マルファン症候群/ロイス・ディーツ症候群(指定難病167)

まるふぁんしょうこうぐん/ろいす・でぃーつしょうこうぐん
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
大動脈、骨格、眼、肺、皮膚、硬膜などの全身の結合組織が脆弱になる遺伝性疾患。動脈瘤・解離などの心血管症状、側弯等の骨関節症状、水晶体偏位等の眼症状、などを来すが、特に、大動脈解離は時に命にかかわる重篤な合併症である。FBN1遺伝子異常によるマルファン症候群と、TGFβ関連遺伝子異常によるロイス・ディーツ症候群に大別される。
 
2.原因
常染色体顕性遺伝(優性遺伝)病であり、マルファン症候群では約75%、ロイス・ディーツ症候群では約25%が親からの遺伝で発症し、残りは新生変異による。マルファン症候群の原因遺伝子はFBN1、ロイス・ディーツ症候群の原因遺伝子は、TGFBR1TGFBR2SMAD3TGFB2TGFB3SMAD2が判明しているが、他の原因遺伝子の存在も疑われる。
 
3.症状
若年性の大動脈瘤・解離、骨関節症状が両疾患に共通する主症状である。動脈瘤破裂や大動脈解離は、突然死のリスクがあり、もっとも重篤な合併症である。その他、大動脈弁閉鎖不全・僧帽弁閉鎖不全による心不全や不整脈も問題となる。骨関節症状としては側弯、漏斗胸などの胸郭異常が問題となる。その他、水晶体偏位による視力低下、自然気胸による呼吸困難などを呈する。
1.マルファン症候群
大動脈基部拡張・解離、水晶体偏位、高身長・細長い指・漏斗胸・鳩胸・側弯などの特徴的骨格病変を三主徴とする。大動脈基部拡張や僧帽弁逸脱の多くは小児期より認めるが、心臓弁閉鎖不全等による心雑音や心不全症状、大動脈解離などで顕在化する。水晶体偏位・脱臼はマルファン症候群に特徴的で診断的価値が高い。
2.ロイス・ディーツ症候群
種々の血管系症状(大動脈瘤・解離、中小動脈瘤、動脈蛇行、先天性心奇形)と骨関節症状(漏斗胸・鳩胸、側彎、関節過可動性、先天性内反足、頭蓋骨縫合早期癒合、頸椎不安定性、眼間開離等)を高頻度で認めるが、個人差が大きい。動脈瘤は大動脈以外に、頭頸部、胸部、腹部の分枝中小動脈等にも生じ、早期に解離に至る場合もある。
 
4.治療法
進行性の血管病変(動脈瘤・解離)に対しては人工血管置換術などが行われる。血管病変の進行抑制のため、β遮断薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬などの薬物療法が行われる。重度の大動脈弁閉鎖不全、僧帽弁閉鎖不全は、弁形成術あるいは弁置換術の適応となる。眼病変、骨格病変、気胸に対しては、対症療法と必要に応じた手術が行われる。
 
5.予後
 心血管系合併症により生命予後が左右されるが、病変は年齢とともに進行する。
・解離性大動脈瘤は致死的となりうる。
・二次的に左心室の拡張や不整脈を認め、心不全につながる。
 
 
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.  患者数(令和元年度医療受給者証保持者)
849人
(推定患者数 約15,000~20,000人(このうち3,000人~4,000人はロイス・ディーツ症候群))
2.  発病の機構
不明(原因不明又は病態が未解明)
3.  効果的な治療方法
未確立(本質的な治療法はない。種々の合併症に対する対症療法)
4.  長期の療養
必要(発症後生涯継続又は潜在する。)
5.  診断基準
あり(学会承認の診断基準あり)
6.  重症度分類
1.小児例(18歳未満)
1)~3)のいずれかに該当する者
1)現在の治療で、強心薬、利尿薬、抗不整脈薬、抗血小板薬、抗凝固薬、末梢血管拡張薬、
降圧剤のいずれかが投与されている場合
2)大動脈基部拡張(Z≧3)が認められる場合
3)動脈瘤・解離・破裂を認める場合

2.成人例
1)~5)のいずれかに該当する者を対象とする。
1)心疾患があり、薬物治療・手術によってもNYHA分類でII度以上に該当する場合
2)大動脈基部拡張(Z≧2)が認められる場合
3)動脈瘤・解離を認め、手術が検討されている場合
4)大動脈解離や人工血管置換術等により、継続治療と生活制限が必要な場合
5)骨格病変等によりmodified Rankin Scale (mRS) 3以上と判定される場合
 
