自己免疫性後天性凝固因子欠乏症(指定難病288)

じこめんえきせいこうてんせいぎょうこいんしけつぼうしょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1. 「自己免疫性後天性凝固因子欠乏症」とはどのような病気ですか

自己免疫性後天性凝固因子欠乏症は、血が固まる(凝固)ために必要なタンパク質である凝固因子(たとえば第VIII/8やV/5, XIII/13 ,フォン・ヴィレブランド, X(10)因子など)に結び付く抗体( 自己抗体 )ができて、凝固因子が働かなくなったり、極端に少なくなったりするため、血を止める(止血)ための血の固まり(止血栓)ができにくくなったり、脆くなって簡単に壊れやすくなり、自然に(理由もなく)あるいは軽い打撲などでさえ重い出血をする病気です。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

これまでに全国調査で確認された患者さんの数と、計算で推定された患者さんの数を合計すると約3,000名ですので、それほど多くないと思われます。ただし、この病気は一般の医師にもあまり知られておらず、凝固因子の異常を見つける簡単な「ふるい分け検査」のない病気も含まれているので、見逃されている患者さんも多いようです。

3. この病気はどのような人に多いのですか

60~70歳代の患者さんが大半で、男女差はあまりないようです。がんや血液の悪性疾患、他の自己免疫性疾患(関節リウマチや全身性エリテマトーデスなど)、感染症などと一緒にこの病気にかかった患者さんが約半分で、原因不明な患者さんが残りの半分です。まれに、妊娠・分娩と関係して発病した若年女性もおられます。ただし、2021年11月1日に新規追加された自己免疫性後天性第X(10)因子欠乏症は、重症火傷の小児例もあるので平均年齢はやや低く、男性が女性の約3倍と多いのですが、極めてまれなので、過度な心配は必要はありません。なお、流行中の新型コロナウイルス感染症やワクチン接種の後にこの病気にかかった患者さんが世界で何人かおられますが、単なる偶然である可能性もあり、その原因か否かは証明されていません。

4. この病気の原因はわかっているのですか

自分の凝固因子に対して自己抗体が作られてその凝固因子が働かなくなること(インヒビター)や、凝固因子とその自己抗体が合体したもの( 免疫複合体 )が迅速に血中から除去されるために凝固因子が血液から失われることが、出血の原因となる場合が多いと推測されています。しかし、なぜ自分自身の凝固因子に対して自己抗体ができるのかは今のところ分かっていません(まれですが、薬剤の使用が発病に関係しているらしい症例も報告されています)。

5. この病気は遺伝するのですか

遺伝はしないようです。ただし、個人によってこの病気に「なり易さ」が違うかもしれません。その場合は「なり易さ」が遺伝する可能性があります。

6. この病気ではどのような症状がおきますか

突然、身体のあちこちに出血が起こります。軟らかい部分である筋肉・皮膚・粘膜の出血が多いのですが、身体のどの部位にでも出血する可能性があります。急に大量に出血するので重い貧血になり、ショック状態になることもあります。
出血する部位によっては、その部位の働きが悪くなる症状が加わる(合併症)可能性があります。特に脳を含む頭蓋内の出血では脳神経系に、心臓や肺がある胸腔内の出血では循環器系に重い障害を起こし、致命的となる場合もあります。

7. この病気にはどのような治療法がありますか

この病気は出血症状だけではどの凝固因子に異常があるか分かりません。そこで、治療する前に、詳しい検査をして異常のある凝固因子を確定してどの凝固因子製剤を注射するかを決めることが必要です。その後、先ず「出血を止める」ためにピッタリの凝固因子製剤を注射します。ただし、「4. この病気の原因はわかっているのですか」に書いた自己抗体によるインヒビターや免疫複合体除去の 亢進 があるので、注射した凝固因子が直ぐに効かなくなるため、それだけで長期間出血を止めることは難しいのです。したがって、免疫を弱める薬(免疫抑制薬)を内服したり注射して「自己抗体が作られない」ようにする必要があります。残念ながら、こうしたら絶対治るという方法はできていません。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか

しっかりと7.の治療をすれば、いったん出血症状がなくなる症例がほとんどです。これまでの患者さんの経過を大まかに分類すると、1) 寛解 (いったん自己抗体が消える)した例、2)発病したばかりでまだ治療中の例、3)なかなか自己抗体が消えず長期療養中の例、4)年余にわたり長引いて出血死する例、5)急性期に出血死する例、6)出血死した後に検体が検査されてこの病気と診断される例などがあります。一般に、自己免疫疾患は完全に治るのは難しく、この病気も再燃(出血症状が再発すること)や増悪(出血症状が悪化すること)があるので要注意です。

9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか

凝固因子の働きが正常の約半分以上に戻るまでは、激しい運動は避け、打撲などの外傷に注意し、もし手術や血が出るような検査が必要な時は、予め専門の医師(血液内科など)に必ず相談してください。無事寛解した後も8.で説明したように、再燃することがあるので、最低でも数年間は定期的に主治医に検査や診察をして貰って下さい。この病気は検査をしないと病勢(病気の進み具合や良くなり具合)が分からないし、特に頭、胸、お腹の中の出血は体の表面からは見えないので、自己判断は危険です。

10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

自己免疫性後天性凝固因子欠乏症(凝固因子インヒビター)
自己免疫性後天性第XIII/13因子欠乏症、後天性血友病XIII/13、後天性出血病XIII/13
自己免疫性後天性第VIII/8因子欠乏症、後天性血友病A
自己免疫性後天性von Willebrand因子欠乏症(後天性von Willebrand病、後天性von Willebrand症候群)
自己免疫性後天性第V/5因子欠乏症(第V/5因子インヒビター)
自己免疫性後天性第X(10)因子欠乏症(第X(10)因子インヒビター)

ただし、括弧内の疾患名は、必ずしも同義(同じ原因の疾患)ではないのでご注意願います。

11. この病気に関する資料・関連リンク

1) 研究班事務局(令和4年4月以降)ホームページ
https://kintenka.jp/
 
2) 厚生労働省ホームヘページ 平成27年7月1日施行の指定難病(告示番号111~306)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000079293.html
及び
令和3年11月1日施行の指定難病(告示番号288,334~338)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21649.html

情報提供者
研究班名 自己免疫性出血症治療の「均てん化」のための実態調査と「総合的」診療指針の作成班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和4年12月(名簿更新:令和5年6月)