TRPV4異常症(指定難病341)

てぃーあーるぴーぶい4いじょうしょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
カルシウムイオン透過性チャンネルであるTRPV4 (transient receptor potential cation channel, subfamily V, member 4)の遺伝子異常によって発症する症候群で、①変容性骨異形成症Metatropic dysplasia、②脊椎骨端骨幹端異形成症Maroteaux型(偽性Morquio症候群2型)Spondyloepimetaphyseal dysplasia, Maroteaux type (pseudo-Morquio syndrome type 2)、③脊椎骨幹端異形成症Kozlowski型Spondylometaphyseal dysplasia, Kozlowski type、④短体幹症Brachyolmia, autosomal dominant type、⑤短指を伴う家族性指関節症Familial digital arthropathy with brachydactyly等が含まれる。いずれの疾患においても扁平椎、関節の腫大および拘縮、低身長などを共通の表現型とする。
 
2.原因
TRPV4の機能獲得型変異により内軟骨性骨化が障害されることにより発症すると考えられているが、発症メカニズムの詳細は明らかではない。また、遺伝子変異と表現型との関連に関しても不明な点が多い。
 
3.症状
変容性骨異形成症は出生時には四肢短縮型低身長を呈するが、成長とともに脊柱変形が増悪して体幹短縮型低身長に変容する。尾骨部に認める尻尾のような皮膚のヒダは臨床的特徴である。胸郭は狭く、呼吸障害のため致死性となる重症例もある。四肢の大関節は著明に腫大して可動域制限をきたす。脊柱変形は進行性で治療に抵抗する。環軸椎不安定性による脊髄症を生じることがある。X線所見としては、ダンベル状の長管骨、鉾槍状の腸骨、著しい扁平椎などが特徴である。脊椎骨端骨幹端異形成症Maroteaux型(偽性Morquio症候群2型)は低身長、手指・足趾の短縮、扁平椎などを呈するが、脊柱変形は軽度なことが多い。手指では早発性の変形性関節症を生じる。脊椎骨幹端異形成症Kozlowski型は体幹短縮型低身長を呈し、樽状の胸郭、脊柱変形、関節拘縮、下肢変形などを特徴とする。X線所見としては扁平椎が著明で、椎体の前後径および左右径は増大し、正面像で椎体辺縁が椎弓根より著しく外方に存在する(open staircase appearance)。短体幹症も体幹短縮型低身長を呈するが、扁平椎の程度は強いが四肢の短縮は軽度なことが特徴である。短指を伴う家族性指関節症では脊柱や四肢に明らかな病変を認めず、手指の変形性関節症が進行する。
 
4.治療法
根本的な治療法はなく、小児期には進行性の下肢および脊柱変形に対する装具療法や手術治療が行われる。また、重症例の変容性骨異形成症では酸素投与などの呼吸管理を要することがある変形性脊椎症に随伴する腰背部痛だけでなく、著しい脊柱変形や環軸椎不安定性に伴い脊髄症が発症して四肢の疼痛、筋力低下、知覚障害、痙性などを生じることがある。また、下肢の荷重関節(股・膝・足関節)では加齢とともにしばしば変形性関節症を発症し、当該関節の疼痛、可動域制限やそれに伴う歩行障害により日常生活動作の低下を招く。変形性脊椎症、変形性関節症ともに早発性のため治療期間は長期化し、薬物治療、理学療法、装具治療など保存的治療に抵抗する場合には手術的加療(脊椎除圧固定術、人工関節置換術など)を要する。
 
5.予後
変容性骨異形成症の最重症型は周産期致死性である。また、加齢に伴い変形性脊椎症および変形性関節症は重症化するため、関節機能が失われるとともに移動能力や日常生活動作は低下する。
 
○ 要件の判定に必要な事項

1.  患者数
約100人未満
2.  発病の機構
不明(TRPV4の機能獲得型変異により発症するが、詳細なメカニズムは解明されていない。)
3.  効果的な治療方法
未確立(対症療法のみである。)
4.  長期の療養
必要(早発性の症状が持続するため、長期の継続的療養が必要である。)
5.  診断基準
あり
6.  重症度分類
modified Rankin Scale(mRS)を用いて、3点以上を対象とする。
 
○情報提供元
難治性疾患政策研究事業「先天性骨系統疾患の医療水準と患者QOLの向上を目的とした研究」班 研究代表者 大阪大学 准教授 窪田拓生
日本整形外科学会 鬼頭浩史
 
<診断基準>
Definiteを対象とする。
 
A症状
1.-3SD以下の体幹短縮型低身長
2.脊柱変形
3.四肢大関節の腫大
4.四肢大関節の拘縮
5.手指関節の腫大
6.手指関節の拘縮
7.尾骨部の皮膚ヒダ

B検査所見
単純X線所見
(1) ダンベル状の長管骨
(2) 鉾槍状の腸骨
(3) 脊柱後側弯(Cobb角20度以上)
(4) 扁平椎および終板不整
(5) 椎体のopen staircase appearance
(6) 手指関節の変形性関節症変化

C鑑別診断
以下の疾患を鑑別する。
軟骨無形成症、脊椎骨端異形成症、偽性軟骨無形成症、Kniest骨異形成症、進行性偽性リウマチ様骨異形成症

D遺伝学的検査
TRPV4遺伝子の病原性変異
 
<診断のカテゴリー>
Definite1:Aのうち4項目以上かつBのうち4項目以上を満たしCの鑑別すべき疾患を除外したもの
Definite2:Aのうち2項目以上かつBのうち2項目以上を満たしCの鑑別すべき疾患を除外しDを満たすもの
Probable:Aのうち3項目以上かつBのうち3項目以上を満たしCの鑑別すべき疾患を除外したもの
 
 
<重症度分類>
modified Rankin Scale(mRS)の評価スケールを用いて、3以上を対象とする。

日本版modified Rankin Scale (mRS) 判定基準書
modified Rankin Scale 参考にすべき点
0 まったく症候がない 自覚症状および他覚徴候がともにない状態である
1 症候はあっても明らかな障害はない:
日常の勤めや活動は行える
自覚症状および他覚徴候はあるが、発症以前から行っていた仕事や活動に制限はない状態である
2 軽度の障害:
発症以前の活動がすべて行えるわけではないが、自分の身の回りのことは介助なしに行える
発症以前から行っていた仕事や活動に制限はあるが、日常生活は自立している状態である
3 中等度の障害:
何らかの介助を必要とするが、歩行は介助なしに行える
買い物や公共交通機関を利用した外出などには介助を必要とするが、通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要としない状態である
4 中等度から重度の障害:
歩行や身体的要求には介助が必要である
通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要とするが、持続的な介護は必要としない状態である
5 重度の障害:
寝たきり、失禁状態、常に介護と見守りを必要とする
常に誰かの介助を必要とする状態である。
6 死亡
 
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
令和6年4月1日

情報提供者
研究班名 先天性骨系統疾患の医療水準と患者QOLの向上を目的とした研究
研究班名簿
情報更新日 令和6年10月(名簿更新:令和6年6月)