自己免疫性後天性凝固因子欠乏症(指定難病288)

じこめんえきせいこうてんせいぎょうこいんしけつぼうしょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
血液凝固因子が自己抗体の有害作用によって後天性に著減するために、止血栓の形成が不良となったり、物理的抵抗性、抗線溶性が減弱するために、自発性又は止血負荷に際して重度出血症状を呈する疾病である。
理論的には、すべての血液凝固因子に対して自己抗体が生じうる。ここでは、欠乏する凝固因子の種類により、1)「自己免疫性後天性凝固第XIII/13因子(FXIII/13)欠乏症(旧称:自己免疫性出血病XIII)」、2)「自己免疫性後天性凝固第VIII/8因子(FVIII/8)欠乏症(後天性血友病A)」、3)「自己免疫性後天性von Willebrand factor(VWF)欠乏症(自己免疫性後天性von Willebrand Disease(VWD))」、4)「自己免疫性後天性凝固第V/5因子(FV/5)欠乏症(いわゆるFV/5インヒビター)」、5) 「自己免疫性後天性凝固第X/10因子(FX/10)欠乏症」の5疾病を対象とする。
 
2.原因
自己抗体によるそれぞれの標的凝固因子の活性阻害(いわゆるインヒビター)や、自己抗体と標的凝固因子との免疫複合体が迅速に除去されるために各凝固因子が減少すること(クリアランス亢進)が、出血の原因となる場合が多いと推測される。多彩な基礎疾患・病態(他の自己免疫性疾患、腫瘍性疾患、感染症など)、妊娠/分娩を伴っているが、症例の約半数は特発性である。後天的に自己抗体が生じる原因は不明であるが、多因子疾患で、高齢者に多いことから加齢もその一因と思われる。
 
3.症状
1) 自己免疫性後天性FXIII/13欠乏症では、一般的な凝固時間検査(prothrombin time; PT、activated partial thromboplastin time; APTTなど)の値は基準範囲にあるにもかかわらず、突然出血する。多発性の軟部組織(筋肉・皮下など)の出血が多いが、どの部位にでも出血する可能性がある。急に大量出血するので貧血を呈することが多く、出血性ショックを起こすこともある。出血部位によって様々な症状(コンパートメント症候群や気道圧迫などの合併症)が起きる可能性がある。特に頭蓋内出血、胸腔内出血、腹腔内出血、後腹膜出血などは、致命的となりうる。
2) 自己免疫性後天性 FVIII/8欠乏症でも、出血症状が重篤なものが多く、突然広範な皮下出血や筋肉内出血を多発することが多いが、血友病A(遺伝性FVIII/8欠乏症)と異なり、関節内出血はまれである。特に、頭蓋内、胸腔内、腹腔内出血や後腹膜出血などは、致命的となり得るので注意が必要である。
3) 自己免疫性後天性VWF欠乏症の出血症状は、極めて多彩である。症例は、軽症から致死性のものまで種々の重症度の出血症状を突然発症するが、まれに検査上の異常のみを示す症例も存在する。急に大量出血して貧血、出血性ショックを起こすことがある。特に頭蓋内出血、胸腔内出血などは致命的となる。
4) 自己免疫性後天性FV/5欠乏症の出血症状も、極めて多彩であるが、尿路出血や消化管出血が多い傾向がある。症例は、軽症から致死性のものまで種々の重症度の出血症状を突然発症する。検査上の異常のみを示す症例もしばしば存在する。急に大量に出血して貧血、出血性ショックを起こすこともある。特に、死亡例の半数は頭蓋内出血が原因であるので注意が必要である。従来、出血は軽度と考えられてきたが、重症出血も少なくない。
5) 自己免疫性後天性FX/10欠乏症は、粘膜・皮下出血など何らかの出血症状を呈することが多く、血尿や下血の頻度が高い。重症型出血性疾患に分類され、咽頭周囲の血腫により気道圧迫が危惧された症例の報告もあるので要注意である。他の自己免疫性後天性凝固因子欠乏症に比べると症例の平均年齢はやや低く、小児を含めた若年者にも発生することがあることに留意する必要がある。なお、男性に多い傾向がある(男女比3:1)。
 
