV(International Committee on Taxonomy of Viruses)において登録されてからJCウイルスならびにJCポリオーマウイルスといった表記が用いられてきました。また、ポリオーマウイルス科の分類は1999年以降に複数回の改訂がなされ、2015年にJCウイルスはベータポリオーマウイルス属に分類されるとともに、ヒトポリオーマウイルス2(Human polyomavirus 2)と改称されました。その後、2021年のICTVによる公式発表にてポリオーマウイルス科が8属に分けられ、ベータポリオーマウイルス属に含まれるJCウイルスの学名はBetapolyomavirus secuhominisに変更されました。JCウイルスという名称は現在もICTVにおいて略称として登録されており、学術研究や臨床診療にて一般的に広く使用されています。

 


情報提供者
研究班名 プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和5年11月(名簿更新:令和5年6月)