エマヌエル症候群(指定難病204)

えまぬえるしょうこうぐん
 

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○ 概要
 
1.     概要
エマヌエル症候群は特異顔貌、口蓋裂、小顎症、先天性心疾患、精神運動発達遅滞を呈する先天性奇形症候群である。22番過剰派生染色体症候群、11/22混合トリソミーなどとも呼ばれており、染色体転座t(11;22)に由来する22番派生染色体を47本目の染色体として過剰に持つことが本疾患の原因である。近年の分子遺伝学研究の進歩により、本疾患の発生頻度が予想外に高いことがわかってきた。
 
2.     原因
患者の染色体核型は、47, XX or XY, +der(22)t(11;22)(q23;q11)で、11q23より遠位側と22q11より近位側の混合トリソミーである。その染色体領域にあるどの遺伝子が発病に関わっているのか不明である。
ほとんどの場合、両親のどちらかが均衡型染色体転座t(11;22)(q23;q11)の無症状保因者であり、患者の過剰22番派生染色体der(22)は、親の配偶子形成時の第1減数分裂における3:1分離により過剰となる。染色体転座t(11;22)(q23;q11)自体は、11q23と22q11にあるpalindromic AT-rich repeatsが精子形成時に十字架型の2次構造をとることで、染色体DNAが切断され、誤ってつなぎかわることにより発生する。
 
3.     症状
染色体異常による先天性奇形症候群である。特異顔貌(小頭症、耳前の小孔や小突起、眼裂斜上など)、口蓋裂、小下顎(ピエールロバン連鎖)、先天性心疾患(心室中隔欠損、心房中隔欠損、動脈間開存など)、精神運動発達遅延である。子宮内発育不全があり、出生体重はやや小さい。新生児期の呼吸障害、筋緊張低下、哺乳困難の頻度が高く、その後も体重増加不良を呈する。精神運動発達遅延が必発で、多くのマイルストーンは遅れる。先天性股関節脱臼の頻度が高いこともあり、処女歩行も遅れるが、多くは最終的には補助にて歩行が可能である。ある程度の言語は理解可能だが、発語は非常に少ない。合併症として、繰り返す感染症、とくに中耳炎、それに伴う聴力障害、視力障害、難治性けいれんなどがある。
 
4.     治療法
現時点では対症療法のみである。
 
5.     予後
予後不良であるが、稀少疾患であるため、成人例のまとまった報告がなく、詳細は不明である。ただ、ダウン症候群よりも先天性心疾患の程度が重く、精神運動発達遅滞の程度も強く、身体障害や知的障害が生涯継続することから、ダウン症候群より平均寿命がはるかに低いと推測される。
 
 
 
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.       患者数
100人未満
2.       発病の機構
          不明(染色体異常によるが、その染色体領域にあるどの遺伝子が原因か不明。)
3.       効果的な治療方法
          未確立(対症療法のみである。)
4.       長期の療養
          必要(染色体疾患であり、生下時より発症、生涯継続する。)
5.       診断基準
あり(広く一般的に用いられている診断基準あり。)
6.       重症度分類
1)~3)のいずれかに該当する者を対象とする。
1)modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上を満たす場合。
2)難治性てんかんの場合。
3)先天性心疾患があり、NYHA分類でII度以上に該当する場合。
 
○ 情報提供元
「エマヌエル症候群の疾患頻度とその自然歴の実態調査班」
研究代表者 藤田保健衛生大学 総合医科学研究所 分子遺伝学研究部門 教授 倉橋浩樹
 
 
<診断基準>
 
子宮内発育不全があり、特異顔貌(小頭症、耳前の小孔や小突起など)、口蓋裂、小下顎(ピエールロバン連鎖)、先天性心疾患(心室中隔欠損、心房中隔欠損、動脈間開存など)などから疑い、染色体検査で以下の異常があった場合に診断する。
 
染色体検査(G分染法)
47,XX or XY,+der(22)t(11;22)(q23;q11.2)
 
 
 
<重症度分類>
1)~3)のいずれかに該当する者を対象とする。
1)modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上を対象とする。

 

日本版modified Rankin Scale (mRS) 判定基準書

modified Rankin Scale

参考にすべき点

まったく症候がない

自覚症状及び他覚徴候がともにない状態である

症候はあっても明らかな障害はない:
日常の勤めや活動は行える

自覚症状及び他覚徴候はあるが、発症以前から行っていた仕事や活動に制限はない状態である

軽度の障害:
発症以前の活動が全て行えるわけではないが、自分の身の回りのことは介助なしに行える

発症以前から行っていた仕事や活動に制限はあるが、日常生活は自立している状態である

中等度の障害:
何らかの介助を必要とするが、歩行は介助なしに行える

買い物や公共交通機関を利用した外出などには介助を必要とするが、通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要としない状態である