4.治療法
A.止血療法 
救命のためには、まずどの凝固因子が著減しているかを確認してから、可及的速やかに凝固因子補充療法を主体とする止血療法を実施する必要がある。 
1) 自己免疫性後天性FXIII/13欠乏症では、止血のためにFXIII/13濃縮製剤を静注することが必要である。ただし、自己抗体によるインヒビターや免疫複合体除去亢進があるので、投与したFXIII/13製剤が著しく短時間で効果を失うため、止血するまで投与薬の増量、追加を試みるべきである。 
2) 自己免疫性後天性FVIII/8欠乏症では、活動性出血に対して速やかに止血薬を投与する必要がある。ただし、高力価のインヒビターが存在する場合はFVIII/8補充療法には反応しないことが多いので、活性化第VII/7因子(FVII/7)又は活性化プロトロンビン複合体製剤を投与する(バイパス止血療法)。
3) 自己免疫性後天性VWF欠乏症では、止血のためにDDAVP(1-desamino-8-D-arginine vasopressin)又はVWF含有凝固FVIII/8濃縮製剤を投与するが、症例の自己抗体の量や性質によってVWFの回収率と半減期が大きく異なるので、それぞれの症例の症状・臨床的効果に合った個別化治療が必要である。 
4) 自己免疫性後天性 FV/5欠乏症では、活動性出血に対して速やかに止血薬を投与する必要がある。ただし、FV/5濃縮製剤は市販されていないので、新鮮凍結血漿又は濃厚血小板(FV/5を顆粒中に含む)などを投与することが多い。活動性出血が無い症例でも、後日出血傾向が出現する可能性があるので長期にわたって綿密な経過観察が必要である。 
5) 自己免疫性後天性FX/10欠乏症では、活動性出血に対して速やかに止血薬を投与する必要がある。ただし、我が国ではFX/10濃縮製剤は市販されていないので、出血時にPCC(プロトロンビン複合体濃縮製剤)、活性型PCCなどを投与するのが原則である。自己抗体による活性阻害やクリアランス亢進のため止血効果は限定的となることがあるので要注意である。緊急の場合は新鮮凍結血漿で代替しても良い。理論的にはFX/10単独製剤が望ましいが、わが国では市販されていないので、FX/10とその1/10量の活性型第VII/7因子(FVII/7)を含有する活性型第FVII/7・FX/10複合製剤の投与が次善の選択である。
 
B.抗体根絶/除去療法 
自己免疫性後天性凝固因子欠乏症の真の原因は不明であるが、それぞれの凝固因子に対する自己抗体が出血の原因であるので、免疫反応を抑えて自己抗体の産生を止める必要がある。症例によって免疫抑制薬の効果が異なり、画一的な治療は推奨されない。 
1) 副腎皮質ステロイド薬やシクロフォスファミドなどの免疫抑制薬が有効であることが多い(令和3年現在後者は保険適応がない)。糖尿病、血栓症、感染症などがある場合は、副腎皮質ステロイド薬の投与は慎重に検討する。
2) 治療抵抗性の症例にはリツキシマブ(rituximab)やシクロスポリンA、アザチオプリンなどの投与も考慮する(令和3年現在保険適応はない)。 
3) 通常、高用量イムノグロブリン静注(intravenous immunoglobulin; IVIG)は推奨されていない。ただし、自己免疫性後天性VWF欠乏症では、VWFレベルを数日間回復させることがある。 
4) 止血治療に難渋する場合は、抗体を一時的に除去するために血漿交換、免疫吸着療法も考慮する。特に、自己免疫性後天性FV/5欠乏症では、緊急時にはFV/5補充療法を兼ねて血漿交換を実施することが合理的である。 
5) ヨーロッパでは、自己免疫性後天性FVIII/8欠乏症にFVIII/8製剤の大量投与と免疫抑制薬の多剤併用による寛解導入療法も試みられている。 
 
