鰓耳腎症候群(指定難病190)

さいじじんしょうこうぐん
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
鰓耳腎(Branchio-oto-renal:BOR)症候群は、頸瘻・耳瘻孔・外耳奇形などの鰓原性奇形、様々なタイプの難聴、腎尿路奇形を3主徴とする症候群である。時に顔面神経麻痺を認めることがあるが、一般に知的発達は正常である。本症候群では難聴への早期介入が患者の言語発達を改善し、また腎症状の重症度が生命予後を左右する。
 
2.原因
常染色体優性遺伝形式をとる遺伝性疾患である。腎臓、第2鰓弓に発現するEYA1遺伝子の変異が約40%の頻度で認められる。SIX1SALL1SIX5遺伝子変異も原因であるが、極めて頻度は低い。約半数で原因遺伝子が不明である。
 
3.症状
頸瘻・耳瘻孔・外耳奇形などの鰓原性奇形、難聴、腎尿路奇形を3主徴とする。一般に知的発達は正常である。本症候群は先天性の高度難聴や小児期腎不全の重要な原因であり、小児高度難聴の約2%を占めるとされている。鰓原性奇形、難聴のみを呈することもあり、同一家系内で同じ遺伝子変異を持つ場合でも、その表現型はさまざまであることが多い。難聴は伝音性、感音性、混合性いずれのタイプもとり、治療可能なことも少なくない。そのため早期診断が重要である。腎症状はみられないこともあるが、重症な腎低形成のために生後早期に死亡した例もある。
 
4.治療法
特異的な治療法はない。先天性難聴に対しては、補聴器装着や人工内耳造設を行うことで聴力が改善することがある。腎不全に進行した場合には、透析や腎移植が必要である。頸瘻孔・耳瘻孔などに感染を繰り返す場合には、瘻孔切除術を行う。
 
5.予後
予後はさまざまであるが、腎障害が最も重要である。聴力異常への早期介入により、言語発達の改善も期待できる。
 
 
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.  患者数
約300人
2.  発病の機構
不明(遺伝子の異常等が示唆されている。)
3.  効果的な治療方法
未確立(対症療法のみ。)
4.  長期の療養
必要(難聴と腎障害が長期間持続する。)
5.  診断基準
あり(研究班作成の診断基準あり。)
6.  重症度分類
①聴覚で高度難聴以上又は②CKD重症度分類ヒートマップが赤の部分の場合を対象とする。
 
○ 情報提供元
「腎・泌尿器系の希少難治性疾患群に関する調査研究班」
研究代表者 神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野 教授 飯島一誠
 
 
 
<診断基準>
 
鰓耳腎(BOR)症候群の診断基準
 
主症状
1.第2鰓弓奇形(鰓溝性瘻孔あるいは鰓溝性嚢胞がある。鰓溝性瘻孔は胸鎖乳突筋の前方で、通常は頚部の下方1/3の部位の微小な開口。鰓溝性嚢胞は胸鎖乳突筋の奥で、通常は舌骨の上方に触知する腫瘤。)
2.難聴(程度は軽度から高度まで様々であり、種類も伝音難聴、感音難聴、混合性難聴のいずれもありうる。
3.耳小窩(耳輪の前方、耳珠の上方の陥凹)、耳介奇形(耳介上部の欠損)、外耳、中耳、内耳の奇形(※参考所見)、副耳のうち1つ以上。
4.腎奇形(腎無形成、腎低形成、腎異形成、腎盂尿管移行部狭窄、水腎症、膀胱尿管逆流症、多嚢胞性異形成腎など)
 
遺伝子診断
1.EYA1又はSIX1に病原性のある変異を認める。
 
※参考所見
1.外耳道奇形(外耳道閉鎖、狭窄)
2.中耳奇形(耳小骨の奇形、変位、脱臼、固着。中耳腔の狭小化、奇形)
3.内耳奇形(蝸牛低形成、蝸牛小管拡大、前庭水管拡大、外側半規管低形成)
 
<診断のカテゴリー>
以下の①又は②を鰓耳腎(BOR)症候群と診断する。
①    家族歴のない患者では、主症状を3つ以上、または、主症状を2つ以上でかつ遺伝子診断されたもの。
②一親等に家族歴のある患者では、主症状を1つ以上でかつ遺伝子診断されたもの。
 
いずれの場合であっても、鰓耳腎(BOR)症候群と同様の徴候を示す他の多発奇形症候群は除外する(タウンズブロックス(Townes-Brocks)症候群、チャージ症候群、22q11.2欠失症候群など)。
 
 
 
 
 
<重症度分類>
以下のいずれかを満たす場合を対象とする。
 
①    聴覚で高度難聴以上  
0 25dBHL 未満(正常)
1 25dBHL以上40dBHL未満(軽度難聴)
2 40dBHL以上70dBHL未満(中等度難聴)
3 70dBHL以上90dBHL未満(高度難聴)
4 90dBHL以上(重度難聴)
※500、1000、2000Hzの平均値で、聞こえが良い耳(良聴耳)の値で判断。
 
②腎:CKD重症度分類ヒートマップが赤の部分の場合。
 
CKD重症度分類ヒートマップ

 

 
 
 
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

平成27年7月1日

情報提供者
研究班名 難治性聴覚障害に関する調査研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和4年3月(名簿更新:令和5年6月)