○ 情報提供元
「マルファン症候群の診断基準に関する調査研究班」研究班
研究代表者 東京大学医学部附属病院・循環器内科 特任准教授 平田恭信
「ロイス・ディーツ症候群の診断・治療のガイドライン作成および新規治療法の開発に向けた臨床所見の収集と治療成績の検討に関する研究班」
研究代表者 国立循環器病研究センター研究所分子生物学部室長森崎裕子
「先天異常症候群の登録システムと治療法開発をめざした検体共有のフレームワークの確立」
  研究代表者 慶應義塾大学医学部臨床遺伝学センター 教授 小崎健次郎
「国際標準に立脚した奇形症候群領域の診療指針に関する学際的・網羅的検討」
研究代表者 慶應義塾大学医学部臨床遺伝学センター 教授 小崎健次郎
 
 
<診断基準>
Definiteを対象とする。
(1)マルファン症候群の診断基準
改訂Ghent診断基準(2010)に準じて確定診断を行う
A.症状・所見・家族歴
①大動脈基部病変*(※術後症例の基部病変については術前の状態に遡って診断することが可能)
② 水晶体偏位(脱臼・亜脱臼)
③ FBN1遺伝子変異**
④ 身体所見スコア(7ポイント以上)***

B.検査所見など
*大動脈基部病変: CT・MRI・心臓超音波検査等による画像検査で確認された大動脈基部の拡張(大動脈基部(バルサルバ洞部)径のZスコア≧2.0、ただし20歳未満の家族例(下記ii)に該当)ではZスコア≧3.0)又は解離を合併する。
**マルファン症候群の病因と判断されるFBN1の病原性バリアントの同定。
***身体所見スコアのポイント(合計20ポイント中7ポイント以上で陽性)
• 手首サイン+親指サイン – 3 (どちらかのみの場合 – 1)
• 鳩胸 – 2 (漏斗胸あるいは胸郭非対称の場合– 1)
• 後足部変形 – 2 (扁平足のみの場合– 1)
• 気胸 – 2
• 脊髄硬膜腔拡張 – 2
• 寛骨臼突出 – 2
• 上節/下節比の減少+指極長/身長比の増加(強度側弯のない場合) – 1
• 側弯あるいは胸腰椎後弯– 1
• 肘関節の伸展制限– 1
• 特徴的顔貌(長頭症、眼球陥凹、眼瞼裂斜下、頬骨低形成、下顎後退、のうち3つ以上) – 1
• 皮膚線条 – 1
• 近視(<-3D) – 1
• 僧帽弁逸脱症 (形式を問わない) – 1

C.鑑別診断
ロイス・ディーツ症候群、家族性大動脈瘤・解離、血管型エーラス・ダンロス症候群、シュプリンツェン・ゴールドバーグ症候群。

<診断のカテゴリー>
i) 家族歴がない場合(発端者)の診断
Definite1: A-①とA-②、又はA-①とA-③のいずれかを満たす場合。
Definite2: A-①とA-④を満たし、Cを除外した場合。
Definite3: A-③の遺伝子変異が大動脈病変と関連があることが証明されている場合には、A-②とA-③を満たす場合。
ii) 家族歴がある場合(上記のi) により個別に診断された発端者を家族に有する)
Definite4: A-①、A-②、又はA-④のいずれかを満たす場合。

(2)ロイス・ディーツ症候群の診断基準
Definiteを対象とする。
臨床所見および遺伝学的検査により診断を確定する (MacCarrick G et al, Genet Med. 2014)(Loeys BL et al. ,GeneReviews™, http://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK1133/
A.症状および所見
1.大動脈基部の拡張(大動脈基部(バルサルバ洞部)径のZスコア≧2.0)又は解離(※術後症例の基部病変については術前の状態を遡って診断することが可能)
2.心血管系所見(大動脈瘤・解離、分枝動脈の蛇行・瘤・解離)
3.骨格系所見(漏斗胸又は鳩胸、側彎、関節過可動性,先天性内反足,頸椎不安定性などのいずれか)
4.特徴的顔貌(眼間開離・二分口蓋垂、口蓋裂、頭蓋骨縫合早期癒合などのいずれか)
5.皮膚所見(血管透過性、易出血性、ヘルニアなどのいずれか)