5.予後
1) 自己免疫性後天性FXIII/13欠乏症の予後は不良である。出血による死後に抗FXIII/13自己抗体が検出されて確定診断される例が約1割、急性期に出血死する例が約1割、年余にわたり遷延して出血死する例が約1割、遷延して長期療養中の症例が約2割、発症後1年未満で治療中の症例が約2割、寛解中の症例が約3割である。
2) 自己免疫性後天性FVIII/8欠乏症では、FVIII/8インヒビターは、免疫抑制療法によりいったんは寛解することが多いが、再燃することも少なくない。FVIII/8自己抗体が残存していることもあり、定期的検査を含む長期の経過観察が必要である。死亡率は2~3割と高く、出血死よりも免疫抑制療法中の感染死が多いので、厳重な管理が必要である。
3) 自己免疫性後天性VWF欠乏症では、致死的な出血をする症例から自然寛解する症例まで予後が多様であるが、治療に抵抗して長年にわたって遷延する症例も少なくない。さらに、いったん寛解した後に再燃する症例もあるので、定期的検査を含む長期間の経過観察が必要である。
4) 自己免疫性後天性FV/5欠乏症でも、自然寛解する症例から致死的出血を来す症例まで予後が多様であり、治療に抵抗して長年にわたって遷延する症例も少なくない。さらに、いったん寛解した後に再燃する症例も報告されているので、定期的検査を含む長期間の経過観察が必要である。なお、偶然発見された無症状の症例でも、将来出血症状が現われる可能性があるので、定期的な経過観察が必要である。
5) 自己免疫性後天性FX/10欠乏症は、確定診断された症例が極めて少ないため正確な予後は不明である。極めて少数の確定診断症例のまとめでは、免疫抑制療法で寛解することが多いが、本疾患疑い症例を含めるとその限りではない。
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.  患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
289人
2.  発病の機構
不明(自己免疫寛容機構の破綻が推定されるが解明されていない。)
3.  効果的な治療方法
未確立(対症療法や免疫抑制薬を用いるが十分に確立されていない。)
4.  長期の療養
必要(根治せず、寛解と再燃を繰り返す。)
5.  診断基準
あり(研究班作成と日本血栓止血学会の診断基準)
6.  重症度分類
過去1年間に重症出血を1回以上起こした例を重症例とし、対象とする。
 
○ 情報提供元
難治性疾患政策研究事業「自己免疫性出血症治療の『均てん化』のための実態調査と『総合的』診療指針の作成」研究班
研究代表者 鹿児島大学 大学院医歯学総合研究科 教授 橋口 照人

日本血栓止血学会 後天性血友病A診療ガイドライン作成委員会
 代表者 宗像水光会総合病院小児科 部長 酒井道生
 
日本血栓止血学会 自己免疫性出血病FXIII/13診断基準作成委員会
代表者 山形大学(医学部) 名誉教授 一瀬白帝


<診断基準>
1)自己免疫性後天性凝固第XIII/13因子(FXIII/13)欠乏症(旧称:自己免疫性出血病XIII:AHXIII/13)の診断基準
Definite、Probableを対象とする。
 
A.症状等
(1)過去1年以内に発症した出血症状がある。
(2)先天性/遺伝性凝固FXIII/13欠乏症の家族歴がない。
(3)出血性疾患の既往歴がない。特に過去の止血負荷(hemostatic challenge; 外傷、手術、抜歯、分娩など)に伴った出血もない。
(4)抗凝固薬や抗血小板薬などの過剰投与がない。
 
B.検査所見
1.特異的検査でFXIII/13に関する以下の3つの項目の内1つ以上の異常がある(通常は活性、抗原量が50%以下)。
(1)FXIII/13活性、FXIII/13抗原量:通常、両者とも低下。
ただし、一部の症例、例えば、抗FXIII/13-Bサブユニット自己抗体が原因の症例では、病歴全体での時期やFXIII/13製剤による治療によって両者とも正常範囲に近くなることがある。FXIII/13単独の高度の低下は本疾患を疑う。他の複数の凝固因子の低下を伴って軽度~中等度に低下する場合は播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation; DIC)、重度の肝疾患などによる二次性FXIII/13欠乏症であることが多い。
(2)FXIII/13比活性(活性/抗原量):抗FXIII/13-Aサブユニット自己抗体が原因のほとんどの症例では低下しているが、抗FXIII/13-Bサブユニット自己抗体が原因の症例では正常である。
(3)FXIII/13-Aサブユニット、FXIII/13-Bサブユニット、FXIII/13-A2B2 抗原量:抗FXIII/13自己抗体のタイプ/性状によって、様々な程度まで低下している。
2.確定診断用検査
(1)FXIII/13インヒビター(阻害性抗体)が存在する(以下のどれか一つ以上)。
・ 標準的なアンモニア放出法やアミン取り込み法などによる正常血漿との1:1混合試験、交差混合試験(37℃で2時間加温後)などの機能的検査で陽性。
・ 力価測定:一定量の健常対照血漿に様々に段階希釈した症例の血漿を混合して、2時間37℃で加温してから残存FXIII/13活性を測定する(ベセスダ法)。
・ 後述する治療的FXIII/13製剤投与試験で、投与直後のFXIII/13活性の回収率、比活性(活性/抗原量)の大幅な低下などによりFXIII/13活性阻害が認められれば、FXIII/13インヒビターの生体内での証明として良い。