中等度から重度の障害:
歩行や身体的要求には介助が必要である

通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要とするが、持続的な介護は必要としない状態である

重度の障害:
寝たきり、失禁状態、常に介護と見守りを必要とする

常に誰かの介助を必要とする状態である

死亡

 
日本脳卒中学会版
 
食事・栄養 (N)
0.症候なし。
1.時にむせる、食事動作がぎこちないなどの症候があるが、社会生活・日常生活に支障ない。
2.食物形態の工夫や、食事時の道具の工夫を必要とする。
3.食事・栄養摂取に何らかの介助を要する。
4.補助的な非経口的栄養摂取(経管栄養、中心静脈栄養など)を必要とする。
5.全面的に非経口的栄養摂取に依存している。
 
呼吸 (R)
0.症候なし。
1.肺活量の低下などの所見はあるが、社会生活・日常生活に支障ない。
2.呼吸障害のために軽度の息切れなどの症状がある。
3.呼吸症状が睡眠の妨げになる、あるいは着替えなどの日常生活動作で息切れが生じる。
4.喀痰の吸引あるいは間欠的な換気補助装置使用が必要。
5.気管切開あるいは継続的な換気補助装置使用が必要。
 
2)難治性てんかんの場合:主な抗てんかん薬2~3種類以上の単剤あるいは多剤併用で、かつ十分量で、2年以上治療しても、発作が1年以上抑制されず日常生活に支障を来す状態。(日本神経学会による定義)
 
 
3)先天性心疾患があり、NYHA分類でII度以上に該当する場合。
NYHA分類

I度

心疾患はあるが身体活動に制限はない。
日常的な身体活動では疲労、動悸、呼吸困難、失神あるいは
狭心痛(胸痛)を生じない。

II度

軽度から中等度の身体活動の制限がある。安静時又は軽労作時には無症状。
日常労作のうち、比較的強い労作(例えば、階段上昇、坂道歩行など)で疲労、動悸、呼吸困難、失神あるいは狭心痛(胸痛)を生ずる。

III度

高度の身体活動の制限がある。安静時には無症状。
日常労作のうち、軽労作(例えば、平地歩行など)で疲労、動悸、呼吸困難、失神あるいは狭心痛(胸痛)を生ずる。

IV度

心疾患のためいかなる身体活動も制限される。
心不全症状や狭心痛(胸痛)が安静時にも存在する。
わずかな身体活動でこれらが増悪する。

NYHA: New York Heart Association
 


 
NYHA分類については、以下の指標を参考に判断することとする。

NYHA分類

身体活動能力
(Specific Activity Scale; SAS)

最大酸素摂取量
(peakVO2

I

6METs以上

基準値の80%以上

II

3.5~5.9 METs

基準値の60~80%

III

2~3.4 METs

基準値の40~60%

IV

1~1.9 METs以下

施行不能あるいは
基準値の40%未満

 
※NYHA分類に厳密に対応するSASはないが、
「室内歩行2METs、通常歩行3.5METs、ラジオ体操・ストレッチ体操4METs、速歩5-6METs、階段6-7METs」をおおよその目安として分類した。
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

平成27年7月1日

  • 11/22混合トリソミー(Emanuel症候群)。神経症候群(第二版)日本臨床別冊p370−372
  • t(11;22)
    http://www.fujita-hu.ac.jp/~genome/11&22
  • Phenotypic Delineation of Emanuel Syndrome (Supernumerary Derivative 22 syndrome): Clinical features of 63 individuals. Carter MT, St Pierre SA, Zackai EH, Emanuel BS, Boycott KM. Am J Med Genet A. 2009 ;149A(8):1712-21.
  • Prevalence of Emanuel syndrome: theoretical frequency and surveillance result. Ohye T, Inagaki H, Kato T, Tsutsumi M, Kurahashi H. Pediatr Int. 2014 ;56(4):462-6.
情報提供者
研究班名 患者との双方向的協調に基づく先天異常症候群の自然歴の収集とrecontact可能なシステムの構築班
研究班名簿 
情報更新日 令和2年8月(名簿更新:令和5年6月)