B. 遺伝学的検査
TGFβシグナル伝達系に関係する遺伝子(TGFBR1TGFBR2SMAD3TGFB2TGFB3SMAD2のいずれか)に病原性バリアントを認める。

C.鑑別診断
マルファン症候群、家族性大動脈瘤・解離、血管型エーラス・ダンロス症候群、シュプリンツェン・ゴールドバーグ症候群、皮膚弛緩症、ターナー症候群、線維筋性異形成、高安動脈炎

<診断のカテゴリー>
・家族歴がない場合
Definite1:A-1、又はA-2~A-5のうち2つ以上を認め、かつ、Bで当該遺伝子に病原性変異をみとめる。
・家族歴がある場合(上記により個別に診断された発端者を家族に有する)
Definite2:Bの遺伝学的検査で発端者と同じ遺伝子変異をみとめる。
Definite3:A-1を認め(ただし20歳未満の家族例ではZスコア≧3.0を拡張あり、とする)、Cを除外した場合。


<重症度分類>
1.小児例(18歳未満)
1)~3)のいずれかに該当する者
1)現在の治療で、強心薬、利尿薬、抗不整脈薬、抗血小板薬、抗凝固薬、末梢血管拡張薬、降圧剤のいずれかが投与されている場合
2)大動脈基部拡張(Z≧3)が認められる場合
3)動脈瘤・解離・破裂を認める場合

2.成人例 1)~5)のいずれかに該当する者を対象とする。
1)心疾患があり、薬物治療・手術によってもNYHA分類でII度以上に該当する場合。



NYHA分類

 

I度

心疾患はあるが身体活動に制限はない。
日常的な身体活動では疲労、動悸、呼吸困難、失神あるいは
狭心痛(胸痛)を生じない。

II度

軽度から中等度の身体活動の制限がある。安静時又は軽労作時には無症状。
日常労作のうち、比較的強い労作(例えば、階段上昇、坂道歩行など)で疲労、動悸、呼吸困難、失神あるいは狭心痛(胸痛)を生ずる。

III度

高度の身体活動の制限がある。安静時には無症状。
日常労作のうち、軽労作(例えば、平地歩行など)で疲労、動悸、呼吸困難、失神あるいは狭心痛(胸痛)を生ずる。

IV度

心疾患のためいかなる身体活動も制限される。
心不全症状や狭心痛(胸痛)が安静時にも存在する。
わずかな身体活動でこれらが増悪する。

NYHA: New York Heart Association

NYHA分類については、以下の指標を参考に判断することとする。

NYHA分類

身体活動能力
(Specific Activity Scale:SAS)

最大酸素摂取量
(peakVO2

I

6METs以上

基準値の80%以上

II

3.5~5.9METs

基準値の60~80%

III

2~3.4METs

基準値の40~60%

IV

1~1.9METs以下

施行不能あるいは
基準値の40%未満

 ※NYHA分類に厳密に対応するSASはないが、「室内歩行2METs、通常歩行3.5METs、ラジオ体操・ストレッチ体操4METs、速歩5~6METs、階段6~7METs」をおおよその目安として分類した。

2)大動脈基部拡張(Z≧2)が認められる場合。
3)動脈瘤・解離を認め、手術が検討されている場合
4)大動脈解離や人工血管置換術等により、継続治療と生活制限が必要な場合
5)骨格病変等によりmodified Rankin Scale (mRS) 3以上と判定される場合

 

日本版modified Rankin Scale (mRS) 判定基準書

modified Rankin Scale

参考にすべき点

まったく症候がない

自覚症状及び他覚徴候がともにない状態である

症候はあっても明らかな障害はない:
日常の勤めや活動は行える

自覚症状及び他覚徴候はあるが、発症以前から行っていた仕事や活動に制限はない状態である

軽度の障害:
発症以前の活動が全て行えるわけではないが、自分の身の回りのことは介助なしに行える

発症以前から行っていた仕事や活動に制限はあるが、日常生活は自立している状態である

中等度の障害:
何らかの介助を必要とするが、歩行は介助なしに行える

買い物や公共交通機関を利用した外出などには介助を必要とするが、通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要としない状態である

中等度から重度の障害:
歩行や身体的要求には介助が必要である

通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要とするが、持続的な介護は必要としない状態である

重度の障害:
寝たきり、失禁状態、常に介護と見守りを必要とする

常に誰かの介助を必要とする状態である

死亡





※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続す
ることが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

令和6年4月1日

情報提供者
研究班名 患者との双方向的協調に基づく先天異常症候群の自然歴の収集とrecontact可能なシステムの構築班
研究班名簿 
情報更新日 令和6年4月(名簿更新:令和5年6月)