(2)抗FXIII/13自己抗体が存在する*(以下のどれか一つ以上)。
・ イムノブロット法、ELISA、イムノクロマト法などの免疫学的検査で陽性。
・ 阻害性抗体(FXIII/13インヒビター)の場合は、抗ヒトIg抗体や抗血清による中和前後、あるいはプロテインA-、プロテインG-セファロースなどでの吸着処理前後でFXIII/13インヒビター力価の大幅な減少が認められれば、抗FXIII/13自己抗体の間接的証明として良い。
:非抗体、非タンパク質が原因であるとした欧米の報告が複数あるので、誤診とそれに基づく免疫抑制薬投与による有害事象に注意する。


C.鑑別診断
遺伝性(先天性)FXIII/13欠乏症(における同種抗体)、二次性FXIII/13欠乏症[播種性血管内凝固症候群(DIC)、手術、外傷、白血病などの血液悪性腫瘍、重症肝疾患、肝硬変、ヘノッホ・シェンライン紫斑病、慢性炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病など)]、自己免疫性後天性FVIII/8欠乏症(後天性血友病A)や後天性von Willebrand(VW)症候群(AVWS)(特に自己免疫性後天性von Willebrand factor(VWF)欠乏症)、自己免疫性後天性第V/5因子(FV/5)欠乏症などの他の全ての自己免疫性後天性出血病などを除外する。

<診断のカテゴリー>
Definite:Aの全て+B1及びB2-(2)を満たし、Cを除外したもの
Probable:Aの全て+B1及びB2-(1)を満たし、Cを除外したもの
Possible:Aの全て+B1を満たすもの
 
<参考所見>
1.一般的凝固検査  
(1)出血時間:通常は正常
(2)PTとAPTT:通常は正常
(3)血小板数:通常は正常
 
2.その他の検査
(1)血小板内FXIII/13-A抗原量(あるいはFXIII/13活性):洗浄血小板を調製して測定すると正常量が検出されるので、先天性/遺伝性FXIII/13欠乏症の可能性を除外するのに有用である。
(2)FXIII/13製剤投与試験:抗FXIII/13抗体の性状を、治療試験で明らかにできることがある。クリアランス亢進型抗体では、FXIII/13を含有する血液製剤のFXIII/13抗原量の回収率や半減期を計算することによって、除去の亢進が明確になる。ただし、除去亢進は本疾患に特異的な所見ではない。FXIII/13インヒビター(阻害性抗体)では、FXIII/13活性の回収率や半減期を計算することによって、FXIII/13活性阻害が確認される。FXIII/13活性と抗原量を同時に測定すると比活性(活性/抗原量)も計算できる。これらの検査は、次回からのFXIII/13製剤の投与量や間隔、期間等の止血治療計画を立てる上でも有用である。
 
 
2)自己免疫性後天性凝固第VIII/8因子(FVIII/8)欠乏症(後天性血友病A)の診断基準
Definite、Probableを対象とする。
 
A.症状等
(1)過去1年以内に発症した出血症状がある。
(2)血友病A(遺伝性FVIII/8欠乏症)の家族歴がない。
(3)出血性疾患の既往歴がない。特に過去の止血負荷(hemostatic challenge; 外傷、手術、抜歯、分娩など)に伴った出血もない。
(4)抗凝固薬や抗血小板薬などの過剰投与がない。
 
