プラダー・ウィリ症候群(指定難病193)

ぷらだーうぃりしょうこうぐん
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1. 「プラダー・ウィリ症候群」はどのような病気ですか

プラダー・ウィリ症候群は、1956年に肥満、糖尿病、低身長、性腺機能不全などの内分泌学的異常、および、発達遅滞、筋緊張低下、特異な性格障害や行動異常などの神経学的異常を呈する症候群として報告された疾患です。プラダー・ウィリ症候群は、最初に同定されたインプリンティング疾患で、父由来のときに働く(母由来のときには眠っている)父性遺伝子と呼ばれる遺伝子群の作用消失で発症します。遺伝子は、通常、親由来にかかわらず同様に働きますが、例外的に、父親由来のときのみ働く父性発現遺伝子や母親由来のときのみ働く母性発現遺伝子が存在し、これらをインプリンティング遺伝子と呼びます。インプリンティング疾患とは、このインプリンティング遺伝子の発現亢進あるいは消失により発症する疾患です。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

教科書的には出生児の約15,000人に1人とされていますが、正確な頻度は不明です。

3. この病気はどのような人に多いのですか

特に、どのような人に多いということはありません。ごく稀に家族例が知られています。

4. この病気の原因はわかっているのですか

15番染色体長腕q11-q13に位置する父由来で発現する複数の遺伝子の働きが失われたことで発症し、特に、SNORD116発現消失が本症発症において中心的な役割を果たしていると推測されています。父性発現遺伝子の働きが失われるメカニズムとして、15q11-q13の父由来染色体微細欠失(70%)、15番染色体母性片親性ダイソミー(20%)(Robertson転座を含む)、ゲノムインプリンティングの障害である刷り込み 変異 (5%)が知られています。極めて稀に、インプリンティング領域内のSNORD116を含みインプリンティングセンターを含まない極微細欠失、ホスト遺伝子(SNRPN/SNRUF)の遺伝子内変異、ホスト遺伝子とSNORD116の連続性を破壊する染色体異常染色体転座が報告されています。

5. この病気は遺伝するのですか

欠失と片親性ダイソミーには遺伝性はありませんし、刷り込み 変異 (エピ変異)の家族発症例も報告されていません(刷り込み変異は受精後の体細胞分裂時に生じると考えられています)。極めて稀に、ロバートソン転座などの核型異常、ならびにインプリンティング領域内のSNORD116を含みインプリンティングセンターを含まない極微細欠失、ホスト遺伝子(SNRPN/SNRUF)の遺伝子内変異、ホスト遺伝子とSNRD116の連続性を破壊する染色体異常については遺伝性がありえますので、可能な限り 遺伝子診断 ならびに 遺伝カウンセリング を受けることが推奨されます。

6. この病気ではどのような症状がおきますか

プラダー・ウィリ症候群は、内分泌学的異常(肥満、低身長、性腺機能障害、糖尿病など)、神経学的異常(筋緊張低下、特徴的な性格障害、異常行動)、体組成異常(筋肉量の減少や体脂肪の増加)を主体として、多彩な症状を呈する病気です。一般的に、新生児期では、筋緊張低下、色素低下、外性器低形成が認められ、特に、筋緊張低下は顕著で、哺乳障害のため経管栄養となることもあります。色素低下の顕著な患者では、頭髪は金髪様となり白皮症と誤診される場合もあります(この色素低下は、欠失タイプに特徴的であり、これは、両親性発現をする色素に関連する遺伝子が欠失することによります)。外性器低形成として、男児の停留精巣やミクロペニスは90%以上に認められ、一方、女児の陰唇・陰核低形成は見逃されやすいとされています。3~4歳頃から過食傾向が始まり、幼児期には肥満、低身長が目立つことが多いです。また、学童期から思春期にかけて、学業成績の低下、二次性徴発来不全、行動症状が認められることが多いとされています。しかし、症状は多岐にわたり、年齢に応じて変化し、かつ、個人差も大きい。また、近年では管理・治療の向上により、肥満患者の減少など、古典的な症状とは大きく異なる側面が出てきていることを付記します。

7. この病気にはどのような治療法がありますか

早期からの適切な栄養管理が最も重要です。発達については、療育や特別支援教育を利用して、支援を行います。低身長改善および体組成改善目的で成長ホルモン療法を受けることができます。成長ホルモン療法は身長だけでなく、太りやすい体質から筋肉質の体質に変わり、肥満の予防につながります。また、活動性も増加すると言われています。二次性徴については性ホルモン療法も試みられています。治療には専門医の受診が望まれます。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか

運動発達の遅れは乳児期に顕著ですが、次第に追いつき、歩行開始以後はあまり目立ちません。知的発達の遅れは、中度のレベルでみられるために、適切な支援が必要です。学童期以降は福祉就労が目標になりますが、知的能力に比べると、職場での適応に問題が多いと言われています。食事に関する問題と、精神的な問題が主たる問題となるので、社会参加を目指して早期から環境整備や心理発達支援に取り組むことが望まれます。

9. この病気は日常生活ではどのような注意が必要ですか

栄養・食事の管理が最も重要です。正しい食事療法ができれば、あまり肥満にはなりませんし、成長ホルモン治療を受けられれば、体組成の改善が期待できます。しかし、一度肥満になると、痩せることは困難です。食事環境の整備と本人に対する食事指導を一貫して徹底することが最も重要です。単に、食事量を制限するだけでは長く続きません。決められた1日のカロリーのなかで、楽しく有意義な食生活を家族と一緒に実現することが重要です。
また、こだわりやパニック様症状などの行動症状も要注意です。効果的な薬物療法もわかっておらず、しばしば対応困難となることもあります。周囲の支援者の対応の慣れが有用であることも多いと思われます。

10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

Prader-Labhart-Willi syndrome
第15染色体母性ダイソミー

11. この病気に関する資料・関連リンク

プラダーウイリ症候群コンセンサスガイドライン(2022.12.23改訂)
http://jspe.umin.jp/medical/files/guide20221223.pdf
 
プラダー・ウィリ症候群-体組成改善目的のGH治療実施上の注意点(2023.12.27)
http://jspe.umin.jp/medical/files/guide20231227.pdf

Prader-Willi syndrome association
http://pwsausa.org/
 
プラダー・ウィリー症候群(PWS)児・者親の会 竹の子の会
http://www.pwstakenoko.org/

 

情報提供者
研究班名 成長障害・性分化疾患を伴う内分泌症候群(プラダーウイリ症候群・ヌーナン症候群を含む)の診療水準向上を目指す調査研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和5年11月(名簿更新:令和5年6月)