巨大膀胱短小結腸腸管蠕動不全症(指定難病100)

きょだいぼうこうたんしょうけっちょうちょうかんぜんどうふぜんしょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1. 「巨大膀胱短小結腸腸管蠕動不全症」とはどのような病気ですか

腸管(消化管)の大事な働きは、口から食べたものを消化・吸収することです。そして消化・吸収するためには食べたものを口から、胃、十二指腸、小腸や大腸まで運んでいかなければなりません。腸には消化・吸収に加えて、食べたものを運ぶ働きがあります。そして最後は吸収しきれずに残ったものを便として体外に排出します。他にも食べ物と一緒に飲み込んだ空気やおなかの中で発生したガスも体外に運び出します。そのような自立的な腸管の動きのことを「蠕動(ぜんどう)」といいます。
「巨大膀胱短小結腸腸管蠕動不全症」とは、その蠕動が生まれつき障害されている(蠕動不全)病気です。特にこの病気では腸管以外にも膀胱が大きくのびきっていること、大腸(結腸)が縮んでいることが特徴とされています。
この蠕動がうまく働かないといろいろな困ったことが起きます。
まず食事や空気をうまく肛門側へ送ることができないので、腸閉塞のような症状を来します。おなかが張って(腹部膨満)、嘔吐を繰り返します。それだけではなく、排泄も障害されますので、腸の中で細菌が繁殖し、感染症(腸炎)を起こすことがあります。
その結果、食事がとれない、感染を繰り返す、という非常に危険な状況に陥ります。したがって、この病気の場合は中心静脈栄養といって、点滴による栄養補充が必須となります。また、おなかに入ったものを外に逃がす経路として 腸瘻 (人工肛門)が必要となることが多いようです。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

平成25年に行われた集計(厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業:ヒルシュスプルング病類縁疾患の現状調査と診断基準に関するガイドライン作成:田口班)で、全国調査を行いました。その研究では2001-2010年の10年間でわが国における発症数は19人が登録され、非常にまれな病気といえます。

3. この病気はどのような人に多いのですか

どのような人に多いかは数がきわめて少ないためよくわかっていません。この病気になった赤ちゃんのなかでは、男の子より女の子に多い傾向があります。

4. この病気の原因はわかっているのですか

この病気の原因については、海外からの報告からACTG2MYH11LMOD1MYLKMYL9といった遺伝子の異常であることがわかっています。遺伝子というのは私たちの体の中で様々な働きをするタンパク質の設計図となる分子です。上に挙げた遺伝子は、消化管や膀胱の平滑筋に存在して筋収縮に関与するタンパク質の設計図となるような遺伝子であり、遺伝子の変異によってタンパク質の機能が変わり腸や膀胱の動きが悪くなっているものと考えられています。しかし個々の遺伝子変異がどのようにして病気の発生に関与しているかについての詳細はまだわかっていません。