B.検査所見
1.特異的検査でFVIII/8関連の以下の3つの項目の内1つ以上の異常がある(通常はFVIII/8活性、FVIII/8抗原量が基準値の50%以下)。
(1)FVIII/8活性(FVIII/8:C):必ず著しく低下
(2)FVIII/8抗原量(FVIII/8:Ag):通常は著しく低下
(3)FVIII/8比活性(活性/抗原量):通常は著しく低下
2.確定診断用検査
(1)APTT交差混合試験でインヒビター型である。
症例の血漿と健常対照の血漿を5段階に希釈混合して、37℃で2時間加温してからAPTTを測定する。明らかに下に凸でなければインヒビターの存在を疑う。抗リン脂質抗体症候群のループスアンチコアグラントでは、混合直後にAPTTを測定しても凝固時間の延長が認められるので(即時型阻害)、鑑別に有用である。
(2)FVIII/8インヒビター(凝固抑制因子)が存在する。
力価測定:一定量の健常対照血漿に様々に段階希釈した症例の血漿を混合して、2時間37℃で加温してから残存FVIII/8活性を測定する(ベセスダ法)。完全阻害型(タイプ1)と不完全阻害型(タイプ2)インヒビターがあり、後天性血友病Aでは後者が多いので、残存FVIII/8活性が50%を超えた希釈倍率を用いてインヒビター力価を算出すると良い。
(3)抗FVIII/8自己抗体が存在する。
非阻害性抗体は、主に結合試験(イムノブロット法、ELISA法、イムノクロマト法など)を用いて免疫学的に検出される。FVIII/8インヒビター、すなわち阻害性抗FVIII/8自己抗体も、免疫学的方法で検出され、微量に残存する抗FVIII/8自己抗体も鋭敏に検出することが可能なので、病勢、免疫抑制療法の効果、寛解の判定や経過観察に有用であると期待されている。
:出血症状を生じない抗FVIII/8自己抗体(非病原性自然自己抗体)も存在することが報告されているので、A-(1)とB-1のないものは検査対象に含めない。
 
C.鑑別診断
血友病A(遺伝性FVIII/8欠乏症)、先天性第V/5因子(FV/5)・FVIII/8複合欠乏症、全ての二次性FVIII/8欠乏症(播種性血管内凝固症候群(DIC)など)、(遺伝性)von Willebrand disease(VWD)、自己免疫性後天性VWD(AVWD)、全ての二次性von Willebrand(VW)症候群(VWS;心血管疾患、本態性血小板増多症、甲状腺機能低下症、リンパ又は骨髄増殖性疾患などの明確な原因疾患がある非自己免疫性後天性VWS)、自己免疫性後天性FXIII/13欠乏症、自己免疫性後天性FV/5欠乏症、抗リン脂質抗体症候群などを除外する。
 
<診断のカテゴリー>
Definite:Aの全て+B1及びB2-(3)を満たし、Cを除外したもの
Probable:Aの全て+B1+B2-(1)又はB2-(2)を満たし、Cを除外したもの
Possible:Aの全て+B1を満たすもの
 
<参考所見>
1.一般的血液凝固検査
(1)出血時間:通常は正常
(2)APTT:必ず延長
(3)血小板数:通常は正常
2.その他の検査
(1)VWF Ristocetin cofactor活性(VWF:RCo):通常、正常あるいは増加(出血時)
(2)VWF抗原量(VWF:Ag):通常、正常あるいは増加(出血時)


3)自己免疫性後天性von Willebrand factor(VWF)欠乏症(自己免疫性後天性von Willebrand(VWF)欠乏症)の診断基準
Definite、Probableを対象とする。
 
A.症状等
(1)過去1年以内に発症した出血症状がある。
(2)VW病(VWD:遺伝性VWF欠乏症)の家族歴がない。
(3)出血性疾患の既往歴がない。特に過去の止血負荷(hemostatic challenge; 外傷、手術、抜歯、分娩
など)に伴った出血もない。
(4)抗凝固薬や抗血小板薬などの過剰投与がない。
 
B.検査所見
1.特異的検査でVWF関連の以下の3つの項目の内1つ以上の異常がある(通常はVWF Ristocetin cofactor活性(VWF:RCo)、VWF抗原量(VWF:Ag)が基準値の50%以下)。
(1)FVIII/8活性(FVIII/8:C):低下あるいは正常
(2)VWF:RCoとVWF:Ag:通常は両者とも減少
(3)VWF比活性(VWF:RCo/VWF:Ag):通常は中等度から高度に減少
2.確定診断用検査
(1)VWFインヒビターが存在する。
VWFとGP(Glycoprotein)Ibとの相互作用を阻害するインヒビター(阻害性抗体)が存在すれば、VWF:RCoかRistocetin-induced platelet agglutination(RIPA)アッセイを用いた正常血漿との交差混合試験(37℃で2時間加温後)で機能的に検出することができる。
(2)抗VWF自己抗体が存在する。
非阻害性抗体は、主に結合試験(イムノブロット法、ELISA法、イムノクロマト法など)を用いて免疫学的に検出される。インヒビター(阻害性抗VWF自己抗体)も、免疫学的方法で検出される。
 
