TNF受容体関連周期性症候群(指定難病108)

TNFじゅようたいかんれんしゅうきせいしょうこうぐん
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1. 「TRAPS」とはどのような病気ですか

腫瘍 壊死 因子(Tumor necrosis factor:TNF)は 炎症 や免疫反応に於いて重要な役割をはたす物質の一つであり、各種細胞の表面にある受容体に結合してその内部に刺激を伝え、病原体や腫瘍から身体を守る働きを担っています。その受容体(1型TNF受容体:TNFR1)をコードする遺伝子(TNFRSF1A)の 変異 により、周期的に発熱を繰り返す遺伝性の疾患がTRAPS(TNF receptor-associated periodic syndrome)です。発熱に加えて筋痛・関節痛・発疹・目の周りのむくみや結膜炎・腹痛などの発作が認められ、3日から数週間に及ぶ比較的長期間の発作を繰り返すのが特徴です。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

100万出生に1人程度の患者さんがいると思われます。本邦では30数家系の存在が知られています。

3. この病気はどのような人に多いのですか

特定の人に多いということはありません。

4. この病気の原因はわかっているのですか

TRAPSの原因はTNFR1の遺伝的な異常ですが、それが発熱や筋肉痛・腹痛などの炎症を引き起こす詳しいメカニズムは解明されていません。
近年考えられている 機序 としては、異常なTNFR1タンパクが正常に折りたたまれずに細胞内に蓄積し、そのストレスによって細胞からIL-1β・IL-6・TNFなど炎症を引き起こす物質が産生されやすくなると考えられています。

5. この病気は遺伝するのですか

常染色体顕性遺伝(優性遺伝)形式を示す病気です。常染色体顕性遺伝(優性遺伝)ではどちらか一方の親から原因遺伝子を受け継いだだけで発病しますので、両親のいずれかがこの病気である場合、その間に生まれた子供が同じ病気を発症する確率は1/2となります。但し、遺伝子変異があっても必ず病気になるとは限らず、同じ遺伝子変異を持った兄弟姉妹の間で発病したりしなかったりする場合があります。

6. この病気ではどのような症状がおきますか

発熱・筋痛・関節痛・発疹・目の周りのむくみや結膜炎・腹痛などの炎症発作が認められます。幼児期に発症する例が多いのですが、60歳を超えて発症する例も報告されています。発作の持続期間は1-2週間が多く、発作の周期は平均5-6週間ですが、同じ症例でも一定している訳ではなく、中には発作が持続する症例も存在します。
発熱は最も高頻度に認められる症状であり、殆どの症例で38度を超え、悪寒戦慄を伴う事があります。筋痛は局所性に生じ、発作中に手足の先端に向かって移動する傾向があります。皮膚症状としては筋痛の部位に一致して移動する紅斑(圧迫すると消失する皮膚の発赤)が特徴的ですが、蕁麻疹が認められる事もあります。この他、結膜炎や目の周りのむくみ、腹痛、胸痛を認める場合もあります。
TRAPSの症状は症例により大きく異なり、上記の症状が様々な組み合わせで認められますが、本邦のTRAPS患者には筋痛・結膜炎・目の周りのむくみ・胸痛・腹痛などの症状が少ない事が知られています。

7. この病気にはどのような治療法がありますか

現時点でTRAPSに対する根治療法は存在せず、発作の重症度と頻度を総合的に判断して治療を行う事となります。
発作が軽症で頻度も低い場合は一般的な解熱鎮痛剤のみで対応可能な場合もあります。一般的には、発作の早期に中等量のステロイドを使用し症状をみながら減量して7-10日間で終了する方法が提示されています。
発作が重症・頻回でステロイドの減量・中止が困難な症例に対しては、抗IL-1製剤(カナキヌマブ)の治療が本邦では認可されています。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか

TRAPSの 予後 に関しては不明な点が多く、経過と共に軽症化する症例が存在する一方で次第に増悪する症例もあり、この違いはその症例で認められる遺伝子変異によってある程度予想する事が可能です。
長期的に問題となるのはステロイド使用による副作用とアミロイドーシスの合併です。本症の 生命予後 はアミロイドーシス合併の有無により大きく左右され、約15%の患者に合併が認められます。アミロイド沈着は腎臓に最も起こりやすく、患者の多くはネフローゼ症候群を合併し、最終的には腎不全に至ります。

9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか

特別なケアは存在しませんが、過労やストレスを避ける事が推奨されます。

10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

Familial Hibernian fever(家族性アイルランド熱)

 

情報提供者
研究班名 自己炎症性疾患とその類縁疾患における、移行期医療を含めた診療体制整備、患者登録推進、全国疫学調査に基づく診療ガイドライン構築に関する研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和5年1月(名簿更新:令和5年6月)