5. この病気は遺伝するのですか

列挙した遺伝子のうち、ACTG2遺伝子の変異は常染色体顕性遺伝(常染色体優性遺伝)(注1)という遺伝形式をとるとされています。一方でそのほかの遺伝子MYH11LMOD1MYLKMYL9については常染色体潜性遺伝(常染色体劣性遺伝)(注2)という遺伝形式をとるといわれています。“遺伝子”というと親から子へと代々受け継がれるものですが、ある人において新しく変異が発生することもあり、このような変異をde novo変異(デノボ変異)と呼ばれます。ACTG2の変異は親から受け継がれた変異のことも、de novo変異のこともあります。またACTG2の変異は、本疾患だけではなく“慢性特発性偽性腸閉塞症”というヒルシュスプルング病類縁疾患に含まれる別の病気の一部にも関与していることが分かっています。
常染色体という性別に関係なく誰もが持っている遺伝子の異常によっておこる病気でありながら、男児に比べて女児に多いという特徴があり、その理由もわかっていません。
(注1)常染色体顕性遺伝(常染色体優性遺伝)について
私たちが親からもらった遺伝子はペアですが、その遺伝子の片方に何らかの変異があり症状が出るものを、優性遺伝といいます。私たちのもつ遺伝子は染色体といわれる構造を作りますが、性別に関係のある染色体を性染色体、性別に関係なく誰もが持っている染色体を常染色体といいます。常染色体上に存在する遺伝子変異によって顕性遺伝が生じる場合を、常染色体顕性遺伝といいます。50%(1/2)の確率で病気に関係する遺伝子が親から子へと伝わります。
(注2)常染色体潜性遺伝(常染色体劣性遺伝)について
私たちが親からもらった遺伝子はペアなので、多くの場合片方に変異があったとしても、もう一方の遺伝子がカバーして必要なタンパク質を作っているため問題はおこりません。しかし、同じ部分に変異のある両親から、変異が2つ揃った子供が生まれる場合があります。このような遺伝を潜性遺伝といいます。両親は、遺伝子変異は持っていても症状はなく、保因者と呼ばれます。常染色体上に存在する遺伝子変異によって潜性遺伝が生じる場合を、常染色体潜性遺伝といいます。両親がともに保因者である場合、生まれる子では、25%(1/4)の確率で症状が出る可能性があります。

6. この病気ではどのような症状がおきますか

生まれてすぐに腸閉塞のような症状がでます。お腹は大きく張り、便もほとんど出ません。ミルクを飲んでも吐いてしまいます。放置すると消化管が破れたり、腸炎を起こしショックになったりするので多くの場合は緊急で手術が必要となります。
その後も、腸閉塞症状と腸炎を繰り返します。また腸が拡張(太くなること)し、捻れてしまい、緊急手術を必要とすることもあります。
多くの場合、中心静脈栄養と腸瘻(人工肛門)が必要となっているため、それらによる合併症、副作用にも注意が必要です。

7. この病気にはどのような治療法がありますか

根本的な治療法はありません。対症療法といって、個々の症状を緩和するような治療が中心となります。ミルク、食事が十分にとれないため、多くの場合は中心静脈栄養が必要になります。中心静脈栄養とは、心臓の近くまでカテーテルという管をいれて、栄養となる点滴(高カロリー輸液)を行うことです。長期間にわたり必要となるケースが多いので、ほとんどは在宅静脈栄養が行われます。つまり自宅で点滴をしながら、学校へ行ったり就職したりすることになります。
また、腸閉塞に対しては、消化管の内容物を外に出すために腸瘻(人工肛門)を必要とします。腸瘻にはいろいろなタイプがあり、重症度に応じて作る場所も様々です。胃に穴を開ける 胃瘻 、小腸に腸瘻を作る小腸瘻などもあります。またチューブをいれて腸の内容を抜くような穴をつくる、チューブ腸瘻という方法もあります。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか

消化管の減圧がうまくいかないと、重症の腸炎を繰り返すことがあります。また、中心静脈栄養の依存度が高く、中心静脈栄養による合併症としての 敗血症 は肝不全を来す危険もあります。いずれも死亡に至ることもあります。また、中心静脈栄養を行うことのできる血管は数が限られており、これらがつまってしまうと中心静脈栄養が継続できなくなり小腸移植が必要になることもあります。

9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか

中心静脈栄養をしている場合は、その管理が重要になります。カテーテルや輸液に菌がはいると重症な敗血症になるので注意する必要があります。水分や栄養の補充をうまくやらないと脱水や低血糖、電解質異常を来します。
腸瘻や人工肛門を作っている場合は、そのケアと十分な消化管の減圧が必要です。排液排ガスが不良になると、腸閉塞症状や腸炎を来しやすくなり、逆に排液が多くなると脱水や電解質異常を来すので、きめ細かい管理が必要となります。
食事は病状によります。減圧がうまくいっている場合は少量ずつ摂取することができます。

10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

該当する病名はありません。

 

情報提供者
研究班名 難治性小児消化器疾患の医療水準向上および移行期・成人期のQOL向上に関する研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和4年3月