C.鑑別診断
VW病(遺伝性VWF欠乏症)、全ての二次性VW症候群(心血管疾患、本態性血小板増多症、甲状腺機能低下症、リンパ又は骨髄増殖性疾患などの明確な原因疾患がある非自己免疫性後天性von Willebrand症候群)、自己免疫性後天性FXIII/13欠乏症、自己免疫性後天性FVIII/8欠乏症(後天性血友病A)、自己免疫性後天性FV/5欠乏症などを除外する。
 
<診断のカテゴリー>
Definite:Aの全て+B1及びB2-(2)を満たし、Cを除外したもの
Probable:Aの全て+B1及びB2-(1)を満たし、Cを除外したもの
Possible:Aの全て+B1を満たしたもの
 
<参考所見>
1.一般的血液凝固検査
(1)出血時間:延長又は正常
(2)APTT:延長又は正常
(3)血小板数:正常、減少又は増加
2.その他の検査
(1)RIPA:正常、減少あるいは欠如
(2)VWFマルチマー:正常あるいは異常(高分子量マルチマー欠如あるいは減少)
(3)VWF投与試験:VWF含有FVIII/8濃縮製剤を投与して、経時的にVWF活性と抗原量を測定し、その回収率、半減期を計算することによって、血中からの除去促進(クリアランス亢進型抗体)やインヒビター(阻害性抗体)の有無と病態を推定することができる。ただし、回収率の低下や半減期の短縮はAVWDに特異的な所見ではない。


4)自己免疫性後天性凝固第V/5因子(FV/5)欠乏症(いわゆる第V/5因子インヒビター)の診断基準
Definite、Probableを対象とする。

A.症状等
(1)過去1年以内に発症した出血症状がある。
(2)パラ血友病(遺伝性FV/5欠乏症)の家族歴がない。
(3)出血性疾患の既往歴がない。特に過去の止血負荷(hemostatic challenge; 外傷、手術、抜歯、分娩 など)に伴った出血もない。
(4)抗凝固薬や抗血小板薬などの過剰投与がない。

B.検査所見
1.特異的検査でFV/5関連の以下の3つの項目の内1つ以上の異常がある(通常はFV/5活性、FV/5抗原量が基準値の50%以下)。
(1)FV/5活性(FV/5:C):必ず著しく低下
(2)FV/5抗原量(FV/5:Ag):通常は正常だが一部の症例で低下
(3)FV/5比活性(活性/抗原量):通常は著しく低下
2.確定診断用検査
(1)PT及びAPTT交差混合試験でインヒビター型である
症例の血漿と健常対照の血漿を5段階に希釈混合して、37℃で2時間加温してからPT及びAPTTを測定する。明らかに下に凸でなければインヒビターの存在を疑う。なお、抗リン脂質抗体症候群のループスアンチコアグラントでは、混合直後にPT及びAPTTを測定しても凝固時間の延長が認められ(即時型阻害)、一般に鑑別に有用とされている。
(2)FV/5インヒビター(凝固抑制物質)が存在する
力価測定:一定量の健常対照血漿に様々に段階希釈した症例の血漿を混合して、2時間37℃で加温してから残存FV/5活性を測定する(ベセスダ法)。
(3)抗FV/5自己抗体**が存在する。
非阻害性抗体は、主に結合試験(イムノブロット法、ELISA法、イムノクロマト法など)を用いて免疫学的に検出される。FV/5インヒビター、すなわち阻害性抗FV/5自己抗体も、免疫学的方法で検出され、微量に残存する抗FV/5自己抗体も鋭敏に検出することが可能なので、病勢、免疫抑制療法の効果、寛解の判定や経過観察に有用であると期待される。
なお、阻害性抗体(FV/5インヒビター)の場合は、抗ヒトIg抗体や抗血清による中和前後、あるいはプロテインA-、プロテインG -セファロースなどでの吸着処理前後でFV/5インヒビター力価の大幅な減少が認められれば、抗FV/5自己抗体の間接的証明として良い。

