ブラウ症候群(指定難病110)

ぶらうしょうこうぐん
 

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サルコイドーシスとは違うのですか?

ブラウ症候群もサルコイドーシスも、ともに組織学的には肉芽腫を来す病気という意味では共通です。しかしながら、通常のサルコイドーシスが学校や職場での健康診断の際に行われる胸部レントゲン写真の際に両側の肺門部のリンパ節腫脹によって発見されることが多いのに対して、ブラウ症候群では通常は、このサルコイドーシスにみられる両側の肺門部のリンパ節腫脹がみられません。それに対してブラウ症候群では逆に、サルコイドーシスでは頻度が少ないとされる関節症状を主体とします。
サルコイドーシスは依然として原因不明の疾患ですが、ブラウ症候群ではNOD2と呼ばれる、通常は細胞内に発現して微生物の細胞の周りを取り囲んでいる細胞壁の一部を認識して免疫応答に関わる遺伝子に変異があり、その結果としてこの遺伝子が認識すべき微生物が存在しないにもかかわらず自然と活性化していることが知られています。しかしながら、現時点では残念ながら、なぜこの遺伝子が活性化すると皮膚や関節、眼といった部位に肉芽腫という症状が出現してしまうかは分かっていません。

若年発症サルコイドーシスと言われました。

ブラウ症候群とは、1985年にアメリカで小児のリウマチ疾患を専門とするブラウ博士が、4世代に渡って皮膚と関節それと眼に肉芽腫を来すある家族を報告したことに因んで名付けられた疾患名です。このため、常染色体顕性遺伝(優性遺伝)を示す家族例に対してブラウ症候群という病名が用いられてきました。一方、若年発症サルコイドーシスとは、古くから一般のサルコイドーシスに対して、非常に頻度は稀ですが4歳以前に発症する一群があり、こういった患者さんではサルコイドーシスでよく見られる両側の肺門部のリンパ節腫脹が見られず、逆にサルコイドーシスでは頻度が少ないとされる関節症状を主体とすることから、恐らくは違う病態なのではと考えられて若年発症サルコイドーシスという病名が用いられてきました。しかし、今日では、ブラウ症候群も主に弧発例に対して使われてきた若年発症サルコイドーシスも、ともにNOD2の遺伝子に認識すべき微生物が存在しないにもかかわらず自然と活性化してしまうような遺伝子変異が入っている病気であるという点で共通の疾患であることが明らかにされました。
若年発症サルコイドーシスという病名は、サルコイドーシスによく似た症状が4歳以前に始まるという臨床上の特徴をよく表した病名ではあるのですが、ここでは両者を区別せずに、ブラウ症候群として扱っています。

診断は?

ブラウ症候群は、NOD2遺伝子に微生物が存在しないにもかかわらず自然と活性化してしまうような遺伝子変異が入っている病気ですので、遺伝子診断を行うことで確定されます。しかしながら、非常に特徴的な臨床症状を呈する疾患ですので、遺伝子診断を行わなくても、臨床症状をしっかりと把握することである程度はこの病気であるかを推定することができます。
実際に、私達が世界で始めて、若年発症サルコイドーシスとして報告されていた患者さんにNOD2の遺伝子変異があるかを確認させて頂いた際には、4歳以下で何らかの症状を示し、皮膚と関節そして眼に症状が現れたことがある患者さんという条件で検討を行うと、日本国内から集めた10例の患者さんの中から実に9割の患者さんでNOD2の遺伝子変異を確認することができました。また、ブラウ症候群としてNOD2に変異があるという患者さんの特徴を調べると、手関節や足関節の背面に、痛みを伴わない嚢腫状の腫脹を認めるという共通の特徴があることが分かりました。ですから、この特徴的な関節症状に加えて、眼のぶどう膜炎、弛張熱あるいは皮膚の症状がある方は、ブラウ症候群である可能性が非常に高いので、組織診による肉芽腫の確認と遺伝子診断による診断確定をお薦めしています。

治療法は?

残念ながら現時点では、ブラウ症候群に特異的な治療法は確立していません。これは、ブラウ症候群がNOD2という遺伝子に微生物が存在しないにもかかわらず自然と活性化してしまうような遺伝子変異が入っていることは分かっているのですが、なぜそれが肉芽腫という症状に結びついているのかが未だ解明されていないからです。
しかし、まだブラウ症候群という病気が今程認知されていなかった頃、一部の患者さんは若年性特発性関節炎(JIA)として加療されていました。そのような患者さんの中では、比較的大量のステロイドが投与された患者さんでは関節や眼の症状が進んでいないと言われています。また、抗TNFα抗体による治療を受けた患者さんは関節の炎症を抑えられるとともに目の症状を抑えることができているとも報告されています。
ですから、残念ながら現時点では、ブラウ症候群に特異的な治療法は確立していませんが、その時々の症状に合わせて治療を行うことで病気の進行を抑えることができ、最終的に関節の拘縮や失明といった状態に陥ることの無いようにコントロールしていくことができるのではないかと考えており、診断の確定と定期的な受診をお勧めしております。

病勢の把握には何が指標になりますか?

ブラウ症候群に認められる皮膚症状や関節症状は、痒いや痛みといった自覚症状を一般に伴いません。このため、いつが病気の勢いが強いのかを把握するのはときとして困難であり、またそれ故に患者さんとしては、わざわざ病院を訪れて診断をつけて貰わなくても良いのではと感じてしまうのかもしれません。しかし、治療法の欄でも紹介しましたが、残念ながら現時点ではブラウ症候群に特異的な治療法は確立していませんが、その時々の症状に合わせて治療を行うことで病気の進行を抑えることができ、最終的に関節の拘縮や失明といった状態に陥ることの無いようにコントロールしていくことができるのではないかと考えています。
最近では、リウマチの分野で盛んに用いられるようになった超音波を用いた関節エコーの検査を行うことで、骨を動かすための腱の周りを取り囲んでいる腱鞘と呼ばれる部位に特異的に、また患者さん自身は気付いていない段階から感度良く炎症が存在することを見つけることができるようになりました。
そして、炎症が強かったある男の子に、彼自身は関節が痛いとかだるいといった症状を全く自覚していなかったにもかかわらず、このエコーでの検査結果を基に治療を開始しました。その結果、彼の関節の腫脹や皮膚の症状は著明に改善したのですが、治療に当たった私達を驚かしたのは、その両親が私達に伝えて下さった言葉でした。「うちの子は大人しい子で、家で本を読んだりして過ごすことが多い子だと思っていたのですが、治療を開始したら、友達と外に遊びに行って、サッカーをするようになったのですよ」。
残念ながら現時点ではブラウ症候群に特異的な治療法は確立していませんが、その時々の症状に合わせて治療を行うことで病気の進行を抑え、こうした体験を一人でも多くの患者さんに実感して欲しいと願っています。

 

情報提供者
研究班名 自己炎症性疾患とその類縁疾患における、移行期医療を含めた診療体制整備、患者登録推進、全国疫学調査に基づく診療ガイドライン構築に関する研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和5年1月(名簿更新:令和5年6月)