中毒性表皮壊死症(指定難病39)

ちゅうどくせいひょうひえししょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
中毒性表皮壊死症(Toxic epidermal necrolysis:TEN)は、高熱や全身倦怠感などの症状を伴って、口唇・口腔、眼、外陰部などを含む全身に紅斑、びらんが広範囲に出現する重篤な疾患である。TENは、スティーヴンス・ジョンソン症候群(Stevens-Johnson syndrome:SJS)から進展する場合が多い。
 
2.原因
発症機序は不明であるが薬剤や感染症などが契機となり、免疫学的な変化が生じ、皮膚と粘膜に重篤な病変がもたらされると推定され、皮膚病理組織学的に表皮の全層性の壊死性変化がみられる。消炎鎮痛薬、抗菌薬、抗けいれん薬、高尿酸血症治療薬などの薬剤が発症に関与することが多い。
基本的病態は、ある一定のhuman leukocyte antigen(HLA)アレルを有する人において、活性化されたT細胞あるいはNK細胞から産生される因子が、表皮を傷害することにより生じる。その機序としては、これらの細胞から産生される可溶性FasLとケラチノサイトのFasとの結合や、グラニュライシンやその他の細胞障害因子による表皮傷害が考えられる。その他の機序として、併発する感染症による制御性T細胞の機能低下、proinflammatory cytokineの産生亢進によるT細胞の活性化亢進などが推測されている。
 
3.症状
全身症状として高熱が出現し、脱水、全身倦怠感、食欲低下などが認められ、非常に重篤感がある。
皮膚病変では大小さまざまな滲出性(浮腫性)紅斑、水疱を有する紅斑~紫紅色斑が全身に多発散在し、急速に拡大する。一見正常にみえる皮膚に軽度の圧力をかけると表皮が剝離し、びらんを生じる(ニコルスキー(Nikolsky)現象)。
粘膜病変は口唇・口腔粘膜、鼻粘膜に発赤、水疱が出現し、血性痂皮を付着する。口腔~咽頭痛がみられ、摂食不良をきたす。眼では眼球結膜の充血、偽膜形成、眼表面上皮(角膜上皮、結膜上皮)のびらん(上皮欠損)などが認められ、重篤な眼病変では後遺症を残すことが多い。
TENの水疱・びらんなどの表皮剝離は体表面積の10%以上である。なお、欧米では、10%以上30%未満の表皮剝離体表面積の場合は、SJS/TENオーバーラップとして位置づけられている。
 
4.治療法
TENの治療として、まず感染の有無を明らかにした上で被疑薬の中止を行い、入院の上で加療する。皮疹部の局所処置に加えて厳重な眼科的管理、補液・栄養管理、呼吸管理、感染防止が重要である。
全身性ステロイド薬投与を第一選択とし、症状の進展が止まった後に減量を慎重に進める。重症例では発症早期(発症7日前後まで)にステロイドパルス療法を含む高用量のステロイド薬を投与し、その後、漸減する。初回のステロイドパルス療法で効果が十分にみられない場合または症状の進展が治まった後に再燃した場合は、数日後に再度ステロイドパルス療法を施行するか、あるいは後述のその他の療法を併用する。ステロイド薬で効果がみられない場合には免疫グロブリン製剤大量静注療法や血漿交換療法を併用する。眼後遺症に対して新規開発された輪部支持型ハードコンタクトレンズは、疾患状態の悪化抑制に基づく視力改善、ドライアイ症状の緩和をもたらす。
 
5.予後
SJSに比べ、TENでは多臓器不全、敗血症、肺炎などを高率に併発し、しばしば、致死的状態に陥る。死亡率は約20%である。基礎疾患としてコントロール不良の糖尿病や腎不全がある場合には、死亡率が極めて高い。視力障害、瞼球癒着、ドライアイなどの後遺症を残すことが多い。また、閉塞性細気管支炎による呼吸器傷害や外陰部癒着、爪甲の脱落、変形を残すこともある。
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.患者数
約200人
2.発病の機構
不明(免疫学的な機序が示唆されている。)
3.効果的な治療方法
未確立(根治的治療なし)
4.長期の療養
必要(しばしば後遺症を残す。)
5.診断基準
あり
6.重症度分類
スティーヴンス・ジョンソン症候群(SJS)および中毒性表皮壊死症(TEN)の重症度分類を用いて、中等症以上を対象とする。
 
 
○ 情報提供元
「重症多形滲出性紅斑に関する調査研究班」
研究代表者 島根大学医学部 教授 森田栄伸
 
 
 
<診断基準>
(1)概念
広範囲な紅斑と全身の10%以上の水疱・びらん・表皮剥離など顕著な表皮の壊死性障害を認め、高熱と粘膜疹を伴う。原因の多くは医薬品である。
 
(2)主要所見(必須)
1.広範囲に分布する紅斑に加え体表面積の10%を超える水疱・びらんがみられる。外力を加えると表皮が容易に剥離すると思われる部位はこの面積に含める(なお、国際基準に準じて体表面積の10~30%の表皮剥離は、SJS/TENオーバーラップと診断してもよい。)。

表皮剝離の体表面積

本邦の基準

国際基準

10%未満

SJS

SJS

10%以上30%未満

TEN

SJS/TENオーバーラップ

30%以上

TEN

TEN

 
 
 
2.発熱がある。
3.以下の疾患を除外できる。
・ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(staphylococcal scalded skin syndrome:SSSS)
・トキシックショック症候群
・伝染性膿痂疹
・急性汎発性発疹性膿疱症(acute generalized exanthematous pustulosis:AGEP)
・自己免疫性水疱症
 
(3)副所見
1.初期病変は広範囲にみられる斑状紅斑で、その特徴は隆起せず中央が暗紅色のflat atypical targetsもしくはびまん性紅斑である。斑は顔面、頸部、体幹優位に分布する。
2.皮膚粘膜移行部の粘膜病変を伴う。眼病変では偽膜形成と眼表面上皮欠損とのどちらかあるいは両方を伴う両眼性の急性結膜炎がみられる。
3.全身症状として他覚的に重症感、自覚的には倦怠感を伴う。口腔内の疼痛や咽頭痛のため、種々の程度に摂食障害を伴う。
4.病理組織学的に表皮の壊死性変化を認める。完成した病像では表皮の全層性壊死を呈するが、軽度の病変でも少なくとも200倍視野で10個以上の表皮細胞(壊)死を確認することが望ましい。
 
診断のカテゴリー
副所見を十分考慮の上、主要所見3項目のすべてを満たすものをTENとする。初期のみの評価ではなく全経過を踏まえて総合的に判断する。
ただし、医薬品副作用被害救済制度において、副作用によるものとされた場合は対象から除く。
 
<参考>
1)サブタイプの分類
・SJS進展型(TEN with spotsあるいはTEN with macules)
・びまん性紅斑進展型(TEN without spots、TEN on large erythema)
・特殊型:多発性固定薬疹から進展する例など
2)びまん性紅斑に始まる場合、治療等の修飾により、主要所見の表皮剥離体表面積が10%に達しなかったものを不全型とする。
 
<重症度分類>
中等症以上を対象とする。
スティーヴンス・ジョンソン症候群(SJS)および中毒性表皮壊死症(TEN)の重症度分類

 
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
 
 

平成27年1月1日

情報提供者
研究班名 重症多形滲出性紅斑に関する調査研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和3年9月(名簿更新:令和5年6月)