:当初交差混合試験で欠乏型(下に凸)であっても、その後インヒビター型に変化することもあるので、期間をおいて複数回検査することが望ましい。
**:出血症状を生じない抗FV/5自己抗体保有症例も多数も存在することが報告されているので、A-(1)とB-1のないものは検査対象に含めない。

C.鑑別診断
パラ血友病(遺伝性FV/5欠乏症)、先天性FV/5・FVIII/8複合欠乏症、全ての二次性FV/5欠乏症(播種性血管内凝固症候群(DIC)など)、(遺伝性)第X/10因子(F10)欠乏症、自己免疫性後天性F10欠乏症、全ての二次性F10欠乏症、(遺伝性)プロトロンビン欠乏症、自己免疫性後天性プロトロンビン欠乏症、全ての二次性プロトロンビン欠乏症、自己免疫性後天性FXIII/13欠乏症、抗リン脂質抗体症候群などを除外する。

<診断のカテゴリー>
Definite:Aの全て+B1及びB2-(3)を満たし、Cを除外したもの
Probable:Aの全て+B1+B2-(1)又はB2-(2)を満たし、Cを除外したもの
Possible:Aの全て+B1を満たすもの

<参考所見>
1.一般的血液凝固検査
(1)出血時間:通常は正常
(2)PT及びAPTT:必ず延長
(3)血小板数:通常は正常

2.その他の検査
ループスアンチコアグラントが陽性あるいは測定不能の場合は、抗カルジオリピン(CL)抗体(IgG,IgM)や抗CL・β2GPI複合体抗体(IgG, IgM)を測定して、FV/5インヒビターが原因の偽陽性である可能性を除外すると良い。


5)自己免疫性後天性凝固第X/10因子(FX/10)欠乏症の診断基準
Definite、Probableを対象とする。

A.症状等
(1)最近発症した持続性又は再発性の出血症状がある。
(2)遺伝性FX/10欠乏症の家族歴がない。
(3)出血性疾患の既往歴がない。特に過去の止血負荷(hemostatic challenge; 外傷、手術、抜歯、分娩
など)に伴った出血もない。
(4)抗凝固薬や抗血小板薬などの過剰投与がない。

B.検査所見
1.凝固一般検査でPTとAPTTが延長しており、特異的検査でFX関連の以下の3つの項目の内1つ以上の異常がある(通常はFX活性、FX抗原量が基準値の50%以下)。
(1)FX/10活性(FX/10:C):必ず著しく低下
(2)FX/10抗原量(FX/10:Ag):通常は著しく低下
(3)FX/10比活性(活性/抗原量):通常は著しく低下
(令和3年現在FX/10抗原量の検査は保険収載されていない)
2.確定診断用検査
(1)PT及びAPTTの1:1混合試験、交差混合試験でインヒビター型である
症例の血漿と健常対照の血漿を5段階に希釈混合して、37°Cで2時間加温してからPT及びAPTTを測定する。明らかに下に凸でなければインヒビターの存在を疑う。なお、抗リン脂質抗体症候群のループスアンチコアグラントでは、混合直後にPT及びAPTTを測定しても、37°Cで2時間加温後と同等の凝固時間の延長が認められるので(即時型阻害)、鑑別に有用である。
(2)FX/10インヒビター(凝固抑制物質)が存在する
力価測定:一定量の健常対照血漿に様々に段階希釈した症例の血漿を混合して、2時間37°Cで加温してから残存FX/10活性を測定する(ベセスダ法)。
(3)抗FX/10自己抗体**が存在する。
阻害性抗体は、主に結合試験(イムノブロット法、ELISA法、イムノクロマト法など)を用いて免疫学的に検出され、FX/10の血中からのクリアランスを亢進して上記の交差混合試験では「欠乏型」を示し本症の原因となりうる。FX/10インヒビター、すなわち阻害性抗FX/10自己抗体も、免疫学的方法で検出され、微量に残存する抗FX/10自己抗体も鋭敏に検出することが可能なので、病勢、免疫抑制療法の効果、寛解の判定や経過観察に有用である(令和3年現在抗FX/10自己抗体の検査は保険収載されていない)。

:当初1:1混合試験、交差混合試験で欠乏型であっても、その後インヒビターがベセスダ法で検出されることもあるので、複数の方法を用いる、又は期間をおいて複数回検査することが望ましい。
**:出血症状を生じない抗FX/10自己抗体保有症例も存在する可能性があるので、A-(1)とB-1のないものは、原則として検査対象に含めない。ただし、検査上の異常のみでその時点では出血症状の無い症例でも、その後出血症状を呈することも予想されるので、綿密な経過観察が必須である。

C.鑑別診断
遺伝性FX/10欠乏症、全ての二次性FX/10欠乏症(播種性血管内凝固症候群(DIC)、AL-アミロイドーシスなど)、(遺伝性)第FV/5欠乏症、自己免疫性後天性FV/5欠乏症、全ての二次性FV/5欠乏症、(遺伝性)プロトロンビン欠乏症、自己免疫性後天性プロトロンビン欠乏症、全ての二次性プロトロンビン欠乏症、自己免疫性後天性FXIII/13欠乏症、抗リン脂質抗体症候群などを除外する。

<診断のカテゴリー>
Definite:Aの全てを満たし、B1及びB2-(3)を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外したもの
Probable1:Aの全てを満たし、B1及びB2-(1)を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外したもの
Probable2:Aの全てを満たし、B1及びB2-(2)を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外したもの
Possible:Aの全て及びB1を満たすもの

<参考所見>
1.一般的血液凝固検査
(1)出血時間:通常は正常
(2)PT及びAPTT:必ず延長
(3)血小板数:通常は正常

2.その他の検査
A.症状等を認めた際に、ループスアンチコアグラントが陽性又は測定不能の場合は、抗カルジオリピン(CL)抗体(IgG,IgM)や抗CL・β2GPI複合体抗体(IgG, IgM)の測定及び交差混合試験で、FX/10インヒビターが原因の偽陽性である可能性を除外すると良い。


<診断のカテゴリーの表示>

  Possible* Probable** Definite***
A.症状等      
(1)出血症状がある
(2)遺伝性FX/10欠乏症の家族歴無し
(3)出血症状の既往無し
(4)抗凝固薬や抗血小板薬の過剰投与無し
B.検査所見      
1.PTとAPTT延長、以下のFX/10関連項目の異常
(1)FX/10活性(FX/10:C):著しく低下 (1)~(3)のうち一つ以上○ (1)~(3)のうち一つ以上○ (1)~(3)のうち一つ以上○
(2)FX/10抗原量(FX/10:Ag):著しく低下
(3)FX/10比活性(活性/抗原量):著しく低下
2.確定診断用検査      
(1)PT及びAPTT交差混合試験がインヒビター型 (1)、(2)のうち一つ以上○
(2)FX/10インヒビター(凝固抑制物質)が存在
(3)抗FX/10自己抗体が存在
C.鑑別診断      
類似疾患を除外

*; Possible:Aの全て及びB1を満たすもの
**Probable1:Aの全てを満たし、B1及びB2-(1)を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外したもの
**Probable2:Aの全てを満たし、B1及びB2-(2)を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外したもの
***; Definite:Aの全て+B1及びB2-(3)を満たし、Cを除外したもの

<重症度分類>
過去1年間に重症出血の(1)~(4)のいずれかを1回以上起こした例を重症例とし対象とする。

 

1.重症出血
(1)致命的な出血
(2)重要部位、重要臓器の出血(例えば、頭蓋内、脊髄内、眼球内、気管、胸腔内、腹腔内、後腹膜、関節内、心嚢内、コンパートメント症候群を伴う筋肉内出血等)
(3)ヘモグロビン値8g/dL以下の貧血あるいは2g/dL以上の急速なヘモグロビン値低下をもたらす出血
(4)24時間内に2単位以上の全血あるいは赤血球輸血を必要とする出血
 
2.軽症出血
上記以外の全ての出血**
:日本語版簡略版出血評価票(JBAT)も参考にすることを推奨
**:多発性及び有痛性の出血は、重症に準じて止血治療を考慮すべき

 
 
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

令和6年4月1日

情報提供者
研究班名 自己免疫性出血症治療の「均てん化」のための実態調査と「総合的」診療指針の作成班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和6年4月(名簿更新:令和5年6月)